第343話ギャース!? 死んじゃうーー!!

「──うっ、つっ」


 目が覚めたら知らない場所だった──と、思ったら先程までガダルと戦っていた場所だった。


 なんだ生きてたのか。


「どうやら目が覚めたようだな」


 痛みで動かせない──もとい動かしたくないので動かずに居たら、上から覗くように見下ろすガダルと目が合いそんな事を言われた。


「どれくらい落ちてた?」


「何、ニ~三分程だ」


 ふむ。気絶するのに慣れ過ぎて起きるのが早くなっとる。しかも知らん間に【気絶耐性】なんてスキルまで覚えてるし。こんなの覚えるまで気絶しまくってたんだね……私。


「お眼鏡には適ったのかな?」


「ああ、大分甘い判定だとは思うがギリギリ有用だと判断した」


 そんな考えを振り払うべくガダルに話し掛けてみるとこんな答えが返ってきた。


 大分上から目線の言葉だが本当の事なので言い返せない。無念なり。


「貴様のこれまでの成長。そしてこのダンジョンでの短期間での成長は目を見張るものがあったからな、私にとって脅威であると同時に貴様になら──」


 ふむ。どうやら酒呑童子、神語りを経てなんとかガダルの求めるラインにまで行けたようだ。


 本当に奥の手含めて出し尽くしてギリギリの合格だから危なかった。

 と、いうか、ここに来るまでに監視されてたのは最初から気が付いていたから、全ての階を通して【特定の行動する時に特定の隙が出来る】

 そんな嘘の情報まで織り交ぜたのに、見事に掛かってくれたにも拘わらず素の反射神経で全て防がれたからね。やってらんないわ〜。


「……こちらからも一つ聞くが──お前はいつからあの光景を見ていた」


 ふむ。流石に気が付くか。


「……最初からだよ。最初からあの光景に辿り着くように動いてた。何度も修正して危ない橋を渡って、思い描いた物とはかなり違った形になったけどね? でも根幹の部分は変わってないよ」


 どうしようかと一瞬考えたがガダルからの質問に正直に答える。


 今更だしね。


「最後のあの瞬間。私の腕は一秒にも満たない時間ではあったが動かなくなった──その結果、私はお前の攻撃を受ける事になった」


「ああ、種としては簡単だ」


 隠す気も無いので私はガダルに説明を始める。


 最後の攻防でガダルの腕が動かなくなったのは、戦闘の初めから効かないと分かっても撃ち続けた【鬼砲】が原因だ。


 何度も撃ち続けた【鬼砲】により、この戦闘空間とガダルの身体の両方に私の鬼の気が浸透していた。それをあの瞬間に操る事でガダルの腕の動きを一瞬だけ止める事に成功したのだ。


 元々、医療技術の一環として視神経の代用に魔力を使った方法を模索していた私は、その過程で自分よりも弱い相手なら魔力によって操れる術を開発していた。


 更に今回。魔力を鬼の気に変えて変幻を使う事で、身体の一部を一瞬なら操れるのでは? と、思ったのだ。

 そしてそれを利用して最大の一撃を放ち、ガダルの求めるラインに達するというのが今回の戦いにおける私の骨子だった訳だ。


 因みに一番ベストな展開だったのは、ダンジョン攻略の様子を見ただけで、ガダルがラインに到達していると判断してくれる事だった。まあ、そんな物はガダル見て速攻捨てましたがな!!


 まあ、そんなプラン変更を強いられての戦いと思惑だっのだが、蓋を開けてみれば変幻を使っても勝てそうになかったし、それどころかスタミナ切れでパフォーマンスが下がってるのにも気が付かない始末。


 最悪ですわー。


 その上、文字通りの鬼札だった変幻・酒呑童子だけでなく、もしもの時の為に取り敢えず薬を飲んで準備だけは進めていた神装・神語りまで使って負けるとか!


 現実ってマジクソゲーですわ。


 分かるかね! 普通小説やアニメならどっちか片方出て来れば、読者や視聴者のテンション上げられる物を、同じ回に二つも使って負けるんだよ!? 無いわー、マジで無いわー。


 普通ここまでしたら勝てると思うでしょうよ……。


 草葉の陰で私の変幻・酒呑童子も泣いてるよ。満を持しての登場だったのにアッサリ神装・神語りに持ってかれたからね。


「ほう、魔力や気を使った傀儡術か。カーチスカのものとも少し違うが随分と器用な真似をするものだ」


 意外にも褒められた!?


 しかしそんな奥の手。私としては成功する確率は三割程だったのを、なんとか成功させられたのは良いのだが、やはりというかガダルを打倒する所までは届かなかった。


 そもそも成功した段階で予想以上の力を感じた私は、ガダルを倒す方へと方針を変えていた。

 しかし結果は最後の瞬間、私に操られ一瞬動きを止めた事で攻撃が当たらないと悟ったガダルは、鎧からあの黒い霧を噴出させて私の攻撃を少し逸らしたのだ。


 それをさせない為に【黒炎】とかも使って、瞬間的に幾つもの選択肢を突き付け集中力を割いたのに防御しちゃうんだもんなぁ。


 その結果、ガダルの魔石を砕く筈だった私の拳は魔石から逸れ、ガダルの身体を貫いただけになり、それを耐え切ったガダルは、文字通り全ての力を一撃に込めた私を簡単に倒せたのだ。


 魔石を砕けず耐え切られた段階で私の負け。それを私もガダルも互いに分かっていたからこその最後の台詞だった訳だ。


「……なるほど。しかし、今の今まで殺し合いをしていた相手に良くそんな事を話すものだな 」


 ……自分から聞いたくせに。


「まあ確かにそうだが、今のお前に私を殺す気は無いだろ? 無いとは思うが機嫌を損ねて殺意持たれても今度こそ本当に抵抗出来ないしね。何よりも──手の内を知られたところで変わらないね。むしろ知れば知るだけ相手の選択肢が増えるから、思考の沼に嵌るのなら好都合だ」


「ほう、確かにその通りだな。くくっ、やはりお前は面白い」


 何やら随分とご満悦のガダルは一頻り笑うと、私の攻撃で剥がれ落ちた鎧の一部と薄い紫色をした大きなクリスタルを渡してきた。


 私は痛む身体をなんとか動かしてそれを受け取ると「これは?」と、ガダルに尋ねる。


「言っただろう。お前にはまだまだ強くなってもらわなければ困るとな。お前の力ならその鎧を取り込む事が出来る筈だ。鎧とはいえ私の創り出した魔力の塊のような物だからな」


「ふむ。なるほど……」


 ガダルの真意を図る為に目を真っ直ぐ見詰めてみるが、嘘を言っているようには見えない。どうやら本心からの言葉らしい。


 そんな風に見ているとガダルは一瞬何かを窺う・・・・・ように辺りを見回し、私の耳元に顔を近付け──


「────」


「っ! お前……どう言──」


 私の言葉を制するようにガダルは自身の口に指を当てる。


「絶対ではない。するもしないもお前次第だ。だが、これで分かった筈・・・・・だ」


「…………はあ。私、やっぱお前の事嫌いじゃねぇわ」


「なら、今からでもこちらに付くか?」


「それは断る。ただ分かったよ・・・・・


 改めて集中すれば、少し感じていた違和感が分かる。そしてそれなら行動にもある程度納得出来た。


 納得出来たのなら話は早い。お言葉に甘えて鎧の方はBOXの中に入れて後で取り込ませて貰うとする。


 今やっても良いけどガダルレベルのを取り込むには出来れば万全の状態で臨みたいからね。


「んで、こっちのは? すげー綺麗なクリスタルだけどなんなん?」


「それはダンジョンコアだ。私には不要な物だからな。今回の詫びの一つとして貴様に贈ろう」


「マジか!? やったー!!」


 ダンジョンコア。


 それは異世界物で良く出てくる物の一つである。


 地球産コンテンツが神の流した物の一部とすればダンジョンポイントとかを使った経営も出来るはず。やったぜ。


 一人静かにテンションを上げた私にガダルは「そろそろか」と、一言呟く。


「いや、勝手に帰られても困るんだが。もうちょい私の疑問のあれやこれやに答えて行けよ」


 まあ、そろそろ時間なのは分かる。正直ここまで早いとは思っていなかったのだろう。

 私の予想としてももう少し後だと思っていた。


 とは言えタイムテーブル管理が甘くて、ガダルがこんな下層で私の相手をしているのだから、その辺のスケジュール管理はもう少しちゃんとやってもらいたい所だ。


 まあ、だいぶ焦ってたみたいだし、しょうがないけどね。


 そうは言っても、こっちだって最上階での戦いになってたら、そこまでの間にもう少し強く成れたかもしれないのだから文句も言いたくなる。


 非難がましい視線を向けながらそんな事を言うと、考えが通じたのか受け取って手に持っていたクリスタルをピンッと、指で弾いて来やがった。あたかもそれも含めての|クリスタル(物)だと言われた気がした。


 きっと間違えてない。ちくせう!


 そんな私を見てクスリッと笑うガダルは、やはり私と同じ人間なのだと思わざる得ない。


 肌も違う、角や爪も違うが、人間と違うとは思えないね。人とそれ以外で何が違うんだろう。


「ではな。願う事ならもう会う事が無ければ良いな」


「……そうだな」


 今回の事で私達の道は完全に違えた。それは次に会う事があれば敵同士以外の関係性は無いという事だからだ。


 それだけ言ったガダルは何かを呟くとその場からフッと消えて私の目の前から居なくなった。


 気配を確認しても私以外にはこのフロアに居ない事を確認してフゥー……と、息を吐く。


 やっと全部・・の気配が消えたか。今回も何とか生き残れたなぁ。はぁ、また新しい事考えないと駄目なのかなぁー。神語りだけでもいっぱいいっぱいなんだけどな。


 ガダルよりも強い存在はまだまだ居る。それなのにもう既に新技を二つも披露して敗北とは先が思いやられる。


 再び深い溜息を吐く。と、その時、私の感知にこのフロアへの侵入者が引っ掛かる。


 遠くの方を眺めれば上空には翼を生やした狼のような生物がこちらに飛んで来ているのが分かる。


 やっと来たか。


 どうやら向こうもこちらに気が付いたようだ。そう思い私も皆に向かって手を振ろうとした。その瞬間、私の頬をチッ! と、掠りながら氷の礫が飛来した。


 ……あれ? 攻撃してきましたよ? 怒ってる! 確実に怒ってるよね!?


 見れば明らかな程に怒気を漲らせた澪が狼の背からこちらを睥睨している。


 私が澪の怒気に気が付いた事を澪も分かったのだろう。私に向かって惚れ惚れするような笑顔を向けると、その口は「動くなよ?」と、言っている。


 あっ、これアレですね。一ミリでも動いたら怪我するレベルの包囲射撃使った精神的なお仕置きですね。解ります。そしてごめんなさい。ゆるちて。


 そう心の中で謝罪した瞬間、澪によるミリ単位の氷弾射撃の雨が、こちらに到着するまでの間私へと容赦無く降り注いだのだった。


 ギャース!? 死んじゃうーー!!

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