第54話 空飛ぶ円盤
現在、ゲロゲロは上空で蠅の化け物と相対している。カリーとイモコは右方にいるライオン型の化け物に向かっている。そして俺は……二つの戦場の中間辺りに岩の様に丸くなった亀の相手だ。
この亀は上空から落ちてきた時こそ、その巨大な甲羅に頭と手を生えさせていたが、今は違う。どういう訳か、それらを全部引っ込めて丸くなったまま動かないでいた。
「動かないなら、ただの的。さっさ片づけてヘルプに行かないとな。」
俺はそう呟くと、初手から切り札をぶっ放す。
「スターフォール!」
俺が選んだ魔法は、光のメテオ。
これだけ戦場が開いていて、かつ、周りに被災する者がいないならこれ一択だ。
前回使った時は海の上だったけど、ここは地上だし少しだけ送る魔力を少なめにしておく。
ゲロゲロやカリー達が近くにいないとはいえ、あまり広範囲に放てば万が一もあり得るからだ。
そして俺がその魔法を唱えた瞬間、上空から無数の光が落下していく。
その光の隕石達は、狙い通り丸くなった亀に轟音を立てながら何発も命中した。
「やったか!?」
敵は巨体であるが故に、かなりの数の隕石を直撃させており、普通に考えれば塵も残さず消えている事だろう。
そう思った俺は、他のメンバーの助太刀をするため視線を移そうとしたが……
ーー巨大亀がさっきと同じ体勢で丸くなったまま動かない。
「は??」
俺は目を疑った。
あれだけの攻撃を浴びて、巨大亀の甲羅には傷一つ見当たらない。
それどころか、少し大きくなっているようにさえ見えた。
「どういう事だよ? ん? あれは……。」
そこでようやく気付いた。
巨大亀は大きくなったわけではない。
その甲羅を覆う黒い何かが広がっていただけだった。
どうやらこの亀の防御を破るのは一筋縄ではいかないらしい。
「なら、これならどうだ! ディバインチャージ!」
亀の防御が高いのは分かったが、知力と力を合わせた攻撃力のディバインチャージまでは防げまい。
そう判断して、俺は直ぐに光の斬撃を放ったのであるが……俺が攻撃を放つ直前、亀は急に高速でクルクルと回転すると上空に舞い上がってしまった。
「ちっ! 縦に斬ればよかったぜ! しかし、空かよ……。」
ディバインチャージを縦斬りではなく、横薙ぎに払った事を後悔する俺。
もしも縦斬りだったならば上に逃げたところで、ヒットしていたのだが、横薙ぎだったために避けられてしまった。
そしてゲロゲロが他で戦っている今、空中に逃げられると俺の攻撃手段は限られてしまう。
とはいえ、以前空を飛ぶゲロゲロと戦った時に比べれば、使える技も魔法も圧倒的に多い。本当にシロマ様々だ。
しかし、ここで一番厄介なのは、上空に飛んだ亀が他のメンバーの戦場に行ってしまう事、もしくは逃げたロゼッタ達の方に行ってしまう事だったが、それは杞憂に終わる。
高速回転しながら上空に舞い上がった亀は、なんとそのまま今度は俺に向かって突撃してきた。
「上等! 迎え撃ってやるぜ!」
俺は向こうから近づいてきてくれることに感謝をしつつ、再度ディバインチャージを放とうとするが……やめた!
近づくにつれて分かったが、あの巨体が高速回転しながら突っ込んでくるのはマジでやばい。いや、やばすぎる。
どう考えても避けられないし、よくて相打ちだ。
そんなリスクを冒したらならば、後でシロマになんといわれるかわかったもんじゃない。
そう判断した俺は攻撃をキャンセルし、回避する事にした。
「疾風!! って、やば!!」
瞬間速度2倍スキルを使って横に逃げた俺だが、それでもギリギリだった。
思っていたよりも亀の攻撃範囲は広く、見ると亀が通った地面が丸々削られている。
「まじかよっ!? あれヤバすぎんだろ。って、また来た!!」
俺の後ろを通り過ぎた亀は、再度回転しながら俺に向かって飛んできた。それを今度も疾風を使って早めに回避する……が、今回はさっきと違い黒いオーラを纏っており、避けたはずなのだが吹き飛ばされた。
吹き飛ばされるだけで済んだのは、寸前で盾が間に合ったからだ。
それがなければ、俺はダメージを受けていたに違いない。
「これは本格的にまずいな。どうにかあの突撃を止める方法はないか……ライトプリズンが使えればな。」
俺が直ぐに浮かんだ作戦は、ライトプリズンでなんとか1撃を止めてカウンターを放つもの。しかし、既にロゼッタ達を守る為に使っているから使う事はできない。次に考えたのはミラージュで姿を隠し、敵が俺を見失った所で攻撃をすることだったが……。
「なんでわかるんだよ!! クソっ!」
なんとミラージュを使って尚、亀は正確に俺がいる場所に向かって突撃してくる。もしかしたら、この黒い雨の影響で場所がバレているのかもしれない。
再度襲い来る突撃を、なんとか躱した俺。しかし、打つべき手段が見当たらない。
すると、突然左の方から大きな衝撃音が聞こえ、大地が揺れる。
音がした方を見ると、ゲロゲロと蠅の化け物が地面に墜落したのがわかった。
どうやら、向こうの戦場も一筋縄ではいかないらしい。
正直、ゲロゲロの強さなら瞬殺しているかとも思っていたが、そうではないようだ。
遠目から見ると、ゲロゲロに大きな傷はなさそうであるが、どういう訳か立ち上がれないでいる。
逆に蠅の化け物は傷ついて見えたが、それが煙を上げて回復していっており、再度上空に舞い上がった。
「もしかして……まずいんじゃないか!?」
その状況を見てゲロゲロのピンチを知った俺は、すかさずゲロゲロを助けに行こうとするが、それを見逃す程、上空の亀は甘くなかった。
再び迫りくる亀の回転アタック。
ゲロゲロに注意がいっていた俺は、回避が間に合わなくなり、盾で防ぎつつも今度は本体の直撃をくらう。
「ぐはぁっ!!」
激しく吹き飛ばされた俺は、内臓に大きなダメージを受けた。
見ると盾が今の一撃でボロボロになっており、服も破れている。
盾で防いで尚、この破壊力。しかもこのままだと、次の攻撃は盾で防ぐことはできない。
なんとか立ち上がった俺であるが、その瞬間、正にゲロゲロが蠅の化け物にトドメを刺されようとしていた。
(間に合うかっ!?)
それを見て、俺は蠅の化け物に最速の剣を放つ。
ライトスラッシュ!!
音速を越える光の斬撃はギリギリ間に合ったようで、蠅の化け物の羽に直撃するとその羽を斬り裂き、浮力を失った蝿は体勢を崩して落下し始めた。
なんとか動きは止める事はできたが、動けないゲロゲロを見るにピンチなのは変わりない。だが、俺は信じる。ゲロゲロの強さを!
「ゲロゲロ! あれを使え!」
ここから叫んだところで聞こえるはずもないが、俺とゲロゲロはテレパシーで繋がっている。俺の声は届くはずだ。
そう信じて叫んだ俺だが、あれとは、俺との戦いで見せた破壊力が半端ない光の球撃。その場から動けなくとも放つ事は可能なはずであり、体勢を崩した今がチャンス。
そしてその声が……思いが通じたのか、ゲロゲロは前足を伸ばすと、その先に光の球体が現れる。それを見て安心した俺は、再度向かってくるであろう上空の亀を睨みつけた。
「シロマがどうとか言ってる場合じゃねぇな。あの分だとカリー達も心配だし、やるしかないか。」
俺は覚悟を決めると迎え撃つ事を決意する。後は自分の力と運を信じるのみ。
「きやがれよ! 鈍間じゃない亀!!」
その声に反応したかのように、再び突撃してくる亀の化け物。
しかし、今回は逃げない。
最大限力を溜めて、今使える技の中で一番貫通力の高い技の準備をする。
そしてその瞬間は訪れた。
急速に迫りくる亀。それに対して俺が放った技は……
「全力! スターストリーム!!」
光の螺旋が空に舞い上がる。
回転に対して、回転攻撃だ。今ある俺の使える技でこれ以上に貫通力が高い技はない。
そして力を全開放したお蔭なのか、その光の螺旋は前回使った時よりもかなり太くなっている。
空中で交わる二つの螺旋。もしも闇の螺旋が光の螺旋を弾いたならば、俺は死ぬかもしれない。だがそんな事にはならなかった。
極太の光の螺旋は、いとも簡単に闇を貫き、穴の開いた亀は回転をやめてそのまま落下する。
すかさず俺は疾風を使い、亀の落下地点まで走ると、甲羅の穴が開いた部分に剣を差し込んだ。
「ライトブレイク!!」
その言葉と同時に亀の体が大爆発を起こす。
爆発が起こった後、亀の体は全て塵となって消えた。
「いやぁ、危なかったぁ!! ってそれどころじゃない! ゲロゲロは!?」
目の前の脅威を退けた俺は、あの後ゲロゲロがどうなったかを確認する。
「おっ! よかった、あっちも片付いたみたいだな。」
ゲロゲロの前に蠅の化け物はいない。
あの一撃で倒す事ができたみたいだ。
ひとまず安心した俺は、今度はカリー達の方を確認すると……
「まじかよ!! あっちもピンチかよ!!」
なんと、今正にカリーに向かって巨大な蛇の顔が襲い掛かっていた。
普段ならあんな隙をカリーがみせるはずがないのだが、考えている暇はない。
距離が結構離れているため、ゲロゲロの時のようにライトスラッシュを使う事はできないが、一つだけ同じように速くて遠距離を攻撃できるスキルがある。
シロマから訓練を受けたライトアローだ。
俺は目の前に弓をイメージすると、弦を引く。すると、光の矢が浮かび上がってきた。
それを動いている蛇の頭の移動先目掛けて放つ。
正に光速で放たれる一本の矢。
その矢は、俺が思い描いた軌道で飛んで行くと、カリーの面前に迫った蛇の頭を貫き……爆散させた。
「ひゅぅ! オッシャ!! 狙い通り!」
寸分違わずに命中したことに喜ぶ俺。だが、喜んでばかりはいられない。今回俺が破壊したのはライオンのしっぽに過ぎず、胴体には何らダメージを当てていなかったからだ。
すぐに応援に駆け付ける俺だったが……まさかこの後、あんな凄いものが見れるとは夢にも思わなかった。
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