Episode of Leecyun 1

【リーチュン編 開始】


「あっつぅぅぅ!! 何よこれ。この暑さヤバクない?」


 リーチュンが、女神の間から飛ばされた世界は、灼熱の砂漠が果てしなく広がる砂丘の上だった。

 

 吹き荒れる熱風を纏った砂あらし。

 燦燦(さんさん)と照りつける太陽。


 一面に広がる砂は、上空から絶えず注がれゆく灼熱を吸収し、熱粒となると風で舞う。

 ヒートストームとは、正にこのことだ。

 なんの準備もしていない、普通の者であれば、その場を5分と歩く事はできないであろう。


 しかし、リーチュンは普通ではなかった。

 その高い身体能力や体力もさることながら、少しくらいの熱であれば、全身に闘気を纏う事で軽減できる。

 そして、当然それは既にやっている。

 やっていて、なお暑いのだ。


「これで少しはマシね。うん、熱になんて負けるなアタイ! あ! 町が見える! ラッキー!」


 リーチュンは、闘気を全身に強めに纏うと、砂丘の上から辺りを見回した。

 すると、予想外にも、あっけなく町と思われるものが見つかる。


 目の前に広がる砂漠地帯の先には、不自然な程、美しい湖とそれを囲むように広がる町が見えた。

 更に、町の奥にはーー無数に存在する三角錐型のピラミッドも見える。


 リーチュンのここでの試練は、ピラミッドの中にある伝説の武器を見つけること。


 これまた予想外に、あっという間に目的のピラミッドは見つかったものの、問題はその数である。

 当初、この世界に着いたなら、町を見つけた後、一つのピラミッドを攻略するだけだと思っていた。

 だが、試練はそんなに甘くない。


 どうやら、無数にあるピラミッドから当たりを探さなければならないらしい。

 リーチュンは、その状況に、一瞬だけため息をついた。


「はぁ……やっぱ、そう簡単にはいかないわよね。って、あぶな!!」


 

 ブォォォォー!!



 油断していたリーチュンを、突然、炎のブレスが襲う。

 間一髪でそれを避けたリーチュンは、ブレスが放たれた方に向き直る

 そして、それを放ってきたのが、この世界のモンスターだと確認した。



「へへーん。早速モンスターのお出ましって訳ね! 景気づけに、ぶっ飛ばしてやるわ!」



 リーチュンの前にいるは、元の世界で言うところの、



 キマイラ



に似ているモンスター。



 犬やキツネのような頭部。

 馬に羽が生えたような、四つ足の胴体。

 そして、大蛇のようなしっぽ。



 しかし思ったほど、体はそこまで大きくはない。

 元の世界で戦った竜に比べれば、小物である。

 せいぜい、頭から尻尾まで合わせて。4メートルといったところ。



「そっちから襲い掛かって来たんだから、殺されても文句は言わないでよね!!」


 

 敵の攻撃を回避したリーチュンは、持ち前の素早さで、一気に距離を詰めた。

 しかし、その速さに驚いたのか、敵は翼をはためかせて、後方にバックステップを踏んで、距離を取る。


 

「あまいわ! リーーチューーンキィィック!」



 間合いを作られたリーチュンであったが、足に闘気を集め、それを爆発させると、その推進力を利用して、飛び蹴りをかました。



 キィィィーーーン!


 ドーーン!!



「ぎゃぉぉぉ!」



 敵の頭部にキックが直撃すると、モンスターは苦しみの咆哮をあげ、真横にひっくり返る。

 チャンスと見た、リーチュンは次の一撃で終わりにしようとした。

 その拳には、白い闘気が集まっている。



「これでトドメよ! 一瞬で塵に変えてあげるわ!! 百裂……」



 しかし、リーチュンがとどめを刺そうとした瞬間、思いもよらぬ事態が起きる。

 なんとそのモンスターは、お腹を上にして、降参ポーズ


ーー通称ヘソ天をしたのだ。


 更には、言葉まで喋りだす。



「まってくんなはれ!! あかん! 降参や! わいの負けや! 後生やから殺さんといてぇな!」



 奇妙な言葉遣いで話し始める、そのモンスター。

 しかし、その言語は、元の世界と同じ言葉であり、言っている意味はリーチュンにも理解できた。

 突然の状況に攻撃をキャンセルするリーチュン。


 しかし、相手はモンスター。

 油断させてから、また襲い掛かってくるかもしれない。

 故に、敵の様子を伺いつつ、いつでもとどめを刺せるように警戒した。


 普段なら気を抜いてしまうところだが、ここには、それをカバーしてくれる仲間はいない。

 だから、一瞬の隙も見せるつもりはなかった。

 

ーーのであるが、話かけられれば、それに答えてしまうのがリーチュンである……。



「えぇーー。どうしよっかなぁ~。だって、そっちから攻撃してきたじゃん? アタイ、危うく殺されそうだったしなぁ。」



「ほんま、すんまへん! 気の迷いどす! 姉さんがこんなに強い……いや、強く美しくて、セクシーで、魅力的だとは思いまへんでした。 ほんま、わいのバカ! バカバカバカ!」


 

 前足を使って、自分の頭をポカポカし始める、凶悪なモンスター。

 その光景は、シュールを通り越して、滑稽だった。



「そ、そう? やっぱアタイってモンスターから見ても可愛い??」



「そりゃあもちろんでっせ! は! もしや……あんたはん……女神どすか?」



「やだよ、もうぅ~。女神じゃないってば! 仕方ないなぁ、見逃してあげるわよ。でも、突然人を襲ったりしちゃだめだぞ!」



 モンスターの手のひらで、簡単に転がされるリーチュン。

 だが、そこがリーチュンの良さでもあった。

 人の言う事をそのまま素直に信じることができる。

 これも一つの才能だ。

 まぁ、今回は人ではなく、モンスターだが。 



「恩にきまっせ。それより聞いてもよいどすか? なんでこんな砂漠に、ラクダも用意せずにいたんどす? ここは、わい以外にも、サンドワームやら何やら、モンスターも多いさかい。危険でっせ。傍から見たら、スライムが肉しょって歩いてるように見えましたさかい。」


「あたい、この砂漠にさっき飛ばされてきたばかりなの! だから、よくわからなくて……。そうだ、アンタ、町まで案内してよ。よし! 今からアンタは、アタイの子分ね、いや、ペットだわ!」


「ほな、さいなら!」



 リーチュンからの言葉に、嫌な予感を覚えたモンスターは直ぐさま、その場を去ろうとする。

 --が、当然、そんな事をリーチュンは許さない。

 逃げられないように、尻尾を掴んでいた。


「待ちなさいよ! 誰が行っていいっていったわけ!? アンタは、もうアタイのペットよ!」


「か、堪忍してくんなはれ! わいは、これでも砂漠の主と恐れられ……」


「なぁにぃーー? アタイの言う事がきけないわけ!?」



 ぎゅうぅぅぅぅ!



 リーチュンは、言う事を聞かないモンスターの尻尾を、強く握り締める。

 すると、悲痛な叫び声が砂漠に響いた。



「ぎょえぇぇぇ! 痛いっす! 尻尾は堪忍してや! わかりやした! わいは、今日からアンタはんの、ぺっとや! だから、尻尾を強く握るのはやめてくんなはれ!!」



 その痛みから、遂に服従を宣言するモンスター。

 見かけは狂暴そうであるが、リーチュンは、そいつを気に入った。

 まぁ、褒められまくって、気分が良くなっただけ、ともいえるが。



「やったー!! じゃあアンタ、名前教えてよ。アタイはリーチュン!」


「ワイは、イヌビスって呼ばれておま。イヌでもなんでも、好きな風に呼んでくんなまし……。」


「ふーん。イヌビスねぇ……。よし! 決めた! じゃあ、あんたはゲロゲロマークツーね! でも長いからマークでいいわ!」



 リーチュンもイーゼと同じように、まだゲロゲロを失った悲しみが忘れられていなかった。

 そのため、ペットと言えば、リーチュンの頭にはゲロゲロしかいない。

 故に、安直ではあるが、ゲロゲロへの想いからも、その名前に決める。


「わかりやした。ワイは今日からマークでっせ。ええ名前をおおきに!!」


「へっへーん。アタイ、ネーミングセンスには自信あるんだよね!」



 マークの誉め言葉に、その大きな胸をこれでもかと張って、どや顔をするリーチュン。


 しかし、本来のリーチュンのネーミングセンスは、壊滅的だ。

 過去に、イーゼとなったイーゲの名前を、そのまま【ゲーイ】にしようとした記憶はまだ新しい。

 それを考えると、確かに、今回のネーミングは、会心の出来と言えた。



「ほんま、さすがですわぁ。それじゃ、わいの上に乗ってくんなはれ! んで、どこに行きはります?」


「うーん、とりあえず町ね! 町いくわよ!!」


「町どすか? わいが行ったら、大変な事になりまっせ!?」


「大丈夫、大丈夫! アタイがなんとかするから、とりあえず町につれてってよ! アタイ、お腹空いた!!」


「さいですか……。ほんなら、仕方ありまへん。いきまっか。」


 リーチュンの横暴な命令に腹をくくるマーク。


 こうしてリーチュンは、早速ペットを仲間に加えると、砂漠の先に見える、オアシスのある町へと向かうのだった。

  



※注 

 奇妙な言葉使いは、色んな言葉使いがめちゃくちゃな為、奇妙なという設定です。

 どこか特定の地域の言葉を完璧に再現したものではありませんので、ご容赦ください。

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