第56話 報告と方針
巨大魔獣を討伐した俺達は、ロゼッタ達を非難させた森の中へ向かった。
そして、目の前に見える巨大な光ドームの中へ降り立つ。
「サクセスさん、お疲れ様です。」
その中に入った瞬間、シロマの声が聞こえてきた。
声の感じからして、ここにいた仲間達に問題が起きなかった事が窺える。
「あぁ、待たせたな。みんなは無事か?」
そう言ってゲロゲロから降りると、シルクの膝の上で寝ているロゼッタと、頭を下げるセイメイが見えた。
予想通り、みんな無事なようだ。
「お見事でございます、サクセス様。そして他の皆様も。こちらはサクセス様が作られた防壁のお蔭で、誰にも被害は及んでおりません。」
俺の言葉にセイメイが報告する。
「そうか、ならよかった。ところであれからロゼッタは平気なのか? 今回の事で何か後遺症とかは……。」
シルクの膝で眠るロゼッタを見て俺が心配すると、それにシロマが答えた。
「問題ありません。今はまだ体内にあった大きな力が抜けた影響で眠っていますが、既に呪いも怪我もない状況です。そんな事よりも……サクセスさん?」
不穏な雰囲気を纏って俺を睨みつけるシロマ。
それに俺はビクッと体を揺らす。
何故なら、戦う前にシロマから無理はするなと強く言われていたからだ。
だが巨大亀を倒す為に、実際に俺は結構な博打を打ってしまった。
しかしちゃんと生きているし、あの時はあれしか方法が無かったんだから仕方ない。
それに、この場所からあれがシロマに見えるはずはないのだが……。
俺は続けて何を言われるか戦々恐々としながらも、その事を少しだけ不思議に思うと、カリーがシロマの肩をポンっと叩いた。
「何があったか俺も分からないけどよ、許してやってくれ。サクセスのお蔭で俺達は生き残れたんだ。」
そう言ってシロマを宥めるカリー。
(グッジョブ!!)
内心でカリーを褒め称えながら、俺はシロマに近づいた。
「いつも心配かけてごめん。だけど、シロマが後ろに控えているからこそ、俺は頑張れるんだよ。」
俺がそう言うと、シロマは少し恥ずかしそうに俯く。
「……ずるいです。でも次は必ず傍で守らせてもらいますからね。」
そう呟くシロマに、今度はゲロゲロが近づいていった。
「ゲロロン!(さっきはありがとうシロマ!)」
「ん? どうしたゲロゲロ? さっきって?」
ゲロゲロの言葉がわかる俺は、その言葉に引っかかる。
すると、なぜかシロマが焦った様子で肉串を取り出してゲロゲロに見せた。
「な、な、なんでもありません。あ、ゲロちゃん美味しいご飯がありますよ。こっちで一緒に食べましょう。」
「ゲロ、ゲロロン!?(何それ! うまそう!)
肉串につられて、離れるシロマに付いていくゲロゲロ。
「なんだったんだ? 今の?」
俺は首を傾げながら隣にいるイモコに聞くと、
「某にもわからないでござる。しかし、女心と秋の空と言われるくらいでござるから、考えるだけ無駄でござるよ。」
と、なんか達観した言葉を口にする。
イモコが言うように、今そんな事を気にしてもしょうがないので、それよりも大事な話を進める事にした。
そう。ロゼッタ達の今後についてである。
この旅の目的の一つとして、ロゼッタの呪いの解呪があった。
まだ旅を初めて間もないとも言える状況だが、既にその目的は達せられている。
ならばこれから進む危険な道に、ロゼッタは元より、シルクも同行する必要はない。
故に、俺はシルクに尋ねる事にした。
「シルク、少しいいか?」
「いいでがすよ。何を聞きにきたのかはわかっているでがんすが。」
どうやらシルクも分かっているらしい。これから何を聞かれるのかを。
「まぁ、言わなくてもわかるか。んで、ロゼッタと帰るか?」
単刀直入に確認する俺。
その質問を前に、シルクは一度深く瞼を閉じると答えた。
「帰るでがんす……と言いたい所だが、帰るのはロゼッタだけで俺っちは残るでがんすよ。」
「ロゼッタだけ? なんでシルクが残る必要がある? 俺達といるよりも、シルクにはやる事があるだろ?」
そう聞く俺に、シルクは淡々と答える。
「国の事は息子に託したでがんす。俺っちは、城主であると同時にこの大陸を治めるサムスピジャポンの統治者の一人。今起きている事を知る必要があるでがんすよ。」
すると、今度はカリーが質問した。
「なぁ、シルク。お前の考えはわかったが、ロゼッタちゃんはそれでいいのか? 俺としても安全な所にいてもらった方が安心するがよ。」
「ロゼッタ……いや、ロゼには危険を冒して欲しくないでがんす。健康な体に戻った今、色々やりたい事もあるだろうし。」
シルクが少しだけバツが悪そうに答えると、突然ロゼッタがむくっと起き上がる。
「すみません。全部聞いていました。その上でお願いします。私も連れてって下さい。私は……私もこの世界の為に何かしたいのです!」
「ならぬ!! お前は帰るでがんす!」
ロゼッタの決死の願いを即座に否定するシルク。
その表情は、今までロゼッタに向けた事がないほど厳しいものであった。
しかし、ロゼッタも引かない。
「嫌です! だったらおじい様こそ、お帰り下さい。お父様に全部押し付けるなんて可哀そうです。」
「ぬぬぬ……言うでがんすな。」
その言葉にたじろぐシルク。
どうやらさっきまで自信満々に問題ないと答えていたが、思うところがあったようだ。
今喧嘩されても困るので、俺は二人の間に入る。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いてくれ。俺としてはロゼッタちゃんは一緒でも構わないと思っている。シロマも喜んでいるしな。」
その言葉にぱぁっと笑顔を浮かべるロゼッタだが、シルクはそれを認めない。
「何を言うでがんすか。ロゼッタは……ロゼッタは!」
「落ち着けシルク。今はあの時とは違う。それに思い出さないか? あの手紙を。」
カリーがそう告げると、何故かシルクは黙り込んだ。
今カリーが言った手紙とは、シルクの妹、今は亡きローズが死ぬ前に書いた手紙。
その手紙には、叶う事の無かった彼女の旅が描かれていた。
すると、二人の少ない言葉からロゼッタが何かを察する。
「……手紙? もしかして、それってローズさんの?」
しかし、二人は答えない。
その様子にロゼッタは自分の気持ちを口にする。
「よくわかりませんが、カリーさんも、おじい様も勘違いしないで下さい。この想いは他の誰でもない私のものです!」
ロゼッタが言う通り、ローズとロゼッタは違う。
そんな事はカリーもシルクも分かってはいたが、それでも心の奥でロゼッタにローズを被せていたのは事実だった。
そして今のロゼッタの言葉と目を見て、再度二人の眼には、それがローズと被って見えてしまう。
あの時、自分はずっと妹を束縛してしまった。
その結果、ローズが死んだと言っても過言ではない。
そう自分を責め続けてきたシルク。
それを思い出した今、どうして今のロゼッタの気持ちを無碍にする事ができるであろうか。
もう二度と、同じ過ちは繰り返させない。
一緒に行くなら連れていく。
そして今度こそは、命に代えて守って見せる。
シルクは固い決意と共に、ロゼッタが付いてくる事を認める事にした。
一方、何がなんだかわからない俺は黙ってそれを見ている。
というか、何を口にすればいいかわからないから、見守る事しかできない。
だがその必死な様子ロゼッタを見て、カリーとシルクは顔を見合わせて……笑った。
「お前の負けだな、シルク。」
「がっはっは! 流石は我が孫でがんすな!」
どうやらロゼッタが旅にこれからも同道する事を認めたらしい。
そして、よくわからないがカリーの顔はそれを嬉しく思っているようにも見える。
「んじゃま、そうと決まれば今日は一度元の野営地に戻って休んで、明日からまた旅を続けよう。って、あぁぁぁぁぁぁ!」
俺はそう言うと、ある大事な事に気付くのであった。
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