第481話ふーむ。とことん相性が悪いなぁ

 おお、これは確かに違う。


 鬼神を全力で殴った事で如実に実感する鬼の力の扱いやすさ、祝福の効果の違いに感動を覚える今日この頃である。


「祝福与えた本人殴り飛ばしながら感動するとかおかしくないか?」


「いやいや、私悪くないだろ。お前さぁー、なんでなんとか勝てそうとかって、希望的観測してる人間の死期を早めようとすんのさ」


「いや、とりあえず言い方が悪かった自覚はあるが聞け。というか聞いて」


 若干涙を浮かべながら懇願する鬼神に、顎をクイッとやって続きを促す。


 まさかそんな態度を取られると思っていなかったのか、鬼神は愕然としながら話を始めた。


 どうやらこの鬼神、本当に私の事を気に入ったらしく、更に私に貢物みつぎものを贈りたいのだそうだ。


「いや、違う。貢物じゃない」


「いやいや普通にモノローグに反応するのやめて貰える? 神だからって私のようになんでも許されると思うなよ」


『いや、貴女だって許されてませんからね?』


「なん……だと!?」


「驚く事ではないだろう! それよりもこっちの話だ。誰が貢ぎたいと言った。誰が!」


「大して変わんないだろ?」


「全然違う。確かに貴様に協力してやろうとは言ったが、その為に試練を与えると言っただけで、貢物を贈りたいと言った訳では無い!」


「チッ、細かい……」


「貴様……」


『ハクアに乗せられると話が進みませんよ』


 おいコラ! それじゃあ私がすぐに脱線するみたいじゃないか! 失礼な奴め。


「で、結局どういう事なんだよ?」


「貴様、自分で掻き回しておいて……」


『諦めなさい。それがハクアです』


「はぁ……。まあいい。ではハクア、獄門鬼がどういったものか理解はしているか?」


「はっ? さっきお前が言ってた通り、地獄門の鎧シリーズを纏った鬼だろ?」


「大体は合っている。だが、実際あれは鬼と言うよりも、地獄門の素材を使った事で宿った怨念が、鎧の力で無理矢理固まっていると言う方が正しい」


 なるほど怨念。


 道理で意思から何から感じられない訳だ。

 鎧の力で無理矢理固まっている。それは言い換えれば、怨念は鎧を動かす為のエネルギーとして使われているだけとも言える。

 そして鎧自体に意思がある訳でもない。だからあれほど激しい攻撃を繰り返してきても、殺意も殺気も含めたあらゆる感情の動きがなかったのだ。


 だからこそあのレベルの強さだったとも、それでもあれほどの強さだったかとも言える。


 ふーむ。とことん相性が悪いなぁ。


「そういう事だ。そしてこれは貴様も予想しているだろうが、獄門鬼を倒す事が出来れば呪いは消え、地獄門シリーズの装備の全てが手に入る」


 ああ、どうして獄門鬼に付いて教えたのかと思ったらそういう事か。


 シリーズを揃える本当の条件、それが獄門鬼を打倒する事なのだろう。

 運良く全ての装備を集める事が出来たとしても、最終的には呪いを消す為に獄門鬼の打倒は必須の条件なのだ。


「そうだ。そしてハクア、貴様は装備を全て手に入れたところで全て使うわけではないだろう?」


「まあ……そうなるかな?」


  獄門鬼の姿を見てわかる通り、その姿は戦国の鎧武者と呼ぶに相応しい全身甲冑だ。

 甲冑の主なコンセプトは受け流し、速度を犠牲にする事で防御力を上げ、相手の攻撃を鎧で受け、間合いを潰し隙を作りだし攻撃するのだ。

 そこで必要なのは防御力と、相手の攻撃を受け止める重さだ。一度の攻撃でいちいち怯む訳にもいかないし、吹き飛ばされるのでは着る意味もない。


 対して私はと言えば、防御力もなくウエイトも軽い。

 防御力を補う為の物だと言われればそうだが、それにしても私の戦闘スタイルとは合わない。

 どちらかと言えば受けるよりも回避が主で、受け流す事も多々あるが、やはりそれが可能な攻撃の種類も多くないスピードタイプ。


 更に速度を最大限生かす事を考えれば、縦横無尽の動きに、立体的な挙動も混ぜる今のスタイル。

 全身を激しく連動させるその挙動は、腰の捻りや腕の振りの、全身で姿勢制御も担っている。

 特に上下運動の激しい私の動きは、腰と足周りが重要、その辺りを覆うのは特に避けたいところだ。


 肌で感じる攻撃の予兆、空気の抵抗、相手の殺気、それら全てを最大限感じるには、少しでも物は身に着けたくない。

 だからこそ今も皆にとやかく言われながら、鉄製の装備を手や足くらいにしか着けないのはそういう理由からだ。

 何よりも、出来る事なら一撃も喰らわずに全ての攻撃を避ける。

 言うほど簡単ではないこれを主軸に戦っている私としては、鉄製の物を着ける事で自分のセンサーを一つでも遮るなど、それこそ死を近付ける行為に他ならない。

 ファンタジー御用達のご都合主義な、動きの阻害が全くないとか、重い装備も本人には軽いなんて物でもそれは変わらない。

 そんな全身甲冑を私が使うかと言えば答えはノーである。


「ああ、それは貴様の戦闘を観ていてわかった。だからこそ地獄門シリーズの装備は貴様には勿体ない」


「うぐ、確かに」


 しかし目の前であれは過ぎた物だと言われると、私だって少し傷付くんだよ。


「勘違いするなよ? 貴様に合わない装備だと言っただけで、アレを着ける貴様が劣っているという事ではない」


「そりゃどうも。んー? だとしてもそれと相手を強化って話がつながらんのだが? てっきり倒しても装備を全部貰えなくて、それを神からの試練的な感じでクリアする事で貰えると思ったのだが、そうじゃなくても貰えそうだし……」


「その考えはいい線いっているぞ。貴様が言う通り、己は獄門鬼を強化する事で神の試練を行うつもりだ」


 ふむ。やっぱりか。


 前に聞いた事だが、基本的に干渉する事のない神達だが、試練と言う名目で干渉して力や武具を与える事は多々ある。

 有名な物で言えば聖剣などが有名だ。


 その他にもあるがそれは割愛。


「己は獄門鬼を強化する事で、地獄門シリーズを貴様に合わせて手を加えるつもりだ」


「ほう」


 つまりは全てを手に入れても籠手とすね当くらいしか使わない私の為に、他の装備も使える物に変えるなりなんなりしてくれると言うわけか。

 確かにそれならお得かも。


「ただ、貴様が勝てるレベルでの強化となると大した事は出来そうにないがな」


「そうなの?」


『普通試練は相手に合わせた難易度になる訳ではないですからね。それをハクアに合わせるだけでもギリギリのラインです。そもそも地獄門の鎧自体が、報酬として適正な物ですからね。そこで少し強化したほどでは自由度は少ないんですよ』


「ああ、そういう事だ」


 なるほど、報酬が良いから私がギリギリクリア出来る難易度に合わせるとダメなのか。


「……因みに、最大限強化するとどうなるの?」


「今の己では昔ほどは強化出来ない。とは言え最大限に強化すればハクア、貴様ではほぼ確実に勝てない。ステータスは貴様の倍、剣技も今よりも更に鋭くなる。加えて最大強化となれば、怨念は呪具である鎧を呑み込み受肉するだろう。そうなれば貴様の勝てる可能性は1%にも満たない」


「ほう……」


 確かにそれは厄介そうだ。


「最大強化した場合は報酬ってどうなる?」


「……そうだな。貴様専用に地獄門シリーズを作り直す事も許されるだろう。通常神の作る品はそう簡単には渡せないが、あのレベルの敵を最大限強化するとなればその限りではないだろうからな」


『そうですね。それを突破出来るのならそれくらい許される範囲でしょう』


「なるほどなるほど……じゃあ、最大強力いってみようか?」


「だから人の話を聞いていたのか貴様!?」


 失礼なちゃんと聞いてたよ。

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