第78話 相談

 カリーと喧嘩になってから三日が過ぎた。

 あれから俺とカリーは一度も口を聞いていない。


 だが、それでも午前中の基礎練習だけはイモコと二人でやっている。

 カリーの事にムカつく気持ちと、自分が訓練するのは別の話。

 俺が強くならなければいけないのは、変わらないのだ。


 だが、やっぱり基礎訓練をしていると、その度にカリーに言われた事や、カリーの顔がちらついて集中できない。



「くそっ! イライラするな。やめだ、やめ。」


「どうしたでござるか?」


「いや、なんか集中できないんだよ。すまないが、今日は終わりにする。」


「そうでござるか。某はもう少しやるでござるが、師匠は気にしないでいいでござるよ。」


「……イモコは聞かないんだな。」


「二人の関係に某が入る訳には行かないでござるよ。何があっても某は師匠についていくでござる。ただ、何か某に力になれる事があるなら、遠慮なく言って欲しいござる。」


「ありがとうイモコ。じゃあ、一つだけ教えてくれ。カリーは何であんなことを言ったと思う?」


「そうでござるな。あまり某が口にしていい事ではないと思うでござる。ただ、某が思うのは……カリー殿は師匠の事をとても大切に思っているということでござる。きっと、カリー殿は気づいてほしい事があったのだと思うでござるよ。」



 気付いてほしい事か……。

 カリーが俺を大切に思っている?

 あぁ、その通りだよ。喧嘩こそしちまったけど、あいつが俺を信頼しているのはわかってる。

 俺を弟の様に可愛がってくれているのもな。

 わかってはいるんだ。でも、だからこそ、許せない。

 クソ! こんなにムカついてるのに、また仲良くしたいと思っちまう。

 俺はどうすればいいんだよ。



「悪かったなイモコ。変な事聞いちまって。」


「とんでもないでござる。ところで師匠はこれから娯楽室に行くでござるか?」


「いや、ちょっと今日は植物園に行こうと思ってる。なんでだ?」


「いえ、本日セイメイには、午前中に船の整備を任せていた故、一応伝えておこうと思ったでござるよ。」



 そう、あの日から俺は、午後になるとセイメイと二人でビリヤードをしている。

 カリーに勝つために始めたのに、カリーと口を聞かないんじゃ意味がない。

 そう思ってやめようかとも思ったのだが、なぜかビリヤードをやっていると心が落ち着くのだ。

 セイメイも何も聞かずに付き合ってくれるし、俺にとっては、今はそこが唯一の安らぎスポットだった。



「サンキュー、イモコ。じゃあ訓練頑張ってくれ。」



 俺はそう言うと、そのままシロマがいる植物園に向かった。

 植物園に入ると、シロマは木に水を撒いている。

 そして俺が入ってきたに気づいた。



「あ、サクセスさん? 訓練はもう終わったのですか?」


「うん、ちょっと身に入らなくてな。シロマに会いたくなったんだ。」


「そうですか。ありがとうございます。では、ちょっとこの木の下に来ませんか? 少し話しましょう。」



 そういうと、シロマはブドウの木の下に座る。

 俺も、その隣に座った。



「それで、話したい事はカリーさんとの事ですか?」


「あぁ、ちょっと話を聞いてほしくて。」


「はい。聞かせて下さい。私も、いつ相談に来てくれるかと待ってたんですよ?」


「ごめん。ちょっと色々気持ちの整理がつかなくてな。じゃあ何があったか話すわ。」



 俺はシロマにあの日、何があって、何を言われて、俺が何を言ってしまったかを全て話した。

 そして、全ての話を聞いたシロマは口を開く。



「なるほどです。そう言う事があったのですね。確かにサクセスさんの立場であれば許せないですね。」


「そうだろ? カリーがあんなに嫌な奴と思わなかったんだ。」


「サクセスさんが一生懸命頑張っているのはわかっています。常に前を向いて、それだけ強いのに、誰かを守る為に必死になって……とても素敵です。」



 シロマは俺の目を見つめて、そんな恥ずかしい事を平然と言ってくる。

 正直、この言葉が欲しかった。

 だからこそ、凄く安らぐ。

 やっぱりシロマに話して良かったな。



「あ、ありがとう。でも、俺はまだ弱いから。強くならないと、誰も救えないからな。」


「その気持ちは大切だと思います。そしてカリーさんも、そんなサクセスさんの為に必死なんですね。」


「ん?? どういう意味だ?」


「ですから、サクセスさんが必死に頑張っているのと同じ位、カリーさんもサクセスさんの為に必死だという事です。」



 あれ? なんで、ここでカリーが?

 カリーが必死?



「いや、カリーは嫉妬しているだけだろ!」


「それは違います。カリーさんはサクセスさんの為に凄く頑張っていると思います。」


「シロマはさっき言ったじゃないか。カリーを許せないって。なら、なんでそんな事を言うんだよ。」


「その通りですよ。サクセスさんの立場で見れば、カリーさんは許せません。なら、カリーさんの立場で考えたらどうですか?」



 カリーの立場? 

 教官気分で楽しんでたら、文句言われてムカついている?

 そんなところだろう。



「俺にムカついていると思う。」


「いいえ、違うと私は思います。」


「じゃあなんだっていうんだよ!」


「悲しいというのと、不甲斐ないという気持ちですね。」


「意味がわからないよ、シロマ。なんで悲しいんだ? 俺に図星を突かれたからか?」



 シロマが言っている意味がわからなくなった。

 何が言いたいんだよ。



「……少し私の話を聞いてもらってもいいですか?」


「あぁ……。」



 なんとなくイライラしてきた俺だが、シロマの真剣な目を見て、向き合う事にした。


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