Episode of Siroma 9

 アテナ王宮に戻ったシロマは、とりあえずダンブルドに報告しに行こうと決めた。

 しかしその時、なぜか、今いる自分の場所を不自然に感じる。

 理由は明確だった。



 マイオニーが部屋にいない。



 普段なら、シロマが本の世界にいる間、常に近くで見守っているはずだった。



「なんでしょう。凄く嫌な予感がします。」



 しかしマイオニーだって、常にここにいるわけではない。

 当然、いないときもある。

 それなのに、なぜかこの時シロマは、言い得ぬ不安に襲われたのだ。


 

 それは、まるで一番最初のグリムワールの世界に入った時と同じ様な感じ。



「マイオニーさん! どこですか!?」



 シロマは大きな声で叫ぶ。

 しかし、その声に返ってくる音はない。

 すると、シロマの中で更に不安は大きくなっていった。

 

 慌てて部屋を飛び出しすシロマ。

 直ぐに王宮の中を探し始めた。


 しかし、王宮の中はもぬけの殻であり、どこにも……誰もいない。



 シロマは、不安が的中したことに焦り始める。

 


「まだ……まだ終わってなかったんですか!?」



 最後のグリムワールは、ラビッツを倒した事で終わったと安心していた。

 しかしここは、一番最初にグリムワールに入った時と同じ、誰もいない王宮。

 もしかしたら、時が巻き戻ったのかもしれないと想像する。


 しかし、どこを探してもラビッツはいない。

 それを安心していいのか、不安に思えばいいのかわからないシロマ。

 そして最後に、まだ行っていない玉座の間に向かった。



 バン!!



 シロマが玉座の間の扉を勢いよく開けると、なんと玉座には、ダンブルドが座っていた。



 それを見て、少しだけほっとする。



「よく戻って来た天命の巫女……いや、試練に臨む者シロマ。」



 そのダンブルドは、いつもと少し雰囲気が違う。

 何が違うのか具体的にはわからないが、シロマの直感がそう訴えた。



「あなたは……ダンブルドさんであっていますか?」



 故に質問する。

 まだ、ここがグリムワールの世界ではないと言えないからだ。



「いかにも。だがそれは仮の名。本当の名は……ない。わしは時空神なり。」



 その言葉に、シロマは驚くと同時に納得する。

 時空神という人物を聞いたことはないが、なんとなく、この世界を創った者だと感じたからだ。



「少しだけ……少しだけ繋がった気がします。そうですか、それではあなたが、私に天空職の試練を与えた者という事でしょうか?」



「いかにも。この世界も、グリムワールも、全てわしが創ったものじゃ。そして、よくぞそれを乗り越えた。」



 ここに来て、初めてシロマは安心した。

 その者が言っている事が、真実だと確信したからである。


 なぜならば、ダンブルドは、天空職の試練と聞かれて、それを肯定した。

 シロマは、この世界に来てから、天空職という言葉を使ったことがない。

 だから、他の者にわかるわけがないのだ。

 

 そう、試験官以外には。



「それでは、私は天空職に転職し、元の世界に帰れるのですね?」



「それについては否じゃ。元の世界に帰すことはかまわん。しかし、まだ試練は終わっておらぬ。それを無事にクリアしてこそ、初めて転職させることができよう。」



「どういうことですか!? 私はちゃんと、グリムワールを全て攻略しました。おかしいです。」



 試練が終わっていないと言われ、またあの苦しい試練が続くと思い、半分狂いそうになりながら叫んでしまった。


 しかし……。



「焦るでない。安心せぇ。もうあのような試練はない。よく思い出すのじゃ、女神はそなたに何をしてこいと言った?」



 ダンブルド……いや、時空神は、落ち着いた声でシロマに尋ねる。



(もうグリムワールの世界に行かなくていい………。)



 時空神の言葉を聞いて、シロマは落ち着きを取り戻すと、女神の言葉を思い出した。



「この世の理を示した……本を……見つけなさい?」



 シロマは思い出しながら、女神の言葉を復唱するように呟く。



「そうじゃ。その通りじゃ。それで、ぬしはそれを見つけたかのう?」



「はい、11冊のグリムワールを見つけました。そして攻略をしました! ちゃんとやったはずです!」



「ふむふむ、して、どれがこの世の理を示す本じゃったかの? それこそが本当の試練じゃ。」



 そう問われて、シロマは考える。



 どれも不思議な世界だった。

 ただ共通して言えるのは、どの世界も、強者によって弱者が虐げられる世界。

 それだけは、全てに共通していた。


 唯一違うのは11冊目。


 あれだけは、逆だった。

 強者だった者が、弱者に復讐される世界。

 いや、あれはラビッツが作り出したものであるならば……。



 シロマは熟考する。

 しかし、いくら考えても答えが見つからない。



「ふぉっふぉっふぉ。どれ、少しだけヒントをやろうかのう?」



 いつまで経っても答えを言わないシロマに、痺れを切らしたのか、ダンブルドは助け船を出そうとする。

 しかし、それをシロマは断った。



「いいえ。大丈夫です。自分で答えを見つけなければ、きっとダメな気がします。」



 その言葉に、目を細めて嬉しそうにするダンブルド。



 そしてシロマは、サクセス達が言っていた言葉を思い返す。

 なぜかわからないが、あれがヒントのような気がしたのだ。

 そして、ピンっときた。



「答えがわかりました。」



「ふぉっふぉっふぉ。では、再度わしから問おう。この世の理を示した本はどれじゃ?」



「質問がいやらしいですね。どこ? ではなく、どれ? ですか。でも構いません、私はもう見つけました。答えは私の中……いえ、私の存在そのものが、私にとってこの世の理です。」



「それがぬしの答えかの?」



「はい、始めはこの世界そのものが、理を示す本だと思いました。しかし、やっぱりおかしいのです。それでは色々矛盾しています。そして、仲間達の言葉が私に教えてくれました。結局は、自分という存在がある限り、全ての答えは自分の中にあるのだと。自分が存在する事こそが、理が存在する証明。これが私の答えです。」



「…………正解じゃ! よくぞ見つけ出した! そうじゃ、それがこの世界の理を示すものじゃ。正義も悪も、全て自分が決めるもの。人の数だけ間違いがある、そして人の数だけ正しさもある。時や、場所を変えてもそれだけは変えることはできぬ。それこそ時空ですら変える事の叶わない、永久不変の理である。自分という存在なくば、正義も悪もない。正義と悪は、自分以外の比較する者がいて、初めて生まれるものであり、それは理の数だけ存在する。」



 哲学的な難しい言葉であったが、なぜかシロマにはすぅっと入ってきた。

 それは、ここで過ごした3年間があったからかもしれない……。

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