第20話 威厳

「ボッサン!? なんでここに?」



 そこに突如現れたのは、ヒルダーム王国現国王ボッサンである。


 確か、俺がマーダ神殿に向かう時、ボッサンも国が落ち着いたら向かうと言っていた。

 だがここは、マーダ神殿ではない。

 なぜボッサンがここに……。



「おう、ちょっと訳あってな。少しだけ滞在してたんだわ。といっても、明日には帰る予定だったけど、サクセスが来たなら予定は変更だ。」


「いやいや、ボッサンは国王だろ? そんなに長く国を空けてていいのかよ。」


「あぁ、問題ねぇ。俺がいなくても国は回る。それに、大臣が残っているしな。そんな事よりも、サクセスがここに来るってことは何か理由があるんだろ? 力になるぞ? これでもこの町は俺の馴染みの町なんでな。」



 ボッサンは、国王になっても相変わらずボッサンのままであった。

 どう接していいのかちょっと難しい気もするが、まぁ、気にしなくもいいか。

 船に乗るのに、ボッサンの後ろ盾があれば心強い。



「サンキュー、ボッサン。お言葉に甘えて手伝ってもらうよ。っと、その前にこの状況なんだけど……。」


「大丈夫だ、言わんでもわかるが……一応、確認だけしておくか。おい、そこの一兵卒。お前だよ、お前。」



 ボッサンは、徐に(おもむろに)近くの兵士を指差すと、その兵士はどこか緊張した様子で、「自分ですか?」と言わんばかりに、自分の事を自分で指差す。

 やはり他国とはいえ、兵にとって王様とは雲の上の存在であり、緊張するのだろうか。



「説明しろ。簡潔にな。」



「は! ボウサム王様! この者達は、こんな夜更けに町に入ろうとしたものですから、馬車の中を調べていたところ、突然、隊長であるノロ・ウィルムスに攻撃したのです。その為、ガンダッタ一味である可能性を認め、戦闘になった次第です。」



 あの偉そうなバカはノロウィルムスというのか……。

 なんか、お腹に悪そうな名前だな。

 態度だけでなく、なぜか名前までムカつく感じがする。



「ふむ、ってぇと、つまり、ここにいるサクセスはガンダッタ一味であると?」


「は! そのように認識しています!!」



 …………。



「馬鹿もん!! 我が国の英雄をガンダッタ一味とお前は申すのか!? あぁん? それにな、俺は耳がいいんでな、お前たちのやり取りは全て聞いていたぞ。いきなりサクセス達をガンダッタ一味と決めつけて、馬車を勝手に荒らしていたのをな。これはどういうことだ!」



 一瞬の沈黙の後、ボッサンは兵士を怒鳴り飛ばした。



「た、大変失礼しました! ま、まさかそのようなお方だとは……全てはノロ隊長の判断でございます!」


「あぁん? ノロだぁ~? まぁいい。その馬鹿を連れてこい!」


「は!! 直ちに!」



 ボッサンに命令された兵士は、素早く回復術師と共にノロ隊長の下に走っていく。 



 うーん、なんかすげぇ胸がスッとするな。

 さっきまで偉そうにしていた奴らが、一気に萎れた野菜のようになってやがる。

 ざまぁみろ! やれぇやれぇー、ぼっさーん!



 その後すぐに、兵士はノロ隊長の下に行き回復させると、ノロ隊長は意識を戻した。



「ん? わしは……。」



 ノロ隊長は、何があったのか混乱しているようで、周りをキョロキョロ見渡している。

 そこにボッサンがゆっくりと近づいていった。



「ん? なんだ? おま……ははぁ!! これはこれは! ボウサム王様!!」



 相変わらず偉そうな口調で喋り始めたノロ隊長であるが、ボッサンの顔を見るや否や、即座にひれ伏す。



「おう、顔をあげろや。お前が隊長で間違いないな?」


「ははっ! そうであります!」


「お前、何てことをしてくれたんだ? お前がガンダッタ一味と勝手に疑った相手は、我がヒルダーム国の救国の英雄だ。んで、どう責任を取るつもりだ?」



 ノロ隊長は、いきなり王様に詰問され、更に困惑する。


ーーが流石は隊長まで成り上がっただけはあり、直ぐに状況を理解した。

 


(救国の英雄? はっ!? ま、まさか……あの小僧が?)



「ははっ! 申し訳ございません! 部下が勝手に暴走したもので! 私はその謝罪の為に、わざと殴られていた次第でございます!!」



 一瞬で部下のせいにすることで責任逃れをするノロ隊長。

 それどころか、殴られて気絶したのをいい事に、上手い言い訳をついた。



 こいつ……クズだな。



「なるほどな……。おーい、サクセスともう一人。こっち来て、こいつが本当の事言ってるか教えてくれや。」



 ボッサンは俺の事を呼びながらも、なぜか楽しそうに含み笑いをしている。

 この後、どう料理するのかが楽しみといった様子だ。



 うし、じゃあ俺もこのクズを少し懲らしめてやるか。



「こ、これはこれは英雄様! 先ほどは、部下が大変失礼してしまい、申し訳ございませんでした!!」



 俺達が近づいてくると、ノロ隊長は再度、土下座をして謝罪する。

 なんというか、本当に見ていて滑稽だ。



「どうするサクセス? 謝罪しているが許すか?」



 ボッサンはその様子を見て、俺に尋ねた。



「そうだな。もしこいつが本当の事を最初から言っていて、今回の責任について部下は悪くない、自分の責任でやった事だと言ったならば許してもよかったんだけどね……ダメだ! 許さない。」


「俺も同意見だな。まぁ、俺の場合はこいつをぶん殴ったから帳消しでもいいけど、馬車を荒らされたからなぁ……あぁ~王に献上する大事な宝が壊れてらぁ~。まずいなぁ~、まぁ壊した相手は目の前にいるけどなぁ~。」


 

 王に献上する宝?

 あったっけそんなもん? って、嘘か。

 あぁ、こういう奴には効きそうだな、ってか、顔めっちゃ青ざめてるやん!



「そ、そ、そ、それは私が命令したわけでは……。」



「はぁ? お前責任者なんだろ? 部下の失態は上司の失態。これ常識だよね? ボッサン、こういう場合の賠償は国がするの? それとも個人がするものなの?」



「あぁ、こやつらは王国の兵士ではなく、町の兵士だからな。そう言った場合は、現場責任者が賠償するようになっているな。で、いくらなんだ? それ。」



 俺の質問にボッサンは即座に答えると、俺達の話に合わせてくる。



「かなりレア物だったからなぁ。10万ゴールドはくだらないかな?」



 それを聞いたノロ隊長の顔から、滝の様に汗が流れていた。



「む、無理でございます。どうか、御容赦下さいませ! 英雄様。」


「ん~こっちこそ無理。だって、カリーは何度も言ったよね? 説明もなしで、断りもなしにやるんじゃないって。それを無視したのはお前なわけで、しかもさ、何お前? 部下が勝手にやった? 謝罪の為に殴られた? ふざけんのも大概にしろや!!」



「ひぃ~。」



「なぁサクセス。今回の事は、俺がこいつの代わりに弁償してやる。それで収めてもらえねぇか?」



 そこで突然、ボッサンは急に助け船を出した。


 どういうことだろう?



「ボウサム王様!!」


 その言葉を聞き、輝く瞳でボッサンを見つめるノロ隊長。

 きしょいな……。

 しかし、本当にどういうわけなんだ?



「勘違いするなよ! お前には、ちゃんと責任をとってもらう。今回の責任として、お前はこれより20年間、兵の一番下っ端に降格だ。給料も半分とする。そして、兵士職から脱退もゆるさなければ副業も許さぬ。これを守らねば死刑だ。この事は、町の首脳会議で正式に伝える。」



 おぉ~!

 すげぇ、具体的。

 これだよこれ。

 上司ってのは、このくらい具体的に説明しないとな。


 って、結構重い罰だよなこれ。

 でも、責任者が責任を取って降格するのは当然だと思う。


 そう言えば昔、町役場で働いていた叔父さんが言ってたっけかな。

 

(ふぅ~。本当に部長ってやつはよぉ~。偉くなると、下の頃の記憶を忘れるのか、保身ばかり気にして責任逃れしかしやしねぇ。一度、平に降格してくれねぇもんかねぇ~。)


 

 あの時はよくわからなかったけど、何となくこいつら見てるとわかる気がする。

 おじさん、どんまい!!



 と、そんなくだらないことを思い出している間も、ボッサンに命令されたノロは黙っている。

 本当は言い返したい事もあるのだろうが、立場的にできないのであろう。

 そして遂には……。



「わかりました。」



 とだけ言って、その場で跪(ひざまず)いたまま、黙り込むのであった。



 ふむ、これにて一見落着!

 ん? なんか忘れているような……。

 まぁいっか。



「おう、じゃあサクセス行くか。俺の泊まってる宿まで案内すんぜ。」



 ボッサンがそう言うと、集まっていた兵士達は道を空ける。

 そして俺達もまた、ボッサンに続いて町に入るのであった。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る