第306話目は覚めましたか?

 何故私がマスコット枠同盟に睨まれているのか、事は数日前に遡る。


 ある日の朝、私がグッスリと眠っているといきなりヘルさんに叩き起こされたのだ。


「うぅ。何? ヘルさん」

「朝早くに申し訳ありません。と、言いたい所ですが普通に起きる時間でもありますよマスター?」

「……人が起きる時間。それは私の眠る時間でもある」

「バカな事を言っていないで起きて下さいマスター。そろそろ卵が孵化しそうです」


 ……Whatたまご?


「卵ー!?」

「はい。マスターが先じ──」

「た、卵って、マジか!? えっ、ヘルさん誰の子? 相手は!? そもそも機人種って卵で子ど──ギャース!?」

「すみませんマスター。思わず手が出てしまいました。それで、目は覚めましたか? まだ寝惚けているようでしたらもう一度、今度はもう一度、今より強く行きますが?」

「あっ、すみません。ごめんなさい! もう覚めました! バッチリです! だから銃口は止めて! 永眠しちゃう!?」


 寝起きで混乱した頭をなんとか立て直した私は必死に土下座を繰り返し赦しを乞う。するとヘルさんは大きな溜め息を吐いて私に問い掛ける。


「マスター。まさかとは思いますが、卵の事、忘れてはいませんよね?」

「お、おう。も、勿論だぜ! た、卵ね。卵。えっと、うん。覚えてる覚えてる」


 ヤベェ。なんだっけ。どっかで聞いた覚えがあるような無いような?


 なんとかバレずに思い出そうと頭を回転させる私を見て、更に大きな溜め息を吐いたヘルさんは、砦でマスターが拾った物です。とヒントをくれた。


 あぁ、あれか。


「うん。覚えてる覚えてる」

「……忘れていましたよね?」

「覚えてるよ! ちょっと記憶の引き出しが引っ掛かって出て来なかっただけで」

「それを忘れていたと言うんです」


 なん……だと。


 そんな私の驚きを他所にヘルさんは説明を始める。


 なんでも空間魔法でしまった事で私の魔力を吸収していた卵は、生まれる前から私と契約状態にあるらしい。(ヘルさんはこれを見越して空間にしまわせていたのだとか)


 そんな卵だが、遂に生まれる事が出来るほど魔力を吸った事で、いつ生まれてもおかしくない状況にあるのだそうだ。


 それを聞いた私は空間から卵を取り出す。

 確かに前とは違い卵自体が脈打つように胎動していた。


「これ。どうすれば良いの?」


 少しビビりながら両手で持ってヘルさんに尋ねればゆっくり魔力を流し込んで下さい。と、返事が返ってくる。


 私はそれに従い少しずつ魔力を流す。

 すると不意にピキッ! と音がして、そのままピシッビキビキッと次第に殻が割れていく。


 そして……


「クルー?」


 なんと中から真っ白な毛の狐に似た動物が産まれ。私の顔をそのクリクリな目で見つめながら、コテンッと顔を傾け不思議そうに見つめていた。


 おぉう。モフモフ様や~。


 私がその愛らしい姿に心を奪われていると、何故かヘルさんが凄く、凄~く、何かを諦めたような微妙な顔をしていた。


 何事? もしや、ヘルさんはモフモフ派ではないのか? しかしそんなヘルさんでもこの肉球を触れば癒される筈。


 と、私が考えていると。何故かヘルさんはこの動物のステータスを映し出し、無言で見るように促して来た。


 なんぞ? もしかして凄く強いとかかな? それならそれでオッケーだよね? まあ良いや。えっと…………ん?


 そこに書かれていたものが信じられず、一度目をキツく閉じ【夢の館】とか、サキュバス部隊の事で忙しかったから疲れてるのかな? 等と考えつつもう一度見てみるがやはり変わらない。


 名前:ノーネーム

 進化:0

 レベル:1/20

 種族:神獣、空天狐

 ▶仮契約の未テイム状態、真名を与える事で正式に契約出来ます


「どゆこと?」


 えっ、この子神獣とか書いてあるんですが?


「だ、駄女神ー!」


『シルフィン:なんですか藪から棒に? うわ。まだこんな時間。私にとってはこれからが睡眠時間なんですよ』


「知るか駄女神さっさと起きろ!」


 何故かヘルさんがお前が言うか。みたいな顔をしているがなんの事かさっぱりわからない。うん。わからないんだよ?


『シルフィン:全く。で、なんですか?』


「これ見ろこれ!」


 私はなんとなくモフモフの毛玉を両手で抱えて天に上げて見る。


『シルフィン:ああ、この間の卵。へぇー可愛い子が産まれまし……たね? ……ん?』


 あっ、気が付いた。


『シルフィン:な、なななな。なんで!? と言うか貴女! なんて所魔族の住みかなんて物神獣を手にいれてるんですか!?』


 それは私が聞きたいよ!


「とにかく、こいつはここに居ても平気なのか? それと、なんであんな所にこいつが居たのかだけ調べてくんない?」


『シルフィン:そうですね。神獣と言えど特に役割がある訳ではないのでここに居るのは構いません。理由については……あっ、これですね』


 なんでも駄女神が言うには、昔、魔王の影響で穢れた神獣をどこぞの誰かが討ったらしいのだ。

 が、そいつはその戦いで全ての力を使い尽くしそのまま死んでしまった。その後何も知らない盗賊がお宝目当てにその場を訪れ卵を強奪。

 しかもその盗賊も道すがらマハドル達に殺され、卵は盗賊共々食料の一つとして回収されたのだそうだ。


 だが、話はそれで終わらない。本来この世界の魔物や神獣などは、親から魔力を与えられる事で生まれる事が出来る。

 しかし、親が討たれ、卵を入手した人物もただの盗賊や下級の魔物、それでは神獣を孵らせるには魔力が足らなかったのだ。


 それがこの神獣が生き残った理由でもある。


 もしもし産まれていればこの神獣は確実にマハドルに喰われ、マハドルもパワーアップしていた為、私達も生き残っていなかった可能性が高いそうだ。


 おぉう。本当に綱渡りの状況でギリギリ勝ちを掴んだんだな。


 まあ、そんな卵はグロスを取り込んだ私の魔力を長らく吸収して、今こうやって産まれたらしい。


「いやー。偶然の勝利ですな」


『シルフィン:本当ですね。悪運の強い』


 このやろう。


 まあ、そんなこんなで駄女神からの許可をもらった私(特に必要性は感じていないが)


 この子のせいで、未来に厄介事が襲ってきそうな気もするが、まあ気のせいだろう。うん。気のせい気のせい。


 その後、色が白という事からフランス語で白を意味する言葉、ブランと名付けテイムを完了させた私は全員に事情を説明。


 大半が何か諦めた顔か呆れた顔、頭を抱える者に腹を抱えて笑う者まで居た。


 皆失礼じゃないかな!?


 そんな中、歓迎をしていない空気を醸し出す者達が居た。それこそがマスコット枠同盟のアクア、シィー、キュールだった。


 中でもキュールは同じ動物型として大変危機を感じたようで、ここ最近は私達の訓練に交ざり技を磨いていた。


 そしてアクア、シィーも私にべったりなブランを羨ましがるような、妬ましいような視線で睨むのだった。


 しかし、数日たってもまだ続くとは、これからどうなるのやら。

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