第314話つくづく値踏みされてるな

 さて、この場所の全貌、ガダルの思惑を知った私は、昼食に招かれ料理を食べながらガダルにこう宣言した。


「あっ、昼飯食い終わったらここから脱出するから」

「んな!?」


 私の言葉に即反応したのは執事風の男。立場をわかっているのか! とか、何を考えているんだ! と、私に喚き散らす。


 うるさいなー。耳元で叫ぶなんて執事の風上にも置けん愚行だ。執事はもっとこうね? 紳士な初老こそ相応しくね?


 それにしても、と。私は改めてガダルと執事風の男を見る。


 今まで魔族を何人か見てきたけどこの二人はやっぱり違うな。


 肌の色と角以外、見た目が人間とあまり見分けが付かないが、内側から感じるプレッシャーは人間なんかとは比較にならん。


 もちろんグルドやグロス、カーチスカなどとは比べ物にならず。特にガダルはドラゴンであるトリスに勝るとも劣らない程の力を感じる。


 こんな奴でさえ使われる側かよ。


 内心止まらない動揺を悟られないように、挑戦的に笑いながら執事の言葉を受け流しガダルを観察する。


 推測が正しければ反対はされないはずだ。


 そんな考えを胸に覗き見たガダルは少しポカンとした後、口を押さえて笑い始めた。


 うお。ちょっとびっくり。


 驚く私と執事を余所にひとしきり笑ったガダルは、やはりお前は面白い。と、言いながら私が脱出する許可をくれた。


 まっ、そうなるよね。


 部屋に戻った私は、空間魔法のボックスから装備を取り出し整えながらこの場所の事を考える。


 調べてわかった事は、どうやらこの場所は砦などでなくダンジョン最下層の更に一つ下だということ。これは先ほどガダルにも確認を取ったので間違いない。


 ダンジョンの形は分かりやすく言えば逆三角形。下の階に行けば行くほど狭まるようになっている全10層のダンジョン。


 そして、普通とは違う所が一つある。


 それこそが私がガダルに対してあんな事を宣言出来た理由でもある。


 普通、ダンジョンは入り口から下層や上層、つまりは奥に行けば行くほど敵が強くなるものだ。しかしこのダンジョンは、下層から上層に向かう度に敵が強くなる様に配置されている。しかも、敵のステータスは私に合わせたかのように段々と強くなっていっているのだ。


 私の逃亡を阻止したいならそれこそ強いモンスターを下層に集中して集めれば事足りる。


 これではまるでこのダンジョン自体が私を育てる為に調整されているようだった。こう思った時、私はガダルがこのダンジョンを使い私を成長させようとしているのだと考えた。


 逃げ出さなければそれも良し。逃げだしたとすれば地上に着くまでには確実にレベルアップしている。もしも途中で力尽き死んだとしてもそれまでの余興なのだろう。


 自分に釣り合う女にする為か、それとも戦いをより楽しむ為には今の私では力不足なのかはわからない。


 私を嫁に云々が果たして本気なのかは知らないが、ガダルの目的が私を強くさせようとしているのならばそれでも良い。


 どうせなら精一杯利用させて貰おう。


 ついでに質問しまくって呆れながらも教えて貰った事だが、どうやらダンジョンには手を加える方法が存在するらしい。


 そもそもダンジョンには突然現れる物、長年放置されていた所に魔力溜まりが出来てダンジョン化する物と他にも様々な理由でダンジョンになるのだそうだ。


 そしてそんな中、時折強い力を持ったダンジョンが生まれる事がある。そんなダンジョンにはダンジョンの核とも言えるダンジョンコアなる物があるのだそうだ。


 そしてなんとそのダンジョンコアを自分の魔力で染めると、そのダンジョンのマスターとして認識され、ダンジョンを好きに作り変える事が出来るらしい!


 それなら誰でもダンジョンマスターになれるのでは?


 それはもっともな疑問だ。だがそれにも幾つか盲点がある。


 まず一つ。今の人間、亜人を含めても魔力を直接使うというのは中々に難しいらしく、染められる者が極々少数しか居ないのだそうだ。


 これは駄女神がスキルや魔法を使いやすい形にしたからこその弊害とも言える事かも知れない。


 まっ、補助輪付けた人間がいきなり無くなってもマトモに自転車乗れないよねー。


 それこそ、歴史的な大賢者とか大魔法使いとかそんなレベル奴しか出来ない事らしい。


 さて、そんな魔力を直接使うという方法だが、実は魔族や魔物ですらそうそう出来る事ではない。


 そもそも魔族はダンジョンに興味を示す事が少なく、魔物ではコアを染めるほど魔力を使えば、他の魔物に殺されてしまう可能性もある事から少ないのだ。


 そんな訳でほとんどのダンジョンは産まれたままの状態で、周囲の魔力を取り込みモンスターや宝箱を自動で生成している。


 そしてガダルは今回、その内の一つのダンジョンのコアを染めた。と、いうことでここはそのダンジョンコアのある本当の最下層に、ガダルが作った居住スペースなのだそうだ。


 良いな! 私もダンジョン経営してみたい!


 などと思ってみてもまずはここからの脱出が最優先事項だ。

 曰く私でもダンジョンコアを染める事は出来るのでここを奪う事も考えたが、ガダルのような強者が染めた物を私が染め直すには時間掛かるだろうから、最悪染めている最中に連れ戻され何も出来ずに終わる可能性の方が高い。


 それならガダル達が居なくなった後にでも戻って来て、それから手にいれた方が楽だし賢い選択だよね。


 さて、そんなもろもろの事情を加味して建てた前提条件は、見事的を射ていたためガダルから無事許可をもぎ取る事が出来た。


 何もこれはガダルの予想の斜め上をいってやりたいと思っただけの行動では勿論ない。私がガダルに直接あんな事を言ったのはひとえに牽制の為だ。


 これは勿論ガダルに対してではなく、もう一人の執事の方。


 私が宣言した事に驚いて文句を言っていた事から分かる通り、執事はガダルが私の事を強くする為にこの場所を作ったことを知らない。


 これは下手をすれば逃げ出してダンジョンを攻略している最中に、あの執事とも戦わなければいけなかったかも知れないのだ。


 しかも、かなり早い段階で。


 どれ程警備が緩く見えてても、ここは奴等のテリトリーなのだ。どんなに上手く逃げたとしてもすぐに察知され捕まえられてしまうだろう。それを阻止するために敢えてあんな事を言って、執事にガダルの考えを教えたのだ。


 そして恐らくガダルもそれを理解したからこそ笑っていたのだろう。その証拠に最初こそ予想外の私の行動と発言に驚いていただけだが、許可を出した時の瞳は私を見据え内面を探るような瞳だった。


 つくづく値踏みされてるな。


 だが、ある種の賭けであったそれもクリアした事で私はこのダンジョン攻略に専念出来る。


「さて、それじゃあそろそろダンジョン攻略と行きますか!」


 こうして私の一人ぼっちのダンジョン攻略が始まったのだった。

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