第230話我慢できる子は偉い子だよね?

 いや~、大変だった。やっぱお貴族様って面倒くさい上にたち悪いね。褒賞貰ってパーティー会場に行ったらもう面倒くさいのなんの。


 ぶっちゃけ殴りたくなったよ。


 ジャックやメルならまだしも私達はどうせ王族への顔繋ぎ程度の価値にしか見られていないだろうと思ったけど、意外にもそれ以上の価値を見出だされていたようだ。


 でも少し考えればそれも当たり前の事だった。


 この世界の貴族は金さえ在れば私兵を雇い武力を持つ事が出来る。そして近年ではあまり活動していなかった魔族撃破に貢献した私達は、ある意味で実績が有りながらもギルドでのランクが低い為、大変お買い得な物件なのだそうだ。


 その為チラほらと私達に自分の所に遣える気は無いか? 何処か行く宛は在るのか? 懇意にしている貴族は? 拠点は何処に? 等々、軽い探りから直球な誘いまで沢山在った。


 しかも私の大事な仲間を愛人やら妾やらにしようと色目を使って来る貴族が多い事、多い事、どうやら私は本気でブチ切れ過ぎて、魔力が身体から溢れだしてしまい【威圧】という物を使ってしまったらしい。


 そのせいで群がって来ていた貴族が、白目を向いて泡吹きながら痙攣してたしね。まあ、良い気味じゃない? 城の重鎮達は慌ててたけど私は知らんよ? 私の仲間に色目を使う馬鹿が悪い。


 因みにそんな事をしていた為に本当に【威圧】というスキルまで覚えてしまった。いやはや何ともねえ? 私は悪くないからね。


 そんなこんなで私は早々にパーティー会場から強制撤去される運びとなった。


 そして現在、私達は別室に居る。


 ここはこの後、貴族共が居て堅苦しいパーティーから抜け出した後に内輪で食事する筈の部屋だった。


 今は大きな長テーブルと椅子しか無いけどね。まっ、私がやらかして早々に連れ出されたせいだけどな!


「全く、貴族は面倒なんだぞ? もう少し上手くやれよ」

「やるのは良いんですねミオ?」

「限度は在るがな。今回はやりすぎだ」

「えぇ~。アリシアやミルリルの肩に手を触れた時点で、腕を切り落とされなかっただけマシだとおもうよ?」


 うん。私良く我慢した。偉くね?


「ハクア……そんな事考えてたの?」

「うん。私の鋼の意思で何とか耐えた。褒めても良いんだよ?」

「いや、褒め無いぞ? 何で褒めて貰えると思うんだよ……」


 えっ? だって凄く我慢したよ? 我慢できる子は偉い子だよね?


「……解せぬ」

「お前がな!」


 ぐぬぬ。


「……貴女、現代日本で良く生活出来てたわね?」


 と、言う声に振り返ると、いつの間にか来ていたアイギスが100%の呆れ顔でこちらを見ていた。


 因みにここにはアイギスだけで無く、アレクトラとジャック、メルも居る。


 なんでも二人に対しても貴族は自分のお抱えにならないか? と、うるさいそうだ。

 それならトップが抜けたら下の人間は大丈夫なのか? と思ったら、どうやら二人の仲間は、トップを落とさないと引き入れられないと言うのは、貴族の中で周知の事実らしく、むしろ二人が居なければ勧誘はぐっと減るそうだ。

 なので二人は早々にこちらに参加する事になったのだ。


 アイギス、アレクトラに関しては、国を見捨てて逃げに走った貴族よりも私達の方を重要視しているポーズという意味も在るらしい。


 水面下の駆け引きも在るんだろうけど、ぶっちゃけ貴族の相手が面倒なだけだよね?


「ふっ、社会不適合者の自覚は在ったぜ」

「それは胸を張って言う事では無いんじゃ無いかな?」


 はい、すいません。


「でも、やっぱりアリシアもミルリルも凄く可愛いから、あんなあからさまな馬鹿貴族が調子乗って手を出して来るんだろうね」

「ん~。と、言うよりもエルフだからって事も在るんでしょうね」


 ん? 何ですと?


「えーと、アイギス?」

「……もしかして知らないの?」

「何が?」

「えっと、どう言えば良いかしら?」


 私が聞き返すとアイギスは言いずらそうに言葉を探す。するとそれを見たエルザが説明をかって出る。


「ハクア様、このフリスク地方……と、言うよりも人間の支配地域化に置いては他の種族の扱いは低いのですよ。分かりやすく言えば貴族の大半は私の父と同じ考えなのです」

「……そうか」

「……あの醜悪な顔のクズですよ」


 ビクッ!


「わ、分かってるよ? ちゃんと覚えてるよ! あ、当たり前じゃん?」


 私がこんなに覚えてると言うのに全員が私を半眼で見詰めて来る。


 だ、誰も信じてくれない……だと!?


「まあ、これは人間に限った事ではありませんがね。人族の中である程度地位が確立出来るのはエルフとドワーフですね。ただこれも平民や冒険者にとってですけど。貴族の多くは奴隷や商品、戦力、欲望の捌け口としてしか見ていません。何せ人間以外は魔族と亜人位の違いにしか思って居ませんしね」

「なるほど。つまり私の仲間はエルザと瑠璃、結衣ちゃんとフロスト以外は立場が悪い……と」

「ですね。人間の奴隷が居ない訳では在りませんが、ほとんどは亜人……特に、エルフや獣人、ドワーフです。だからこそハクア様の仲間は、貴族から見れば替えの効く消耗品として見られたのでしょう」


 ふむふむ。そうか~。


「つまりブチのめして二度と逆らう意思を抱かせない様にすれば良いんだね?」


「「「何でそうなる!!」」」


 あれ? 何か違った? 解せぬ。


「私の仲間に手を出すなら神だろうが何だろうが叩き潰す」

「流石ですハクア様」

「はあ、女神様がいらっしゃる世界でなんて事を……常識に付いては追々教えるべきね」


 いやいや私の目標は駄女神に一発かます事ですよ?


「と、言うわけでちょっと行ってくる」

「行くな馬鹿たれ!」


 澪に反論しようと澪の方を見ると何やらアレクトラに耳打ちしていて、それを聞いていたアレクトラがウンウン頷いている。

 そして話が終わったのかアレクトラが私の前に来ると、私の袖の端っこをちょっとつまみ上目遣いで見詰めて来る。


「ハクア様? 私、ハクア様が美味しい物を食べさせて下さるとおっしゃっていたので、とても楽しみにしてたのですが……早くハクア様とお食事をご一緒したいです」


 瞬間、私の頭の中から貴族の事などポイッとされた。


「よし。直ぐに用意しよう!」

「……一瞬で貴族の事忘れたわね」


 貴族? 誰それ? えっ、それ美味しいの?


「……もういいわ。それよりも貴女がいらないって言うから食事の用意してないけど何をするつもりなの?」


 そういやそうだった。


「この部屋には誰も入るなって言ってくれた?」

「ええ、言ってあるわよ。それで、何を作るの?」


 アイギスは楽しみで仕方がないと言う顔で私に聞いてくる。


「うむ。せっかく牛肉あるからね! すき焼きにしようかと思う」


 人数多いしね?


「スキヤキですか? 聞いた事の無い料理ですね。どう言った物何ですかご主人様?」

「う~ん。一つの鍋に具材を入れてそこから直接取って食べる料理?」

「えっと、旅の途中にハクアが作ってくれたみたいな?」

「そうそう」

「だがどうするんだ? コンロどころか鍋も無いぞ?」


 フッフッフッ、心配無用。


 私は空間から自作で作った大きめの鍋を四つ取り出す。


 そして──。


「じゃあもういいよ?」


 と、私が何も無い空間に声を掛ける。その行動に皆が首を傾げる……が、次の瞬間皆の顔が驚愕に変わる。


 何も無い空間に亀裂の様な物が入ると、何とそこから女神御一行が牛肉以外の食材を持ってやって来たのだった。

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