第232話どんだけやねん

 駄女神の言葉に私は少し考える。


 聞きたい事は色々在るんだよね。でもまあまずは……。


「アクアって何か特別なの?」

「ゴブ!?」

「ど、どう言う事ですかご主人様?」

「それってあの七徳スキルってのが関係在るの?」

「それも在るけど最初から……かな? アリシアやヘルさんは最初から居るから知ってるよね。アクアには最初別の名前が付いてたの」

「そう言えばそうですね。すっかり忘れてましたけど、でもそれが何か?」

「これはグロスが言ってたんだけど……」


 そこから私はグロスから聞いた話をかい摘まんで話す。


『う~ん。気が付いちゃいましたか? 言わなければ大丈夫だと思っていたのに、あの魔族は余計な事をしてくれたものですね』


「で?」


 私が先を促すと駄女神はいかにもしょうがない。と言う感じで語り始める。


『まず最初に不測の事態ではありました。前回貴女が言ったように、モンスターへの転生だった事はスキルを見て予想は出来ました。ですがそれがまさかゴブリンだとは流石に予想出来なかったんですよ。私としてもあまりの事態に腹筋がネジ切れるかと思いましたし』


 ほう……。くっ、我慢だ我慢、まだ本題に行ってない。コイツが私のラスボスなのは最初から分かってた筈だ。


「ふぅ~~~。やっぱり私とアクアは何か関係が在る……と?」


 私の言葉に駄女神は立ち上がりアクアの頭を撫でる。


『ええ、結論から言えばこの子はもう一人の貴女です』


 その言葉に皆がギョッとしてアクアと私を見つめる。


 う~む。そう来たか……。


 私が続きを促すと駄女神はアクアに付いて語り始めた。

 そもそも私がモンスターに転生する事は、先ほど自分で言っていた様にある程度予想の範囲だった。


 だが、そこで想定外だったのがゴブリンであった事らしい。転生で生まれ変われるモンスターにもある程度制限が在るのだそうだ。

 通常一番最初に話された通り転生者はこの世界を存続させる為の楔の様な物だ。

 その為、本来なら例えモンスターとして生まれ変わったとしても、元の世界の記憶や、人格等の魂の情報を維持する為にどんな種族として産まれ様とも、一緒に産まれる事は無く、一人しか産まれない筈なのだそうだ。


 分かりやすく例えるなら犬や猫だろうか? その子供は一気に何匹も産まれてくる。しかしこの産まれてくる子犬や子猫が転生者の場合、その転生者である一匹しか産まれなくなるのだ。


 だが、ここで問題が起きた。それがゴブリンと言う種族である。


 ここで説明すると、このアースガルドの世界のゴブリンは、私達の世界での扱い通りとても弱く特筆すべき能力も無い。

 その上、進化のルートとしては最上位のモンスターにもなれる道もあるが、そのほとんどが進化出来てもホブゴブリン位と言う。本来なら普通の村人でも数匹なら対処が簡単に出来る驚異にもならない物だそうだ。


 だがこのゴブリンと言う種族が厄介だとされている事が一つだけ存在するのだ。それが繁殖力によるその数の多さである。


 言ってしまえば年中発情期。

 しかも相手がどんな種族で在ろうが、雌ならば全く関係無いのだ。それが例え上位の種族だとしても、本能のままに数に任せて襲い掛かる事も在るらしい。


 どんだけやねん。


 そしてその繁殖力は雌の身体さえ持てば一晩で孕ませ、次の日の夜には五~六匹程産まれるらしい。


 因みにゴブリンの子供はどんな種族の女から産まれても、ミニゴブリンかゴブリンしか産まれないんだとか。


 さて、ここで話は戻るがそんなゴブリンに転生してしまった私は、本来なら一人しか産まれ無い筈の所、なんとアクアと私の二人が同時期にお腹の中で誕生し産まれてしまったのだ。


 実際、本当ならお腹の中二人いた所で、片方はもう片方に全ての力を奪われ死産して産まれるらしい。だが、ゴブリンの出産までの時間は短く、結果的に私の魂はアクアと分け合う結果になってしまったのだそうだ。


『なので、アクアは在る意味ではもう一人の貴女なのです。まあ、正確に言えば貴女の魂の欠片と、本来のゴブリンとしての魂が混ざった状態ですがね。とは言え、アクアに貴女の記憶が在る訳では無く、そうですね。例えて言えば昔に読んだ本の内容を何と無く覚えている程度ですね』


 あ~。だから偶に何でそのネタ知ってるの? みたいなのがあったのか。


「じゃあアクアが七徳スキルを覚えたのは?」


『偶然ですね。私もビックリしましたよ。恐らくアクアの中の貴女の魂は幼少期の部分が多いせいで純粋なんでしょう』


「魂なのに幼少期とかの部分って分かれるのか?」


『貴女の疑問も当然ですね澪。ですが魂とは簡単に言えばその者の情報の塊の様な物なんです。だからこそ、こちらの世界での繋がりも在るのでしょうけど、多少の違いを貴女達二人ならハクアに感じるでしょ?』


 駄女神の言葉に私はよく分からず首を傾げるが、澪と瑠璃は納得の色が濃いようだ。


「そんなに変わった?」

「まあ……な。良い変化だと私は思う」

「はい、ハーちゃんが楽しそうだから私も嬉しいです」


 ふむ。二人が言うならまあいいか。


「じゃあ私が進化する度に昔の事を思い出すのも?」


『ええ、進化とは自己の魂を強化して肉体を昇華する事でより高次の存在へと至る行為です。貴女の場合はそこに魂の復元も重なるのでしょう。それだけ思い出す事は貴女の根幹を形作る物なんですよ』


 ふむ。確かに思い出すのは私にとって根幹と言えるべき物かも知れない。

 家の事、師匠の事、そして姉の事、多分古くて一番色々な事があった時の事だ。瑠璃や澪はずっといたし新しい記憶になるから大丈夫だったのかな?


 私達の話を聞いて少し不安になったのか、私の裾を掴んで見上げてくるアクアの頭をなるべく優しく撫でる。


「さて、じゃあ次は」


 この世界に付いてかな?


「その前に皆さん。時間はたっぷり在る事ですし、そろそろお茶にしませんか? 白亜さん、澪さんは何時も通りアップルティーで良いですね。お嬢様はアールグレイを……他の皆様にはこの世界に在る紅茶で良いですね。さあ、皆さんどうぞ」

「えっ? うん。ありがとう。あぁ、久しぶりに飲むとやっぱ旨いね?」


 私は突然出された事で反射的に礼を言い、久しぶりのアップルティーを堪能する。


「あぁ……確かに久しぶりに飲んだな」

「当たり前ですよハーちゃん、みーちゃん。テアさんは何時も完璧な私の自慢なんですから」

「お褒めに預り光栄ですお嬢様」


 ん~。落ち着くな。すっげぇ久しぶりだもんな~。ん? 久しぶり? つーか、テア!?


「「って! なんでここにアンタが居るんだよ!!」」


 あまりにも自然すぎる登場に思わず流していた私達は、いきなり登場した人物に私と澪の二人でシンクロしてツッコミを入れる。


 そこには元の世界で知り合いだった銀髪のメイドが当たり前の様に立っていた。

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