第341話 それはお前の専売特許って訳じゃ無いぞ!
「はぁっ!」
裂帛の声を上げた私の拳撃とガダルの拳撃が交差する。
先程までとは打って変わり状況は正攻法の真正面からの戦いに移った。
ガダルが繰り出す一撃は、先程までとは比べ物にならない程の魔力が込められていて、変幻状態でもカスっただけで私のHPを削り、酒呑童子の魔装を簡単に引き千切っていく。ヒットすれば確実に私の命を奪う程の威力だ。
そんなガダルの攻撃に対して弾き、いなし、避けながら懐にピッタリとくっ付いてなんとか耐えている状況だ。
それでも離れるよりマシな戦いは出来ている。
ガダルの攻撃を必死に捌きながら、捌いた際に出来る極僅かな隙を作り出しては小さな攻撃を重ねていく。しかし、その攻撃はガダルの甲冑には全くといっていい程届かず、甲冑の放つ黒い霧に受け止められてしまう。
この霧。どうやら可視化する程密度の濃い魔力みたいだな。常に纏うというよりは、攻撃に合わせて噴出させて受け止めてる。しかもパッシブじゃなくアクティブ。これがこの魔装の能力か。
しかしここまで分かっても大きな攻撃は入れられない。ここからあと僅かでも前へと踏み込めば、威力の乗った攻撃をする事であの霧を突破出来そうだが、それは逆に今のなんとか持ち堪えている現状が崩壊する事を意味する。
今この場が私にとってのデットライン。今も戦いながらその首には死神の鎌が今か今かと私の首を刎ねようと待ち構えているのだ。
正直生きた心地がしないが、それはいつもの事である。解せぬ。
でも、もう少しだ。
ガダルの魔力を伴った【剛打掌】を屈んで躱すと、そのまま足を刈取るかのような足払いを連続で放つ。だがその攻撃をガダルはフワリと後ろに飛び簡単に避けてのける。
でもそれも想定内。
避けられた足を地面に突き刺し軸にすると、回転のエネルギーを転換してローからのハイキックへと変化した攻撃を繋げる。
目の前で起きた突然の変化にガダルは思わず腕で攻撃を受け止め、衝撃を逃がす為に逆側へと身体を傾ける。
だが、その瞬間ガダルが「ぐっ!」と苦悶の声を上げる。
それもその筈、ガダルの無防備な側頭部に私の【剛脚】が決まっているのだ。
ハイキックを受けられると同時にその反動に逆らわずに足を引き戻し、もう片方の足で【剛脚】を放つ我流連続攻撃【双脚刃】
普通ならば完全に足を引き戻してから放たなければ威力の乗らない攻撃を、スキルを使う事で無理矢理威力を引き上げた攻撃だ。
その分コンマ何秒という時間だが速い攻撃が出来るのだ。
なので決して私の足が短くて引き戻しが早かった訳ではない! ああ、決してだ!
ふらつくガダルに双打掌で浸透系の鎧通しを放ち追撃する。
浸透系の打撃をする武技はまだ習得してないから自分でやるしかない。
マトモに喰らったガダルは今回の連続攻撃で初めてちゃんとしたダメージが通ったようだ。
だが、ガダルもやはり只者ではない。
鬼の力を送り込まれ内側からダメージを受けたというのに、意志力を振り絞り痛みを訴える身体を無理矢理前へと動かし、私との間に霧を噴出させる。
今更防御? いや、違う!
「【ミストファング】」
ゾワリとした感覚に従い全力で後ろに下がると同時に発声された声は、霧状だった魔力がいきなり牙のような形に凝縮され、私の目の前数ミリの所でそのアギトを閉じる。
しかもガダルの攻撃はそれだけでは終わらない。
再び霧に戻った牙を今度は「【黒爪】」と一言呟く。
すると甲冑に包まれた腕に更に霧が纏わり付き巨大な爪へと姿を変える。
「くっ!」
両腕に巨大な黒い爪を携えたガダルの攻撃をギリギリでなんとか躱していくが、やはり逃げ切れず身体を浅く傷付けられる。
今度は私の方が堪らず後ろに下がるとガダルは更に「【
恐らくはこれこそがガダルの魔装の力の真の使い方なのだろう。
次々と変わる獲物の射程に苦戦する私。
だが──
それはお前の専売特許って訳じゃ無いぞ!
「【鬼刃】」
鎌を薙ぐ瞬間、前へと踏み込み白牙刀を呼び出し、鬼の気を纏わせながらすれ違いざまにガダルの胴を薙ぐ。
やはり甲冑に阻まれるが、鬼の力を纏った白牙刀は甲冑に深い傷を残した。
変幻状態の私なら何時もよりも強く大きくなった鬼の気を、通常状態の時よりも上手く扱える。【鬼刃】もその技の内の一つだ。
そしてこの状態の鬼の力を使った技なら、ガダルの霧を越えて甲冑に傷を付ける事もやはり可能だった。
お互いに振り向きながら武器を変える。
だが、ガダルの霧は一度変形させると霧の状態へと戻してからで無いと次の変化は出来ない。それに比べて私の白打は変化形態から次の変化へは自由に出来る。
そしてガダルはこの事を知らない。
何故ならこのダンジョン攻略の最中、ガダル達に監視されている事を知っていた私は、武器の形を変える際は
そして変化させるには一度仕舞うと思っていたガダルの顔に驚愕が浮かぶ。武器の変化をさせるのは自分の方が速いと思っていたのだろうが、その僅かな時間の差が、私の攻撃をガダルよりも早く届かせる結果となった。
カランビット、大剣、槌、そして変幻によって変化した鬼の気を爪へと出力出来る篭手に次々と変化させ、拳打の間合いに馴れていたガダルの感覚を狂わせ攻撃する。
「……ここまでか」
不意に届いたガダルの声。
その瞬間、私を衝撃が襲う。
何がどうなった? 地面? なんで?
「カハッ! ごっ! あっくっ! あっ、ゴポッ……」
気が付くと私は地面に倒れ嗚咽を洩らし口からビチャビチャと大量の血液を吐き出す。
「何が起こったか分からないようだな?」
咳き込む私を見下ろしたガダルがそう問い掛ける。
「確かに素晴らしい力だ。だが、それと同時にお前は既に限界だった。……お前は自らのスピードが、最初ほど保てていなかった事を自覚出来ていなかった。それだけだ」
確かにここまで長い間、変幻状態を保って戦った事は無かった。それどころか本気の戦いをしたのはこれが初めてだ。それがこの結果に繋がるとはね。もう少しなんとかなると思ったんだけどな──。
「お前は確かに魔族には無い強さを持っていた。だがそれでも──」
──私をこの程度しか追い詰められないのなら必要無い。
最後の方は小さな声で聴こえなかったが、どうやらガダルもここで決める気のようだ。
倒れて動けない私の腕を取り持ち上げ空いた片腕に魔力を纏わせる。
──だから私も最後の悪足掻きをする事にした。
「……貴様」
私の行為に気が付いたガダルが今まで見せた事が無い程の怒りの形相で私を睨む。
「この後に及んで
そう、私がした最後の悪足掻きは、ほぼ全ての人間が信仰してる創世教会が唱える祈りの言葉。つまりはシルフィンに対する祈りだ。
私がシルフィンと顔見知りだと知っているからこそ、この追い詰められた状況で祈りの言葉を唱えればシルフィンの助力を期待している。そう思ったのだろう。
だからこそ自らの力でここまで自分を追い詰めた私が、自分以外の誰か、ましてや神に対して助けを求めたのが気に食わないのだ。
だが、次第にガダルの怒りは私の不自然な行動に困惑のそれへと変わっていく。
そしてガダルは何かを感じ取ったのか私の腕を離し距離を取り、私の発する一言を聴き今度こそ有り得ない物を見る目を私に向けた。
そんなガダルの顔を見て私も知らず口の端が上がるのだった。
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