第41話 魂の試練

【イモコ視点】



 気が付くと、イモコはいつの間にか見知らぬ道場の中にいた。


 見知らぬとは言ったものの、イモコにはどこかその場所が懐かしく感じる。


 そこで気付いた。


「はっ!? ここは幼少期に某が剣を習った場所でござる。」



 イモコはその光景を前に、かつて沢山の門下生と共に稽古に励んでいた事を思い返す。



「しかし、変でござるな。なぜ某はここにいるのでござるか? それに師匠達が消えたでござる。」



 周囲を見渡すも、そこにあるのは神棚のみであり、自分以外の誰もいない。


 不思議に思ったイモコであるが、直ぐに今の状況を推測する。



「……どうやら某は招かれたみたいでござるな。試練の間に。」



 そう呟くと、イモコは神棚に近づき、そこで侍流の拝礼を行った。



 すると、イモコが腰に差している一本の剣から煙が上がる。



「なんでござるか!?」



 突然の事に驚いたイモコは、煙が上がっている剣を見ると、それはシルクから賜った神剣マガツカミであった。


 モクモクと上がる煙は、やがて神棚の前に集まり、そして煙の中から長髪で白髪の男が現れる。



「よくぞここまで参られた、勇敢な侍よ。」



 その男は威厳ある声でイモコに話しかけた。



「御身はもしや、スサノオ様でござるか?」



 イモコは現れた者が、話に聞く神スサノオだと直感する。



「如何にも。我こそはこの大陸最古の神、武神スサノオである。そして貴様の資質を試す者よ。」



「ははぁ! 御身にお目通り出来た事を光栄に思うでござる!」



 イモコはその場で正座をすると、頭を床に打ち付けた。



「よい、頭をあげよ。して、貴様はここに試練を受けに来たとみて良いか?」


「はっ! その通りでござる。某は更なる力を求めてここに来たでござる。」



 イモコの返事を聞き、スサノオはジッとイモコの事を見定める。



「ふむ。ここに来れたという事は、貴様にはその資格があるという事に違いない。では、貴様に試練を与えたいところであるが……その前にいくつか我の質問に答えよ。」


「はっ! 何なりと!」


「では聞くぞ。なぜ貴様は力を欲する? ここに来れたという事は、この大陸に貴様よりも強い者はおらぬはずだ。答えよ。」



 この質問に、イモコは即座に答えた。



「はっ! 某が力を欲する理由は、この大陸を守りたいからでござる。」



 イモコの目は真剣そのもの。


 スサノオから見ても、それが嘘偽りない答えだとわかる。



……だが



「ふん。答えになっておらぬではないか。貴様は既に強い。人間の限界まで極めておる。であれば、そのままでも守りたい者は守れようぞ。」



 スサノオはこの答えに納得しなかった。


 スサノオが聞きたい答えではなかったのであろうか?


 しかし、イモコは直ぐに言葉を返す。



「失礼ながら申し上げるでござる。某は強くないでござる。某よりも強き者と出会い、それがわかったでござるよ。」


「ほう。それではその者より強くなりたいという事か?」


「違うでござる。誰かより強くなるという気持ちは、今はないでござる。某は復活するであろうウロボロスから民を守る力が欲しいでござる。」



 イモコから発せられたウロボロスという単語に、スサノオは強く反応した。



「なに!? 奴が復活するのか? なぜだ……奴は……いや、まぁよい。では、貴様はウロボロス倒すために力が欲しいという事か?」


「そうでござる!」


「それならやめておけ。無駄だ。例え、ここで新たなる力を手にしても、ウロボロスを倒す程の力は手に入らぬ。あれは、人の力では到底抗えぬものだ。」



 どうやらスサノオはウロボロスを知っているらしい。


 伝説に伝わる神話が本当であるなら、それも当然であるが。


 しかし、そう言われて引き下がるイモコではなかった。



「それでも! それでも某は戦うでござる!」


「死ぬぞ?」


「覚悟の上でござるよ。この命、既に民に捧げているでござる。死は怖くないでござる。某が怖いのは武士の誇りを失う事。故に、力が必要でござる!」



 イモコはこれまで、民の為に戦った多くの武士たちの魂を背負っている。


 もはやイモコにとって、その命は自分だけのものではない。


 すべての仲間の願いである、平和の為に、イモコはその命を捧げていた。



「そうか……。その目は……。いや、何でもない。それでは無駄とわかった上で、それでも力を望むか?」


「然り。」


「我が嘘をついていると思うか? 本当はウロボロスを越える程の力を与えられると。」


「思わないでござる。」



 ここまでの質問に対し、イモコは真っすぐ淡々と答え続ける。

 

 なぜならば、その質問の全てはイモコにとって当然の答えがあったからだ。


 そして、ここにきてスサノオは、何かを見定めるようにもう一度質問をする。



「ふむ。再度問う。新しき力を何のために必要とするのだ?」


「民を守る為でござる。某一人の力では足りぬとも、仲間と共にであれば、必ずやウロボロスから民を守れると信じているでござる!」



 そう力強く答えるイモコの目は、強く輝いている。


 それを見て、スサノオは初めて少しだけ笑みを漏らした。



「なるほど。自分だけではなく、仲間と共に……か。よろしい。合格だ。貴様の器を試させてもらった。あっぱれである!」


「そ、それでは某は……!?」



 突然の合格発言に、呆気にとられるイモコ。


 だが、そう簡単に問屋は卸さない。



「焦るでない。魂の試練に合格しただけよ。まだ試練は終わっておらぬ。」


「はっ! それでは某は何をすれば……?」


「焦るでないと言うておるだろうが、たわけものが!」



 唸り飛ばされるイモコ。


 あまりの迫力に、イモコは顔は引きつった。



「申し訳ないでござる!」


「許そう。では次の試練について説明する。次は技と力の試練だ。これより貴様には百人組手を行ってもらう。それら全てを倒してみせよ。」


「御意!」



 百人組手と聞いて、イモコは少しほっとした。


 今の自分の力なら、そこら辺の武士100人相手等余裕とすら感じている。


 しかし、それを読み取ったスサノオは続ける。



「甘くみるなよ? 貴様の力は全て把握しておる。それに合わせて侍を召喚する。そして最後の百人目は、この者とだ。」



 スサノオがそう言うと、イモコの背後にいつの間にか隻眼の男が立っていた。


 イモコはその男を見て直感する。



 この男……強い!



 その男から発せられる強者のオーラに、イモコの背筋はゾワゾワした。



 只者ではない。



 そして力量に気付いたイモコを見て、スサノオは嬉しそうにしながら、そいつを紹介する。



「ほぅ。中々鋭いではないか。そうだ、この男は唯一天下無双の称号を得た者……宮本小次郎だ。」



 宮本小次郎と紹介された男は、初めてその口を開く。

 

 そしてその口は……めちゃくちゃ悪かった。



「おめぇが俺の相手か? かぁぁ! おい、おやっさん。こいつにゃまだ無理だぜ? 相手にならねぇよ。」



 小次郎はイモコを見下す。


 そしてスサノオはそれを肯定した。



「ふむ。そうであろうな。イモコよ、この戦い、今なら降りても構わぬぞ?」


「そういう訳にはまいらん。是非、某と立ち会って欲しいでござる。」



 そう言いながらも、さっきからイモコは武者震いがとまらない。


 それは、サクセスに1対1の修行をつけてもらった日以来だった。



「かぁぁーー! 言うねぇ。ご立派ご立派。てかよぉ、忘れてねぇか? 俺の前にお前は99人と戦って勝たなければならねぇんだぜ?」



 その通り。

 ただでさえ、勝てるかわからない相手にも関わらず、イモコはその前に99人倒さねばならない。

 これは余りに厳しい条件だった。



 しかし、イモコは決して下がらない。


 背水の陣の気概で臨むつもりだ。



「覚悟の上でござる。某、そこで負けるようであれば自ら腹を切って死ぬでござるよ。」


「おもしれぇじゃねえか。なら、てめぇの腸でも拝みながら一杯やるかねぇ。がっはっは!」


 

 そういって、どこから取り出したのか、小次郎は酒の匂いを放つ瓢箪をラッパ飲みした。


 そしてイモコの決意を前に、スサノオは口を開いた。



「わかった。それでは試練を開始する。それと一つ言い忘れたが、この戦いでスキルの使用は不可だ。己の力と技術のみで勝ち抜いてみせよ。」



 スキル使用は不可。

 厳しい条件が更に厳しいものとなる。

 しかし、それでもイモコの覚悟は揺るがない。


 なぜならば、自分は一人ではない。

 これまで出会った全ての仲間が、自分の中で生きているからだ。



 故に力強く、一言。



「御意!」



 こうして、イモコの厳しい試練が幕を開く。


 果たしてイモコは、無事試練を乗り越えることができるのであろうか?

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