第224話"私のスカイボードを壊してくれた奴に鉄槌を下す"

 マハドルを引き付けた私はこちらに来ようとする皆を引き留めて部隊の再編成を指示する。


「そんな事を悠長にしていたら一網打尽だぞ!」

「大丈夫」


 澪の言葉に私はそう返し、ヘルさんに頼んでこの場の皆に私の言葉を届けて貰う。


「ヘルさんお願い。双方向は主要な奴だけ、実りが在りそうな事だけこっちに流して」


 〈了解しました〉


 ヘルさんの準備が整った事を確認して私は作戦を伝え始める。


 "良いか。まず大前提として恐らく最初に私を殺すまではこいつは私を標的にする筈だ"

 "何でだ? 根拠は"

 "お前も不思議に感じた筈だ澪。時折攻撃でも回避でもない無駄な動きが有っただろ? それはモンスター。もっと正確に言えば魔石を狙ってたんだ。恐らくは本能的に暴走を抑える為だろうな。同格の魔族だと取り込むのに拒絶反応が出るが、格下なら出ないんだろう。素材を繋ぐ繋ぎとして使うと言えば分かりやすいか?"

 

 穴から這い出して来たマハドルの攻撃をスキルを使いながら避け続け更に説明を続ける。


 "さて、問題はここからだ。まず皆には今までの攻撃で怪我をした人間を下げて、新しく部隊を再編して欲しい。今まで見てたからごちゃ混ぜでも対応出来るだろ? その際盾役は多めに作って交代を密にしてくれ。更に直接攻撃はマハドルの動きに対応出来出来てた人間に絞ってくれ"

 "分かりました。ですがそれでは攻撃部隊に割り振れる人間が少なくなりすぎるのでは?"

 "フーリィーの言いたい事は分かるけど、ここから先は怪我人をいちいち援護しながら撤退させるのは難しくなる。それなら最初から対処出来る人間で固めて、範囲攻撃で後衛がやられないようにする方が効率が良い。それでも怪我をすれば救出はするけどね"

 "嬢ちゃん【結界】の方はどうするんだ?"

 "それも見当は付いてる。まず【結界】の種類は、物理防御、魔法防御、スキル防御、完全防御、物魔反射の五種類在る。ここまでは良いか?"

 "スキル防御って何ですかハーちゃん?"

 "スキル防御はそのままスキルのみに反応する物だな。スキルのみだから通常攻撃は通る。これの対処はスキルを七回当てる事で消えるみたいだね"

 "成る程そういう物だったのか"

 "ああ、見た感じ規定数当てるまでは永続だな。逆に他の物は時間経過か攻撃をヒットさせれば解除される"


 そこから私は今まで見ていて分かった事に推測を加えて話していく、特に【結界】の切り替わり条件等に対しては、検証例が少ないから私の推測の部分が多いが、多分かなりの確率で間違いは無い筈だ。


 "……あれだけの時間で良くこれだけのパターンが分かったわねハクアちゃん"

 "【結界】の条件に付いては頭に叩き込んだが、それ以外の事に付いては案は在るのか"

 "もちろん。でもその前に……ヘルさんどう?"


 〈はい。やはりマスターの予想通りの様です〉


 クソ、やっぱりそうか。


 "何が予想通り何ですかご主人様"

 "まず、魔物や魔族の核として魔石が在るのは皆知ってるよね? 私は最初道具が無かったから直接解体して知ってるけど、魔石は体の中で殻みたいのに覆われて守られてるんだよ"

 "初めて知ったわ。でもそれが?"

 "今のマハドルにはそれが無い。正確に言えば核となるマハドル以外の魔石。多分取り込んだ他の魔族だろうね。今のマハドルはそいつらの魔石が殻に覆われず体の中に三つ、血流に乗って巡ってる状態で、計四つの魔石が体の中に存在してる状態何だよ"

 "つまり、四回殺さないといけないとかってオチか?"

 "そ、そうなのハクア"

 "うんにゃ、違うよ。それなら楽だったんだけどね。どうやらその四つの魔石。どうにもギリギリのバランスで成り立ってるみたい何だよね"

 "あ~。主様? それはあれか? もしかして一つでも無くなると魔力が暴走すると言う事か?"

 "大当たり、下手すると魔力が暴走して辺り一体吹き飛びま~す。さっきヘルさんに確かめて貰ったのはその事だよ"


 """なっ!?"""


 "ど、どうするのかなハクア! どうすれば良いのかな?"

 "方法は簡単。自壊するまで耐えるか……全ての魔石を数秒のズレも無く一気に破壊するか……かな?"

 "どちらも現実的では無いな"

 "まぁ、確かに澪の言うとおりだよね。ただ、私としては後者を押すよ"

 "白亜そこまで私の事を──"

 "私のスカイボードを壊してくれた奴に鉄槌を下す"

 "……おい"

 "まあ、冗談だけどね。前者の案だと、どれ程の間時間稼がないといけないのか全くと言って良いほど分からないからね。下手したら何日も稼がないといけない。終わりが見えなきゃ人の集中何て続かないよ。それこそこっちが全滅する可能性の方が高くなる"

 "でもハクア。一つは固定されているから良いとして他の三つの魔石は身体中を巡っているのでしょ? それを一気に何て破壊できるの? それに、そもそもどうやって魔石の位置を特定するつもりなのかしら?"

 "うん。アイギスの疑問も当然だけど、そこでさっきの話に戻る。通常魔石は生命線だから核で覆われているし、個体によって位置も違っていて場所が特定出来ない。まぁ、意志が在る奴相手ならそこの部分への攻撃は、無意識下で避けたりもするから絶対特定出来ない訳じゃないけどね?"

 "ではやはり手は無いのではハクア様?"

 "そんな事無いよカークス。ある一瞬だけだけど全ての魔石が集まり殻からも露出する瞬間が在る。それは再生の瞬間だ"

 "再生の瞬間?"

 "ああ"


 そう、私が観察の為に何もせず見ていた時、確かに攻略は進んでいなかった。だが、それは回復という手段が敵にも存在した事が大きい。ただでさえ【結界】のパターンが分からずダメージを与えられないのに、それが回復までされては進まないのは当たり前だ。


 幸いな事に回復が起こるのは一定ダメージを受けた時に、HPバーの半分だけなので減ってはいるんだけどね。


 そして、その回復と共に起きるのが再生だ。再生は毎回起きる訳では無く致命的な攻撃を受けた時に起こるようだ。


 瑠璃に腕を落とされた時、アイツは落とされた自分の腕を取り込んで再生していた。その時私の【魔眼】には、バラバラに動いていた魔石が集まる瞬間がハッキリと見えた。


 "再生の瞬間……か"

 "ああ、再生は一定以上の身体の損傷が無いと起きない。それにこいつの再生は【高速再生】だ。だから魔石が集まるのも僅かな間。更に言えば重なり合うのは更に一瞬になる"

 "それをやれと?"

 "そう。それまでに出来るだけダメージを与え腕を落とし、更にその再生の瞬間を私と瑠璃と澪の三人で【破極】を使い一気に砕く。私が提示できる物はコレだけだ。だから、こんな物に命を掛けられないと言う奴は逃げる事を推奨する。ハッキリ言えば分の悪い賭けだ。しかも、その中核が低ランクのガキともなれば信用なんて出来ないだろ? だから、私らに命を預けても良いと思う奴だけ手伝ってくれ"


 私は激しさが更に増して来たマハドルの攻撃を何とか避ける。しかし、マハドルの攻撃で飛んで来た石片を避け損ね体勢を崩してしまう。


 痛っつ! って、やば!


 私目掛け蹴りを繰り出すマハドルに私はしょうがなく「イグニッション!」と、唱える。すると目の前の空間に爆発が起こり、私を吹き飛ばし同時にマハドルの足の進行をほんの少しだけ食い止め、その間に何とか射程外へと逃げる事に成功する。


 危なかった。


 オリジナル魔法イグニッション。緊急回避様の魔法で、殺傷力無し、ダメージ無しのただ相手と自分を吹き飛ばす魔法。その代わり発動が早く掛け声だけで起動する優れものだ。


 "それで、どうする?"

 "お前は相変わらず分の悪い賭けが好きだな"

 "良いでしょ? チップは命、勝てばこの辺り一帯の人間の命が助かる。負けても死ぬだけだ後の事は知らん。どのみちここで終われば後に残るのは蹂躙だろうな。都合良く正義の味方が現れるのを祈りたいなら好きにしな。勇者とかも召喚されてるし、英雄なんてのも居る世界だろ? たまたま助けてくれる可能性もあるんじゃない? まあ私のチップはもう賭けたけどね。後は私に乗るか降りるか決めるだけだ"

 "はっ、お前と居ると本当に飽きないな。ミスるなよ"

 "誰に言ってやがる"


 私達のやり取りを聞いてまずは私の仲間が次々に名乗りを上げる。そして、フープ、刻炎、暁、ギルドや冒険者も名乗りを上げていく。


 流石に全員とはいかなかったが去ったのは全体の1/5程だった。それは私が想定したよりも遥かに少ない人数だ。


 "さて、こんな賭けに乗ってくれてありがと。それじゃあ張り切ってこのバカ騒ぎに決着着けるぞ!"


 """おお!"""


 さあ、作戦開始だ!

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