第340話現実でやられるとマジ糞ですわー

 「ガァっ!」


 正面から飛び込んだ私の一撃を試すように片腕で受けるガダル。

 その事を予期していた私は、後の事は考えず思い切り全力の一撃を振り下ろすように喰らわせる。攻撃を受け止めたガダルの足元は衝撃に耐え切れず放射状に割れ「くっ!」と、ここに来て初めてガダルの苦悶が聞こえる。


 どうやらその一撃はガダルの予想を超えていたらしい。


 チャンスだと思った私は一気に畳み掛ける。


「ぐはっ!」


 だが、攻撃した蹴り足を掴まれた私は思い切り地面へと叩き付けられた。そのまままたも振り上げられ叩き付けられる前に、肩口に思い切り蹴りを入れ、腕の力を緩ませ脱出する。


 バク転で距離を取るがガダルも私を追い、距離を詰め、魔力を纏った拳で攻撃を繰り出す。


 着地と同時、前に出るとガダルの腕を外に弾くように流し、そのままの動きで鳩尾みぞおち目掛けて肘を落とす。たまらず後ろへと下がるガダルだが、その際に魔力を放出し私を足止めすると、更に魔力弾による攻撃で追撃を掛けさせない。


 ギリギリだが戦えてる! 離すか!


 しかし、こうして曲がりなりにも白兵戦で戦えている以上、魔力量に差が有り遠距離戦では分が悪い私は、そう簡単に距離を離される訳にはいかない。


 追い縋る私に向かって放たれた魔力弾。

 微妙な時間差で放たれ、私からは見えないように巧妙に隠された魔力弾がある。その魔力弾は私の回避コースにある為、一撃目を避けると体勢が崩れ二撃目までは避ける事が出来ない。

 だから私は【魔力装甲】で更に強化した篭手に鬼の力を込め、なんとか一撃目を弾き、二撃目を避けながら距離を詰める。


 ぐっ!


 だが、それだけ強化しても弾いただけで腕が痺れ、力がごっそりと削れる感覚がある。


 やっぱり遠距離戦になったら勝ち目が無い。


 白兵戦でも一発良いのを貰えば落ちる。それが分かっていても死中に活を見付けるしかいかない私は必死に足を前へと進める。


 そんな私の思惑を感じ取ったのか、それとも経験から来る戦闘勘か、次の一手にガダルが選んだのは魔力による遠距離飽和攻撃。


 クソが! 判断が早い。


 先程の威力のある一発ではなく散弾のように放たれた魔力弾は、ご丁寧に私の逃げ道を塞ぐように広範囲に広がっている。避ける事さえ許されない面制圧射撃は、逆に逃げの選択肢を奪い、私に正面突破の決意をさせる。


 素早く前面に【結界】を張ると要所を腕でガードしながら、散弾の中へと身を投げ出すように飛び込む。


 頭から飛び込むように魔力弾に突っ込んだ結果、なんとか被弾箇所は極力抑えられた。しかし、それを見てとったガダルは私が飛び込むと同時に距離を詰め殴り掛かる。


 魔力弾から顔を守る為に腕でガードしていた私は反応が遅たが、それでも腕を下げる事で攻撃をクロスガードする事には成功した。──だが、その代償は左腕の骨折という形で支払われる。


 私としても【水枷】をガダルに付与出来たから痛み分けだと強がりたい所だ。しかし、左腕が使えないのは物理的にも精神的にも辛い。だが向こうから近づいて来てくれたのは好都合。


 私はガダルの周りに【結界】をランダムに張り、上下左右を飛び回り文字通り縦横無尽にガダルの隙を突き攻撃する。一方そんな私に相対するガダルはじっと動きを止め、あらゆる角度や意識の隙を突いた攻撃に対処していく。


 緩急を付け意識の隙を突いてもこの程度が限界か。出来る事なら今の内に・・・・出来るだけ・・・・・ダメージを与えておきたいんだけどな。

 いや、これだけしか攻めていないからここまで戦えてるんだ。焦ってやり方を変えれば一気に形勢はガダルに傾く。それに時間を掛けて攻撃をしている間になんとか左腕の治療が出来たのは大きい。


 頭の中の冷静な自分はそう言っているが、どうしても私はやり方を変える事で戦況が変わる前に、こちらに少しでも有利にしたいという衝動に駆られる。


 しかし、決定的な隙を晒しながら待ち構えるガダルの動きに、後一歩踏み込む事が出来ない。


 さっきから意図的に隙を晒してる。あれに飛び付けば痛烈な一撃を食らうと分かってても攻めたくなるな。でもそれをすれば私の負けは確定だ。このままの状態で今の内に少しでもダメージを重ねないと。


 そしてそれをガダルも感じているのだろう。


 所々に絶妙に隠された隙で私が釣れない事を知ると、今までのガード主体の動きからカウンター狙いへと切り替える。

 防御に徹して散々見せてきた私の動きに早くも慣れ始めたガダルは、攻撃に合わせてカウンターを放つ。


 だが、それは私にとっても待ち望んだ瞬間だった。


 私の攻撃に合わされたカウンターの一撃を、今までよりも更に一段スピードを上げ躱すと同時に、懐に潜り込み変幻した事で得た爪を突き刺すような一撃を放つ。


 狙いは脾臓ひぞう


 殴打されるだけでも激痛を伴い、下手をすれば破裂する事も有り得る臓器だ。しかも大量の血液も内包している為に、普通の人間なら出血多量を起こす可能性もある程に危険な場所。


 狙い通り当たった一撃はガダルの身体こそ貫く事は出来なかったが、インパクトの瞬間に浸透系の打撃に切り替えた事で、確かな手応えを感じる一撃を入れられた。


 その証拠に攻撃を受けたガダルは口から血液を吐き出し苦悶の声を上げている。


 畳み掛ける!


 すかさず追撃を掛ける私だが攻撃がガダルに到達する瞬間、ガダルの身体から大量の魔力が放出される。


 そしてその溢れ出した魔力は、渦を巻き再びガダルへと収束する。


「チッ! そりゃやっぱりあるよな」


 負け惜しみに【鬼砲】を何発か放ってみるがやはりビクともしない。


「……ああ、正直コレを出す羽目になるとは考えていなかった。私の力をここまで引き出した事を誇るが良い」


 魔力の渦が消えると中からは甲冑の様な物を着込んだガダルが姿を現す。

 しかも今まであまり人間と違った所が無かったガダルだが、肌は黒く瞳は真っ赤、蝙蝠のような翼に遥かに禍々しくなった角が生えている。

 その姿は物語に出て来そうな、人の精神を根底から恐怖させる悪魔そのもののような姿に変わっていた。


 はぁー。分かってたよ。分かってたさ。

 私がスキルを使ってでも魔装が出来たならお前も当然出来るよな。だからこうなる前に少しでもダメージ蓄積したかったんだけどな。

 まっ、出て来ちまったもんはしょうがない。ボスのHPが減るとパワーアップするのは基本だからね。現実でやられるとマジ糞ですわー。

 回復までする分、私の方が敵として出て来たらイラッとしそうだけど。閑話休題。


 さて、第一形態の時で酒呑童子とほぼ互角。第二形態相手にどこまでやれるかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る