第16話 女神に感謝を
女神との対話を終えた俺は、ゆっくりと立ち上がり、目の前の女神像を改めて眺めた。
女神像に変化はないな。
しかしターニャがあんなに美人だったとは……
俺が初めてここに来た時は、自称女神の声が聞こえるだけで、姿までは見ることができなかった。
その後、装備のパワーアップとかでトンズラとのリンクが強まったことで、今までとは違い、精神世界と呼ばれる場所に意識だけが飛び、トンズラの姿は見えるようになるも、それでもターニャの姿はわからない。
そんな中、今回女神の力が上がったことで初めてその姿を拝むことができたわけなんだが、どうにも違和感が半端なかった。
だって、今までのあのヒステリックな駄女神っぷりな会話を聞いていれば、どうやっても同一人物には見えないだろ。
とまぁそれはともかくとして、いずれにせよ、ここに来て良かったよ。
どういう理由で神格が上がったのかわからないけど、もしかしたらこの龍神のお守りのお蔭かもしれない。
サムスピジャポンに行って、多くの人で出会い、そして別れ、その一つ一つが今ここに結びついている。
辛いこと、悲しいこと、色々あったけど、それでも俺がサムスピジャポンで経験した全ては無駄ではなかった。
そんな事を考えながらぼ~っと女神像を眺めつつ、最後には一礼をしてから仲間の方に振り返る。
ーーすると
「サクセス!! 大丈夫だった? 何があったの!?」
リーチュンが俺の胸に飛び込んできて尋ねて来た。
みると、他の仲間達も全員が心配そうな表情を浮かべている。
「え? いや、特に問題はなかったよ? みんなどうしたの?」
俺がそう尋ねると、シロマが言った。
「サクセスさんが祈りを捧げている際中、突然サクセスさんの胸の辺りが輝き始めたのです。それと同時に私達の装備も光り始めまして……。ですので、何かあったのではないかと心配したのです。」
なるほど。
あの時の光はやっぱりこの胸にある龍神のお守りからか。
それと後ろに見えた光は、シロマ達の装備らしい。
俺がようやくこの場で何が起きていたのかに納得するも、一つだけわからないことがある。
それがなぜ心配だったのかということだ。
リーチュンの様子を見れば、どれほど心配していたのかがわかる。
だが、装備が輝いたくらいでここまで心配する理由がない。
少しだけ状況に困惑していた俺だが、それについてはイーゼが説明してくれた。
「サクセス様。私は一番最初だったので見ていないのですが、サクセス様から発せられた光は、私達が天空の試練に旅立つ時の光と似ていたようですわ。だからリーチュンとシロマさんは、もしかしたらサクセス様も同じようにどこか別の世界へ行ってしまうのではと心配になっていたのです」
その話を聞いてやっと理解する。
つまりは、自分達と同じことを俺がやったと思ったのだ。
そんな事はありえない……と言いたいところだが、事実ターニャの説得が無ければ、俺はみんなを置いて魔界へと行こうとしていたのだから、あながち間違ってはいない。
そう考えると、ターニャの言葉は正に真実だった。
リーチュン達の不安そうな顔を見れば、俺がしようとしていたことがどれだけ仲間を悲しませることか、本当の意味で今理解する。
ターニャ。
いや、女神様。
ありがとう。
俺は未だに不安そうな表情をするリーチュンの頭を優しく撫でた。
「安心してくれ。俺はどこにもいかない。ずっとみんなと一緒だよ。ごめんな、心配させちゃって」
俺がそう言うと、必死に我慢していたのか、リーチュンはその瞳に涙を浮かべながら「うんうん」と頷いている。
そんなリーチュンを優しく抱きしめながら、俺は女神との対話の内容を話すことにするのであった。
※ ※ ※
「そういうことでしたか。では副神官長様に伝えないといけませんね」
俺の話を聞いたシロマは真っ先にそう口にする。
普通に考えれば、女神像と対話したという事実や、転職がアップグレードしたなんていう話は、俺の仲間でも無ければ誰も信じないだろう。
だが運がいいのか、今ならば信じてもらえる可能性は高い。
なぜならば、俺達はこの町にいる者から
【女神の使徒】
と信じられているからだ。
そしてそれは、ある意味で間違ってはいない。
実際、女神の指示に従って動いているようなものでもあるし、その俺からの言葉であれば女神の啓示として受け入れてくれるだろう。
一つだけ問題があるとすれば……副神官長だな。
今回の戦いで神官長が戦死した為、現在マーダ神殿のトップは副神官長になっている。
その副神官長は俺が助けてしまったせいなのか、俺を前にすると、俺の事を神の如く扱おうとするので正直苦手だ。
一方的に祈りを捧げてきたり、俺が何か口にすれば
「あぁ、女神様よ。このわたくしに啓示を授けて頂き、感謝します」
とか言って再び祈りを捧げ始めるものだから、まともに会話ができない。
その為、副神官長にはシロマから話を伝えてもらうことになったのだが、本当に助かる。
「さてと、後はミーニャさん達だけなんだが……」
俺がそう口にした瞬間、突然女神の間の扉が開いた。
なんとなくこの流れで、俺はそこから入ってくるであろう人物を予想する。
「ハロー、サクセス君。元気してた?」
やっぱりそうだ。
ミーニャだ。
彼女は笑顔で現れると、俺にヒラヒラと手を振る。
相変わらずのナイスバディとセクシーな服装に、思わず俺の下半身が暴発しそうになるが、今はそんなことをしている場合ではない。
この、あまりに都合の良すぎる展開。
実際、ターニャは間もなくミーニャ達が戻るとも言っていたし、こういうことなのだろうとは思っていたが、それにしてもタイミング良すぎるな。
これは女神の力なのだろうか。
それとも俺の運の高さのせいだろうか。
いずれにせよ、無事に会えてよかった。
であれば、まず俺がやるべきことはあれしかない……
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