第342話最終目標は腹パン入れる事
神台を通してハクアとガダルの戦闘を見守っていた女神達の前で、切り札の変幻・酒呑童子が解けてしまったハクアが映る。
『ハクアさん! ど、どど、どうしましょう!? あの変幻? でしたっけ。解けちゃいましたよ!』
ピンチになったハクアを観てティリスがまだ大丈夫ですよね? と、縋るようにテア達を見詰めるが、見詰めた先のテア達は静かに首を振る。
「私の知る限り、変幻以上の手札はあの子には無い」
「うん。私も心さんの言う通りあれ以上の手札は知らないよ」
「そんなーーー」そう言って押し黙ったティリスを気遣いながらも、ハクアの事を祈るような気持ちで見守る女神達。そんな中、神台を見ていたイシスがハクアが何かを呟いているのに気が付いた。
『これは祝詞?』
『ああ、しかもこれはカリグで信仰されてるシルフィンへのものだ』
イシスの言葉にブリギットが応える。まさかこの場面でハクアが自分への祈りを行うとは思わず困惑するシルフィン。しかし、そんなハクアの途切れ途切れの祝詞を聞いたティリスはシルフィンに食って掛かる。
『先輩! きっとハクアさんは先輩に助けを求めているんですよ! そうじゃなきゃこの状況で祝詞なんて唱える筈がありません!』
確かにそれはそうかもしれない。
──だが、それでもシルフィンにはどうしても、ハクアが自分へとSOSを発信するとは思えなかった。そして、もし仮にそうだったとしても、シルフィンにはハクアを助けに行く事など出来る筈が無かった。
『確かにティリスの言う事は理解出来ます。しかし、仮にそうだとしても、助けを乞われたからと言って助ける事など出来る筈が無いでしょう。それは貴女にも分かっている筈ですよ』
『確かに先輩の言う通りですけど──』
「……それにしても何故白亜さんはこの状況で祝詞を唱えるなんて意味の無い事を……。しかも残り少ない魔力をわざわざ放出して。いえ、それ以前に──まさかっ!? ふふっ。そうですか、そういう事ですか、だからこその
「なるほどな」
「全く。本当にどうなっているのかしらあの子の頭の中。どんな段階踏めばこんな事を思い付くのか……」
『貴女達だけで納得してないで少しは教えてくれないかしら?』
「大丈夫ですよクラリス。ハクちゃんが何をしようとしているのかもうすぐ分かりますから」
テアの納得を皮切りに、ハクアを良く知る四人は、これから行おうとしているとてつもない無茶を正確に推測していた。そして他の女神達が困惑する中、ハクアは祝詞に繋げる形で次々に力ある言葉を紡いでいく。
『……これは!? 契約? しかし何故? いえ、まさかあの子がやろうとしているのは──』
ハクアから自分へと行われたいきなりの契約に驚いたシルフィン。
だが、シルフィン程の力があれば、例え自らの血肉を契約に捧げたとしても、ハクアとの力の差で一分もしない内に契約は自壊する。
それはハクアも分かっている筈なのだ。にも拘わらずハクアは契約を行った。しかしその事でシルフィンは、ハクアの狙いに気が付き驚きの声を上げた。
「ええ、恐らく貴女の考えた通りですよシルフィン。白亜さんがやろうとしているのはそういう事です」
『そんなこんな事が本当に可能なんですか? いえ、それ以前にもしも可能だったとしても──』
「ええ、無論成功などとてもしない無茶、しかしあそこに居るのは士道 白亜です。それだけで私達が疑う余地は無い。それにあの子はこの無茶を押し通した結果、どうなるのかも折り込み済みでしょう。だからこそここまで使わなかった奥の手なのでしょうからね。ふふ、やはり貴女は面白いですね白亜さん。貴女は
そしてシルフィンは神として生きてきた中で一番の驚愕に見舞われる事になる。
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アイギスに初めて創世教会の祝詞を教わったあの時から確信はあった。
「良いハクア? ちゃんと教えておくから覚えるのよ」
「いや、なんで私が駄女神を称えなければいけないのさ? むしろ私は敵になりたいんだが?」
最終目標は腹パン入れる事である。
そんな私に何故こんな役に立たない事を教えるのかと熱弁してみたがアッサリとスルーされた。解せぬ。
「まあ、この世界。と、言うよりもほとんどの人種は程度の差こそあるが創世教会の信徒だ。覚えておいて損は無いだろ」
「いや、私の脳が無駄な知識を覚えるという損害が発生する!」
「そう。じゃあ今から言うのをちゃんと憶えなさい」
「無視かよ!?」
「良い? 《偉大なる世界創りし最高神 アブニス=ミニス=シルフィンよ 我の祈りを聞き届けたまえ 御身に奉るは我が魂 祈りをもって我を示し 我が魂を奉り御身への祈りを捧げん》これが基本の祝詞よ」
「ふーん。祈りとかって言葉多くね?」
「……その感想はどうなのよ。因みにこの後に《どうか使徒たる我等の祈りを聞き届け御身の偉大なる力 聖なる加護を我等に与えたまえ》と、続けて得たい加護の神の名とかを続けて願うのが聖騎士達の神聖魔法よ」
「長い。無駄に長い!」
「本当に罰当たりね」
しかし、今の祝詞。皆が気が付かないレベルとはいえ駄女神と
無難な答えを返しながら、今見た光景から一つの考えに至った私は、出来たら儲け物という感じで研究を始めた。
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その過程で必要になるドーピング剤の材料が希少な物で、ピンポイントで用意されてあんな罠に掛かるとは思わなかったけどね。
まあ、そのお陰でこうしてぶっつけ本番の無茶が出来てるけど。今度からは気を付けよう。閑話休題。
これからやろうとしているのは一度も試した事すら無い事。それには幾つものハードルを越えなくてはならない。
「偉大なる……世界創りし最高神 アブニス=ミニス=シルフィンよ 我の祈りを……聞き……届け御身の加護を乞い……願わん…………」
ダメージから途切れ途切れになる祝詞を必死に紡ぎながら祝詞を改変する。
ダンジョンという神の力が届きにくい場所で、駄女神との糸が繋がるかどうかが問題だ。しかしこれは途中まで全く感じなかったが、なんとか繋がった事で成功を確信した。
「……御身に願い奉るは我が魂 祈りをもって我を示し ゴポッ! ゴホッ! 我が……魂を……奉り御身へ捧げる……祈りとせん どうか……使徒たる我等の祈りを聞き届け……御身の偉大なる力 聖なる加護を
繋がった糸に残り少ない魔力を慎重に注ぎ込み、糸を確かな物にする。途中血を吐き呪文が途切れた時は焦ったが糸は維持出来ている。
途切れそうになる集中力を必死に掻き集めながら改変を続け、言葉の中で乞い願う立場から、対等な立場へと自分の格を引き上げる。
「その偉大なる御身ノ名を持ちいてここに契約を果たさん! 我が血 我が肉 我が魂をもって 汝と我の絆結ぶ許可をくれてやる」
繋いだ糸を通して無理矢理契約を持ち掛け、駄女神との糸を更に強化する。そこから更に自分の格を上げていく。
呪文は意思とイメージだ。
だからこそやる事によっては、自分を上の者として唱えなければ出来ない事もある。これからする事はそういうものだ。
駄女神より下でも同列でも意味は無く。上からでなければいけないのだ。それが例え一時的なもの、言葉上の精神的な意味であってもだ。
そして私は集中力を更に練り上げ、最後の仕上げに掛かる。
「我は
私の詠唱が終わると共に、糸を通して私の身体の内から膨大な力が膨れ上がり、大地が鳴動し、大気が震える。
「貴様、まさか……
驚愕の声。信じられない、有り得ない者を見る目を私に向けるガダル。
成功とは言えない欠陥だらけの出鱈目な技。今こうやって形だけでも上手くいっているように見えるのは、偶然の産物だろう。それでも私は口を歪めニヤッと嗤い、当然の結果のように振る舞いその言葉を口にする。
「神装・神語り」
「は……ははははっ!! 神の力を奪い、神を語るか!! 本当に最後の最後まで楽しませてくれるものだ。しかし……分かっているのか? 今のその状態がどれ程の無茶と奇跡の上に成り立っているのか」
「ああ、失敗すれば内側から弾けて死んでいたくらいだろ。それがどうかしたか? 何もせずに諦めるいい子でなく、みっともなく足掻く馬鹿の方が性に合ってるんでね」
ガダルの言葉に応えながら構えをとる。
「それを分かったうえで……か。なるほど、だが、その一撃を私が受けると思っているのか? 刻一刻と漏れ出ていく力。このまま何もしなければ労せず倒れる相手にわざわざ合わせてやることもあるまい」
確かにガダルの言う通りだ。ドーピングにドーピングを重ね、理論を組み立て、入念に下準備をしても今の私ではこの力を扱い切れない。
何よりも悔しいのが、この力があの駄女神の力の1%にも満たないという事だ。全く、才能の無い自分が嫌になる。
だが──
「いいや。お前はこの一撃を受けるさ。何せお前はどういう意図かは知らんが私に何かを期待してるからな。自分を追い詰め打倒する。それを望んでいる節さえある。だからこそお前は、このお前を倒す可能性のある一撃を受けなければいけないのさ。私の全てを試す為にもな」
「ふっ、ああ、確かにその通りだ。つまらん事を聞いたな。貴様の一撃、望み通り試してやる。お前のその力の全てを私に見せてみろ」
刻一刻と薄れていく力を拳に集め、息を整える。
時間が経てば経つ程に力は無くなるがそれでも焦らない。焦って集中力を乱せば力を保つ事さえ不可能になるからだ。
息を吸い。
吐いて。
止める。
ダンっ! と、いう音を残し前へと躍り出る。
しかしその音は私の前方。ガダルの方からも聞こえてくる。全く同時の動き出しだ。
集中にある私の思考が加速する。
身体が切る風を冷たく感じながら、私はガダルとの距離を詰めていく。
互いに後少しで攻撃圏内に侵入するその直前に、思い切り後ろに飛び退き、私の目の前を拳が通過するのを確認しながら【黒炎】を放つ。
だが、ガダルはその攻撃を避ける事無く無効化する。鎧から霧が溢れ出しそれに触れた【黒炎】は空に溶けるように霧散してしまう。
霧散させられると同時に地面へと足を着いた私は再び前へ。互いの距離が近付き、互いに振るうは自身の最大の力を込めた右の拳。
──怖い。
恐怖が身体を支配しようとする。
──逃げたい。
弱気が心を支配しようとする。
────だが、それでも前へと足を進める。
「「おおおおおおおぉぉ!!」」
互いに咆哮を上げ相手へ目掛け拳を放つ。
………………一瞬の静寂。
「ガハッ!!」
互いに抱き合うような距離。拳が身体を貫通し、口から血が溢れ出る。
「…………見事だ。
貫いたのは私の拳。
「よく言うよ」
血を吐き出しながら私を称えるガダルの言葉に、しかし私は悪態しか吐けない。
「「この勝負。私の(貴様の)負けだ」」
同時に発した言葉と共に私の頭を衝撃が襲い意識が暗転した。
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