第233話アナグラムかよ!
私と澪のツッコミで、ようやくここにいる筈の無い人間だと思い出した瑠璃が慌てて振り返り。
「はっ! そう言えば何でここに居るんですかテアさん!?」
瑠璃にテアさんと呼ばれた人物は、さも不思議そうに片手を頬に当てながら困った様に顔を作る。
「何故? と、申されましても私は瑠璃お嬢様のメイドです。主の居る所にメイドが居る。それだけの話ですが?」
何時も通りでしょ? ──と、言わんばかりの言葉に、頭がズキズキと痛んで来た気がする。が、額を片手で覆いながら何とか「いやいや、ここ異世界何ですが?」と、言葉を絞り出し訴えるが「はあ、それが何か?」と、何を言っているのかわからないと言う様にアッサリ返されてしまう。
あれ? 私の常識がおかしい? そういう物だっけメイドさん? まあ、確かに澪とも瑠璃とも会えてるしな?
「「白亜(ハーちゃん)違うからな(ね)!!」」
「チッ!」
「オォイ! なに今の舌打ち!」
「気のせいですよ白亜さん」
こ……の、どうやって来たかは知らんけど相変わらず良い性格してやがる。
この女の名前は|纏井(まとい) テアと言って元の世界では瑠璃の家でメイドをしていた人だ。
私や澪も瑠璃と共に結構世話にもなった。
遠出する時や泊まりの時、私達が未成年の為保護者役等も良く買って出てくれたし、何よりもこの明らかに凄い出来る人の空気を纏ったメイドの癖に、私と同じ位のレベルでINするほどの廃ゲーマーなのだ。
見た目は銀の髪を頭の後で纏め、顔は綺麗なのだが表情の変化に乏しい為冷たく厳しい印象。だが、実際は割りと感情豊かな面白い人である。
プロポーションは抜群で、メイドには並々ならぬ思い入れが有り、この私と三日三晩不眠不休でメイドに付いて語り明かした猛者でもあった。
因みにテアは純正メイド派で、ミニや過度な露出を抑えたザ・メイドと言う様な格好をしている。しかし流石メイドに付いて語り明かせるだけあり、エルザ達メイド組が着ている様な最近の改造系にも当然理解を示している。
しかも「ミニの場合にはガーターベルトは必須でしょう。主に見せると同時に魅せる。それもまたメイドの務め」と、語った時には固い握手を交わしたものだ。
だが、しかし! 問題はそこじゃない!
「どうやって来たのさ!?」
「フフ、頑張りました」
頑張ったのか~。うん。答えになってないよね!? 何その頑張ったって。どんなに頑張ったって異世界なんて来れないからな!
私と澪が口々に言った所で何処吹く風なテアは、仕舞いには「メイド足る者、主の為ならば日常の世話から、秘書、経営、軍略から罠、情報操作まで行い、車、船、戦闘機から戦車に至る迄乗りこなし、主に付いて海外から異世界に行くのも当たり前では無いですか」とか、言い出す始末である。
……そんな馬鹿な。
しかもその言葉を聞いてミミは「私には無理ね」と早々に諦め、ミルリルは「ハクア様のメイドにはそこまでの能力が必要なんですか……」と、絶望的な顔をして私を見詰めている。
エルザに至っては「異世界のメイド……侮れないですね」等とテアを観察していた。
いや、君達コレを基準にしなくても良いんだよ? むしろそこまで出来るならメイドなんかしなくても良いからね!? そして最後! 何処に行く気だお前!?
「あ、あのご主人様? この方は?」
と、ここまで展開に付いて来られずフリーズしていたアリシアが遠慮がちに私に訪ねて来る。
「見知った顔も多いですが初見の方も多いですね。では改めて、名乗りが遅れて申し訳ございません。私、別世界の地球にて瑠璃お嬢様の専属でメイド業務に付いている纏井 テアと申します。以後よろしくお願いいたします」
テアの名乗りに皆が戸惑いながらも挨拶を交わしていく。戸惑いは在るけど私の仲間は比較的受け入れるのが早い。
〈異常事態や不可解な現象はマスターで馴れているので〉
解せん。
「それにしても白亜さんは……なるほどそういう事ですか……」
ん? 何? 私の事を見た後にアクアを見て何か納得した? あぁ、さっきのか。って、何で分かる!?
『ハクア貴女、この方と知り合いなんですか?』
えっ? 何その反応! そう言えば女神達はこっちよりも驚いてない?
テアが現れてからずっと驚きに固まっていた駄女神が、絞り出す様に私に聞いてきた。
「……まさかとは思うけど、お前ら知り合い?」
『……この方が前に話した私の前任者のティアマト様ですよ』
「メソポタミア神話の原初の神じゃねぇか!!」
「そう呼ばれていた時期も在りますね。懐かしい」
つーか、まといてあ←→ティアマトのアナグラムかよ!
「気が付けよ私……」
「いや、無理だろ」
項垂れながら言う私に澪のツッコミが入る。
うん。まあ、そうだよね? でもここまで単純だと悔しいのだよ。
「テアさんって神様だったんですか?」
「瑠璃お嬢様勘違いしないで下さい。例えこの身が神で在ろうと、私がお嬢様のメイドで在る事にはなんら変わりません。むしろ神の位など面倒なんで遥か昔に棄てました。こう、ポイッと」
「「『『棄てるなよ!』』」」
しかも何かゴミ捨てるみたいに、スゲー簡単に捨てなかったか今!?
テアの言葉に私と澪と女神全員のツッコミが重なる。流石に他の皆は神が相手ではツッコミ出来ないようだ。
因みに瑠璃は「なら良かったです」と、普通に受け入れていた。瑠璃さんマジぱねぇっす。
「はあ、取りあえずテアは瑠璃のメイド! それ以上でも以下でもない。で良いんだよね?」
「構いませんよ。今さら白亜さん達に敬語など使われても違和感しか在りませんから」
「大丈夫神が相手でも使う気ないから」
「流石ですね。私もその方が嬉しいですが」
まあ、私もそうだけどね。って、待てよ? 前任者の女神って確か……。
「お前……結婚してたのか?」
私の呟きに澪と瑠璃がバッ! と、テアを見る。流石にその情報を私が得ているとは思わなかったのか、テアにしては珍しく驚いた表情を素直に出していた。
「なるほど……シルフィン? 後で少し昔話に花を咲かせましょうか?」
『あっ、いえ、わ、私も何かと忙しい身の上ですし……』
「年中暇して私の監視してるから大丈夫じゃね? 話してる間くらい他の奴が気を聞かせてくれるだろ?」
珍しく狼狽している駄女神の為に優しい私は助け船を出してあげる。
(うわ、ハクア物凄い良い笑顔)
(相手が女神でも少しでも弱味を見せたら……相変わらず容赦ないな)
(あの子、昔からあんな感じなの澪?)
(ああ、基本的には人嫌いで人見知りで対人恐怖症だが、弱味を見せる相手や琴線に触れる相手には容赦ないな。特に私や瑠璃が絡む事、他には食事を邪魔される事にはタガが外れる)
(……具体的にはどんな事が在ったのじゃ?)
(飯を食ってる最中に馬鹿なナンパ野郎が来てな、無視したら食事を台無しにされて、ボロ雑巾の様にした挙げ句そいつの財布から金を取り出して、治療費を投げ返して後は食事代にしていたな)
(……思いっきりヤクザとかと変わらないわね。てかそれ犯罪よ)
(まあな。だが、相手にはよく言って聞かせたからその辺は大丈夫だ)
(……そう)
うん。外野うるさいよ?
駄女神は私の事を恨みがましく睨んでいるが日頃の行いのせいなので無視を決め込む。
「それで? どうなのテア?」
「はあ、確かに遥か昔に結婚はしましたね。今はもう何の関係も在りませんが」
「それはこっちの話に繋がる?」
「いえ、個人の範疇です」
「ならいいや」
「よろしいので?」
「話したいなら聞く。それ以外は私個人では追求する気はない」
私の言葉にテアは「そうですか」と言って、その後小さく礼を言った。そして気を取り直した様に「それで白亜さんは何を聞こうとしたのですか?」と、訪ねて来た。
「テアが教えてくれるの?」
「ええ、かなりの時間が経っているので補足は必要でしょうが、制限のある者達よりは融通が効きますよ。そうですね取り敢えずはこの世界と地球の関係に付いて、神、勇者、魔王、魔法やスキルに付いてでどうでしょうか?」
「そうだな。プラスで最初にテアがここに来るまでも含めて」
「おや、私の事も知りたいのですか? 攻略対象外ですよ? お嬢様以外とのフラグは全て折ります」
「むっ、ハーレムルートなら行ける?」
「お嬢様とペアでしたら」
「ご主人様?」
「ハーちゃん?」
「すいません冗談です!」
「おや、冗談ですか? それは残念です」
そう言ってクスクスと笑った後、テアはこの世界とここに来るまでの事を語り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます