第25話 誰かを想う気持ち

「あ! 見つけたわ姉さん! ちょっとビビアン! 一人だけ逃げるなんてズルいわよ!」


 俺の仲間達とビビアンがにらみ合っている一触即発現場に、突然元気な声が聞こえてきた。

 そこに現れたのは超セクシーな恰好をしている、エロイおねぇさんこと、ミーニャ。

 そして以前ヒルダームで会った、俺のおかずリストに加えられた占い師マネア。


「あ、ミーニャ! マネア! 待ってて、すぐ終わらせるわ。」


「うふふ、お仲間がきたようですわね。これで三体三ですわ。」


 イーゼはなぜか余裕だ。


「え? なにこれ……まさか……ビビアン! アンタなにやってんのよ。」


「何って、サクセスにくっついた害虫を駆除しようとしてるだけだわ。」


「害虫って……あちゃーー。もう会っちゃったかぁ。とりあえずビビアン、今はやめておきなさい。」


「なんでよ? 虫は早い内に駆除しないと増えちゃって、周りの野菜が全部だめになるってサクセスも言っていたわ。」


 おい、それは畑の話だろ!

 つうか、流石に俺の仲間を虫扱いは聞き捨てならないな。

 例えビビアンでもそれは許さないぞ。


「なぁ、ビビアン。さっきから聞いていれば俺の大切な仲間を虫扱いってどういう事だよ? 流石にそれは俺もスルーできないぞ?」


「何よ! サクセスが言ったんじゃない。虫は……」


「だから虫じゃねぇって言ってんだろ! 二度言わせるなよ。ビビアン!」


 俺はついに怒ってしまった。

 俺の気迫にビビアンは顔が青ざめる。


「ビビアン様。何があったかまではわかりませんが、サクセスさんのおっしゃることは間違っておりませんよ。」


 マネアがビビアンの肩にそっと手を置く。


「だって……だって折角会えたのに……やっと会えたのに……。」


 ビビアンは泣きそうな顔をして下を向いた。


「俺もビビアンに会いたかったし、会えて嬉しいよ。だけどな、いきなり自分の大切な仲間が酷い事言われたら俺だって怒るさ。とりあえず、今日はダメだ。俺はそんなビビアンとは話したくない。」


 俺は怒っている。

 ビビアンの事は好きだがこれはない。

 言っていい事と悪い事がある。

 それくらいはわかってほしい。


「サクセス君。それはちょっと言い過ぎじゃないかしら? ビビアンはずっとサクセス君の事を想い続けて探していたのよ。どれだけビビアンが心配していたと思うの? そこのところを少しくんでくれないかしら?」


 ミーニャが俺の言葉に少し怒った。

 でも俺はそれでもあの言葉は許せはしない。


「いいの、ミーニャ。今回はアタシが悪いわ。ごめんね、サクセス。そうよね、アタシだってミーニャ達が馬鹿にされたら怒るわ。でもね、これだけははっきり言わせてもらうわ。サクセスは誰にも渡さないから! あなた達よりもアタシの方がずっとサクセスと一緒にいたんだからね。」


 ビビアンが力強い目で仲間達を睨んで言った。


「ふふふ、時間よりも濃さが重要ですわ。わかりましたわ、またいずれゆっくりとお話しましょう。」


「アタイもサクセスについては引けないわ。いつでも勝負するわよ。」


 ビビアンの言葉にイーゼとリーチュンが答えた。


「望むところよ。まぁ今日はいいわ。サクセスも疲れているだろうし、諦めるわ。でも必ず会いにいくからね、サクセス。」


 ビビアンにしては珍しく引きが早いな。

 そう言えば、さっき俺を心配して探し回っていたって……。

 あぁ……そうか。

 そうだよな。ビビアンなら心配するよな。

 俺もちょっと言い過ぎたか……。


「あぁ、ちゃんと落ち着いたらゆっくり二人で話そう。俺もこんな形でないなら、ビビアンと話がしたいよ。あと……心配してくれて、そして俺の事を探してくれてありがとな。じゃあ、また会おう。」


 俺の言葉にビビアンの頬が赤く染まる。


 今度ゆっくり話せる時が来たら、心配かけた事をちゃんと謝ろう。

 そして、ありがとうって言わなきゃな。


 また会う事を告げた俺は、仲間達を連れてビビアンから離れて行くのだった。



【ビビアン側】


 一方ビビアン達はまだその場で立ち止まっている。

 ビビアンが動こうとしないのだ。


「もう! ビビアンったら! いきなり来てみればって……え? どうしたの!?」


 ビビアンは立ったまま泣いていた。

 瞳から大粒の涙がとめどなく、流れ落ちていく。


「あんなのって……あんなのってないわ! だって……だって……折角会えたのに……。おかしいよ! こんなのおかしいよ!」


 ビビアンはこれまでずっと我慢していた。

 サクセスを心配するあまり、毎日胸が張り裂けるような痛みに耐え続けていた。

 精神がおかしくなるくらい、それはビビアンの心を蝕んでいた。

 だがやっと会えた。

 やっとその苦しみから解放されたのだ。

 それなのに……

 まさかサクセスにあんな顔を向けられるとは思っていなかった。


 沸々と湧き上がる思い。


 それは怒りではなく、悲しみだった。

 怒りならまだいい。

 何かにぶつけることができる。

 だが悲しみは違う。

 行き場がないのだ。


 今すぐにでも、サクセスの周りにいる女を排除したい。

 そして、二人でまたあの頃のように毎日笑顔で過ごせる幸せな時間を取り戻したい。


 ビビアンの想いはそれだけだ。


 しかし、そんな事をすればサクセスに嫌われる。

 それどころか、一生サクセスから恨まれてしまい、二度と関係は戻らないだろう。

 それはビビアンでもわかっていた。


 だから素直に謝った。

 だから自分を抑えた。


 でもサクセスがいなくなってから、その辛さが一気に押し寄せてくる。

 今までとは違う不安が溢れ出してくる。

 もう、自分はサクセスに必要とされていないかも。

 もう、自分の事は見てくれなくなるかも。


 そう思うだけで、胸が張り裂けそうだった。

 行き場が無くなった悲しみは、涙となって溢れ出す。

 それが、今のビビアンの気持ちだった。


 そんなビビアンをミーニャは強く抱きしめた。

 そして慈愛の女神のような表情で優しく慰める。


「よしよし、よく我慢したね。ビビアン。おねぇさんの胸で泣いていいんだぞ。大切な人を思う女の涙はね、流した分だけいい女になれるのよ。だから思いっきり泣きなさい。そして明日からもっと素敵な女性になるのよ。あんな女達に力なんていらないわ! 自分の魅力で打ち勝つのよ!」


 ミーニャの言葉に、ビビアンの心のダムが決壊する。


「うわぁぁ~ん!」


「大丈夫よビビアン! 他の女になんて負けちゃだめよ!」


「えっぐ……えっぐ……アタシ……可愛くなれる? サクセスに振り向いてもらえる?」


「もちろんよ! だってビビアンはこんなに可愛くて、素敵なんだから。それにこれだけ想ってもらえるなんてサクセス君は幸せ者よ! 一人をこれだけ愛せるなんて本当に凄いわ!」


「そうですわ。愛は尊いもの。人を愛するその気持ちが一番大切なんです。そしてその想いは、想い続ければいつか必ず相手に届く日が来ます。そう……私も……。」


「何言ってんのよ。想ってるだけじゃだめよ、ねぇさん! 何度でも当たって砕けては、パワーアップしてもう一度当たるのよ! 相手を倒すまで負けじゃないわ!」


「またそんな事言って! それでまたビビアン様が傷ついたらどうするんですか?」


「何よ! 傷ついたっていいじゃない! 傷つくのを恐れてたら何もできないわ! 何度だって傷ついて、その度に更に輝いていくのよ! そうやってあたしは誰もが振り向く超絶美女になったんだからね!」


「誰が超絶美女ですか! あなたからはイヤらしさしか感じませんわ。もっと神聖な気持ちで……。」


「何カマトトぶってんのよ! そんなんだからもてないのよ、ねぇさんは!」


「誰がモテないですって! 聞き捨てなりませんね、これでも何人もの男性が私に好意を寄せてくださいましたわ。」


「へぇ~、好意ねぇ。それでどうだったのよ? 誰かと付き合ったためしでもあったかしら?」


「そ、それは……」


 いつの間にかビビアンを放っておいて、二人の姉妹喧嘩が始まってしまった。

 しかし、その姿を見てビビアンは……笑ってしまった。


「プっ……。なによそれ……。二人して違う事言わないでよね……。でもわかったわ。アタシは諦めないわ。二人ともありがとね。これからもずっとアタシの仲間でいてね。」


 ミーニャとマネアの言葉に少しだけ笑顔を取り戻すビビアン。

 しかし、その瞳はまだ涙で濡れていた。


「当たり前じゃないの! あたしはいつだってビビアンの味方だし、いつまでも仲間よ! ってそれよりもビビアンがいなくなってから大変だったんだからね! あいつらいい加減しつこい!」


 ビビアンの宿屋には沢山の国から王様やお偉いさんが集まっている。

 そしてビビアンに会うために、あの手この手と策略を練ってはビビアン達を困らせていた。


「悪かったわ。じゃあ今回はその罰が当たったのかしらね。いいわ、任せて! もうアタシが直接言って、みんなに帰ってもらうわ!」


「そうしてもらえると助かります。今もブライアンさんが一人で対応しておりますので。」


「よし、じゃあ戻ってそれが終わったら作戦会議よ! 議題はサクセス君落とす作戦ね!」


「いいわね! 楽しみだわ。よっし、じゃあ早く宿屋に戻ってうざい親父たちを退治してくるわね!」


 この夜、ビビアン達は朝までガールズトークに明け暮れるのであった……。 

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