第77話 〈それは精霊ですね〉

「ギガァア!」

「グガァァア!」

「ハァァァ!」

「ゴブ」


 コボルト・ロードを倒し下層へと下りた私達は順調に探索を進め、現在地下25層でエルダーコボルト率いる一団と戦っている。


 エルダーコボルトは情報通り徒党を組んでおり、エルダーコボルト同士の一団やハイコボルトやコボルトを率いてる混成部隊の一団で、一つの隊に大体四匹~五匹程に別れていた。


 と言うかここ、通常時は本当にコボルトの巣になってんのね?


 ここに来るまでに何度か戦闘したけど、皆のレベルが上がっている為、油断さえ無ければ割と安全に戦う事が出来た。

 このエルダーコボルトの一団……もとい小隊は、ダンジョン内を巡回しているので小隊同士が近い部隊は避け、孤立している部隊は経験値と戦闘訓練として倒している。


 こうしているとダンジョンRPGそのものだよね。


 そんな私達が今戦っている小隊は何と四個小隊。

 内訳はエルダーコボルト十匹、ハイコボルト七匹、コボルト二匹だった。


 これには訳があり、事の発端はヘルさんが〈多数のコボルトが集まっている場所があるのでそこを避けるべきです〉と、忠告してくれ皆も納得していた所に私が「ちょっと見に行きたい」と言った事が原因だった。

 皆に何故か? と、聞かれたが私は何となくの勘、としか答えられなかった。だが、皆納得してくれたので良い仲間を持ったと思ったと心の底から思う今日この頃。

 そう、これはただの勘ではあるが、正確に言うなら様々なゲームをやり込んで来たゲーマーとしての勘だ。

 何故ならダンジョン内を徘徊するエネミーが何故か一ヶ所に複数も集り動かない何て、何か宝が有るに違いない! そうじゃ無くてもきっと何かが有る筈! と、私のゲーム勘が告げていた。


 そんな訳でその場に行ってみるとヘルさんの言う通り大量のコボルトと、奥の方に如何にもな感じの宝箱があるのが見えた。

 そしてそれを見つけヘルさんが〈そう言えばコボルトには宝を隠し持つ性質が有りましたね〉と、言うので戦闘が決定して現在に至る訳です。はい。


 つーか、宝を隠し持つとかまんま犬っころだなコボルトよ。骨とかも埋まってたりして。


「ハクアそっち行くよ」

「OK」


 当初かなりの数が居たエルダーコボルト達も、残すはエルダーコボルト二匹とハイコボルト一匹になっていた。

 こちらの損害は殆ど無く、久しぶりの大剣扱いに馴れず、コロが怪我をするもそれもアクアにより直ぐ様回復していた。


「ハァァァ」

「フレイムランス」


 エレオノがハイコボルトに【ブラッドソード】を放ち、自身のHPを全回復させつつ倒すと、アリシアも魔法防御の低いエルダーコボルトに魔法を放ち絶命させる。


「ハクア!」

「試したい事があるから一人で良い」


 私は敵を倒しこちらの援軍に来ようとするエレオノを制し、一人エルダーコボルトとの戦闘を続ける。


 【鑑定士】スキル成功

 エルダーコボルト

 レベル:22

 HP:400/950

 MP:220/460

 物攻:330

 物防:270

 魔攻:170

 魔防:120

 敏捷:280

 知恵:200

 器用:180

 運 :50

 スキル:【頑強】【大剣のコツ】【凪ぎ払い】【咆哮】【地走り】【土魔法】【暗視】【嗅覚】


 うん、さっきのより強いね! けど、私の物理も通じるから練習には丁度良いかな?


 私は相手のステータスを確認しながら考えていた事を実行に移す為、エルダーコボルトの斬撃を後ろに飛びながら距離を取る。

 そして、私は考えていた秘策を使い、距離を詰めて来たエルダーコボルトに拳技【剛打掌】を放つ。


「グラァァアァ!」


 【剛打掌】は全ての力を拳に込め放つ拳技の初期業で、この程度のステータスの差なら私でも相手にダメージが入る。


 全力の一撃をエルダーコボルトに当てる事で吹き飛ばす、しかしエルダーコボルトも負けじと手に持つ剣を私に投げつけ虚を衝いてくる。だが、私は飛んで来た剣を無造作に裏拳で弾き、そのままエルダーコボルトに肉薄する。

 武器を持っていない私に武器を投げれば回避すると思ったのだろう。その行動に逆に虚を衝かれる事となったエルダーコボルトは、何とか体勢を整えて私に殴り掛かろうとする──が、不意にその腕が何かに掴まれ拘束されたかの様に動きを止める。

 その隙を逃さず私は拳技【連掌撃】の乱打を放ち、止めに【疫崩拳】を放お見舞いする。


「グギァァア……ガァ」


 私の攻撃を食らったエルダーコボルトは派手に吹き飛び絶命する。


「ふうっ」

「お疲れ様ですご主人様」

「結局ハクア何をしたの?」


 と、エレオノが聞いてくるので私は自分の手を差し出し触ってみるように言う。


「あれ? 何これ?」

「ご主人様に触れない! これは……【結界】ですか?」

「アリシア正解」


 そう、さっきのステータスの確認で私が改めて分かったのはやはり私が皆よりも弱いと云うことだ。

 だから私は前世で好みのステータスに育て上げた自分のキャラを参考にする事にした。


 まず、防御が殆ど紙装甲なら【魔闘技】で纏う体部分の魔力を最小限にして、残りは足と手それに眼に力を集中し、移動&攻撃&見切りに割り振った。こうすることで前世のキャラのコンセプト「当たらなければ死なない」を現実に徹底再現!


 そして、今回の一番の改良点。それが【結界】のスキルで有る。


 【結界】は魔力を流す量によって厚さ、広さ、強度等が増す。そしてそれは面積が狭くなる程に密度が増し、同じ魔力で結界を作るなら、大きい結界と小さい結界であれば、後者の方がはるかに頑丈でMP効率も良いものが出来る。

 まあその代わり当たり前だが【結界】の無い所へ攻撃が来たら大ダメージだけど。


 そしてもう一つ【結界】は大きく別けて二つの物が有る。


 一つは空間に展開する物で、例えば目の前で魔法を射たれた時、それを防ぐ為に目の前で張る物が空間に展開する物だ。つまり分かり易く言うと位置を指定して作る物で有る。これの特徴は壊されたり、解除したりしなければ、その空間に物体の様に鎮座し見えにくい障害物の様な物になるのだ。


 二つ目は空間では無く物体を指定して張る物で有る。

 これはエレオノ曰く上位の冒険者等が常に自分の回りに張り不意の攻撃に備える為に使う方法なのだそうだ。これの特徴は空間では無く物体に作用する為、人などに張ればその人間を中心に一緒に結界が動いて常に身を守る事が出来る、いわば鎧を着た様な状態になれる物だ。その代わり空間に張るよりも難しく慣れないとかなり脆くなる。


 私はこの二つの性質を利用して先程の様に空間に【結界】を張り相手の動きを止めたり、自分の拳や武器にのみ【結界】を集中させ攻防一体の武器にした。


 自分の拳や剣にそんな物を使って何か意味が在るのか?


 と、そう思うかも知れないが諸兄らもよーく考えてみて欲しい! 鎧で殴られたら痛くない? 普通に言えばそう言う事なのだよ! 殴っても拳を痛めなくて済むし、結界が有って私の場合籠手も有るから更に防御力up! しかも、攻撃を捌くのも痛くない! 尖らせる様にすれば突き刺す事も出来るのだよ。

 それに剣もだけど【結界】の形状を変えて、例えば一回り大きく作れば見えにくい刀身の出来上がり。しかも、実際の刀身が見えてるから初見なら見えない刃に当たる確率はかなり高い、その上剣を覆っているから強度も上がり更に強くもなる。正に一石二鳥と言うものだ。


 まあその代わり、かな~り集中して【結界】を薄~く張らないと打撃になっちゃうんだけどね。簡単に言えば刃が潰れてる感じである。

 でも、実際そんな事が可能なのか試してみた所、ちゃんと【結界】で攻撃も出来た。


 と、私は全員にこの事を熱弁した。


「また【結界】を攻撃に使うなんて滅茶滅茶な事を……」

「……そんな事考えた事も無かったかな」

「凄いですご主人様」

「ゴブ!」

「うん、名付けてプロテクトアーツ」

「でもそれだと危なく無いですか? だって限り無く防御を削ってるんですよね?」

「う~ん、そうは言っても私は紙装甲だからね。魔力もそこまで高くないからさ。逆に一点集中で守るやり方の方が生存率高そう何だよね。反射には自信有るし」

「でも!」

「そうは言っても普段は全体カバーするように使ってるよ」

「それならまぁ良いですが……」


 不服そうだけど何とか納得してくれて良かった。


「さて、それじゃあ早速宝箱開けてみようか?」


 〈罠が有る可能性があるので気を付けて下さい〉


「じゃあ私が開けてくるね」

「私も行きます」

「いや、でも」

「行きます」


 アリシアさん笑顔が怖いよ?


「じゃあ私達は少し離れた所にいるね」


「了解、アリシア気を付けてね?」

「はい♪」


 そんな会話の後、私とアリシアは宝箱に向い辺りを調べる。


 特にワナとか無さそうなんだけど?


 〈そうですね〉


 それでも一応用心して宝箱を開けると──シュッ! 何かが飛び出して来たので咄嗟に避けて後悔する。


 不味い!


「アリシア!」

「えっ? きゃっ!」


 飛び出した何かはアリシアの心臓目掛けて飛んでいき、アリシアの胸に収まる…………はっ? おいこら! 何て羨ましい! では無くて。


「えっ? えっ? 何ですかこれ?」


 アリシアの胸に収まった何かはモソモソと動いているが、それを見て何かイラッと来たのではたき落とそうとするとヘルさんが〈それは精霊ですね〉と教えてくれた。って!?


「「えぇ~!!」」


 私達二人の声がダンジョンに木霊した。

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