第79話 相手の立場

「私が経験した天空の試練での話です。少し長いですが聞いてください……。」


 

 その後、シロマがどうやって試練を乗り越えてきたかを聞いた。

 正直、衝撃的だった。

 というか、よく生きてこれたと思う。

 それだけ、シロマが受けた試練は壮絶だったのだ。



「サクセスさん、人にはそれぞれ正しさがあります。それは正しくもあり、他の人から見れば正しくない事でもあります。そして、相手の正しさに従う必要はありません。しかし、相手の正しさを理解することは必要だと思います。特に大切な人であるならばです。よく思い出してください。今までのカリーさんの事を。そしてその日より前にカリーさんに言われていた事を。今までカリーさんは、サクセスさんにどうやって接してきましたか? 何を伝えたいと言っていましたか? よく思い出してください。そうすれば、自然と見えてくると思います。そして、サクセスさんなら、きっとカリーさんを理解できるはずです。」



 最後にシロマはそう言って、話を終わらせた。


 正直、シロマが天空職の試練で受けた答え等については、俺には難しくて理解できない。

 だが、一番言いたい事はわかった。

 シロマが俺に何を伝えたいかは、伝わった。

 だからこそ、カリーの事を真剣に考えて……いや、カリーの立場になって向き合ってみる。



 これまでの事を一つづつ思い出していく俺。

 カリーは、確かにいつでも真剣に俺に向き合っていた。

 俺の事を、家族のように大事に思ってくれていた。



 それが改めてわかった。

 どれだけ、カリーが俺を大事にしてくれたか……。

 それを思うだけでも、なぜか涙が出てくる。



 そしてあの時の事。

 そうか……。 そう言う事だったのか。



 俺は自分では気づいていなかったが、きっと心の中では何でもできると思っていた。

 俺は特別だと、俺ならカリーができる事でも簡単にできると。

 つまり、俺は慢心しないと言っていて、心の底では慢心していたんだ。


 だからあの時も、当然できると思ってた。

 それができない、つまり俺ができないなら、誰にもできない。

 勝手に俺は諦めていたんだ。

 自分のものさしだけで……。


 カリーは言った。



 失敗するのも必要な経験だ。特に訓練では……。



 つまり、実践では一つの失敗が取り返しのつかない事になる。

 だからこそ、訓練では失敗してもいい。

 そこで学べば実践で必ず、力になるから。



 カリーは言った。



 ミスじゃない、わざとだと。


 

 あえて、俺に気付かせるためにやったんだ。

 できない事もある。そして、それに向き合わせるために。


 思えば、カリーはいつも俺が傷つかないようにしていた。

 それをあえて、傷つけるようなことをしたのだ。

 少なくとも、俺のちっぽけな自尊心は深く傷ついた。

 でも多分、それはカリーにとっても辛かったはずだ。



 そうか、そうだったんだな。

 俺は馬鹿だ。

 カリーが言うように、できないと判断して直ぐ諦め、楽な方に逃げた。

 合理的とか偉そうに言って、ただ自分の価値観で決めただけだ。

 それは合理的なんかではない。

 ただのわがままだ。



 実践では、できないと判断して諦めていいものなのか?

 違うだろ。そうじゃない。



 全部カリーの言う通りだ。

 カリーは何も間違っていない。



 じゃあ逆に俺が言った言葉はなんだ?



 ひどすぎる。

 あまりに幼稚だ。

 思い出すのも恥ずかしい。

 だが俺が言った言葉だ。言った言葉は返らない。

 



 俺はカリーを傷つけた、間違いなく。

 俺がもしもカリーと同じ気持ちで、嫌われるのを覚悟でそれをやって、俺と同じ事を言われたらどうだ?



 怒る? むかつく?

 違う、悲しいだ。

 そして、うまく伝えられない自分の不甲斐なさに更に傷つくだろう。



 だからか! そうか!

 シロマは……全てわかっていたのか。

 シロマの言うとおりだ。



 カリーが今感じているのは、悲しみと不甲斐なさ。



 最低だ! 俺は最低のクソ野郎だ! 



「どうですか? サクセスさん。」


「あぁ、そうだ。シロマの言う通りだ。俺が……間違ってた! 俺は最低だ!! 俺は何てことをカリーに言っちまったんだよ! くそ! 俺は最低のクソ野郎だ!!」



 すると、シロマが俺を抱きしめる。



「最低じゃありません。サクセスさんは間違っていません。」


「間違ってるじゃないか! 俺は最低だよ!」


「いいえ、何度でも言います。サクセスさんは間違っていませんし、最低じゃありません。」


「なんでだよ!?」


「だって、こんなに他の人の気持ちになって、相手の為に傷ついているじゃないですか。そんな人が最低な訳がありません。そして、間違いだと気付いたなら、それは間違いではないんです。だから間違っていません。」


「屁理屈だよ、それは……。」


「そうです。屁理屈です。でもいいじゃないですか、私はサクセスさんは間違っていないと思う。それは私の中で正しい事なんです。だから何度だって言います。」


「シロマ……。俺はどうすればいい……?」


「どうしたいですか?」


「俺は謝りたい……そして、前と同じ様に仲良くしたい……。」


「では、カリーさんはどうされたいと思いますか?」


「多分同じだ。でも、多分俺が謝っても、あいつは自分が悪いと言うはずだ。」


「お互い強情ですものね。それだけわかっていれば大丈夫です。」


「でも……どうしたら……。」


「そうですね、ビリヤードとかどうですか? 勝った方が言いたい事を言うとか。」



 ビリヤード。

 確かにいい考えだ。

 でも、俺はまだ絶対には勝てない。


 いや待てよ。

 そうか、別に勝たなくてもいいんだ。

 負けたらカリーの気持ちが……言いたいことが聞ける。

 勝てば、カリーに謝れる。



 確かにこれなら……。



「シロマ!! お前最高だよ! 天才だ! 天使だ! 愛してる!!」


「ありがとうございます。では、頑張って下さいね。」



 よし!! いくぞ!

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