第55話 お泊まり行ってみよか?
あの最悪な戦闘から早三時間。
あれからも俺のルーレットは他の仲間に比べて高い数字を叩き出し続け、気付けば仲間達は遥か後方にいる。
その為、現在では仲間の様子を知ることができない。
唯一わかる事が二つだけあるとするならば、一つはこのマップが異常に広いということだ。
三時間もルーレットを回していれば、当然相当なマスを進んでいる訳で、一マスが10平方メートルであることを考えればわかると思うが、既に10km以上歩いていることになる。
ところどころ分岐があったり、円状になっていてループするような道もあったが、それでもここは広すぎる。
下手をしたら王都エルバトル全域に匹敵する広さなのではないだろうか?
そしてもう一つわかったのは、この第一ステージが間もなく終わるということ。
それというのも、10マス先にデカデカとBOSSと書かれた看板が立っているマスが見え、その先に道がないのだよ。
つまり俺は誰よりも早くゴールする可能性が高いということなんだ。
とはいっても、BOSSマスに辿り着いたとて、BOSSを倒せるかは甚だ(はなはだ)疑問ではあるんだけどね……。
なんせ俺の戦い方は口にするのも憚れる(はばかれる)くらい酷い戦闘方法であり、とてもではないが仲間にみせられたものではない。
当然ここまで来るのに、多くのバトルマスに止まり、そして戦ってきた。
もしも一度でもまともな魔物と遭遇したならば、俺は今ここに立っていないだろう。
それが何を意味をするのか……つまりはですね……俺の前に現れた魔物は全て雌だったってことなんすよ。
メスゴブリンから始まり、メスオーク、メストロール、メスハーピー、メスライオン……全ての魔物の名前の前にはメスの二文字が入っている。
メスのオンパレードさ。
中にはスライムメスとかいう、どう考えても雄雌の区別がなさそうなモンスターさえ現れたのだが、そのいずれもが俺の息子棒によって亡き者にされた。
その結果、俺はかなりレベルアップしたのだけど、その数値がこれさ。
サクセス レベル21 イきり童貞
ステータス
ちから 5
みのまもり 5
すばやさ 5
うん 5
ちりょく 5
そうぞうりょく 700
ぼっきりょく 700
スキル
エレクト
自家発電
イメトレ
武器創造
これを見ればわかると思うけど、俺のレベルは20もアップしているのに、相変わらず基本ステータスは初期状態のままで、クソステータスのみが1レベルにつき10づつ上がっている。
にもかかわらず、敵の凶悪度がどんどん上がっていくもんで、まじで毎回戦闘では死と貞操の危機を覚悟させられたってわけさ。
ほんとふざけんなよ、くそ運営。
まぁそれは一度置いておくとして、唯一その他に変わったこともあって、こちらは少しだけだが希望が持てるものだった。
それはレベルアップによって覚えた新スキル。
ただ、いずれも使用方法が全くわからない為、現時点では使えないスキルではある。
しかしだ。イメトレはともかくとして、この武器創造というのだけは今までにない程まともっぽいスキルであり、これを使うことさえできれば、俺もみんなと同じ様に恥ずかしくない戦いができるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながらここまで来たんだけどね……使えねぇんだよ!!
こんだけ期待を溢れさせるスキル名でありながら、戦闘中も、マップ待機中も、どこに行ってもだ。
もはやこれは一種のお預けプレイなんではないかと、今では疑っているレベル。
いずれにしても、とりあえず俺の第一ステージは終わりそうだな。
そう、失敗という形で。
だってそうだろ?
今までは俺に合わせた魔物だったかもしれないけど、このビーオーエスエス(BOSS)はどう考えても共通モンスターだ。
つまり、普通の強敵ということ。
そして普通の強敵であれば、流石の俺の息子でも歯が立たないだろう。
むしろ、歯をたてないで欲しい……って違う違う。
まぁここまで頑張ってきたんだから、失敗に終わっても悔いはないさ。
まだまだ回数券はあるし、何よりも、俺としてはむしろやり直したい。
失敗して最初からやり直すことで、このクソ職業ともオサラバさ。
ざまぁみろ、運営め。
お前らの目論見通りには行かないんだからな!!
と色々考えている間に、俺の番が回ってきた。
「後少しだ……後少しだぞ俺! もうすぐGOAL(リタイヤ)できる!」
リタイヤという希望を胸に、俺はルーレットを回す。
ここまで5か6しか出なかったルーレットだ。
残り10マスならば、このステージでルーレットを回すのがこれで最後だろう。
というのも、道中にあった黄色マスで俺はアイテムを買い漁っていたため、数字を指定して進めるカードを1から6まで全部揃えていたのだ。
そう。ここまでやってきて概ねマスの特徴は把握できた。
予想通り、青マスはお金か武器防具、またはアイテムが手に入る宝箱マス。
赤マスは、お金かアイテムが失われるアンラッキーマス。
黄色マスは、ルーレットに使えるカードが売っているお店がある、お店マス。
紫マスは、自分が強化されるバフか、弱体するデバフがかかるマス。
白マスは、地面の紋様によって変わるが、バトルマスや宿屋マスなど様々ある。
一度だけ、精神的に疲れ果てた俺は、カードを使って宿屋と書かれた建物のある白マスに止まろうか悩んだのだが、結局やめることにした。
なぜならば休むよりも先に、このゲームを少しでも早く終わらせたかったから……
その為に俺は、自分の精神に鞭を打ってまでここまで突っ走ってきたのだ。
本当によく頑張ったよ、俺……もう終わってもいいだろう。
ということで、頼むぞ!
最後のルーレット!!
※ ※ ※
「ふぅ……ここまでくるとむしろ安心感すらあるな。ほらね、やっぱり6だ」
今まで5が出たのが3割、他は全て6だったので、今回もまた6がでると予想していた。
そして案の定6が出た俺は、ゆっくりとマスを進んでいく。
「あぁ……やっぱりここだよね。なんとなく予想はしていたけどね」
俺はルーレットを回す前から、6マス先にあるこのマスに止まる事を予感していた。
前のマスにいる時から、そうなったらどうしようかとも悩んでいた場所。
だけど、もう答えは決まっている。
「うん。最後だし、泊まっておくか。寝てる間にみんなに追いつかれそうだけど」
そう言って俺が入ったのは、見た感じ本当に普通の宿屋であり、特段特徴と呼べるようなものはない。
それは中に入ってからも同じだ。
エントランスの先にはエルフの店員が立っているカウンターがあるだけ。
「いらっしゃいませ、お客様。随分お疲れのようですね、当宿でゆっくりとお休みになって下さい」
「あ、入ると強制的に宿泊になるのね。ところで質問は可能ですか?」
せっかくゆっくりと話ができるのだから、俺は色々聞こうと思った。
黄色マスのお店でも簡単な質問くらいはできたけど、仲間のみんながルーレットを回し終えると強制的にお店から出されてしまったので、こうやってゆっくりと会話できる機会はなかったのである。
そんな訳で、聞きたいことが山ほどある今、聞かない手はないだろ。
「はい、お答えできることであれば」
おっしゃ! 助かるぜ!
「じゃあ最初に聞きたいのは、ここにいる間の時間についてですが……」
「はい。こちらに滞在できる時間は12時間となっております」
「え? そんなに? 皆終わっちゃうじゃん。いや、待てよ。それもアリか?」
一番最初にリタイヤを決めていた俺だが、別に一番最後であっても問題はない。
今の俺の戦闘スタイルを仲間には見られたくないだけだから。
だが……
「いえ、12時間経過しても実際には1ターンしか経過しておりませんので、ご安心を」
「へ……? まさかこの空間では時間の流れが違うとか?」
「はい、その通りでございます。ですので、心ゆくまでお寛ぎ下さい」
まじか……まぁ問題ないか。
当初の予定通りなだけだし。
むしろ、ここにきて12時間も休めるのはマジでありがたいわ。
「じゃあもう一個。すごろくのルールについて詳しく教えてもらえませんか?」
「かしこまりました。私が話せる範囲で御説明させてもらいます」
ラッキー!!
言ってみるもんだわ。
「お願いします!!」
俺は前のめりになりながら、このクソすごろくについて詳しく説明を受けるのであるが……
※ ※ ※
「以上で全ての説明となります」
エルフの店員からの説明は10分としない内に終わってしまった。
しかもその説明の内容は、全てここまで来る間に把握したものばかり。
ルーレットを回すことで進むという初歩的な説明から始まり、マス目の種類や特徴の説明等々。
ただ、マス目についても基本のマスのみしか教えられないということでそれも全部ではない。
マス目についても、と言ったのは、説明の中であった武器の種類やスキルも同じだったからだ。
正直店員の説明を聞いて、参考になった情報はほとんどない。
俺が聞きたいのは、
ステージがクリアできなくて、再度始めた時に職業がまた抽選になるのか?
ということや、
ボスの強さや種類
他にも存在する職業やスキル等
だったのだが、そのどれもが「わかりかねます」の一言で答えてもらえなかった。
なんというか、完全にルールブックとかに書かれている説明しか答えてくれない感じである。
だが唯一参考になった、というより聞いてショックを受けた説明は、このすごろくが1日に1ステージしかできないということだ。
つまり5ステージまで順当に進むには最低5日もかかってしまうということ。
救いは、失敗しても同日に2回だけチャレンジできることだろう。
といっても、ステージが長引いた場合は1回になるかもしれないとのことなので、どうなるかはわからないが、これによって無駄に日数を消費する必要はなくなった。
1日1ステージではなく1日1入場だったら、失敗を考えると消費する日数は最低でも倍はかかる。
そういう意味では聞いておいてよかった情報だと思った。
「わかりました。色々ありがとうございます。あと最後に一つだけいいですか?」
「はい、なんなりと」
「この宿は風呂、食事付きですかね?」
「もちろんでございます。それと特定の職業の方は、宿に泊まる間のみ使えるスキル等もあるようですので、試してみることをおすすめします」
お? そんなスキルがあるのか……って、アレのことっぽいな。
「わかりました。試してみます」
「ではお客様の部屋はここを真っすぐ進んだ奥の部屋になっておりますので、また何かございましたらカウンターまでお越しください」
そう言ってエルフ店員との会話は終わった。
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