第361話王都の闇
突然笑い始めたアルフィーナに驚いていると、その事に気が付いたアルフィーナが謝りながら話を続ける。
「クリストフ様がそう仰るのも当たり前ですわ。ですが、だからこその私と勇者様でもあるのです」
その言葉に理解が追い付かずに首を傾げていると、ローレンスが注釈するように疑問に答える。
「今回の事は俺とアルフィーナだけではなく勇者も巻き込むと言う事だ。ストーリーとしてはそうだな……。王に押さえ付けられていた我々が、勇者の助力を得る事で悪しき王を打ち倒す。そして父王を討った事で失意に暮れるアルフィーナは、常に傍らで励まし続けた勇者に恋慕を抱き。その事に気が付いた俺が仲を取り持ち婚約を果たす。と、言った所か」
「素晴らしいですわお兄様。まさに絵物語のようですわね」
「そんな……そんな物が本当に通るとお思いなのですか!? 学の無い愚かな民衆ならばそれで騙しおおせるでしょう。しかし、貴族がそんな妄言に付き合うとでも」
「思わんな。しかし民衆さえ騙せればそれで構わん」
反論にあっさり答えたローレンスの、言葉の意味が分からずクリストフはローレンスの顔を見て表情からその考えを読もうとする。
しかしその表情からは何も読み取る事が出来ずに両手を挙げ、降参ですとポーズを取る。
「今回の件はどうあっても我が国の立場が悪くなる。ならばこそ一度この国を壊す必要があるのだ」
「壊す……ですか」
「ええ、古き
「そうだ。お前にも分かるだろう? 仮にこんな事を言った所で貴族も他の国々の上役も納得せん。こんなものでなんとかなるのは馬鹿な民衆くらいなものだ。だが、魔王という強大な敵を屠りうる勇者を血筋に迎えた王家に誰が表立って逆らう? それも表向きは元凶を倒し新たな国として再出発しようとしている国にな」
「それは……」
「勇者とは人間の希望だ。それに表立って逆らえばそれこそ民衆も黙ってはいまい。何せ身近な
「確かにそうですがそれでも納得するでしょうか?」
「そうですわね。それだけでは弱いですわ」
「ああ、だからこそお前にこうやって話を持ち掛けたんだ」
「ふふ、有難うございます。そうですね……。では、こちらからも被害を出しましょう」
「はっ?」
「なるほど、だが、言うのは簡単だが何処から出すつもりだ?」
「居るではありませんか。寄生するだけでなんの役にも立たない者達が。こんな時の為に施しまでして飼っていたんですもの。命を使って働いて貰いましょう」
「それは……外周区の者達の事でしょうか?」
外周区。それは王都を囲む壁のすぐ外に住まう者達で、王都に住まう程の金も無く、税も納められない。そんな者達が難民キャンプの如く集まっているのが外周区民と呼ばれ、王都の民に侮蔑を込めて呼ばれる者達である。
王都の民に手を出せば刑が下され、逆に王都の民に手を上げられても、そちらはなんの罪にも問われない。それ程に差別がされている者達だ。
では何故そんな思いまでしてそこに住むのか?
それは防衛戦力を期待しての事だ。
如何に堅牢な壁に守られている王都と言えど、襲い来るモンスターをそのまま放置は出来ない。ましてや、もし彼等を見殺しにすれば諸外国からはそれをネタに攻撃される恐れがある。
外周区民はそれらを分かっていて、盗賊やモンスターに殺されるよりはマシ。とそこに居座っているのだ。
アルフィーナはそんな彼等に、今まで王都の備蓄を使い炊き出しをしていた。それはある意味で国民に対するアピールだったが、誰もがそれをアルフィーナの優しさによるものと信じている。勿論クリストフも同じだった。
慈愛では無く自己満足ではあるとは思っていたが、ここまで見事に切り捨てるものだとも思ってはいなかったのだ。
「どう使うつもりだ?」
「殺しましょう。なるべく凄惨に惨たらしく」
「なっ!?」
「そしてそんな現場に連合軍がやった事を示す証拠が何故か残っていれば良いですわね」
「ああ、そうだな。こちらの仕掛けに対して向こうが悪辣な手を使う。それを餌に全面に押し出せば一応の大義名分が出来る訳だ。例えそれがあからさまな自国の工作だったとしてもな」
「ええ、何も取っ掛かりが無ければ押し切る事も出来ませんが、なるべく同情を引けるように始末して、
「くくっ、流石人類の至宝と呼ばれる慈悲深い姫様だな」
そう言って嗤う二人に何も言えずにいるクリストフは、ふと視界の端に写った物に目を奪われる。
それを目敏く見つけたアルフィーナは、フフッと笑いながら両手でそれを持ち上げる。
「それは……」
「これは千景……、召喚者に書かせていた物ですわ」
「あの娘か。惜しいな殺したのか?」
「ええ、昨日の夜中に逃げ出したので追っ手を放ちました。何人か返り討ちにあったようですが、谷底に落ちた死体の代わりにコレを持ち帰って来たらしいですわ」
「なるほどな。確実に殺したのか?」
「複数の者からの証言では……。スキルを封印し深い傷も負わせたのでどうあっても死んでいるだろうと」
「まあ、レベルも低いうえにあの程度の実力ならばそうなるか。しかし、よくあの妹の騎士にバレなかったものだな? 事がバレていれば今頃騒いでいるだろう」
ローレンスは自分と同母の妹の顔を思い浮かべ苦笑いを浮かべた。
幼い為に公の場には出ない妹は、アルフィーナの力を勇者に使う事をずっと反対していた。今はそれを咎めた父王に幽閉されている身だ。
しかし、幼いながらその才覚は確かなものでこの国の政治の一部は妹が舵を取っている。
そんな妹の守護騎士にはこの国一の剣士が付き、妹の目となり耳となり様々な事を幼い妹の代わりに行っている。
この剣士は妹の布いた政策によって救われた地方の下級貴族の出で、妹の為にその力を使う為、王国が主催する武闘大会で力を示し守護騎士にと志願したほど心酔している。
妹の行動の骨子が民の為である事も心酔する一因だった。
「ええ、あの方なら今は
「そうか……。それは
「ええ、そうですわね。さて、クリストフ様。次は貴族達の動きを私達に教えて下さるかしら?」
「わ、分かりました」
それから暫く今後の動きについて互いに確認した後、二人を見送ったアルフィーナは、未だに一心不乱に素振りをしている勇也の事を眺め続けるのだった。
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「あーもう!! ここまでやって空振りですか!? うがー、ここは分からなかった事が分かったとか言っちゃって強がる場面ですかね?」
とあるマンションの一室。
古めかしい羊皮紙やコピー用紙の山、様々な薬品が入ったフラスコなどに囲まれながら、頭を激しく掻き毟り項垂れる少女が居た。
年の頃は15〜6、肩に掛かる程のミディアムの髪を黒髪をベースに赤や青、紫にピンク、アッシュグレーと様々なメッシュを入れている。人懐っこく悪戯好きな猫のような目をした可愛らしい顔立ちだ。
しかし現在その顔は連日徹夜でもしていたのだろう、目の下に大きなクマを作り、疲れた果てたように空虚な笑いを浮かべていた。
「んー。出ないだろうとは思っていたけど、実際本当に出ないと落ち込みますねー。でも、
うーん。と腕を組んで悩みながらあれこれと考えていた少女は、山のような書類や道具を散らかるのも構わず机から払い退かすと、今までの疲れた顔が嘘だったかのように爽やかな顔をしてニマニマ笑い始め。
「ここまで調べて何も出ないって事は、もう何も分からないですよね! クフフ、でもこれでやっと先輩の所に行ける! 全く、テアさん達も私にだけこんな事押し付けて自分達は先に行っちゃうんですから狡いですよね。さあ、待ってて下さいよ先輩達! 今から可愛い可愛い後輩ちゃんが会いに行きますからね!」
テンション高く叫んだ少女は予め用意してあった大荷物を抱えて家を飛び出した。
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