第11話「そるじゃー、たお、そう」

 翌日、しっかりと寝て、体力気力を戻した私達はゴブリンの巣近くまで来ていた。


 どんな感じ?


 〈相手はだいぶ苛立っているようです〉


 ほう。やっぱりそうだよね。


 〈自分の手下が八匹も倒されたうえに、巣に居るはずだった愉しむ筈の獲物だったアリシアも逃げ出していますからね。残りのソルジャー達にアリシアや新しい獲物の探索をさせているようです〉


 うん、予想通り。

 巣の中で見かけた事あるけど短気そうだったからねアイツ。アリシアが居なくなるだけでもこうなると思ったけど、手下があれだけ倒されたら尚更だろう。


「あの、私はあまりこの辺りの地理には明るくないんですが、他の人を探しているなんて事は無いんですか? その──新しい犠牲者とかは大丈夫でしょうか?」


 〈心配は要らないでしょう。ここは一番近い村からでも1日は掛かる街道の途中ですから〉


 そうだったのか。それなら──今、ソルジャー達は分かれて動いてる?


 〈いえ、一緒に行動しています。どうしますか?〉


 レベル分かる?


 〈それぞれレベル5とレベル7です〉


「私は二匹同時に相手取るのは危ないと思います」


 アリシアの言葉を肯定して提案する。


「そるじゃー、つけて、わかれた、ところ、たおす」


 私達はヘルさんの【俯瞰】の効果範囲ギリギリの所で、ソルジャー達を見張るが、その日は結局分かれて行動する事は無かった。


 焦って行動したくなる気持ちを抑え、仕方がなく拠点へ帰るとそれぞれの仕事を始め、アリシアは回復薬作りを私とゴブゑは食料調達に行く。


 因みに私は攻撃力アップの為、ソルジャーの死体から奪った錆びた剣を使う事にした。


ゴブゑには攻撃力がそこそこ有り、素人にも扱いやすいナイフを持たせようとしたら、何故か(明らかに重いだろそれ?)と、言いたくなるような棍棒を選んだ。


 いや、確かにゲームや漫画ではゴブリンって棍棒のイメージだけどさ。……棍棒にはゴブリンの心を掻き立てる何かがあるのだろうか?


 その日も簡単に連携を確認して早めに休んだ。


 ▶スキル【喰吸】のスキルが発動しました。

  熟練度が一定に達しましたスキル【危機察知LV.1】習得しました。


 次の日、ゴブリン達が行動する前に移動を開始して私は自分達の痕跡をわざと少し離れた所に何ヶ所か残した。


「うまくい、けば、ぶんだん、できる、かも」


 私達ではまともにやっても勝ち目は無い、制限時間があるとはいえ焦って動けばどちらにしても私達の敗けだ。だからこそ慎重に行動したい。


 〈ソルジャー達が二手に分かれました。どちらに行きますか?〉


 出来る事ならレベルが低い方が良いけど、私達の罠がある方に行ったのはどっち?


 〈残念ながら高い方です〉


 どうしよう……罠に誘い込む方が勝率は高いけど、それでも進化してる格上の相手は辛い、かといって罠の無い所でも確実に勝てる保証は無い──少し考えて罠の方に行ったソルジャーを追い掛ける事に決めた。


「そるじゃー、たお、そう」


 二匹が十分離れた事を確認して、私はソルジャーの前に移動すると、わざと見付かり誘き寄せる。


「ギギ!! ギギ〰!」


 私を見つけたソルジャーは私目掛け突っ込んでくる。その攻撃を余裕を持って回避して罠のある方へと走っていく。


 やっぱり速い!! この間みたいに距離を調整する余裕が無い!? 


 自分の出せる限界の速さで必死に走るが、追い付かれそうになり心臓がバクバクと鳴っている。


 〈マスター追い付かれます! プランを変更して援護します。十メートル先のあの木の辺りまで頑張って下さい〉


 縺れそうになる足を必死に動かしなんとか逃げるが、その甲斐虚しく遂に追い付かれしまう。


そして──私の背中目掛けソルジャーの剣が振り下ろされ、当たる直前──


「ファイアアロー!!」


 間一髪、アリシアの魔法が私を助ける。


 魔法はソルジャーの左肩に上手い事当たり、ダメージこそ少ないがバランスを崩して転倒させた。


そこにゴブゑがすかさず棍棒を降り下ろす──が、その攻撃はソルジャーの剣で簡単に弾かれてしまう。


「ギギ!?」


 体勢を立て直させまいと、すかさず地面の土をソルジャーの顔目掛けて投げ付ける。


 残念ながらそれは防がれてしまうが、一時的に視界を塞いだ事でゴブゑが再び攻撃する。それに併せ私も【爪攻撃】を繰り出し同時攻撃を仕掛ける。

 ソルジャーは棍棒の方が脅威と見たか、手に持った剣で棍棒を受け止める。


「ギガ!」


 棍棒を受け止めた為、私の【爪攻撃】が体に当たりダメージを負う。


「ウインドカッター」


間髪容れずアリシアも魔法で攻撃するが、今度は避けられてしまった。


 クソ! コイツやっぱり強い!! 体勢を立て直しこちらに向き直ったソルジャーのステータスを確認する。


 ▶【鑑定士】スキル失敗

 レベル7

 HP:450/450→350/450

 MP:0/0

 物攻:40


 魔法と私の攻撃が当たってダメージ100かよ! やっぱりキツかったかな? でも、向こうもこっちの連係には対応しきれてないし、油断さえしなければ対処出来る。


「ギギッギ」


 今の体では向かってくるソルジャーの攻撃をいなす事など出来る訳もなく、手に持った剣で必死に攻撃を受け続ける。


 ゴブゑもアリシアも私が近くにいるため手を出せないようだ。


 けどそれも好都合、攻めあぐねたソルジャーが剣を今までよりも大きく振りかぶる。


 今だ!!


「ギガ!?」


 大きく振りかぶり、隙が出来たのを見計らいソルジャーの攻撃を避けると、今まで私が受けに徹していたので、ソルジャーはそれに対応出来ずつんのめる。


 そんな無防備なソルジャーの背中を蹴りつけ転倒させ、足首目掛け剣を振り下ろす。そこに今までタイミングを見計らっていたゴブゑとアリシアもタイミングを合わせてくる。


「ウインドカッター!」


「ギギ~!!」


 アリシアの魔法とゴブゑの棍棒が頭に当たり派手に血が飛び散る。私の攻撃もアキレス腱に当たり腱を断ち切り、そのまま追撃を掛けるもソルジャーは滅茶苦茶に剣を振り回し、近付けずに失敗に終わる。


 くそ! 出来ればもう一撃入れたかった!


 ゴブリンソルジャー

 HP:350/450→150/450

 MP:0/0


 与えたダメージは200、後150残っているが攻撃が頭に当たったソルジャーはふらついている。アキレス腱も断ち切られている為スピードもかなり落ちてるはず、このまま慎重に行けば勝てる! 


 ──そう思った時。


「ギギ~!」


 勝機と見たのかゴブゑが正面から突っ込んでいく!


 無謀過ぎる!?


 ゴブゑの棍棒が弾き飛ばされ、返す刃でゴブゑが切り裂かれてしまう。


更にソルジャーが攻撃を重ねようとするが、間一髪ゴブゑを突き飛ばす、しかし代わりに私の足を刃がヌルリと通って切り裂いていく。


冷たい異物が自身の体の中を通り抜けるゾワリとする感覚が、すぐ後には灼熱となって私を襲う。


「ファイアアロー!!」


「ギガ~!」


 攻撃に集中していたソルジャーが魔法に気付くもアキレス腱を切られている為、回避出来ずに正面から食らう。

 その間に私は距離を取りアリシアはゴブゑを避難させる。


 ゴブゑの状況は!?


 〈範囲は広いですが浅いようです。ですが戦闘は無理でしょう〉


 ヘルさんの言葉を聞きながら体力を確認する。


 ゴブゑ

 HP:120/120→20/120

 MP:150/150


 後一歩踏み込んでいたら死んでいたかも知れないという事実に背筋が凍る。


 〈マスターは大丈夫ですか?〉


 傷みは酷いし怖い──けど、まだ動ける。


 ゴブ子

 HP:160/160→100/160

 MP:75/75→70/75


 ゴブリンソルジャー

 HP:150/450→50/450

 MP:0/0


 後50、アリシアに合図を送りソルジャーに斬りかかる。お互いに足を怪我している為動きは遅いが、ソルジャーは魔法を警戒してアリシアとの間に私を挟むように立ち回る。


 コイツ、進化個体なだけあってただのゴブリンよりも場馴れしてやがる。


 だんだんと押され始める私は、再び大きく振りかぶるソルジャーの攻撃に回避が間に合わない。


「ご主人様!!」


 アリシアの声に後ろ手で合図を送る。


 ソルジャーの攻撃が振り下ろされ、自分の剣でその攻撃を受けにいく。

 互いの剣が当たった瞬間、私の剣が破壊され自分の体が吹き飛ばされるが抵抗せず。自分から後ろに跳び受け身も取らずに倒れ込む。


「ファイアアロー!!」


 その瞬間、射線上に私が居なくなったところを見計らいアリシアが最後の魔法を放った。


「ギガッギ……」


 ▶ゴブ子のレベルが8に上がりました。

 HPが175に上がりました。

 MPが85に上がりました。

 物攻が18に上がりました。

 物防が18に上がりました。

 魔攻が23に上がりました。

 魔防が23に上がりました。

 敏捷が40に上がりました。

 知恵が160に上がりました。

 器用が105に上がりました。

 スキル【痛覚軽減LV.1新】習得しました。

【鑑定士LV.3→LV.4】になりました。

【爪攻撃LV.1→LV.2】になりました。

【ゴブリンキラーLV.1→LV.2】になりました。

 スキルポイントを5獲得しました。


 ▶すべての傷が回復しました。


 ▶ゴブ子のレベルが9に上がりました。

 HPが185に上がりました。

 MPが90に上がりました。

 物攻が21に上がりました。

 物防が21に上がりました。

 魔攻が26に上がりました。

 魔防が26に上がりました。

 敏捷が45に上がりました。

 知恵が170に上がりました。

 器用が110に上がりました。

 運が35に上がりました。

 スキル【跳躍LV.1新】習得しました。

【鑑定士LV.4→LV.5】になりました。

【格闘LV.1→LV.2】になりました。

【マヒ耐性LV.9→LV.Max】になりスキルが【マヒ無効】に変化しました。

【言語LV.7→LV.8】になりました。

【ゴブリンキラーLV.2→LV.4】になりました。

 スキルポイントを5獲得しました。


 ▶ゴブゑのレベルが8に上がりました。


 ▶すべての傷が回復しました。


 ▶ゴブゑのレベルが9に上がりました。


 ▶アリシアのレベルが3に上がりました。


 ▶アリシアのレベルが4に上がりました。


 ▶アリシアのレベルが5に上がりました。


 やっと終わった~。死ぬかと思った。レベルアップのおかげでゴブゑの傷も治って良かった。


「取り敢えず皆無事で良かったです!」


「ありしあ、も」


「はい!」


 アリシアの言葉に私が返事をすると嬉しそうに笑ってくる。


「ギギ~」


 ゴブゑは自分が怪我してしまった事を反省しているようなので頭を撫でておく、その間にアリシアがソルジャーから腕を切り取ろうとソルジャーに近付く──が。


 〈大変です。ホブゴブリンが近付いてきます! 隠れて下さい〉


 ヘルさんの忠告に私達は素早く反応しソルジャーの死体から腕を切り取り、急いで近くの茂みに隠れる。


「ギギ~!! フギ~!」


 私達が隠れて直ぐホブゴブリンがやって来る。


 私達とは違う黒い身体と、ゴブリンと同じくらいの太さの腕と足。


 それだけでもう、私達とは違うステージに居るのだと思わせるだけの、風格と気配を漂わせて目の前に現れた。


 そして、ソルジャーの死体に気付き、声を荒げ怒り狂いソルジャーの死体を更に痛め付ける。次第にソルジャーの体が原形を失っていく様を見ながら私は【鑑定士】のスキルを発動する。


【鑑定士】スキル失敗

 レベル14

 HP:800/800

 MP:0/0

 物攻:100

 物防:100

 魔攻:10

 魔防:50


 そこに出たステータスは、とても今の私達が相手になるようなものじゃ無かった。

 仲間達にも見えるようにしていた為、ステータスの恐怖と目の前の光景に震えが伝わる。やがて、怒りが多少収まったのかホブゴブリンは巣へと引き返していく。


 私達は十分離れた事が分かっても動けずにいた。


 本当に私達はあのホブゴブリンを倒せるのだろうか………。


 ゴブ子の寿命まで後10日

 ゴブゑの寿命まで後9日

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る