第89話 憤怒の巨人 中編

  ※  ※  ※




 一方カリー達もまた、目の前のマグマ将軍相手にその猛攻を捌いているところだった。


 魔術師型からの黒い球を避けた後、間髪いれずにマグマ将軍は襲い掛かってきた。



【ヘイトアトラクション】

【聖光金剛盾】



 マグマ将軍の動きを見て、直ぐにシルクは防御スキルを展開する。



 するとカリーを狙って動いていたマグマ将軍が、ギュルンと方向転換してシルクに襲い掛かってきた。


 マグマ将軍はその大剣をシルクに向けて薙ぎ払うも、その一撃はシルクの盾によって弾かれる。


 その様子を見たカリーは、千載一遇のチャンスと判断するや、氷の槍を取り出して急所目掛けて突き刺した……



のだが、その一撃はマグマ将軍の大剣によって切り払われてしまう。



(なぜだ?)



 シルクがマグマ将軍の大剣を受けて、その動きを止めたのを見た。


 そのタイミングで仕掛ければ、自分の攻撃を止められるはずはない。


 そう思っていたカリーだったが、結果としてその一撃はマグマ将軍の手によって弾かれている。


 だが疑問が浮かぶのも束の間、すぐに距離を取ると同時に、何が起きたかを理解した。


 止めていたはずのシルクまでが、マグマ将軍の攻撃……いや、連撃によって吹き飛ばされていたからである。



 その理由は簡単だった。



 マグマ将軍の攻撃が止まらないからである。



 マグマ将軍が一度大剣を止められた時、その動きもまた止められていたと思ったのが、そもそもの間違いだった。


 奴は大剣を弾かれてなお、同じ勢いで何度もその大剣を振り回していたのである。


 カリーの一撃も、その振り回しによって弾かれていた。



 しかも弾かれたのは槍だけではく、シルクも、である。



 シルクもまた、二撃、三撃まではその攻撃に耐えることができたが、流石にそれ以上の攻撃をその場で耐えきることはできず、後方に弾き飛ばされてしまった。


 そして今もなおマグマ将軍は、ブンブンと風切音を響かせながら大剣を振るい続け、ノックバックしたシルクに接近する。



 だがそんな状況であっても、シルクは天狗面の下でニヤリと笑った。



 確かにさっきまでは、マグマ将軍の攻撃を動かずに耐えることはできなかった。


 しかし、ノックバックした事で逆に時間を得ることができ、起死回生のスキルを使う隙が生まれたのだ。



 【不落城塞】



「今だ! カリー!」



 シルクが使ったのは、防御力が勝る限りノックバックしないというチートスキル。


 さっきの攻撃を受けた感じ、敵の純粋な攻撃力だけならば、シルクの防御力の方が上である事を確信している。


 それであればさっきとは違い、今度は攻撃を受け止めた瞬間ノックバックするのはマグマ将軍の方だ。


 そして幸いにもカリーは現在、良い位置にいる。


 つまり……次にマグマ将軍が自分に攻撃を仕掛けた時が絶好のチャンスであるとシルクは判断した。


 そしてその思惑は、シルクが使ったスキルを見て、カリーも正確に見抜いている。


 だからこそ、マグマ将軍がシルクに攻撃を仕掛ける前に、装備をサジタリウスの弓に変更していた。


 案の定、暴風の様な剣戟をシルクに放ったマグマ将軍は、その勢いのまま大きくノックバックする。



「ナイスだシルク!」



 シルクは、マグマ将軍の背がカリーに向く様に盾の角度を調整した為、吹き飛ばされたマグマ将軍の後ろでは、弓をつがえて待っているカリーがいた。



ーーーそして



 カリーは聖属性を付与した矢を連続で放つ!



 【ホーリーアロー乱れ撃ち】



 その矢はカリーのイメージ通り、マグマ将軍の胴体に向けて飛んで行くと、その大きな背中に数十本の矢が次々と突き刺さった。



 そして次の瞬間、マグマ将軍は大剣を振るのをやめて地面に突き刺すと、遂には膝から崩れ落ちる。


 やはりマグマ将軍の弱点属性は他の兵士と同じで聖属性だったようで、その矢の効果は抜群だ。


 だがそれでも、未だにマグマ将軍は塵には変わっておらず、剣を地面に突き刺すことで、膝を折ってはいるが倒れるには至らない。


 とはいえ、完全に動きが止まったのも事実。



 そのチャンスをシルクは逃さなかった。



 シルクは防御を解くと、蜻蛉切と呼ばれる巨大槍を胸の中央に持っていき、攻撃スキルを唱える。



【聖光グランクルス】



 シルクが持つ蜻蛉斬から、聖なる炎が十字型になってマグマ将軍に向かって放たれた。



 そのスキルはレベルを最大まで上げたパラディンのみが使える、最強の攻撃スキル。


 槍から放たれる暴風のような光は、邪悪な者を焼き尽くす聖なる炎。


 その炎は、敵の闇属性値が高ければ高い程に威力が増すものであり、マグマ将軍にとっては滅殺の光といえる。



「グラァァァ! ユルセヌ! ユルセヌゾォォォ!」



 その身を聖なる炎で包まれたマグマ将軍は、怒りと怨念を込めた声で叫んだ。



 するとその怨嗟の叫びが大広間に響き渡った瞬間、なんとイモコと戦っていた魔術師型を乗せた騎兵魔獣がマグマ将軍に向けて高速接近し始めたのである。



 そしてそのまま聖なる炎に包まれたマグマ将軍にぶつかると……



ーーーなんと側近二体がマグマ将軍に吸収されてしまうのであった。

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