第35話 反省

 マーダ神殿から速足で階段を下りていくビビアン。



「ちょっと待ってよビビアン。待ってってば! 何があったのよ?」



 ミーニャは急いでビビアンを追いかけながら叫ぶと、やっとビビアンの足が止まった。



「どいつもこいつもみんな勝手な事ばかり言うのよ! アタシはサクセスと一緒にのんびりと暮らしていたいだけなのに……。いい加減うんざりだわ。」


「それはわかるけどねぇ~。でも、さっきのはちょっとないんじゃない?」


「さっきのってなによ?」



 ビビアンに歩み寄ったミーニャは、厳しい視線を送るも、ビビアンには何のことかわからない。


 すると今度は追いついたマネアが、ミーニャに代わってはっきりと口にした。



「シャナクさんへの言葉ですよ。ビビアン様。あれではシャナクさんが可哀そう過ぎます。」



 ビビアンの態度を諌める二人。

 しかし、やはりビビアンには全く響かなかった。



「あいつはいいのよ。大体、あいつが怒る理由なんてないじゃない?」


 

 その言葉を聞いたミーニャは、呆れて開いた口が塞がらない。



「ビビアン……それ本気で言ってるの? ずっと思ってたけど、ビビアンのシャナクへの態度はあまりに酷すぎるわよ? 気付いてないの?」


「大丈夫よ。こんなのいつもの事だもん。それにシャナクは勝手にアタシについて来てるんだから文句は言わせないわ。」



 ビビアンに反省の色はない。



ーーすると……



 マネアがビビアンの頬を平手打ちした。



「何すんのよ!」



 ビビアンは、マネアにいきなり叩かれた事に驚きながらも睨みつける。



「いい加減になさい! シャナクさんがこれまで、一体どれだけビビアン様の為に身を削って動いていたかわからないのですか? それが勝手に付いてきたからですって!? ふざけないでください!」


「それが何よ! マネアに何がわかるのよ!」



「わかってないのはビビアン様です! もしも、シャナクさんがいなければビビアン様はここまでこれなかったはずです。思い返してみて下さい。それを毎日毎日、自分のストレス解消にシャナクさんに当たって! シャナクさんだって同じ人間なんです!」


 マネアは過去に見せた事がない程、激昂してビビアンを怒鳴りつけた。



 その勢いに、流石のビビアンもたじろぐ。



「だ、だってシャナクは何も言わないし。次に会う時にはいつもけろっとしているし……。」



 まるで母親に叱られて、言い訳をするようなビビアン。しかし、マネアの怒りはそんな答えで納得出来るはずもなかった。



「子供みたいな事を言わないでください。あなたがやっている事は、弱い物いじめをして楽しんでいる子供と同じです。その姿……サクセスさんに胸を張って見せられますか?」



 そこまで言われて、初めてビビアンは今までの事を思い返す。


 考えてみれば、シャナクには本当に色々助けられてきた。そしてシャナクがいなければ、ここまでこれなかったのも間違いない。



 そんなシャナクに自分が今までしてきたこと……。


 

 確かに……酷すぎるわね。

 これじゃあ、あの女神やさっきのハゲと同じじゃない……いえ、それ以下だわ……



 ビビアンは黙り込んだ。



 今までの行動を思い返すと、自分が今までどれだけ自分勝手に振る舞い、シャナクに辛くあたってしまっていた事にやっと気づいた。


 まだ幼さ故の甘えとも言えなくもないが、もし今の自分をサクセスが見たらなんと言うだろうか。



 少なくとも幻滅させるのは間違いない。



 これまでは、誰もそれを言ってくれる人がいなかった。周りの者達は、自分をビビアンという一人の女の子として扱わず、誰もが勇者としてしか見てくれなかった。


 故に、もしそんな相手にマネアと同じ事を言われたならば、ビビアンの心には響かなかったであろう。



 しかしマネアは違う。



 出会った頃から勇者様とは呼ばず、ビビアン様とちゃんと名前で呼んでくれた。


 真剣に話を聞いてくれた。


 一人の人間として自分を見てくれた。

 

 そして本気で叱ってくれた。


 

 だからこそやっと気づく、



 自分の愚かさと、シャナクの優しさに。



「……アタシ、シャナクに謝ってくるわ!」



 ビビアンは力強く誓う。


 その様子にやっとマネアも笑顔になった。



「はい。それがよろしいかと。大丈夫です、人は必ず過ちを犯す生き物です。それを反省することができて、初めて大人になるということなのですよ。」



 マネアはさっきまでと違い、優しくビビアンに言った。



 こうしてビビアンは、もう一度降りて来た階段を駆け上がるのだった。

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