第223話ひ~! 相対速度で一気に目の前に!

 ガバッ!


「きゃっ!」


 私の事を支えてくれていたミミがいきなり動き出した事に驚いて声を上げる。


 って、うわ! 何か体がバキバキ何ですけど!? なにこれ死後硬直!? 怖いわー、前も椅子に座って集中してて気が付いたら二、三日経ってた事はあったけど、正直こんなに体の機能を放棄する程じゃ無かったよね? これスキルの影響かな? レベル上がったらその内生命活動まで止まらないよね?


 私がちょっと有り得そうな未来に一人静かに戦慄していると後ろからエルザの声が掛かる。


「ハクア様もうよろしいので?」

「うん。それなりに一応パターンは分かったから。後は戦いながら適宜調整かな?」

「そんなので大丈夫なの?」

「まあ、アイギスの言いたい事も分かるけどね。多分ここいらで時間ギリギリだな。そろそろ動かないと本格的に間に合わなくなりそう」

「確かにそうね」


 私達は騎獣の上からマハドルを見つつ会話をする。すると眼下では後方から信号弾の様な合図と共に、澪がギフトを放ち全員を撤退させる。更にそれに合わせる様に最初から魔力を練り続けた魔法部隊が、土魔法でマハドルの下に落とし穴を作り落としていた。


 おお~。やっぱ、スゲエな落とし穴。


 私は最近落とし穴こそ至上の罠なのでは? と、思うのだよ。

 だって、コストが掛からず、汎用性も高い、その上手間さえ掛ければ殺傷力も申し分無いと来たらコレ最強じゃね? ってな感じな訳よ。

 しかもこの世界には魔法。つまりは土魔法様がおわすわけで掘るのは簡単だし。何より少し足元崩すだけでも十分だからね! 人類は落とし穴を改良すれば良いと思う。

 その内ドラゴンや魔王とかも落とし穴に落としてみたい。

 

 私がそんな事を考えている間に、下半身まで地面に埋まったマハドルに向かい一斉攻撃がなされる。


 うお、スゲエ音。ハデだね~。私なら死ねるけどあんまり減らんな?


 私の見ているマハドルのHPのバーは六本に及ぶ。

 今までの攻撃と今の攻撃で何とか二本目が全て無くなり三本目に少し突入した位だ。それを確認している澪は安全性を考慮して土煙が晴れるまで動かないようだ。


 まっ、妥当だね。


「皆にはこれから魔法部隊の方に行って火力の底上げをしてもらうよ」


 私の指示に全員が頷くのを見て私は参戦するためにスカイボードを取り出す。だが、下では澪が待機を指示したにも関わらず、飛び出して行く馬鹿が数名。しかも澪が助けに行っている。


 うわ、バカ! そんなん勝手に死なせとけ!


 私の心の声など聞こえる訳も無く澪が冒険者に近付いて行く。上から見る私には土煙の中で手を動かすマハドルもしっかりと見えている。


 クソ! 間に合わない。


 そう判断した私は皆に魔法部隊と合流する指示を出しスカイボードを起動して空に飛び出す。


 案の定冒険者を庇って捕まった澪は、マハドルのデカイ掌に包まれ押し潰されようとしている。同時に攻撃部隊達が助けに入っているが、攻撃と【結界】に阻まれ澪に近寄れない。


 私は一気に空に駆け上がると、マハドルの遥か上空の真上からそのまま一気に下降する。


 何故こんな風に行くのか? それは単純に真正面から行っても迎撃&【結界】に阻まれるからだ。今マハドルの展開しているのは全ての攻撃を一定時間完全に防御するものだ。


 だが、それにも穴が在る。それがマハドルの真上の位置だ。

【結界】の形状は円柱と言えば分かりやすいか? そんな形をしているのだ。因みになんだがマハドルの張る【結界】は、何故か知らんが非常に見えずらい。私とて上からでなければ多分気が付けなかっただろう。


 そんな訳で私はスカイボードで真上から突撃した訳だが、グリンッ! と音が体のしそうな勢いでマハドルは私の事を認識する。


 あ、あれ? 思ったよりも気が付かれるのが早いんですが?!


 私の焦りなんて何のその、マハドルは上を向くと同時にさっきの特大ビームを放つ体勢に入る。


 うわ~! ちょっ、おまっ、待って! マジ待って!


 私は焦りながらも【雷装鬼】を発動して更にスカイボードのスピードを上げる。するとそれに合わせるようにマハドルのビームが完成し、私に向かい黒い光の柱が迫ってくる。


 ひ~! 相対速度で一気に目の前に!


 私は何とかその黒い光の柱を下方向への跳躍? って、言って良いのかな? する事でギリギリ回避する。


 って! あぁ! スカイボードを起点にしたから回収忘れた~! しかも光りに呑み込まれーー! ギャー、消えた! 私のスカイボード消えた! くっそ! 絶対許さん!!


 私は更に加速する為に前方に邪魔にならない様【結界】を配置して、それを蹴って加速を付け、マハドルの目に空間から取り出した刀を刀技【黒凶】で威力を上げ、槍技の【一閃】を使い、思い切り突き刺す。


 ズプリ! と、いう感触にゾワゾワする物を感じながらそのままの流れで水転流【霧雨】で切り裂く。


 するとそのダメージに呻くマハドルの手から抜け落ちる澪が見えたので、【雷速】を使い確保する。


「よう。お待たせ」

「相変わらずルーズな奴だな。十分何てとうに過ぎたぞ」

「最低でもとは言ったもん」


 言ったよね? 全くこれだから人の話を聞かない奴は困る。

 所で〜と、あっ、居た居た。


 澪と問答しながらも私はアクア達の姿を探し見付ける。


 そして……。


「アクア! エレオノ! コロ!」

「お、おい。待て! 何でこのタイミングであいつらの名前を呼ぶ!」


 嫌だなも~、わかってる癖に~。


 私は澪の問い掛けに答えずとびっきりの笑顔でアハッ、と笑い。


「ちょっ、待て! ふざけ──」


 問答無用!


「パース!」

「ざっけんな! このクソ女~!」


 ドップラー効果を生み出しながら飛んで行く澪。


 まあ、私が全力投球したんだけどね? おっ、ナイスキャッチ! やだわ~、まだ何か叫んでる。怖いわ~、あれがキレやすい現代の若者って奴か。


 私は現代社会の問題を眺めそんな事を考える。


 そんな私の高尚な考えを無視するかの様にマハドルの拳が私の事を襲う。


 だが、私は慌てる事無く腰帯の後ろの部分からクナイを取り出し、スキルを発動しながらマハドルの顔の方に向かって投げ付ける。


「【瞬雷】」


 眼前まで迫って来た拳が私を打ち据えるその瞬間、スキル名を呟くと私の体が雷に変化すると同時に、先程投げたクナイの元へと雷に成って移動する。


 クナイの元へと移動した私は腕を駆け登り、新しいスキル【魔力装甲】を腕に使い、マハドルの顔面を【疫崩拳】で殴り付ける。


 硬くは無い。けど……やっぱ、私だとあんまりダメージはいかないな~。


 私は自分の攻撃力に少し落ち込みながら、今度は誰も居ない方へとクナイを投げ、再び【瞬雷】を使い移動する。


 うんうん。癖は強いけどこのスキル両方とも使えるな。


 今の攻防で私が使った二つのスキルこれはグロスとの戦いで得た物だ。


【瞬雷】の方はレベルupで覚えた物。

 効果は見ての通り【雷速】の様に移動するスキルだ。しかし【雷速】とは違い、このスキルは立体的に動く事が出来る。今まで横にしか行けなかったのが縦方向にも行けるようになったのだ。


 でもちゃんとデメリットも在る。それは移動するポイントに予め移動先を用意しなければならないのだ。


 それがさっきから移動する前に私が投げているクナイ何だけどね。


 スキルを起動して移動先にクナイを投げる。後はスキルを唱えれば雷の速度でクナイに追い付くのだ。とは言え、結局はクナイに追い付くだけだから移動速度は雷でも、移動距離はクナイの進んだ距離になる。


 まあ、要は使い分けだよね。【雷速】にしても【瞬雷】にしても制限はある。そこに風縮を合わせてバリエーションを使い分けしないといけないから意外に大変。


 そしてもう一つのスキル【魔力装甲】は、グロスを取り込んだ事で得たスキルだ。効果は読んで字の如く魔力を体に纏わせる事で、甲殻類の様な装甲を作る事が出来る。


 魔力で作る鎧の様な物だよね?


 しかし、これにも欠点は在る。それは使えるのが体の一部分だけなのだ。

 つまりは今の様に片手の肘から先だけとか、片足の膝から下だけで、しかも纏えるのはその四ヶ所のみという。残念な事に私ではスキルのレベルを上げた所で、装甲の強度は上がっても範囲は広がらないらしい。

 まあ、両手で同時にとかなら出来る様になるらしいけど。

 しかも、私の防御力では装甲の強度上げても突破される恐れが在ると、突破された段階で死ぬかもだから、防御としては死にスキルになるやも。

 だから私としては装甲×身体強化×プロテクトアーツの攻撃手段になるのだ。


 まっ、無いよりましだから良いんだけどね。私、生身だと受け流すのもダメージ食うし。私貧弱!


 因みにだが、普通に私に才能が無いだけでこのスキルを持っている奴は、身体全体を装甲で覆う事が出来る。


 つくづく防御力と言う言葉とは無縁の私である。


 さて、それはそうと、ここまでやれば釣れたかな?


 私がそう考えたのはちょうど今まで攻撃していた人間達を丸っと無視して、マハドルが私を狙って振り向いた時だった。

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