第226話やだ! ウチの子本当に天使!?

 私が目覚めると空は紅く染まり始めていた。


「起きたか?」

「知らない天井だ……と、言いたかった」

「起き抜けにいきなりボケようとするとは余裕だな? ここはすぐに気を失ったのだから親友の安否を気遣う場面じゃないか?」

「親……友……?」

「何だその初耳だ。見たいな反応は! ああ、そうか恋人か? 愛する人か? どっちでも良いぞ私はいつでも歓迎だぞ?」

「ハーちゃん浮気ですか!?」

「そ、そうなんですかご主人様?!」


 いつの間にやら近くに居た瑠璃とアリシアに詰め寄られる。


 どこから湧いたの君達?!


「いや、違うから……で、どれくらい落ちてた?」


 私は辺りを見回しながら澪に尋ねる。


「何、正味三十分程だぞ。今は事後処理中で怪我人の有無、モンスターの処理、砦の捜索などをしている最中だ」

「……それでお前は?」

「ふっ、お陰さまで……だな。体感としては後一時間も在れば死んでいたんじゃないか?」

「そうか。で、そんな事はどうでも良いんだけど」

「……おい」

「なんでお前髪の毛の色元に戻ってんの?」

「んっ? ああ、髪の色が変化するのは戦闘時、と言うか私が臨戦態勢に入ってる状態の時だぞ」

「なん……だって──」

「いや、そこまでか?」

「当たり前だろ! なんだよその設定は羨ましい。髪色を変化させて戦うとかやってみたいじゃないか」

「ふっ」

「勝ち誇ってんじゃねぇぞてめぇ!!」

「よう嬢ちゃん起きたのか?」


 私が目を覚まし騒いでいるのに気が付いたのか私の仲間全員、フープの主要人物、ジャック、メル、ギルド長が集まって来る。どうやら他の人間はそれぞれ治療や探索をしているらしい。


「なんか良いもんあった?」

「いや、今の所何もねぇな」

「そりゃ残念、っと!」


 私は起き上がり体を少し動かして調子を確かめる。


 うん。まあ、ダルいけど大丈夫かな?


 そのままこの後の事を話して居ると少し離れた所で何やら騒ぎ声が聞こえので行ってみる。


 すると、魔法で治療をしていたであろうフープの兵達が、アイギスに気が付いて敬礼をする。


「礼は良いわ。それよりも何かあったのですか?」

「それが……」


 アイギスの言葉に言い淀んだ兵士が、チラリと後ろに横たわった冒険者と周りで心配そうに見ている冒険者の仲間を見る。


 どうやら彼等はギルド職員と共に魔法部隊を守っていたのだが、その際に横たわっている彼の頭部に石片が当たってしまったらしい。その後治療したのだが怪我とHPが治っても、痛みが治まらず今もまだ苦しんでいるのだそうだ。


「まさか……死病か?」

「はい……恐らくは……」


 カークスの呟きに治療師が答えると、辺りには沈痛な空気が流れ冒険者の仲間達の嗚咽が漏れる。


 ふむ?


「死病ってなに?」

「ああ、ハクア様達は知らないのですね?」


 私がそう言うと死病を知らない私の為にフーリィーが死病について教えてくれた。

 フーリィーの話しによるとこの世界の治療にはHPと外傷、ステータス異常、病気の四種類が在るらしい。


 HPを回復するのは勿論回復魔法や回復薬。


 外傷やステータス異常は治療魔法やこれまた回復薬。


 病気等は一部魔法も効くがほとんどは薬等を使って治すらしい。


 ここで一例だが、回復魔法だけでは例えば切り傷等のいわゆる外傷は治りが遅く、大きな切り傷や骨折にまでなれば治す事が出来ない。


 その逆に、治療魔法を使えば大きな切り傷等の外傷は治す事が出来るが、HPの回復に関しては本当に少しずつしか回復しないのだ。


 だから一般的に治療師や回復部隊の人間とはこの二つを扱える人間の事を言うらしい。

 因みに回復薬は飲めばHPを回復し、傷に掛ければ外傷が治る。


 ここで話しは戻るが、死病とは怪我を治療した際HPも外傷も完璧に治し、ステータスを見ても何ら異常が無いにも関わらず、苦しみや痛みが消えず亡くなってしまう事を言うらしい。


「ほう、そんな物が……解明はされていないのか?」

「ええ、私も何とかしたいのだけど、まだ……」

「そうか」


 澪の問いにアイギスが答えるとまた辺りを沈痛な空気が流れる。


 ふーむ。


「ねえ? その死病って毎回頭に痛みが出るの?」

「え? 違うわよ? 何故か場所はその時その時で違う所が痛むらしいわ。それに怪我だって同じ物とは限らないし」

「ふむふむ。もしかてさ、それって腹か頭が多くない?」

「っ!? な、何で!?」


 あ~。もしかしてとも思ったけどやっぱりか。これってこの世界ならではじゃね?


 私は寝転がって居る冒険者に近付くと、その周りに居る冒険者達を退かせる。そして、傷が在ったであろう場所を触る。


 この辺かな? うん。やっぱり、血の跡がある。私の考えた通りなら何とかなるかな?


「原因が分かるのか白?」

「恐らくね? ねえ、治療した時この人、頭蓋骨骨折か何かしてた?」

「は、はい。骨折と出血もしていました」

「まさか……そう言う事か? だとしてどうするつもりだ?」

「簡単だよ。割って出す、その後に治療だ。怪我はもう治ってるからな。行き過ぎさえしなきゃ平気だ。つーわけで抑えてて」

「了解」

「私が言ったら直ぐに治療魔法をお願い」

「は、はい」

「死なせたくなければ今からする事を邪魔するなよ? それと静かにしててね」


 乱暴にも程があるけどしょうがないよね?


 私は冒険者を澪に預けて体を固定させると【麻痺毒】を麻酔の代わりに施し。予備で持っていたクナイを取り出し頭に当てそれも澪に持って貰う。そして、頭の反対側を私の手で固定すると、クナイの取っ手部分を手頃な石でハンマーの様に叩く。


「「「なっ?!」」」


「何やってんだこの野郎!」

「黙れ! 騒ぐなら後にしろ」


 周りの声に耳を貸さずにそのまま集中して何度か、ガンっガンッ! と叩くと私の手に今までと違う手応えが伝わる。それに反応して突き刺したクナイを引き抜くと、ブシャッ! と音を立てながら血が飛び散り、冒険者の体が暴れだし少しすると体が動かなくなる。


「ふう、治療魔法を……」

「ふざけんなこの人殺し!」

「あん? 良く見ろ生きてるよ。顔色も戻っただろ?」


 私が怒鳴り混んで来た冒険者の仲間に顔を見せると、私が言った通りだったので驚きの顔になりながら黙り混む。


「お疲れ 上手くいったな」

「まあね」


 治療師に冒険者を預けた澪が私の所に来て労う。すると、私の治療を見て呆けていたアイギス達も私に詰めよって来る。


「ハ、ハクア、結局何だったの死病って?」

「あ~。面倒だけど聞く?」

「当たり前でしょ! 何人の人の命が助かる様になると思っているのよ!」


 怒られた。解せん。


 そんな訳で私は死病。と言うか今回の事について解説を始める。

 もともとさっき聞いた通り、治療は完璧で怪我は全部治っていた。


 しかし……だ。


 いくら治療魔法を使った所で失った血液までは元に戻らない。そして、これは大変嫌な事に体験談なのだが、怪我を治した所で流れ出た血の跡まで消える訳じゃ無いんだよね?


 そう考えた時一つ思い当たったのが、内出血した怪我の場合、その怪我を治したら流れ出た血液はどうなるのか? ──と、思ったんだよね?

 そんな訳で怪我の状態を確認したら骨折と出血もしていた。と、言ってたから硬膜外血腫とわかった訳何だけどね。


 硬膜外血腫は簡単に言えば頭をぶつけた際に頭の中で内出血が起こり、その血液が頭蓋骨と脳の中間に溜まる事で脳を圧迫する病気だ。


「つー訳で、今回は頭の怪我と中の出血箇所を魔法で治したけど、その流れた血液が頭に溜まって脳を圧迫してたんだろうね。この世界、治療魔法が在れば怪我なら何でも治る。なんてそんな考えだからこそ起こった事だと思うよ? で、そのほとんどが今回みたいな硬膜外血腫や腹腔内出血の類いだったんじゃない?」

「……はぁ~。まさか、死病がそんな理由だったなんて」

「まあ、医者って言ったら治療師だろうからしょうがない」

「でも、それが原因なら医療改革は必要な様ね。いえ、そもそも平民の医者は外科的治療が出来るのだからソコとの連携を──」

「へ? 怪我は皆、回復薬とか魔法で治すんじゃ無いの?」

「そんなのは冒険者やお貴族様位だよハクア」

「え? だって魔法なら誰でも覚えれば使えるんじゃ?」


「「「えっ?」」」


「マスター、魔法を使えるのはその才能が在る人間や魔道書を手に入れられる人間だけです。平民は使えない者の方が多いですよ」


 ウソ! この世界普通に皆魔法が使える感じの世界じゃ無いの?!


「……お前、そんな事も知らなかったのか?」

「だって、今まで会った人間は使えてたし……」

「そう言えばそうですね」

「皆も魔法普通に使えてたからてっきり使える物と……」


 あれ? そう言えば……私の仲間、エルフと半吸血鬼、ハーフドワーフ、元魔王、最初から魔法覚えてたミニゴブリン、勇者と教会のエリート……あれ? まさか一般人が居ない……だと!? 

 そ、そう言えば……確かに今までも頑なに魔法使わない冒険者が居たような? もしかして、使わないんじゃ無くて使えなかったの? マジかー。知らなかった。


「……ハクアには常識を教える必要がありそうね」

「のおぉぉぉお!」

「あ、あの」


 衝撃の事実に頭を抱えて居ると冒険者の仲間が話し掛けてくる。


「何かあった?」

「い、いえ、その、「「「ありがとうございました!」」」


 いきなり頭を下げられて驚いたけど「別に良いよ」と、言っておく。まあ、私の指示の結果だしね。とはいえ、礼を言われるのは悪い気はしないし、素直に仲間が無事な事を喜んでいるのを見るのは良いものだ。


 そんな事を思いながら見ていると、クイッ、クイッと、袖を引かれる。見ると何故かアクアが私の事を見上げていた。


「どうしたの?」

「おねちゃん、人が治ると嬉しい……ゴブ?」

「う~ん。まぁ……ね? 私の指示の結果で怪我をしている訳だから人死には少ない方が嬉しいかな?」

「ご主人様! これはご主人様のせいではありませんよ!」

「そうだよ! 皆自分で参加したんだから!」

「ありがと。アリシア、エレオノ」

「そうね。貴女は良くやってくれたわ。彼等に報いるのはこの国のトップである私の役目よ。取られたら困るわ?」


 そう、イタズラっぽく言ってくれるアイギスの言葉は素直に嬉しかった。


 と、その時。


「「「おぉぉぉおぉぉお!」」」


「き、奇跡だ!」

「天使だ!」

「天使様! ありがとうございます。天使様!」

「な、何?!」


 いきなり近くにあったテントの中が騒がしくなり始める。すると、冒険者を見ていた治療師があそこは重傷者や、先の戦いで四肢に欠損が出た人間が居ると教えてくれた。


「あ、あれ? そう言えばアクアは?」


 そこはかとなく大事な予感。


「あの少女なら、先ほどハクア様の言葉を聞いてテントの中に……」

「へ?」


 フーリィーの言葉に間抜けな返事をしながら、私達はとにかく行ってみよう──と、急いでテントの中に入る。するとそこには……腕を無くした冒険者の欠損部位を元通りに治しているアクアが居た。


 やだ! ウチの子本当に天使!?

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