第107話 八天魔王ゲルマニウム 後編
それに気づいたイモコは少しづつだが距離を下げていく。
そしてカリーから会話の続行を求められたゲルマは再びカリーを見据えた。
「むふふぅん。嫉妬深いペットね。嫌いじゃないわぁん。それでアタシの何が聞きたいのかしらぁん?」
「……あ、あぁ、さっきの続きだ。俺は別の世界からこっちの世界に来た。そして向こうの世界であんたに似た魔王軍の者を知っている。だから聞きたかったんだ。」
カリーは包み隠す事をせず、自身が別世界から来たという事を告げた。
これには理由がある。
さっきのゲルマの反応を見て、少しだけ別世界という言葉に興味を示したのがわかったからだ。
それであれば、自分が別世界から来たと聞けば興味をもって、長く話をしてくれると思ったのである。
「んふぅ。それは興味のある話ねぇ。そうねぇ……あなた……カリーちゃんが私と誰を勘違いしているのかわからないけど、あたしは別世界にはまだ行ってないわぉん。」
今の言葉で二つ気になる事がある。
一つは、カリーの名前を知っていた事だ。
だがこれはハンゾウから聞いていて知っているのは当然なのでさほど気にはならない。
問題はこっちだ。「まだ別世界には行っていない」という言葉
つまり裏を返せば、いつかは行けるし、行くつもりであるという事。
当然自分が行けたのだから、他の者がいけないとはカリーも思わない。
しかしあれは、あの世界でも禁忌のワールドアイテムを使用した結果であり、普通なら無理だ。
それにもかかわらず、あの口ぶりだといつか行けると確信している。
その根拠が知りたい。
「まだ……か。なるほどな、もしかしてだがこの大陸に入り込めたのも、それと少し関係があったりするのか?」
ふとある事を思い出した。
サムスピジャポンに来る前に船でイモコから聞いた話だ。
具体的な話は思い出せないが、魔族たちは結界によってこの大陸に入れなかったはず。
だが、現に魔王はここにいる。これはおかしな話だ。
まだ……と言っていたが、それは結界を入れるようになった事も関係しているのか?
それとももっと前から結界を越える手段を得ていて、別世界に行くにはまだ時間がかかるという事なのか?
「んふ~。パチパチパチ。カリーちゃんは思っていたよりもずっと利口だわねぇん。やっぱりあなたは私のペットにふさわしいわぁん」
ゲルマはカリーの言葉を聞いて嬉しそうにしていた。どうやら、カリーの直感は当たっていたようである。
だが肝心な事はまだ言っていない。
「褒めてくれて嬉しいぜ。んで、まだっていうのはいつかは行こうとしているってことかな? もし行けるなら俺も連れていってほしいもんだぜ。」
「んんん、いいわよぉん。そうねぇ、大魔王様が勇者の力を全て吸収し終えれば可能じゃないかしらぁ。だって勇者の力の一部を与えてもらったアタシは結界も効かなくなったのぉ。だからねぇん、多分、その力をもっと研究させてもらえれば次元すら超越できるんじゃないかしらぁ。ワクワクするわねぇん。」
そう言いながら身をよじるゲルマ。
その身振り姿は吐きそうな位気持ち悪いが、カリーは表情を変えない。
そして今ので謎が一つ解けた。
サクセスから聞いた話だと、この世界の勇者は魔王ゲルマニウムに連れ去らわれたと言っていた。
それも数ヵ月前の話だ。
つまりこいつが結界を越えたのは最近ということである。
加えて言えば次元を超えることは未だ何もわかってはいない。
つまり……こいつはダークマドウではないということだ!
目の前のゲルマがダークマドウでないとわかると、少しだけ気が楽になったカリーは……笑った。
「あははっ! 最高だぜゲルマちゃん! 流石はゲルマちゃんだな、期待しちゃうぜ。」
「あらぁん、嬉しいわねぇん。もう食べてしまいたいわぁん。」
「おっと、食べるなら体を綺麗にしてからで頼むぜ。経験がないんでな。せめて綺麗な体がいいぜ。」
カリーがそういうと、ゲルマは顔を紅潮させて興奮し始める。
「イイぃ……イイわぁん! 最高よカリーちゃん。じゃあウロボロスちゃんが復活する前にカリーちゃんは閉じ込めておかないとねぇん。」
(まずい!!)
カリーは言葉を間違えたことに気付く。
調子に乗せようとおもったが、乗せすぎたようだ。
イヤな予感がカリーの全身を支配する。
そしてそれは正しかった。
ゲルマの前に人が一人入れる程の黒い球体が浮かび上がる。
それを見た瞬間に、あれに閉じ込められれば逃れる事が出来ない事を直感した。
だが時すでに遅し。
ーー気付けばその球体は、いつの間にか目の前に現れて、カリーの体を包み込んでいるのであった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます