第231話食材を忘れる奴は悪だ
私は女神に近付きながら食材やコンロ等の確認を始める。後ろでは未だに瑠璃とヘルさん以外の皆は固まっていた。
ヘルさんの会釈は良いけど、瑠璃の「あっ、シルフィンさんお久しぶりです」は、どうなんだ? まあ、どうでも良いけどさ。
「女神様とお話が出来ると皆さんから聞いていましたが……」
「私も……アレクトラから報告として聞いたけどお声を拝聴する位だと思ってたわ」
「と、言うか、何でいきなりこんな展開になってるんだ白亜?」
「えっ? いや~。駄女神共が無くなる前に牛肉食いたいって言うからさ。なら、食材や何か用意すればいいぞっと交渉を……」
「……め、女神様相手に何て不敬な事を」
「流石ハクア様ですね」
エルザさん最近そればっかね?
「に、しても、いつの間にそんな交渉をしたんだ?」
「えっと、グロスと戦ってる最中?」
「……良くもまあ、あの状況下でそんな事やってたな? 一瞬でも気を抜けば一撃で死ねたんだぞ?」
「うむ。だからこそ終わった後に楽しみが無いとやってられなかった!」
「「「…………」」」
おや? 何で皆して呆れたり、変な物を見る感じになったりして引いてるの? 解せぬ。
『ちゃんと最高級を揃えて来ましたよ。これで文句無いでしょう』
確かに、食材のレベルはどれも高くとても美味しそうだった。私はこれなら良い物が作れる。と、駄女神の言葉に頷こうとしたのだが、駄女神の重大な過失に気が付く。
「……おい、しらたき無いぞ?」
『えっ? うそっ! あ、あれ? あ、あはは、忘れました。えへ?』
う~ん。そうかそうか、忘れちゃったかぁ。
その瞬間、私は自分の最速で放てる最も攻撃力の在る合わせ技【雷轟】を【雷装鬼】と共に発動して駄女神に向かって放つ。
バキバキンッ! ドゴアガァァ! と、音を響かせ私の攻撃は駄女神の【結界】に阻まれる。
「チィッ!」
『あぶ、危ない! 何全力攻撃してくれてるんですか!? ま、まあ、まだまだ貴女程度では破れないから良いですがね』
クッソ! まだ届かないか!
しかし私は今確実に手応えを感じていた。前に攻撃を放った時に比べ確実に駄女神へと押し込んでいる。何よりも……。
『わぁ、流石ですハクアさん。先輩の【多重結界】を二層まで破ってます』
そう、前に阻まれた時は破れなかった【結界】を、一部とは言え破った感覚が在るのだ。
キテる! 私キテるよ! ちょっとは強くなれてるよ!
と、駄女神に攻撃する事で自分の成長を噛み締める私。だが、今はそれよりも大事な事が在るのだ!
「……すき焼きでしらたきを忘れる様な奴には鉄槌を下すのが当たり前だよね」
『何処の世界の当たり前ですか!?』
『大丈夫ですよハクアさん。私しらたき好きなので個人的に追加分を多く買って持って来ましたから!』
そう言ってティリスは自分の持ち物から大量のしらたきを取り出し私に差し出してくる。
「ティリス良くやった! 何処かの駄女神よりも役に立つね」
『あ、ありがとうございます!』
『……私、しらたき以外は用意したんですけど』
「食材を忘れる奴は悪だ」
『そこまで言います!?』
そんな言い合いをしていると、他の女神達がそれぞれに食材や道具を渡してくる。
因みに若干一名程元気良く『すみません! 持って来る物を全て忘れました!』等と、息を荒げハァ、ハァしながら言って来たので「そっか、それはしょうがないね」と、言って流しておいた。
何やら期待していた様で絶望的な顔をしていた気がしなくも無いがきっと気のせいだろう。
とは言え何も持って来て無いのに食わせるのも癪なので「牛肉食うな」と言ったら、結局よろこんでいた。
難しいね。
そんな訳で鍋のチーム分けを女神&私で一つ、私の仲間&王族で二つ、結衣ちゃん、メル、フロストジャック、カークスの組で一つとなった。
因みにヘルさんは食べないので食材の追加を用意して回り、基本は私のグループの鍋の追加をしてくれるようだ。本来ならメイドの仕事とメイド組が若干渋ったが、アイギス達王族の為に食材を追加すると言う事と、二つの鍋の面倒を見ると言う事で納得した。
結衣ちゃんの組では結衣ちゃんが担当する様だが、意外にも鍋奉行ぶりを発揮して驚いた。
とは言え、席が離れている訳では無いから普通に話しとかは出来るけどね?
そんなこんなで女神を含めたお食事会が開始した。
『はあ、やっぱり最高ランクの牛肉は良いですね。脂が違う
『フフ、美味しいわハクア。今度御礼に調味料あげるわね』
『あっ、クラリスちゃんズルい! 私もあげますねハクアさん』
『貴女達そんな簡単に物の受け渡ししない方が良いんじゃない?』
『まあ、良いじゃないかイシス。と、言うかお前も何か贈りたいなら素直に言ったらどうだ?』
『べ、別にそんな事言って無いでしょ!』
『ほ、本当に良いんでしょうか?』
『エリコッタはもう少し柔軟に考えた方が良いわよ。それよりご主……ハクア? 私もそろそろお肉食べたいな?』
「却下」
『ハウンッ! あっ、やっぱり大丈夫。これだけでご飯イケる。うん』
その言葉に全員が気持ち悪いものを見る目になるが無視だ無視。だが、それにもまた反応する変態さんだった。
扱いが難しい。何でもご褒美に変換出来る変態……あれ? もしかしてこいつ最強じゃね?!
最初は緊張していた皆も、流石にこんな馬鹿みたいな会話をしていると緊張が解けて来たのか、普通に食事を楽しみしながら雑談しつつ料理に舌鼓を打った。
『はあ、美味しかった。それじゃあハクア私はこれでで』
「いやいや、逃がさないぞ?」
料理を食べ終わって速攻で逃げ出そうとした駄女神の服を掴んで引き留める。
『いや、私の用はもう終わったので』
「終わってねえよ! タダ飯食っただけで帰れると思うなよ!」
『失礼な! ちゃんと材料を持って来たからタダ飯では無いですよ!』
『先輩諦めてちゃんと話しましょうよ』
『そうよ。そもそも私達は話したく無いなら断ればって言ったのに、貴女が最高ランクの牛肉をすき焼きで食べる贅沢を逃せない! とか、言って来たんじゃない』
『くっ、牛肉さえ無ければ靡かなかったのに……』
「その気持ちは分かる」
(((コイツら本当に似た者同士だな!)))
『はあ、しょうがないですね。それで何を話せば良いんですか?』
漸く観念した駄女神が、酷く面倒くさそうに私に聞いてくる。
さて、先ずは何から聞くかな?
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