第48話 イモコの本気
「へぇ~、ここが闘技場か。思ったよりも広いな。」
俺達はイモコに言われたとおり、北にずっと向かって行くと、円形の大きな建物が見えた。
どうやら、ここが闘技場のようである。
入口に人は立っていないけど、勝手に入っていいのかな?
「そうですね、これなら好きに暴れられます!」
何故かシロマは、両手を握り締めてやる気満々になっている。
いつから、この子はこんな好戦的なキャラになってしまったのだろうか?
というよりも、シロマには回復を担当してもらうつもりで、戦ってもらう気はないんですけど……。
「あの……シロマさんや。シロマは戦わないから、気合入れなくても大丈夫だよ?」
「はい、わかっています。冗談です。」
冗談か……。
あれ? なんか、あれ?
シロマのキャラ、少し変わってないか?
まぁいい、気にしたら負けだ!
そして俺達は、誰もいない闘技場の中に入って行く。
中に入ると、中央には石でできた円形のリングがあり、外側には観客席が並んでいる。
まさに、ここは闘技場だった。
「このリング、一対一にしては大きすぎないか?」
中央のリングは概ね、半径30メートルはある。
普通に一対一なら、その3分の1もあれば十分だ。
「多分、闘技場には団体戦もあるのではないでしょうか? または、戦う以外にも他に何かスポーツとかもあるかもしれません。」
「スポーツかぁ。まぁそうだよな、ここは色んな国と貿易も盛んだろうから、色んな催しがあるのかもしれないな。」
俺とシロマが闘技場を見て話していると、丁度そこにイモコが現れた。
「師匠、待たせたでござる!」
「あれ? 思ったより早かったな。んで、どう稽古つけて欲しい?」
「そうでござるな、普通にやったら稽古にはならないでござる。ですので、お互い真剣を持って勝負してほしいでござる。」
はぁ?
意味が分からん。
なんで真剣でやるんだ、死ぬぞ?
「いや、イモコが真剣でやるのはわかるけど、俺が武器を持つのはまずいんじゃないか?」
「大丈夫でござる。腕の一本や二本は覚悟しているでござるよ!」
あほかあぁぁぁ!
腕二本無くなったら、何もできないじゃないか!
何を言っているんだね、チミは。
「そうですね、腕の一本や二本くらいなら直ぐ治せます。」
シロマ……お前もか!!
一体どんな世界を潜って来たんだよ!
「そういうことですので、師匠よろしく頼むでござる!」
イモコの目は真剣だ。
冗談で言っているわけではないらしい。
まぁ、俺ならイモコをケガさせないようにもできるだろう。
仕方ない、言い出したのは俺だ。
やるか!!
「わかった、じゃあリングに上がってくれ。そっちのタイミングでいつでも攻撃してきて構わない。」
俺がそういうと、ゲロゲロとシロマがリングから降りて、代わりにイモコがリングに上がった。
「では……行くでござる! 【抜刀斬】」
イモコはリングに上がった瞬間俺に近づいて来た。
近づくと同時に鞘に手を持っていき、技を使う。
前回もこの技を使って俺に攻撃してきたようだが、あの時は剣を抜かせなかった。
だが、今回は稽古だ。
しっかりと攻撃させてやろう。
スパッ!!
イモコの剣が空を切る。
【抜刀斬】は鞘から抜くと同時に、横一閃に斬りを放つ技だ。
そのスピードと威力は、常人では知覚できない速さ。
しかし残念な事に、俺には普通に見えるし、見てからでも避けられる。
紙一重の距離で俺はそれを躱すと、イモコは続けて技を放った。
【風神脚】
俺はイモコの技を紙一重で避けたため、イモコと俺の距離は近い。
イモコはそれを逆手に、剣ではなく足を使った技を放ってきた。
バババババッ!
突然の蹴りという不意打ちで一瞬、俺は避ける事ができず、その蹴りを食らう……ことはなく、全て右手で払い落とした。
アッぶねぇ~。
びっくりしたわ!
どうやらイモコの戦闘センスはスバ抜けているらしい。
攻撃を全部紙一重で躱してやろうと思ったが、しょっぱなから失敗した。
剣を抜く気もなければ、手を使う気もなく、まずは様子見と思っていたのだが、間違いだと気付く。
イモコは俺を殺す気で来ている。
今まですべての攻撃に殺気が込められているのだ。
真剣でやるというのは、剣を使うという意味だけではなく、相手を殺すくらいの気でやるということか。
わかったよ、やってやるさ。
「やるな、イモコ。今のはヒヤっとしたぜ。」
「流石師匠でござる。某、ここまで本気で戦った事は無かったでござるよ。」
「そうか、なら今まで通り俺を殺す気で来い。お前の全力を俺が受けてやる!」
「嬉しいでござる! では行くでござるよ!!」
【砂つぶて】
イモコは手の平から何かを俺に放つ。
どうやら、仕込んでいた砂を放って俺の目を潰すらしい。
だが、遅すぎる。
俺は敢えて【砂つぶて】を受け、その場で立ち止まる。
さぁ、何でくる?
【烈地斬】
イモコが剣をリングに刺した瞬間、俺の足元から割れたリングが襲い掛かってくる。
視界が奪われた、どうやらこれは俺を直接狙ったわけではないらしい。
イモコはどこだ?
前か? 横か? 後ろか?
【疾風激昂斬り】
上か!!
ズンっ!!
上空からの斬り落としに、俺は盾を使ってそれを受けた。
思ったよりも衝撃がある。
多分、普通なら受けた盾ごと、俺は真っ二つにされていたのかもしれない。
バンっ!
しかし、俺はそれを盾で払いのけた。
吹き飛ばされたイモコであるが、その距離で何かを放とうとする。
【天封剣】
イモコの振った剣から何かが飛んできた。
ズバッ!!
俺が咄嗟にそれを避けると、俺の後方にある観客席が大きくぶった切られた。
思ったよりも威力があるらしい。
あっぶね!
なんだあれ、飛ばし技か!?
【天封剣】【天封剣】【天封剣】
すかさずイモコは連続で放ってくる。
パンッ! パンッ! パンッ!
全部避けるのは簡単だが、俺は敢えてそれを全て剣で弾き消す。
俺の剣げきでかき消された技の衝撃は、破裂音を残してその威力を消し去った。
しかし、イモコはそれでも何度も同じ飛び技を放ちつつ、俺に近づいて来る。
ーーーそしてーーー
【奥義 羅生門】
あれ? イモコがいないぞ?
目の前まで接近したと思ったイモコが消えた。
否!
鞘だけがそこにある。
なぜ?
その瞬間、なぜか俺は上空にジャンプする。
わからないが、なんか嫌な予感がしたのだ。
ドン!!
すると、その瞬間、鞘が爆発した。
そして、後ろから斬撃が俺に繰り出される。
キンっ!!
後ろだと??
いつだ!?
いつからそこに!
なんと上空にジャンプして逃れたと思った俺であったが、いつの間にかイモコは空中にも関わらず、俺の後ろにいた。
そして、今まで一番の攻撃力を内包した斬りを放ってきたのだ。
しかし、これも俺は反射的に剣振る事で、イモコの斬撃を受け止め、そしてそのまま下に力強く払い落とした。
ドォォォン!!
リングに人型の穴が開く。
あまりに一瞬の事だったので、俺も力加減ができず、剣ごとおもいっきりイモコを地面に叩き落としてしまった。
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