第91話 憤怒の巨人 後編②
「遅れてすまない! タイミングを間違えた!」
マグマ将軍(完全体)を一撃で倒したサクセスは、地面に着地するとカリー達に駆け寄る。
「いや、俺達を最後まで信じてくれたんだろ? わかってる。けど先にシルクを……」
カリーがそう答えると、サクセスに遅れて古龍狼姿のゲロゲロが降り立ち、その背からシロマが降りた。
【リバースヒール】
「はい、もう大丈夫ですよ。シルクさん。」
「す、すごいでがんす! 一瞬で腕が……。た、盾もでがんすか!?」
シロマの回復魔法を受けたシルクは感謝の言葉も忘れて驚愕する。
まさか消し飛んだ腕が一瞬で復活するとは夢にも思っていなかった。
しかも、壊れた盾まで直っている……。
「流石はシロマ殿でござる。そして師匠……面目ないでござるよ。」
「謝んなイモコ。お前はすげぇ頑張ってたよ。だけど、今回は敵が悪かったな。一緒にもっと強くなろうぜ」
サクセスの慰めの言葉は、イモコの胸に深く刺さった。
「……師匠。某……必ず強くなってみせるでござる! 愛する国と同胞の為にも……。」
「あぁ。イモコならもっと強くなれるさ。だからそれまで無理はすんなよ。死んだら強くなれないし、守れる者も守れない。だから俺からイモコに言える言葉は一つだけだ。……死ぬなよ。」
その言葉にイモコは、胸に手を当てて頭を下げる。
「わかったでござる。師匠からのありがたき助言、しかとこの胸に刻んだでござる。」
頭を下げていて表情こそ見えないが、その顔は強い決意に満ちていた。
そんな師弟の前に、怪我から回復したシルクが近づいてくる。
「サクセス。あの技はなんでがんすか? まさか一撃でアレを屠るとは……」
シルクは未だに信じられない。
あれだけ自分達が何をやってもダメージを与えられなかった相手が、まさかの一撃で消滅してしまったのだ。
強いとは聞いていたが、サクセスの強さは想像を絶している。
それはもはや人が持つ強さのレベルではなかった。
シロマの回復魔法もそうだが、サクセスの強さは尋常ではない。
実際にはっきりと目の当たりにしたことで、今回それを痛感した。
だが強さもそうだが、それ以上にわからない事がある。
それは、
サクセスが自分と共に歩んできた勇者と同じ技を使っていた事だ。
あの技はフェイルから聞いた話だと、勇者として神の加護を受けた者が授かる聖なる技なはず。
だがサクセスの職業は聖戦士であり、この世界の勇者は他に存在すると聞いている。
では一体サクセスとは何者なのか……
ところどころフェイルの面影が見えるが、フェイルではない。
そしてあの強さは一体どこからきているのだろうか。
シルクは色々聞きたい事ができてしまったが、質問するにも頭の整理が追いついていない。
「あれはディバインチャージってスキルで、俺の仲間から教えてもらった技だ。最初は使えなかったけど、装備が進化して職業が聖戦士に変わった時、やってみたら使えたんだ。」
シルクが疑問を口にしながらも頭で思考を巡らせていると、サクセスが答えた。
「そ、そうでがんすか。ちなみに仲間っていうのは?」
「あぁ、俺の大切な仲間でイーゼっていうエルフだ。今は遠い所にいるけどな。」
「エルフ……でがんすか。前の世界で聞いた事がある種族でがんす。あった事はないでがんすが。」
エルフと聞いて、サクセスの謎は更に深まる。
もしかしたら自分やカリーと同じように、フェイルもこの世界に来ており、そのフェイルがサクセスに技を教えたのかとも予想したが、違った。
まぁ仮にそうであったならば、カリーから聞いているだろうし……それにフェイルは既に死んでいる。
信じたくは無かったが、再会したカリーはあの時ハッキリとその目で見たと言っていた。
カリーが自分に嘘をつくはずもないので、サクセスとフェイルに繋がりはないのだろう。
「へぇー、カリー達のいた世界にもいるんだ。まぁなんだ、とりあえず一回プリズンのところに戻ろうぜ。そこで少し回復したら、先に進むぞ。遅れんなよシルク」
サクセスは、思考に固まるシルクの肩をポンっと軽く叩くとそう言って歩き始める。
そしてシルクはサクセスに肩を触れられた瞬間、まるで全身に雷が走ったように感じると、昔の事がフラッシュバックした。
今のやり取りは、まるであの頃の自分とフェイルだった。何十年経っても未だ色褪せぬ昔の記憶。それが今まさにシルクの脳内で再生される。
※ ※ ※
敵の罠にかかり、仲間と別の場所に転移させられたシルクは、絶対絶命の危機にその場所が自分の死地だと悟った。
見渡す限り、今の自分では到底抗えない敵の大群。
そしてそこに仲間は誰一人としていない。
もはやここまで……ならばこの命尽きるまで戦い抜いてみせる!
そう決意したシルクの前に、突如蒼き光が迸る。
その光が消えた瞬間、周りの敵は全て消えており、そこには一人の勇者が立っていた。
「助けに来たぞシルク。大丈夫か?」
「フェイル様、助かったでがんす。相変わらずその技は凄いでがんす!」
まさかの窮地に、単身で助けに来てくれた勇者フェイル。
どうやって自分の場所がわかったのか?
どうやってこの場所に辿り着いたのか?
他の仲間はどこなのか?
色々と疑問はあったが、それ以上に勇者に助けられた事の安心感が全身を覆っていた。
「あれは俺の最強のスキルだからな。まぁなんだ、とりあえず仲間のところに戻ろうぜ。そこで少し休憩したら、先に進むぞ。遅れんなよ、シルク」
そう言って自分の肩をポンっと優しく叩くと、何事も無かったかのように前を歩いていく勇者……。
(いつか自分もこの人のように……)
あの時の憧憬は未だ色褪せる事はない……。
※ ※ ※
ハッと現実に戻ったシルクは、その目を見開くと、自分を疑う様にその目を擦り、再度サクセスの背中を目で追う。
その目に映るサクセスの後ろ姿は
ーーーあの時、あの当時……
自分が憧れていた勇者の姿そのものであった。
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