第315話相変わらず凶悪

 現在糸を使い天井に逆さまになって張り付いた私は、息を潜め気配を殺しながらじっと待ち、モンスターが通り過ぎるのを焦らずに見つめる。


 今私の居る階層はとても薄暗い。本来ならこの薄暗い通路では、何時どこから現れるかわからないモンスターに対処しないといけない探索者には不利な場所だ。


 しかし私はそれを利用した。


 ダンジョンの暗い通路では注意しなければ天井に張り付いた人間など見つけられない。

 そんな私の眼下を何も知らずに通りすぎるインプと呼ばれる小型の悪魔。


 この階層のモンスターはほぼ全てがインプで構成されていた。インプはその手に武器を持ち魔法も扱える厄介な相手だ。しかもこの階層は一番下のダンジョンの中では一番狭い場所なのだ。


 一体一体ならそこまで脅威でもないが、階層の至る所を三匹一組の状態で索敵するインプに見付かれば、たちまち近くの隊が駆け付け一気に十体以上と戦う事になってしまう。


 そんな訳で私の選んだ方法はこれだった。


 インプが通り過ぎた瞬間。私は逆さまの状態で立ち上がり、最後尾を歩く無防備なインプの後ろから頭に手を伸ばし、両手で頭と顎を逆方向に思い切り捻り頭を180°回転させインプの頸椎を破壊する。


 何も分からずに首の骨を折られたインプは、糸の切れた操り人形のようにカクンと体から力が抜けその場にドサッと倒れ込む。


「ギー?」


 物音に気が付いた前を行く二匹のインプが後ろを振り返るが、その頃には私は既にインプの死角に移動済み。


 倒れたインプに近寄り死体に手を伸ばそうとするインプの真上から、天井を蹴り全ての力を刀へと変化させた白打に乗せインプの首を切り落とす。


「ギッ!」


 一瞬呆けた後、直ぐ様臨戦態勢を取るインプだがその時には既にもう一体のインプへと攻撃を繰り出す途中だった。


 遅い!


 刀を振るい四肢を切り落としたインプは痛みからか、それとも仲間を呼ぶ為なのか大きな声を上げる。


 狙い通り仲間を呼んでくれたインプを始末した頃、声を聞きつけた仲間のインプが左右の通路から姿を現す。


 私が居る場所は丁度Hの真ん中部分、予めここでインプが仲間を呼べば、このフロアの残りのインプが全てここに集まるのは分かっていた。そして左右の両側から来たインプの数は左右にそれぞれ15体、総勢で30匹にもなった。


 インプは狙い通り通路の端から私へと魔法を放とうと、自らの正面に魔法陣を展開させる。


 あー、ここまで予想通りだと気分が良いな。


 私は【結界】を使いインプ達を囲うと指をパチンッ! と鳴らし、予め仕掛けておいた罠を作動させる。


 その瞬間、足元から炎が吹き出しインプ達を襲う。


 私程度の魔法攻撃力ではインプを一撃で葬る事は難しい。しかし、こうやって時間をかけた罠ならばそれも可能だ。とは言え、炎の噴出口に居たインプは倒せたものの、離れて居たインプ達は重傷ではあるが未だ生き残っている。


 まあ、もう詰んでるけどね。


 罠を作動させる前に【結界】を張った事であの中は密閉されている。そんな中で炎が生まれれば当然中の酸素は全て使い尽くされる。


 そんな窒息状態の中、魔法を使うような集中など出来るわけもないインプ達は必死に【結界】を叩くがその程度で壊れる程やわではない。元々炎でダメージを受けていたインプ達はそのままなすすべも無く絶命したのだった。


「ふいー。終わった終わった」


 しかし、これだけ倒してもまだレベル上がらんのかー。


 そんな事を考えながらスキルで遺体を取り込みそのまま通路を進んで行く。


 最初からこの展開を狙っていた私は先程のように小隊を次々襲い、最後に残りの全ての小隊を一網打尽に出来るよう動いていた。


 そのお陰で何個か前の小隊をサックり殺った時、暗殺者なんて称号を得てしまった。そして同時に暗殺術なる複合型スキルもゲットした。詳細はこんな感じ。


 複合型スキル【暗殺術】

 効果:無音歩行、気配遮断、危機察知、暗視、罠師、背後攻撃、急所攻撃、弱点攻撃、不意打ち、薬毒物効果上昇、その他薬物系の効果を得る。


 はい。こんな物騒なものを覚えました。


【無音歩行】は【忍び足】の上位スキル。【背後攻撃】とかは元々覚えていたものだけどこちらの方が少し効果が高いらしい。【不意討ち】は攻撃が成功するまで気が付かれなければダメージが上がるスキルだ。


 なんとも私らしいといえば私らしいスキルを得てしまったものだ。全く皆に何を言われるやら。


 しばらく歩き、とある一室に辿り着いた私は宝箱を前にウキウキしてる。


【脳内座標】と魔領の複合技で調べた結果、ここ以外の部屋は全て罠しか無い事が分かった。そして、ここにだけダンジョンの定番宝箱がある事を予め調べてある。


「さーて、ご開帳」


 中を開けるとそこには籠手とそれに繋がる鎖が入っていた。


 ふーむ。【鑑定士】


 アイテム【地獄門の籠手、地獄門の鎖】

 種別:腕防具

 性能:物防200、魔防200、破壊不可

 効果:決して壊れない籠手と鎖。鎖は使用者の魔力次第でどこまでも伸び、操る事が可能。また鎖は使用者の意思に応じ非物質化も出来る。

 説明:地獄門を素材としたと言われる籠手と、地獄門を封じていたと言われる鎖。


 スゲー。私の防御力の1/4あるよ!? てか、言われるって噂みたいな感じ? だって封じてた鎖があったらそれもう封印解けてるよね? な、何かのフラグになってないよな。


 籠手を手に取り左腕に着けると、少し大きかった籠手は私の腕にピッタリと張り付きまるで何も着けていないかのような軽さになった。


 おお、スゲー。


 感動しつつ鎖を動かすイメージをすると籠手に巻き付き少し垂れ下がった鎖が私の足元まで伸びていく。

 そのまま目の前の宝箱に狙いを定めると、まるで意思を持った蛇のようにジャラジャラと宝箱に巻き付いた。そしてそのまま消えろ! と、念じると鎖がスッと消え、中に浮いていた宝箱が重力に従ってガゴンッと落ちた。


 いいね。使える。


 私はひとしきり性能を確かめて、今度は上へと続く階段のある部屋を目指す。


 調べて分かったのだが実はこの階層。ど真ん中に大きなホールが在り、上の階から降りてくると戻る事は出来なくなり、モンスターが大量に待ち構えている場所に放り込まれる仕様になっているのだ。

 しかもここの壁はアリシアの全力攻撃レベルの威力が無いと壊れない程に頑丈だ。


 全くなんて鬼畜仕様だ。しかし、私ならそこに遅効性の麻痺毒とか散布するな。だんだん体が動かなくなってやっと勝てると思った頃に麻痺が効く。うん。中々だね。


 ホールのドアの前に辿り着いた私はスキルの【猛毒調合】を使い。自分に使われたらクソゲーと、コントローラーを投げるレベルの毒玉を作り出し更にそこに疫も混ぜ込む。


 うわ~。相変わらず凶悪。


 完成したのは疫猛毒玉。これの調合には一分近く集中しなければいけないので、戦闘では使えない私の奥の手の一つだ。前にゴブリンに投げ付けてみたらとても口では言えないモザイク必須の感じになった。


 現に一緒に居た澪はその日の夕飯は全く食えなくなった程だからね。


 用意が整った私はドアに手を掛け深呼吸を一つ。そして……ガバッ! と、開けると部屋の真ん中に向けて疫猛毒玉を投げ付け、同時にもう片方の手でファイヤーボールを高速で放つ。


 するとファイヤーボールは吸い込まれるように疫猛毒玉に当たり、ボシュッ! と、音を立てて気化していく。


 それを確認した私はドアを閉めて土魔法でドアを補強。


 ついでに周りの壁もやっとこーと。


 そこまでやった私はドアに寄りかかり、ガダルから借りパクした魔族の本を、凄く嫌そうな顔をされながら作って貰った弁当を食べながらゆっくり読み始めるのだった。

 

「はぁ、肉旨し」

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