第225話もう絶対暫く働かないからな!
戦場に怒声が響き互いの命を削り合う。
「十秒後、魔力砲来るぞ!」
「「おお!」」
私の声に反応した攻撃部隊が波の様に引き、防御部隊が大盾を構えて衝撃に備え、後衛からは更に防御部隊の前方に魔法部隊の【結界】と防御力upの魔法が掛けられる。
直後マハドルの放つ黒い魔力の奔流がビームと成って防御部隊を襲う。
攻撃が【結界】に当たり、数秒と持たず破壊されて行く。
だが、そのおかげで威力は確かに弱まり大盾を構えスキル【金剛】を使った防御部隊は何とか堪える事が出来た。
そして、その頃には事前に頭上に投げたクナイがマハドルの頭を飛び越える。私は【瞬雷】を使いマハドルの頭上に移動すると、足に【魔力装甲】を施し蹴技【剛脚】を脳天にお見舞いする。
打ち合わせた訳では無いが、私の攻撃に合わせた瑠璃と澪の二人が、挟み込む様にマハドルの顎を下から強襲する。
上下から無理矢理加えられた衝撃にビームを放つマハドルの口は無理矢理閉じられ、バフンッ! と、間抜けなくぐもった音が鳴り、同時にマハドルの頬が内側からビームの圧力で爆ぜる。
「グォォォオオォ!」
その隙を逃さずフーリィー、メルが左からカークス、ジャックが右からコロ、エレオノが正面からスキルを腹に叩き込む。
その衝撃に傾ぐマハドルに攻撃部隊のスキルが次々に繰り出される。
「衝撃、備えろ!」
マハドルがスキルを避ける様にその場で垂直に跳躍し、同時に腕を地面に叩き付ける。強烈な打撃に地面は揺れ、そのまま衝撃を吸収しきれずに大地が割れ爆ぜ破壊の嵐を撒き散らす。
同時に攻撃を放ったマハドルの周りを【結界】が包み込む。
だが……。
それは読めてるよ。
「【天泣】」
アリシアの声が響き渡り、マハドルに遠距離攻撃部隊の攻撃が降り注ぐ。
マハドルの【結界】には、パターンが在る。
1.スキルの大ダメージで魔法防御。
2.魔法の大ダメージで物理防御。
3.物理ダメージが増えるとスキル防御。
4.ダメージが蓄積すると物魔完全防御で回復する。
ちなみに物魔反射は、それぞれの【結界】である程度ダメージを受け止めると発動する。これは恐らく受け止めた力をエネルギーにでも変換強化しているんだと思う。
そしてこの【結界】は、取り込まれた魔族達の魔石が互いに干渉、それぞれの特性によって変わるのだと思う。つまりは物理ダメージに重きを置く奴、魔法ダメージに重きを置く奴、スキルダメージに重きを置く奴そして、中核としてマハドルの力がそれぞれの【結界】を強化しているのだろう。
そして同じ【結界】は一定の時間しか持たず、また攻撃に合わせ【結界】を変える事無い。
それは考えてみればわりと当たり前だろう。
大技を放てば直ぐに同じ攻撃は使えない。だからこそ今受け終わった攻撃に終わった後に対処するのでは遅すぎる。それに攻撃の効率を考えれば次に来る大ダメージに備えるのは当たり前だ。
普通ならそうだ。スキルで大ダメージを与えたらその隙間を埋める様に魔法や他の攻撃を加える。恐らくこれも核となったマハドルの本能から来る物だろう。
ダメージを受ける度に組み合わせが変わって発動してる感じかな? 因みにヘルさんによると一定以下のダメージは常に無効になっているらしい。なので私が戦う前に吠えた勝てる算段は在る意味崩壊中である。
まあ、皆気が付いて無いし言う必要は無いよね? 私は言わないだけであって騙している訳では無いし! そう皆の士気を下げない為に敢えて言わないのである!! みたいな?
アリシア達の攻撃が【結界】を越えてダメージを与える。マハドルはその攻撃を煩わしそうに腕を振るって叩き落としながら、足元に居る私達を踏み潰そうと何度も足を叩き付ける。
それでも更に攻撃を加えていると「ヴぁぉぉ!」と、いきなりマハドルが声を上げた。
「な、何だ!」
「こっちもだぁ!」
「くそ! 何なのよ?!」
声のした方を見ると地面から影の塊の様な、人の形や獸の形をした真っ黒な何かが、地面に出来た黒い水溜まりの様な所から現れた。
なっ!? ここで手下を召喚!? くっ、ヘルさん!
〈数三十、適正レベルはおよそBランク相当です。スキル不明、複数のタイプも確認しました〉
……くそ、しょうがない!
"攻撃部隊及び防御部隊の半数は新たに出現した個体の掃討を、残りの防御部隊は遠距離部隊と合流後、魔法部隊と協力して引き続きマハドルへの攻撃を頼む。私達はこのままマハドルの対処だ"
"""了解!"""
私の指示を聞き攻撃部隊が影の魔物をマハドルから引き剥がして連れていく。
「防御部隊がいなくなった! 全員避ける事を最優先に! 人がいなくなった分の広さを使え!」
私が言うまでも無く全員がそれぞれに、人が居なくなったスペースを使い縦横無尽に動き攻撃を避けて行く。
流石!
マハドルの攻撃の合間に上空からヘルさんの魔力砲が的確に放たれマハドルの攻撃の邪魔をする。ヘルさん曰くマハドルのHPが半分を切ってから、マハドルの体の周りに常時薄い【結界】が追加されたらしい。
流石ヘルさん良い仕事!
カークス、ジャック、フロストの盾持ち組が、攻撃を捌きながら的確にダメージを与える。
な、何か……光る十字架や、火の鳥、光を纏って突撃したりしてません? そういう派手な技ってどうやって覚えるの? 私、地味なのしか無いんですけど!?
エレオノはいつの間にか血の様に赤い装備を纏い、手に持った紅い剣から真紅の斬撃を放つという私の知らない攻撃を繰り出す。
何その技と鎧? 真紅の鎧とか超格好良いんですけど! 似合うかどうかは別として私も欲しいんですけど!?
コロはスキルで造り上げた魔剣を両手に持ちマハドルに振り下ろす。すると、左右の剣から赤と青の炎が生まれマハドルを襲う。
派手! 羨ましい! コロさんスゲー!
フーリィーとメルが「「オクタプルスタッブ!」」と叫び、細剣を使った刺突スキルがマハドルの肩口をそれぞれ八回連続、計十六の攻撃が突き刺さる。
おお、こ、これも格好いいぞ!
澪、瑠璃もそれに合わせ攻撃を加える。澪はスキルで造り上げた氷の双剣で、瑠璃はいつの間にか扇を両手に持っている。
「
「三ノ形・
二人の両手に持つ武器の連続攻撃はフーリィー達の逆の肩に炸裂する。攻撃が当たるとマハドルの肩は内部まで凍ったのか、パキッ! バキッ! と音を立て腕の一つを落とす。
うわぁ……えげつねぇ……。そして一ノ型とニノ型知らないんですけど。
しかし、そこまでしてもマハドルは倒れずに踏み留まり反撃を加えてくる。だが、こちらとてここで終わる訳が無い。
5、4、3、2、1、今!
「今じゃ!」
新しく張られた【結界】の効果が切れるギリギリのタイミングで、私の思考を呼んだ様にクーの号令が掛かり火系統の魔法が放たれる。それはヘルさんに各属性のダメージを算出して貰い判明した弱点属性だ。
爆炎が轟き空気が爆ぜ熱風が吹き荒ぶ中「ウカァァォオォオオ!」と、マハドルの咆哮が鳴り響く。すると、その掌にまたしても人間大の黒球が現れ、澪達遊撃部隊と手下と戦う攻撃部隊を襲う。
防御部隊が必死に防ぐも、大盾に当たった瞬間に起こる大規模な爆発に何人もの人間が吹き飛ばされる。そして、全員が黒球に掛かりきりになるとマハドルが自身のHPを回復しようと物魔完全防御の【結界】を張った。
「させるかよ!」
予め読んでいた私は攻撃に参加せず上に駆け登っていた。そして、完全防御の【結界】の上からまたも侵入すると魔法を準備する。
扱うはオリジナル魔法
コンセプトはインフェルノを一人で扱うと言う物。
その為に今まではただ漫然と風魔法で集めていた風を、今度は意図的に酸素をかき集め火を灯し燃焼させ、更に酸素を取り込ませ燃焼を加速させ温度を上げながら圧縮する。
そして、出来上がった蒼い炎の塊を【結界】で包み込み、その周りを更に酸素と水素で包み、更に外側を【結界】で包む二重構造にする。
私は集中しながら蒼爆を造り上げると、マハドルに向かい高速で打ち出す。そして同時に「
これもまた私のオリジナル魔法、題して音声魔法アインツ、ツヴァイ、ドライだ。
効果はどんな複雑な手順の魔法であれ、MPさえあれば続けざまに全く同じ魔法が撃てると言う物だ。
ただし、私が作った物なだけあり欠点も在る。それは、消費MPが少しずつ増えて行くのだ。
アインツで約1.3倍、ツヴァイで約1.6倍、ドライで2倍になる。まあ、幸いな事に私の魔法は効率良く効果や威力を上げている為、そこまで大量にMPを使う物が無いのが救いではある。
とにかく、この魔法のおかげで即興で作った魔法を連射する事が可能なのだ。因みに作ったのは良いが何故か皆には難しいらしく、教えても全く使えずにこんな魔法は「非常識だ!」と、言われまくった。
何故だろう? 解せん。
そんな私の蒼爆がマハドルに接触すると同時に【結界】が解け、蒼炎と酸素、水素が混ざり合い爆発を起こし、それが続けて四度同じ所で大爆発を起こす。
うん。良い威力だ。良い仕事した。やっぱり化学と魔法は相性がイイね! ネット小説ありがとう!
爆風を【結界】で防ぎながら落下する私目掛けマハドルの拳が迫る。私は何とか回避するも完全には攻撃を避けきれず、攻撃は左肩をカスってしまう。
「ぐうぁ!」
ベキャァッ! と、言う骨が砕ける音が私の中に響き同時に体の左側の感覚が無くなる。
クソ! 【魔力装甲】もこのレベルには役に立たないか。足は……動く、けど……上半身の左側は完璧に潰れた。
私は吹き飛びながら自分の状態の把握に努める。
同時に【結界】を何枚も自分の後ろに展開して行く。バキッ! バキバキ! バキバキバキッ! と、薄く張った【結界】を背中で砕きながら勢いを殺して何とか着地に成功した。
私の視線の先にはマハドルが自身を完成させる素材として、そして同時にダメージを負わせた脅威として私を見据える……。
コレだけ私に注目してりゃ気が付かないよな!
「アリシアーーーー!」
そう、私が回復を一人で邪魔したのも、わざと攻撃をカスって飛ばされたのもこの為だよ!
見上げた先にはこの世界に来た当初から行動を共にする、私の自慢の頼れる仲間が空中に立っている。その格好は紅蓮の炎をそのまま纏った様な装い。チラチラと火の粉が舞い、それがまた只でさえ幻想的なアリシアの雰囲気を更に引き立てる。
あれが……【精霊融合】したアリシア……はは、聞いてはいたけどスゲーや……本物の精霊みたいに綺麗だ。
一瞬見惚れた私はそんな場合では無いと思いだしマハドルへと疾走する。そして同時にこの戦場に似つかわしくない澄んだ歌声の様な涼やかな声が響き渡る。
「──罪火の炎、復讐の炎、全てを焼き尽くす業火よ。我が難敵に罪火の鉄槌を与えん!」
其の声が詩を紡ぐ度にアリシアの頭上に炎の光球が次第に大きくなっていく。そしてアリシアは集中する為に閉じていた目を見開くと最後の言葉を力強く叫んだ。
「フレアノヴァ!」
魔法名を唱えた瞬間、アリシアの頭上に在った炎の光球がマハドルに向かって落ちていく。
そして本能的に危険な攻撃と悟ったのか、思わず全ての腕でガードしたマハドルの腕に光球がぶち当たった。ドガァァォァア! と、爆発と共に盛大な十メートル程の火柱が立ち上る。凄まじい熱量と威力なのは誰が見ても明らかだ。
何であんな子が私なんかの奴隷なんてやってんだろう? ──そう、思わず思って仕舞うのは仕方ない事だと思う。
十数秒続いたその炎の蹂躙が掻き消えると、そこには残った全ての腕が炭と化し煤に染まったマハドルが立っている。
やっぱり、これでも耐えきるか。
大技を出したアリシアはその一撃に全てを込めたのか、そのまま落下してヘルさんとアクアに抱き止められる。そして、私の目の前ではエレオノといつの間にかやって来ていたクーが同時に「「シャドーバインド」」と、魔法を放つ。
マハドルの影が生き物の様にうねりマハドルの体を縛り上げる。更に澪が【
それでも暴れるマハドルを全員が必死に抑え付ける。
身体中が痛い。息が苦しい。頭がふらつく。
でも、それでも良い。
走れ! 集中しろ! 積み上げろ!
正直に言えば全てが決まった行動じゃない。少しでもタイミングがずれれば失敗する状況下で、打ち合わせられた物は少なかった。
走り寄り魔石の集まる場所へ飛ぶ私は、周りを見る事も無くただこの一撃に全ての力を集中する。
それでも只信じれば良い。そこには絶対に二人が居ると──。
繰り出す拳が触れた瞬間、全ての力を拳を媒介にマハドルの体に叩き込む。
「「「ハアァァァァァァァ!」」」
水転流共闘奥義【破極】
重なる声と共に異なる三方向からの衝撃が内部に伝わり、その中心部の一点に収束し衝撃が重なり合い増幅していく。
出し切れ! 絞り出せ! この一撃に全てを出し切れ!
伝われ! 伝われ! 砕けろ!
「「「行っけえぇぇぇ!!」」」
バキンッ!
瞬間、聞こえる筈も無いのに確かに私には魔石が砕ける手応えと音が聞こえた気がした。
すると、マハドルの体は大事な支えを無くしたかの様にヒビが入りドロドロと崩れていく。そして、一気にボンッ! と、音を立て灰へと変わり辺りに飛び散る。
あ~れ~。
▶ハクアのレベルが…………
全てを出し切って指一本動かす気力も無い私は、マハドルが吹き飛ぶ衝撃に何ら抵抗する事も出来ずに落ちていく。
う~ん。困った。動けん。これもしかして頭から落ちて死ぬんじゃね?
そんなある意味最悪な未来予想図は、飛び込んで来たエレオノに抱き抱えられ何とか回避出来る。見れば澪はフーリィーが、瑠璃もアリシアをアクアに任せたヘルさんに回収されていた。
「ハクア大丈夫?」
「レベルアップで怪我は治ったけど正直指一本動かない。と言うか、動けても動きたくない。このままエレオノの胸に顔を埋めて眠りたい。と言う訳でお休み」
私は言うだけ言うとエレオノの胸に体重を全て預け色々と柔らかさを堪能する。エレオノは真っ赤になりながら何か言ってるがそれは無視だ。無視ったら無視!
頑張った私へのご褒美タイムだよね? あ~。疲れた。もう絶対暫く働かないからな! 引きこもり生活万歳!!
そして、私は目を閉じた。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
砦から少し離れた崖の上、砦を一望出来るその場所にハクア達の戦いを見ている人影がある。
年の頃はハクア達と変わらない位の少女だった。しかし、その印象は異様の一言だった。
【黒】
一言で現すのならその一言。
その様相はこの世界では着る者など居ない筈の黒いセーラー服、足には真っ黒なタイツ、黒い靴を履いている。更には腰まで伸びる夜空を閉じ込めた様な黒髪。そして、申し訳程度に出た透き通る様な白い肌と、胸元の赤いリボンが寄り一層少女の黒い格好を引き立たせ、少女の精緻な顔の造りが更にその幻想の様な印象を際立たせる。
「ふふっ、ああ、ああ、やはり貴女は美しいわ。貴女はそうで無くてはね白亜さん」
歌う様に、慈しむ様に、鈴の音を連想させる様な声で──。
そして、そんな中にも得体の知れない妖艶さを滲ませながら少女の声はひどく愉しそう奏でる。
「助ける事など出来ない筈だった。勝てない筈だった。挑んだ所で散る筈だった。及ばない、殺される。それが当たり前だった。それでも貴女は決して諦めず挑み続ける。足らないと自覚しながら。そんな
楽しそうに、愉しそうに、少女は更に歌い続ける。
「ああ、何て素敵なの! 傷付き倒れても、それは貴女の中心には届かない。折れない。諦めない。傷付く度に貴女の輝きは研ぎ澄まされていく。
愛でる様に、愛を囁く様に、少女はその声で奏で続ける。
「ああ、早く会いたい。貴女を傷付け傷付けられたい! 貴女のその光りを、輝きを、踏みにじって絶望に歪ませたい。でも……まだ、早いわね? 私もせっかく戻って来たんだもの。貴女はもっと、もっと、もっともっともっともっともっと強く美しくなって貰わないと、貴女が一番輝いた時には殺し愛いましょう白亜さん。ああ、とても素敵。かつては呪った神を! 私は今、賛美する! 私の思った通り! 貴女は生と死の狭間でこそ輝き燃える! ああ、貴女を傷付け、犯して、踏みにじり、殺して食らう。その時を私はずっと待っているわ。ふふっ、楽しみ♪ 早く、早く会いましょうね。私の愛しい愛しい白亜さん……」
その言葉と共に少女の姿は虚空へと消えていった。
後には何も残らない。誰にも知られない狂おしいまでの愛の囁き。その少女の言葉は誰にも聞かれる事無く空気の中に溶けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます