第94話 クーラースポット
【サクセス視点に戻る】
(しっかし、シルクは強かったな。まぁ強いというより硬いだけど。)
第二の守護魔獣戦を終えた俺は、みんなの待つライトプリズンの場所に戻っている。
今回、シルクの戦闘力の確認を兼ねて三人で戦ってもらったが、三人の強さは俺の予想を超えるものだった。
最初に敵の大軍を目にした時は焦ったし、流石にカリーが敵に囲まれた時は駆け出す寸前だったが……。
しかし卑弥呼に止められた事で、少しだけ様子を見る事にし、それは結果的に正解だったといえる。
卑弥呼はシルクの力を知っていたらしい。だからこそ、あれを切り抜けられると判断したのだろう。
卑弥呼の慧眼も大したものだ。
実際あそこからのシルクの戦い振りは目を見張るものがあった。
あれだけの敵の攻撃を全て捌くのは、多分俺にもできない。それをシルクは完璧にこなしていた。
今まで攻撃的な仲間がほとんどだったのでわからなかったが、戦いにはああいった方法があるのだと改めて知る事ができた。
敵の攻撃を引き付ける者がパーティにいると、アタッカーの動きが数段良くなる。それにそういうタイプの仲間がいると、後衛の防御を任せられるし、後顧の憂いなく前線で戦えるのも大きいだろう。
なんにしても今回のシルクは凄かった。
最後に腕を消し飛ばされたのだって、反応できていたのはシルクだけのようだったし。
敵の攻撃を感知するスキルでもあったのかな? 俺には見えていたが、あの攻撃は本来カリーを狙った攻撃だった。
もしもシルクが盾を張らなければ、やられていたのはカリーだろう。
腕一本という大きな代償ではあったが、もしあの攻撃がカリーに直撃していたらそれだけでは済まされなかった。
いくらシロマの回復魔法が凄くても、流石に死んだら生き返せない……いや、できるとか言ってたか……まぁいいや。
なんにせよ、今回のMVPがシルクなのは間違いない。
そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にかライトプリズンに到着していた。
「ただいま。って、気持ちいぃ! なにこれ? めっちゃ涼しいんだけど。」
ライトプリズンの中に入った瞬間、一気に気温が下がる。大して動いていたわけではないが、火山の中は想像以上に暑かったので、久しぶりの冷気に思わず目を細めてしまった。
「おかえりなさい、サクセスさん。私も皆さんの為に何かできないかと考えてやってみました。これで疲れた体と心を、少しでも癒してもらえればと。」
「これはロゼがやったのか! 凄いな。マジ最高。」
どうやらこの謎現象はロゼがやったものらしい。
実際これはかなりありがたかった。熱い体にこれは、マジで癒される。
そういえばさっきの戦いの時、カリーが敵陣に囲まれた瞬間、ロゼが小さく悲鳴をあげていた。だが自分ではどうする事もできないとわかっているからこそ、何もできない自分が許せなかったのだろう。
それでこれを考えたのか……なんとも健気な子じゃないか。
少しだけカリーが羨ましいぜ。
「お疲れ様でございます。サクセス様。素晴らしい戦いでした。流石はサクセス様でございます。」
今度はそう言いながらセイメイが冷えたタオルを渡してくる。相変わらず気が利く男だ。
卑弥呼に忠誠を誓っているにも関わらず、今も変わらず俺にも尽くしてくれる。俺にとってもセイメイはまさに忠臣と言える存在だ。
「ありがとうセイメイ。だけど、俺は最後に少し攻撃しただけだから、あまり疲れてないよ。今回頑張ったのは……あいつらだからな。」
「いえ、決してそのような事はございません。他の方々も素晴らしかったですが、サクセス様がいなければ全滅しておりました。やはりサクセス様は……光です。」
セイメイは熱を帯びた視線を俺に向け、恍惚の表情を浮かべていた。今は女装をしていないのだが、その表情を見ると何故か俺の男が疼いてしまう。
(いかんいかん! こいつは男だ。そっちの世界に行くつもりはない!)
そうこうしている間に、丁度全員がライトプリズンの中に入ってきた。
俺以外の面子もここに入った瞬間、この冷えた空間に驚いている。
カリーに至っては「ふぅ」と言いながら、早速その場に座り込んで後ろに両手をつきながらリラックスし始めていた。
この状況を即座に受け入れて行動をするカリーが凄い。
「カリー、おじい様、イモコさん、皆様お疲れ様です。シロマちゃんもおじい様を助けてくれてありがとう。」
戻ってきた仲間を見て、ロゼは嬉しそうな顔をして労うと、シロマには感謝の言葉を述べた。
「どういたしまして。ゲロちゃんのお蔭で早く助けることができました。」
シロマは抱いているゲロゲロを優しく撫でながら答える。
今回ゲロゲロは直接的に戦闘こそしていないが、俺とシロマを運んでくれた。だがそのお蔭もあり、みんなの救出に間に合ったのは間違いない。
俺はシロマに近づくと、ゲロゲロの頭をそっと撫でる。
「本当に助かったぞゲロゲロ。いい子だ。あとちなみに、この冷えた空間はロゼがつくってくれたみたいだぞ。ロゼにも感謝だ。」
「それは素晴らしいでござるな。火照った身体にこれは最高でござる。感謝するでござるよ、ロゼ殿」
「おぉ~! これロゼがやったのか! 凄いな、最高に気持ちいいぜ。」
「流石は我が孫でがんす!」
みんなこの涼しい空間に大分癒されているようだ。ずっと暑い中戦っていたのだから、ここを天国に感じるのも不思議ではない。
かくいう俺もカリーを見習って、冷たい地面に横になって寛いでいる。このままだと気持ち良すぎて寝てしまいそうだ。
「サクセスさん。疲れているところ申し訳ないのですが、一つ聞いてもいいですか?」
俺が冷えた地面でゴロゴロしていると、突然ロゼが質問してきた。
「ん? どした??」
「えっと、この結界ってどの位もつのでしょうか? もしも結界が切れたら氷の妖さんが苦しんでしまいますので。」
氷の妖??
「あぁ、これは時間で消えるものじゃないから、心配しなくても平気さ。つか、俺も聞いていい? その術ってさ、周りの環境によって使えるものじゃなかったっけ?」
ロゼがセイメイから術を教わる時、俺はその話を隣で聞いていた。
セイメイやロゼが使う陰陽術は、周りにいる妖の力を借りて使うのが基本らしい。
川辺なら水の妖。
こういった火山なんかでは火の妖。
つまりこれはありえないのだ。
こんな暑いところに、氷属性の妖が存在できるはずはない。
「はい。これは式神というアイテムを利用しています。私に力を貸してくれる妖さんの分体を、この式神に閉じ込めて持ち運ぶことができるのです。」
そう説明するロゼは、紙でできた人形っぽい変な形のものを見せてくれた。
どうやらその紙が式神らしい。やはり知らない職業の技は凄いな。ん? アイテムか? まぁこの際どっちでもいい。
この快適空間マジ最高。
「そっか。ロゼはこの短期間で随分成長したよな。これもカリーのお蔭かな?」
そんなロゼを少しだけからかう俺。
「ち、違いま……せんけど、それだけではありません。もう以前のように私だけお荷物になるのは嫌なんです。だから……少しでも皆さまの役に立ちたくて……」
「あ、ごめん。冗談だからね、今の。だけど実際今俺達はロゼに助けられてるから安心してくれ。ロゼは十分俺達の力になってくれているからな」
ガチで泣きそうになったロゼを見て、俺は焦って必死に弁明すると、「本当ですか?」と上目遣いで聞き返されてヤバかった。
元々可愛い子がそんな表情で聞き返してきたら、誰だってハートを鷲掴みにされてしまう。
だが俺は耐えたぞ!
カリーに恨まれたくないし、他の人を思っている女性に手をつける気はない。
俺の叔父さんは昔ネトラレ属性がどうとか言ってたが、生憎俺にそんな属性はないのだ。
寝とるのも、寝取られるのも願い下げである。まぁそもそも童貞の俺にネトルもクソも無いがな。
自分で言ってて悲しいぜ……。
そんな感じで一時間程その場でまったりしていた俺達だが、遂にウロボロスを封印している場所へと進む事にした。
ここから封印の間までは後少しらしい。
既に守護魔獣は全て倒しているが、安心するにはまだ早いだろう。
ここまで来るのに、以前とは随分と違っていたみたいだしな。
まぁ何があったとしても俺は仲間を守ってみせる。
俺にできる事はそれだけだ。
再び気を引き締め直した俺は、仲間を連れて歩き始めるのであった。
ちなみにあの戦闘の後、なぜか熱い視線を俺に向け続ける卑弥呼から求婚されたりしたが、秒で断ったのは言うまでもない……。
俺には、BBA(ババァ)属性もNTR(ネトラレ)属性もない!
俺が欲しいのはHRM(ハーレム)属性だけだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます