第2話 最強装備
遂にこの日が来た。
今日、アタシは16回目の誕生日を迎える。
つまり今日は、アタシが旅立つ日よ。
「急がなきゃ! 待ってて、サクセス!」
アタシは、逸る気持ちを抑える事なく家を飛び出すと、両親に挨拶をするのも忘れて外に出る。
すると家の外に見慣れない馬車が停まっていて、アタシが家を出るタイミングと同時に、その馬車からも
魔術師っぽい人が降りてきて、私に近づいてきた。
「お迎えにあがりました、勇者ビビアン様。さぁ、王様が待っています。この馬車にお乗りください。」
誰、このおじさん?
突然の事で、アタシは一瞬固まって黙り込むと、その男は頭を下げながら自己紹介を始めた。
「これは失礼しました。私はアリエヘン国宮廷魔導士のシャナクと申します。怪しい者ではございません。」
彼はどうやら偉い人らしい。
だからといって、正直今のアタシにはどうでも良い事だったので無視して行こうとするが……丁度その時、家から両親が慌てて出てきてしまった。
「ビビアン! 黙って出て行くなんてひどいじゃないか! お父さん泣くぞ! お母さんは、もう泣いているぞ!」
お父さんはアタシを見て叫ぶと、シャナクを見て驚く。
「こ、これは賢者様。お久しぶりでございます。」
どうやら、お父さんはこの魔導士を知っているらしい。
「これはこれは勇者の父よ。ここまで勇者様を育てて頂いた事に感謝します。」
シャナクは父に頭を下げた。
そこでアタシは父の言葉を思い出す。
そういえば、一度お城に行かなきゃいけないとか言ってた気がする。
面倒くさいけど、両親に迷惑をかけるわけにもいかないから、行くしかないわね……。
「ねぇ! アリエヘンに行くならさっさとして! 急いでいるのよ!」
アタシはサクセスの下に直ぐ行けない事でイライラし始め、その偉そうな魔術師に怒鳴った。
その危機迫る声を聞いたシャナクは、急いで馬車の扉を開ける。
「申し訳ございません。詳しい事は馬車の中で話します。それでは出発しましょう。」
こうしてアタシを乗せた馬車は、急いでアリエヘンに向かい始めるのであった。
あ、また挨拶忘れた。
ごめんね。
お父さん、お母さん。
馬車の中に入ると、早速シャナクさんが色々と説明し始める。
城にある伝説の装備をアタシに渡す事。
そこでアタシに仲間を選ばせる事。
そして、間もなく復活する大魔王を倒さなければならないこと。
一通り話を黙って聞いていたけど、正直、どれもどうでもいい話だったわ。
大魔王?
知らないわ、そんなの。
私はサクセスに会いたい!
それだけよ!
しばらくすると、アタシ達はアリエヘン城に着き、王に謁見した。
「よく参られた、勇者ビビアンよ。これより、我が国の言い伝えに従い、そなたに伝説の装備と仲間を与えよう。」
目の前の偉そうな中年ハゲは、仰々しくそう告げると、使いの者が装備を持ってきて王の前に置く。
「さぁ手に取るがいい! 勇者ならば装備が可能なはずだ! は、はやく……はやくその姿を見せてくれ!」
なぜか、急に王様は興奮し始めた。
さっきまでの、偉そうな王様といった雰囲気が一気に消える。
……きもい。
後でシャナクさんから聞いた話だと、王様は勇者の熱烈なファンで、この日をずっと待っていたらしい。
だからといって、なんでこんな中年ハゲの前で着替えなきゃならないの?
思わず
「この! はげぇ!!」
と叫びそうになるのをグッと抑え込み、目の前に置かれた、豪華で格好いい装備を手に取って確認した。
【大王者の剣】 レアリティ1
攻撃力160
全ステータス+50 使用効果 ギバタイフーン
【伝説の盾】 レアリティ1
防御力65
ブレス効果無効 全ステータス+20
【七光りのドレス】 レアリティ1
防御力120
攻撃魔法全反射 全ステータス+30
【オリハルコンの髪飾り】 レアリティ3
防御力70
状態異常無効 オート回復
なにこれ? 凄過ぎでしょ!
ありえないわ、こんなの……。
手にした装備は、見るからに豪華なものであり、そのステータスもまた、どれも世界最強の装備と言えるものだった。
武器や防具に詳しくないアタシでもわかる。
この装備はどれも規格外の強さだ。
凄すぎる装備を前に圧倒されていると、王様が気持ち悪い表情を浮かべて近づいてくる。
「さぁさ、はやく着替えておくれぇ~ぐへへへ」
うっわ。
マジでキッモ!
無理無理!
「あの、着替えられる場所はどこですか?」
王様から素早く距離を取ったアタシは、ドレスルームがないか確認する。
間違っても、こんなキモい王様の前で着替えるとかないわ。
すると、さも今気づいたといった感じで、近くの側仕えに命令する。
「おっと、これはこれは失礼した。勇者様をドレスルームまでご案内せよ。」
「は!」
なんとか羞恥プレイを免れたアタシは、案内された部屋で渡された装備を着用し始める。
「本当にこんな凄い装備をアタシが着れるのかしら?」
未だに自分が勇者であるという実感のないアタシは、ここに来て不安を覚えた。
もしもこの装備をつけられなければ、自分は勇者でないという事。
別にそれ自体はどうでも良いのだけど、ここまできて着けられませんでしたっていうのも、何だか嫌な感じだ。
だがしかし、それは杞憂に終わる。
その装備は、まるで自分の為にオーダーメイドで作られたように、完璧に体にフィットし、装備する事ができた。
「お似合いです、ビビアン様。」
側にいたメイドっぽい人が、うっとりした目をして感想を漏らす。
その声を聞いて、アタシも鏡に映った自分の姿を見てみると、そこに映っているのは、まるで自分ではない別の美しい女性に見えた。
その姿を見たアタシは上機嫌になる。
「サクセスはこの姿を見たら何て言うかな? うふふ。」
突然サクセスの前に、今の自分の姿で現れる事を想像すると楽しくなってきた。
ただ、これから見せる相手についてを考えると、うんざりするが……。
アタシは足取り重く王の下へ歩いていく。
そしてこの姿を見た王は……
「お、おおおお、おおおおおおお!」
「お」しか言えない位感動している。
そして、しばらくスライムのようにプルプル震えた後、叫び出した。
「うたげ……うたげじゃあぁぁ!」
はぁ? マジ勘弁なんだけど。
アタシは早くサクセスに会いたいの!
アタシはうんざりした顔で苛立っていると、シャナクさんが王に近づいて何かを耳打ちする。
「そうか、そうじゃったな。ワシとしたことが……つい……。」
シャナクさんに耳打ちされた王は、ハッと冷静に戻った感じで頷く。
「宴の前に大事な事があった。勇者ビビアンよ、これより魔王討伐の仲間を紹介する故、好きな者を選ぶがよい。連れて参れ。」
どうやら、シャナクさんは宴の前に、パーティ選考をするように進言したらしい。
耳打ちで伝えたのは、王に恥を欠かせない為の気遣いである。
そして仲間を選べと言われてビビアンは考えた。
正直、仲間なんていらないわ。
サクセスがいれば他は誰もいらないし。
それにこのままだと、ズルズル宴まで引っ張られそうね。
何か良い言い訳はないかしら?
数瞬考え込んだアタシは、ピコンッと閃く。
そうだ!
全部神に押し付けちゃえ!
「すいません、王様。私は冒険者ギルドで仲間を募集するように神に言われていますので、お断りさせていただきます。どうしてもというならば、そのシャナクさんだけはかまいませんが……。」
この言葉は王に対して会心の一撃となる。
信心深い王にとって、神の言葉は絶対だった。
ならば、神に選ばれた勇者の言葉に間違いはない。
「そ、そうか。流石は勇者様だ。それでは早速我が国を上げての宴を開こうぞ!」
しかし、王は粘った。
仲間選びは断られたが、宴は別である。
王にとって、ようやく出会えた憧れの勇者。
少しでもその姿を瞼に焼きつけたかったのだ。
その姿は、推しのアイドルを前に目をキラキラさせているオタクに近い。
一方、思いがけない切り返しに、アタシは更に苛立った。
ふざけんな!
こっちは急いでるの!
そもそも、こんなキモい奴とパーティなって絶対嫌!
「それも結構です。神はアタシに言いました。装備を手に入れたら直ぐに冒険者ギルドに迎え……と。今は時を急ぎますので、その気持ちだけ受け取ります。王に感謝を……。」
当然アタシはそれを断った。
そして一応、もう一度神の名前を借りておく。
これでダメならアタシ
……キレるわ!
アタシは丁寧にお辞儀をすると、直ぐに謁見の間を立ち去ろうとする。
それを見て、王は手を伸ばして引き止めようとするが、声が出ない。
王は悩んでいた。
もっと見たい!
もっと愛でたい!
もっともっと……
しかし、神の名を出されては何も言えない。
そのままビビアンが謁見の間を後にすると、王は肩を落としながらもシャナクに命令する。
「シャナク、すまんが頼むぞ。できるだけ早く、もう一度勇者様をこちらにお連れするのだ。」
「は! 必ずや大魔王を倒して戻って参ります。」
シャナクは王の言葉を若干はき違えながら答えると、直ぐにビビアンを追いかけた。
その場に残された王は、この後、ショックから一週間寝込むこととなる。
そして城を出たアタシは満面の笑みで叫んだ。
「やっと……やっとサクセスに会えるわ!」
こうしてアタシは、急いでアリエヘンの冒険者ギルド【ルルーの酒場】に向かうのであった。
【ステータス】
ビビアン(総合590)
勇者 レベル14
力 125
体力 115
素早さ 110
知力 110
運 105
最強装備を装着したステータス
攻撃力 385
防御力 470
攻撃魔法全反射 ブレス効果無効 状態異常無効 オート回復 風系最強魔法使い放題
※ 勇者は初期から全ステータスに100の補正がかかる。
また、レベルが1ではないのは、幼い頃よりサクセスとプチ冒険を繰り返し、一人で戦っていた為、上がっている。
当時、パーティという言葉や認識が無かった為、サクセスには経験値が分配されなかった。
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