第60話 BBQ①
娯楽室で遊び過ぎた俺達は、階段を上って甲板に向かった。
それまで感じていなかった空腹を急激に感じ始める。
キュウっと胃が締め付けられる感じだ。
それもこれも、この匂いのせいである!
階段を上るにつれて強くなっていく、香ばしい匂い。
外では既に石炭に火がついているようで、その匂いが俺の脳内を刺激する。
「バーベキュー楽しみだなぁ。何を焼く予定なんだ?」
「牛、豚、鳥の肉から、エビやカニ、そして魚もあるでござる。他にもニンジンやたまねぎ等の根野菜もあるでござるよ。それと米でござるなぁ。」
俺が期待に溢れた目をしながらイモコに尋ねると、更に俺の空腹を刺激する答えが返ってきた。
だがそれに、シロマが疑問を口にした。
「初日からそんなに食材を使って大丈夫なんですか? 一ヵ月はかかるのですよね?」
「問題ないでござる。部下に【ジップロップ】という生活魔法を使える者がいるでござる。それを使えば、食材は1ヵ月くらいならば腐らせずに済むでござるよ。それに、師匠のお蔭で資金が豊富であった故、食材は普段の5倍程備蓄しているでござる。」
ジップロップ?
凍らせる魔法?
「ふ~ん。んで、そのジップロップってのはどんな魔法なんだ?」
「袋の中を真空にして封をし、氷固める魔法でござる。これを使える者は貴重でござるが、某の部下には2人使える者がいるでござるよ。」
「流石だな、お! おおおぉぉ!」
そんな話をしている、いつの間にか甲板に到着した。
そして、甲板の上では見事なまでのバーベキューセットが設置されている。
大きめのパラソルの下に、大きな網焼き、そして皿に盛りつけられた食材の数々に……飯盒炊爨で炊かれた米!
さっきから香っていたのは飯盒炊飯の匂いだったのか。
やべぇ~。
よだれがとまらん!
ゲロ!!(遅い!!)
俺達が到着すると、いつの間にかハンモックで寝ていたはずのゲロゲロが、パラソルの下でハァハァ言って涎を垂らしている。
どうやら飯盒炊飯の匂いで目が覚めたらしい。
そして、御預け状態が続いており、もはやゲロゲロの胃袋は限界だった。
「悪い悪い! 直ぐにバーベキューを始めよう。」
ゲロ!!(もう! 早く作って!)
待たせてしまったゲロゲロに謝罪しつつ、俺はトングを持って、網の上にドンドン食材を並べていった。
ジュゥゥゥ…… ジュウウゥゥ!
肉が焼けていくにつれて、辺りに美味しそうな香りが広がる。
これだよ、これ!!
野営の飯とは違う、本当のバーベキュー!
ゲロゲロ!(いただきます!)
「ちょ!! ゲロゲロ! まだそれ焼けてないって!!」
ゲロゲロは空腹に耐えきれず、遂にジャンプをして網の端に焼いていた肉を咥えて、食べ始めてしまった。
生焼けだけど大丈夫か?
まぁ、ゲロゲロなら平気か。
「お行儀悪いですよ、ゲロちゃん!」
俺が黙認しようとしたが、それをシロマが代わりに叱るーーーが、ゲロゲロは全く聞いていない。
もうゲロマッシグラって感じで肉を貪っており、周りの声が聞こえてない状態だ。
「今は何を言っても無駄だぜシロマちゃん。それより、サクセス! ほら、もう焼けてるぞ。」
そういいながら、カリーも肉を取り始めた。
あっ……。
それは俺が最初に食べようと焼いていた肉なのに……。
おのれ、カリーめ。
飯の恨みは恐ろしいぞ!!
「はい、サクセスさん。どうぞ。」
俺が恨めしい目でカリーを見ていると、シロマが俺の皿に肉を乗せてくれた。
やっぱ、シロマは優しいな。
ふっ、カリー。
命拾いしたな!
今回だけは見逃してやるぜ。
とまぁ、そんな感じで、どんどん食材を焼いては食べる俺達。
飯盒炊飯で炊いた米も、俺が今まで食べてきた米とは別物のように感じる。
ふっくらもちもちしていて、甘味が大きい。
タレをかけた肉を乗せて食べた時は、この世の至福かと思ったわ。
肉のとろける様な甘い脂身が、ご飯と混ざり合って、口の中一杯に幸せが広がる。
幸せやぁ~。
そんな感じで肉のBBQを思いっきり楽しんでいた俺だったが、少し脂身で胃がもたれ始めてきたので、途中からは、貝、カニ、エビ等の魚介類と野菜がメインとなっていく。
肉もうまかったが、新鮮な海産物もとても美味しい。
エビは大きくぷりぷりしていて、めちゃくそ旨いし、サザエのつぼ焼きは、このコリコリがたまらん!
だけど、一番美味しかったのはカニだな。
焼きガニが美味すぎる。
殻を割るのがめんどいが、そんな事どうでも良くなる程のうまさ。
バリバリッ! チュルン
カニの身は焼く事で程よく引き締まって旨味が増す!!
「うまい!! 最高だ!」
船旅っていいなぁ……。
「船旅さいこぉ~……ゲップ!」
少し食事が落ち着いてまったりしていると、俺の心の声が外に漏れてしまう。
すると、同じく食事を終えて片付けを始めようとしていたイモコが俺の呟きに反応した。
「某も喜んでもらえて嬉しいでござるよ。しかし、船旅というのは楽しいだけではござらぬ。確かにこの覇王丸くらい立派な船であれば、危険は比較的少ないでござるが、本来は危険が一杯であるため、全員命がけでござる。」
「危険?」
「そうでござる。一度海に出れば、簡単には戻れないでござる。食料や水の問題もあれば、嵐等の天候によって転覆する可能性もある。そして、海で危険な状態になったら、助けは絶対に来ないから、常に死と隣り合わせでござるよ。」
イモコは神妙な面持ちで語り始めた。
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