第28話 大樹海

「到着しましたわ、サクセス様。ここがエルフの国【ユートピア】ですわ。」



 龍車から先んじて降りたイーゼは俺にそう説明する。


 俺達が降り立った場所は、巨大な緑を囲むように広がる浜辺であった。


 その浜辺から先に見えるのは巨大な樹木が立ち並ぶ森であったのだが、事前にイーゼから説明されていたとはいえ、その樹木の巨大さに思わず言葉を失う。



「うっわーー! シロマみてみて! やばくない!?」


「はい。これは想像以上ですね。ですが、これならば進みやすそうです。」



 俺の後に続いたリーチュンが真っ先に感嘆を上げると、シロマは瞬時に地形の考察を始めた。


 シロマが言うように、この大陸の樹木は一つ一つが巨大であるが故に、木々の間隔が広くなっており、地上を移動する際に木々が邪魔で進みづらいという問題はなさそうである。


 普通の森や樹海であれば、人の手によって木々を伐採し道を作ることによって進路を確保するものだが、ことユートピアの樹海においてはそれが必要とされていない。


 そしてこの樹海は人の手が入った道という道こそ存在しないが、樹木に比べて草や花等は大きくなく、精々膝下あたりまでの高さであるため、どこからでも進むことができそうだ。



「本当に別世界みたいだな、ここは。世界にこんな場所があったなんて驚きだよ」


「うふふ。サクセス様、驚くには早いですわ、森の中にはもっと面白いものもございますわよ」



 俺が呟くようにそう感想を口にすると、イーゼは少しだけ嬉しそうな表情で含みを持たせて言った。

 

 それが何であるのか俺も楽しみではあるが、楽しんでばかりではいられない。


 俺達は一刻も早くオーブを手に入れて戻らなければならないわけで、観光に来ている訳ではないのだ。



「それは楽しみではあるけど……それよりもここから歩いて行くなら、龍車はどうすればいいんだ?」



 そう、まずはここからの移動手段が問題だ。


 ここまではゲロゲロが飛んで運んでくれたが、これからはそうじゃない。


 馬がいない今、この龍車を引いて移動するのは難しい。


 もちろん俺やリーチュンの力があれば引く事が無理ということはないのだが……



「それについては問題ありませんわ。まずはここに龍車を停めておいて、歩いて樹海に入ります。ここから歩いて三十分程のところに【クーペ】という小さな村があるのですが、そこでユニコーンを借りようと考えておりますわ」


「おぉ、そんな近くに村があるんだ。それでユニコーンっていうのは、馬のことか?」


「はい。エルフの国ではユニコーンが馬の代わりに荷を運んでおりますの。外見は馬と似ていますが、その頭には一本の角が生えており、体の大きさや力も馬より優れている動物ですわ。ただ……」


「エルフか女性以外は乗せない……ですか?」



 イーゼの説明の途中にシロマが疑問を口にすると、イーゼは一瞬だけ驚きを見せるも、直ぐにそれを肯定した。



「流石シロマさんですわね。その通りですわ。それですので、御者台に男性が乗ると止まってしまいますの。」


「それなら問題ないわね! アタイがずっと運転するわ!」



 リーチュンはその豊満な胸と声を張りながら自身満々に口にするも……



「あなたのガサツさを見て、ユニコーンが女性とみてくれるかは疑問ですわね」



とイーゼが皮肉を呟く。


 そんな事を口にすれば当然……



「何ですって!」



とリーチュンがいきり立つが、俺はなんとかそれを宥めつつ、二人の背中を押して先へと進んでいくのだった。



 樹海の中に入ると、さっきまでと比べて一気に気温が下がり肌寒い程で、上を見上げればかなり高い位置にこれまた巨大な枝が伸びており、太陽の日差しはほとんど遮られている。


 その為、まだ太陽が出ているにもかかわらず周囲はうす暗かった。


 後二時間もすれば太陽は落ちるだろうし、そうなればここは完全な暗闇へと変わることが容易に想像できる為、ユニコーンを手に入れたら今日のところは龍車で野宿だな。



 と考えながら樹海の下を歩いていると、少し先にそれほど高くない木が見えてきた。


 高くないと言っても、それはここ以外では成木と判断できる大きさであり、高さは八メートルくらいだろうか。


 それが進路を塞ぐように複数立っている為、少しだけ邪魔である。



「イーゼ。この大陸の木は最低でも二十メートルはあるんじゃなかったっけ?」



 別にイーゼの言葉を疑っていた訳ではないが、実際に目の前に普通の木があるのだから確認するのは当然だ。



「はい。その通りですわ。ですので、あれは……」



と言いかけたところで、リーチュンが何かに気付く。



「あっ! 美味しそうなリンゴがついてる!」



 イーゼの説明を遮るように、リーチュンが声を上げると



「ゲロ!(僕が食べる!)」



 それにつられたゲロゲロが真っ先に成木に向かって駆けだしてしまった。


 

「抜け駆けずるいよ、ゲロゲロ!」



 すると張り合うようにしてリーチュンも走り始める。


 実際リーチュンが気付いたように、その木には遠目からでもしっかり熟して真っ赤になったリンゴのような果実が見え、その横の木にはオレンジ色の柑橘系の実も成っていた。


 あれを目にすれば大食いのリーチュンやゲロゲロが飛びつくのは必然である。



「まったく……困ったものですわ。まぁあの子達なら問題はないのですが」



 イーゼが飛び出すリーチュン達を見てそう呟いた瞬間



ーーその成木から極太の枝が複数リーチュンに襲い掛かってきた。



 突然の状況に思わずリーチュンは焦った顔を見せたが、なんのことはない、襲い掛かってくる彼女の腰程の太さの枝を全て叩き……いや、粉砕する。


 そして枝を粉砕された木をよく見ると、なんとその太い幹の真ん中には人の顔が浮かび上がっていた。



「あれは……?」


「人面樹、トレントですわ。エルフの森の代表的な魔物ですわね。ここに住む者であれば、あの大きさを見ただけでわかるのですが、初めて訪れた者は果実に目が眩んであの攻撃で殺され、養分にされますわ」



 その説明を聞いてゾッとする。


 喉が渇き、お腹が空けば、誰だって目の前にある果実に飛びつくだろう。


 その人間の本能を逆手にとって攻撃してくるというのは、非常に残酷かつ危険な存在だ。



 とはいえ今の攻撃を見る限り……



「なるほど、嫌な魔物だな。と言っても、あの程度では俺達の敵ではないか」



 その言葉の通り、合計八体のトレントを瞬殺したリーチュンとゲロゲロは、項垂れながら戻ってきた。



「果物食べたかったよぉー」



 戻ってくるなり残念そうに口にするリーチュンに対し、イーゼは鋭く睨みつける。



「その前にサクセス様に言う事があるのでは?」



 その言葉を受け、リーチュンはまたやってしまったっと気づき、申し訳なさそうな顔を俺に向けた。


 俺としては別に問題なかったのだから、特に何かを言うつもりはなかったのだが、そう言う風に言われてしまっては何も言わない訳にはいかない。


 それに今回は問題なかったが、問題がなければそれでいいという話でもないだろう。


 元々リーチュンはこういう行動が多いし、それがきっかけになって今後仲間達に危険を及ぼす可能性だってある。


 であれば……



「ごめん、サクセス。あたい……」


「リーチュン。晩飯抜きな、もちろんゲロゲロもだ」



 リーチュンの言葉を遮り、即座に罰を告げる俺。


 多分俺はリーチュンがそのまま反省した顔で弁明と謝罪をすれば、間違いなく許してしまうだろう。


 だからこそ、俺は心を鬼にして謝罪の言葉だけで打ち切ったのだ。


 そして俺の言葉を受けたリーチュンとゲロゲロはこの世の終わりかのように絶望の表情を露わすが、それ以上なにも口にしなかった。


 自分でも悪いというのがわかっているからだろう。


 だがそんな俺を見て、シロマは近づいてくると、



「少し冷た過ぎませんか?」



と耳打ちしてきたが、



「俺もそう思うけど、皆の為だから。俺も今日は飯抜きだな」



と返すと、シロマは「では私もです」と少しだけ笑みを浮かべて言った。



 道中、そんな事があったりしながらも進み続けていくと、イーゼが一本の大樹の前で立ち止まる。



「ここが【クーペ】ですわ」



 そう口にしたイーゼだが、俺達には理解できない。


 なぜならそこはどう見ても今までと同じ樹海の中であり、特段変わった様子がないからである。


 しかし、どうやらカリーは気づいたようだ。



「サクセス。上を見てみろよ。あ~下からは見えないのか」



 そう言われて上を見るも、太い枝が沢山見えるだけで、他には何もない。



「もしかして上で熱探知に反応があるのか?」


「あぁ、と言ってもそんなに多くはなさそうだけどな。精々百人位か? あと動物っぽいのも結構いるな。」



 どうやらこの樹木の上でエルフ達が生活しているらしい。


 てっきり村と聞いていたから、普通に地上で暮らしているものかと思っていたが、まさか木の上で暮らしているとは。



「サクセス様。この木の中に階段がありますわ。皆様もこちらへ」



 そう言われてイーゼの前にある大木まで行くと、イーゼが何やら呪文を唱え、大木に大きな空洞ができた。



「では皆様をご案内しますわね。付いてきてください」



 そう言ってイーゼは大木の中へと入っていくのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る