第23話 愛ゆえに……

 ビビアンの前に立ちはだかるは、20体近い数のゴーレム達。


 その中で一番近い位置にいたのは、ストーンゴレムスであり、その一番後方には、一際大きな存在感をみせるヘルゴレムスが立っている。


 ビビアンは剣を握り締めると、まずは一番近いストーンゴレムスに向かって一直線に走った。


 そして空高くジャンプすると、空中からストーンゴレムスの肩に目掛けてその剣を振り落とす。



 辺りに鳴り響く激しい衝突音。



 ビビアンの剣撃はストーンゴレムスを斬る事は叶わず、逆に弾かれてしまった。



「かったーーい! 何食ってればそんな硬くなるのよ!」



 ビビアンは痺れた右手を振りながら叫んだ。


 それもそのはず、ゴレムズは種族の固有スキルとして



  【斬撃耐性】



を持っていたのである。



 如何にビビアンのステータスが高く、最強の剣をもってしても、簡単に斬ることはできない。


 しかし斬撃耐性があろうと、ビビアンの斬撃による衝撃は強く、攻撃したその肩にヒビが入ると、ストーンゴレムスは膝をついた。



「まぁいいわ。そのくらいでなくちゃ、張り合いがないもんね。っと! 危ないわね!」



 ビビアンの攻撃が終わると、近くにいたアイアンゴレムスがビビアンに向けて巨大な拳を振り払う。


 だが遅い。


 ゴレムズという種族は、耐久力と攻撃力が飛びぬけて高いものの、魔法も使えなければ、その速度も遅かった。


 ビビアンからすれば、ゴレムズの攻撃など止まって見える。



「ふん! 当たらなければどうという事はないわ!」



 ビビアンはそう言うと、先ほどダメージを与えたストーンゴレムスに再度攻撃を仕掛けた。



「何度も同じところを狙えば、こんなの楽勝よ!」



 ビビアンはストーンゴレムスの肩にヒビが入っている事に気付き、そこに更に追撃をする。



 今度はさっきと違い鈍い音が響いた。



 ビビアンが攻撃した箇所は、その鈍い音と同時に砕け散ると、そのまま体全体がひび割れていき、最後にはその巨体全てが砕け散って魔石に変わる。



「ふん、楽勝ね。次いくわよ! ……え?」



 ストーンゴレムスを倒したビビアンは、次のターゲットを決めようと周りを見渡すと、いつの間にか自分を囲むように、全方位にゴレムズが集まっていた。


 そしてその囲みの外に、王の様に堂々と立っているヘルゴレムス。


 どうやらこのゴレムズは、ヘルゴレムスの指示で戦略的展開をしているようである。


 いつのまにか囲まれていた事にビビアンは、一瞬だけ焦った。


 完全包囲されてしまった現状、逃げ場も無ければ、仲間の応援も入って来れない。


 普通に考えるならば、これは絶対絶命のピンチだ。



 しかし焦ったのも束の間、ビビアンはそれを見て



ーー笑った。



「面白いわね。魔物の癖にやるじゃない。まぁいいわ、さっさとかかってきなさいよ!!」



 ビビアンが楽しそうにそう言うと、ゴレムズは一斉に襲い掛かってきた。


 

 その場に溢れかえる鈍い風切り音。



 その音の全ては、巨大な拳による圧倒的な質量を持った打撃だった。


 その攻撃一発一発は、とてつもない破壊力を有しており、如何にビビアンとて、オートヒールがあっとしても、それらをくらい続ければひとたまりもない。



 そう、もしも当たるならば……。



 ビビアンは全ての攻撃を紙一重で避け続けていた。


 その軽快なステップにより、ゴーレムの拳が轟音を立てて風を切りつづける。


 しかしながら、流石にビビアンであっても、逃げ場を完全に塞がれるが如く拳が飛んできては避け切れる事は出来ず、遂に一撃をくらってしまった。



「キャア!」



 悲鳴と共に、一気に後方に弾き飛ばされるビビアン。


 攻撃を当てたのはヘルゴレムスの次に強い、ゴールドゴレムス。


 しかしビビアンは、激しく後方に吹き飛ばされるも、倒れることなく地面に着地する。



「やったわねぇ! 倍返しよ! くらいなさい! 【ギガドーン】」



 ビビアンはダメージを食らって痛そうにしたものの、防御力が異常に高いため、思ったよりダメージはなかった。


 更にそのダメージも直ぐにオートヒールが回復させると、攻撃を食らった怒りから、即座に勇者固有の雷魔法を唱える。


 その瞬間、上空に突如雷雲が現れた。


 そして一瞬の光と共に、遅れて落雷の音が戦場に鳴り響く。



 地上に舞う大量の土煙。


 

 その煙が消えると、そこには瓦礫の如く倒れているゴレムズで溢れかえっていた。


 ビビアンを攻撃する為に、一箇所に固まっていたゴレムズは、その全てが雷撃の餌食となる。



 しかしそれでもまだ立っているゴレムズがいた。



 ストーンコレムス三体とヘルゴレムスだ。



 アイアンゴレムスとゴールドゴレムスの弱点は雷であった為、その全ては崩れ去ると同時に魔石に変わったが、残り四体は違う。


 雷が弱点で無かったストーンゴレムスは、ギリギリ大ダメージを受けながらも生き残り、そしてヘルゴレムスは……無傷であった。


 とはいえ、今ので殆どのゴレムズを破壊したビビアン。


 ヘルゴレムスこそ無傷であるものの、ストーンゴレムス三体はもはやボロボロで、動きは遅い。



「何よ! たったの一撃でほとんど全滅じゃない。つまらないわね。やっぱり剣で戦うわ。」



 一気に獲物が減ったビビアンは、


 これではストレス解消にならない


とつまらなそうに落胆する。


 しかし、遠くからその光景を眺めていた、兵士や冒険者たちは違った。



 ビビアンの規格外の強さに、興奮が最高潮まできているのであった。



「うおおおお! すげぇぇぇぇ!」


「勇者様強すぎる! お婿にしてぇぇぇ!」


「馬鹿! お前、相手よくみろ。すげぇ可愛いけど、プッツン勇者だぞ! 殺されるぞ!」


「良いんだよ! 俺は勇者様のお手で殴られてぇんだ!!」



 ビビアンの後方はお祭り騒ぎになっていた。


 しかし、その光景を



 見てばかりいないで戦いなさいよ!



と言いたげに、睨んでいる女性がいる。



「ちょっとあんた達! よそ見してんじゃないわよ! こっちもまだ沢山モンスターはいるのよ!」



 そう叫んだのは、勇者パーティの一員であるミーニャ。


 とはいえ、現状では兵士達が目の前にいる大量の魔物と戦うことが難しいのも事実。


 だがしかし、彼女にはその状況を打開する力があった。



ーーそれは……



「まぁ……気持ちはわかるわ。なら、あたいが坊や達をやる気にさせてあげるわよん。」



そう言うと、ミーニャはその場で


 

【ぱふぱふダンス】



を踊った。



 そのセクシーな服装から繰り出される、魅惑のダンス。


 周囲の冒険者の目線は、一斉にビビアンからミーニャに移った。



「お、お、お、おおおおおおお!」


「やべぇ! やべえぞこれ! なんだ……力が湧いて来る!」


「主に下にだがな!!」



 周囲全体の攻撃力、防御力、スタミナが上昇する。



「さぁ、アンタたちも頑張るのよ。一番頑張った子にはご褒美をあげるわ。うふん。」



 ミーニャはトドメの言葉と共にウィンクした。



「俺だ! 俺だ俺だ俺だぁ!」


「てめぇ! 抜け駆けするんじゃねぇ!」


「吾輩、妻と別れる決心が……今ついた!」



 テンションが爆上がりになった冒険者と兵士達。


 全員をまとめていた隊長までが、目をハートマークにさせて、一気にモンスターに襲いかかり始める。


 もはや、全員バーサーカー状態であった。


 全員の目が、恐ろしい程に血走っている。



 グエエエ!

 ギャアアア!

 オギャアア!



 戦場はモンスターの断末魔の声で、阿鼻驚嘆となった。



「オラオラどうしたモンスター共! この愛の戦士ブライアンに倒されるがいい!」



 一番頑張っている隊長は、ミーニャにチラリと視線を送りながら叫ぶ。


 高レベルの魔法戦士であるブライアンは強く、そして回りのメンバーもかつてないほどの実力を発揮した。



 そう……

 愛ゆえに……。



 こうして、マーダ神殿における戦況はビビアン達の加勢により、一気に形勢が逆転するのであった。


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