第42話 その名は柳生○兵衛

「それでは……はじめぇぇ!!」



 スサノオの合図と同時に、イモコの試練が開始された。



 場所は、当然今いる道場の中……なのだが、さっきまでいた場所とは比べ物にならない程広くになっている。


 その道場の広さは、坪数で言えば300坪、数値で言えば横33m・縦30mといったところだろうか。


 つまり、馬鹿でかい。 


 スサノオは試練を始める直前に、不思議な力を使って道場を拡張すると、それと同時に小次郎以外の99人の武士を召喚した。


 そして現在、その広くなった道場の中央……そこにイモコともう一人の侍が向かい合っている。



「いざ、尋常に参る!」



 イモコはスサノオの合図に合わせて宣誓すると、腰につけた刀を抜いた。


 

 剣先を敵の眉間に向けて、いつでも動ける体勢のイモコ。

 

 一方、相手の武士もまた同じ様にイモコに刀を向けると、二人はしばらくその場から動かない。


 お互い当然初見であり、相手の力量はわからないのだが、武術を極めた者同士であればある程度は感じる事ができる。


 スサノオは、イモコの力量を完全に把握していると言った。


 その上で、それに見合った者と勝負させると。


 その言葉は嘘ではない。


 故に、動いていないにもかかわらず、汗がイモコの頬をつたう。



(この相手……小次郎殿程ではないが、かなりやるでござる……。)



 イモコは正直、小次郎を見て尚、この勝負を甘く見ていた。


 確かに小次郎は自分よりも強いと感じたが、他の99人がそこまで強いとは想像しなかった。


 当然100人と戦わせるのだから、それを考えれば段階的に相手が強くなるか、もしくは、そこそこの手合いが99人いるのだと高をくくる。


 しかし、一番最初に現れた目の前の男は、どう考えても自分と同等の実力を有していると感じた。


 その為、迂闊には動けない。

 

 相手の呼吸……そして指先の微かな動きすら見極めなければならない。


 そして当然相手も同じように考えている為、未だに二人が剣を交わす事はない。


 正に真剣勝負。


 なのだが、ここで何故か水を差すような事を、スサノオが口にした。



「言い忘れていたが、今この場にいる百人全員がレベル99の侍である。そして、小次郎以外は、天下無双の試練を受けて脱落した者達でもある。貴様も負けたならば、脱落した百人目に加わってもらうぞ。」



(やはりそうでござったか……薄々気付いていたでござる。であれば……やはり今、某の前にいるのは……。)



 実は今、目の前にいる相手をイモコは知っている。


 知っていると言っても、当然会った事もなければ、そもそも生きてきた時代が違う。


 ではなぜ知っているのか?


 そこにいるのが、過去の歴史の中で、侍として伝説を残してきた者だったからだ。

 

 その者の話は、幼き頃に聞いただけでなく、書物にも写し絵が残されている。


 イモコの記憶が正しければ、今目の前にいる侍は……



 柳生 ウッチャリ 八兵衛 



 この大陸には珍しい、ミドルネームを有した伝説の侍。


 外国の血が混じっており、名前が他の者とは違うが、その時代の中心となるほど強い侍だったと書物には残されている。


 ただ、その最後だけは謎であり、



 果し合いで負けて死んだ。

 戦う敵がいなくなって自害した。

 大好きな団子をのどに詰まらせて死んだ



等と残されているが、どの情報が正しいか定かではない。



 だが今ならわかる。



 この者も、そこに並んでいる伝説クラスの侍達も、全てこの試練に臨んで散っていったのだと。



 そして今、そんな事が頭に過ってしまった事で集中は切れ、その隙を見逃す程、ウッチャリ八兵衛は甘くない。



 ウッチャリ八兵衛は、その手に持つ長い刀を……突き刺してきた!



(しまったでござる!)



 油断したイモコ。



 普通に刀を振るなら、どうにか対応できたかもしれないが、突きはまずい。


 突きは、相手と自分の最短距離を移動する攻撃。


 故に、その剣速はケタ違いに速い。



 だがイモコは、それを紙一重で躱した。



 いや、紙一重ではない。


 イモコの左肩の上からは、血が流れ落ちている。


 とはいえ、一撃必殺を躱したことは大きかった。


 普段からサクセスの超常的な速さに目が慣れていた為、何とか反応が間に合ったイモコ。


 本来ならば、その胸に大きな穴が開いていただろう。


 しかし、今の攻撃で意識が目の前の相手に戻った事から、イモコは返す刀で相手の胴を斬り裂いた。



 突きという技は、速さ、威力共に凄まじい攻撃であるが、それを回避された場合の隙も大きい。


 故に、一瞬だけであるが、ウッチャリ八兵衛の胴ががら空きになる。


 そこにイモコが反射的に刀を振ったのは、正に今までの努力の賜物だった。



――そして



「それまで! 勝者イモコ。」



 道場にスサノオの声が響きわたる。



 勝負は一瞬で決まったとはいえ、その勝利は紙一重。


 一歩間違えれば、倒れていたのはイモコの方だろう。


 まだ100戦の内、1戦を終えただけにもかかわらず、イモコの息は荒かった。



 そして一方、目の前で倒れた、ウッチャリ八兵衛は……



 「こいつぁ、うっちゃりだ。」



とだけ言い残して消えていくのだった。

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