第344話わぉ。うん。本気で殴ろうアイツ

「……酷い目にあった」


「自業自得だ愚か者」


 私は澪の精神的お仕置きを乗り越え、皆と合流を果たした後、アクアの【慈愛】による治療を受けた。


 全く、開口一番がこのセリフなのだから血も涙も無い奴だ。

 まあ、何故か攫われた時の状況と、ここに来てから美味しい物を食べまくったのを知っていたようだから、逆の立場なら同じように責めてるけどな!  でも、自分が言われるのは嫌なんでい!!


 因みに、アリシアを初めとした何人かは、潤んだ瞳で睨まれたのが、それには本気で反省してみた。100%こっちが悪い状況で泣く子には勝てん。


 しかしこれはこれでなかなかそそる物が……あっ、すいません。もう撃たないで!


 まあ、澪とのやり取りのお陰で湿っぽい空気は無くなったが、その代わり「やはり縛っておくべきか……」等と不穏な呟きをした時に、何人かの目が妖しく光ったのを見てしまった。

 ま、まあ、誰とは言わないがな! 言わないがな!!


 さて、そんな風にまったりとした時間だったのは、先程まで・・・・の話だ。現在はと言うと──。


「あはははは!」


「笑ってる場合か! たくっ、お前と居ると何時もこうだよな」


「まあまあみーちゃん。ハーちゃんも笑ってないで頑張らないと」


「「「なんで三人ともこんな状況でそんなに落ち着いてるの(るんですか)!!」」」


 ──そう。私達は現在崩落し始めたダンジョンを脱出している最中なのだ!!

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 ──事は少し前。


 治療が終わった私は、こんな岩柱の上でわざわざ正座させられて、皆からの有難い説教を受けていた。


 それと言うのも先程の会話の後、不用意に「まあまあ、生きてんだから良いじゃん」等と言ってしまった為だ。


 ハクアさんマジ失言。


「うわ! 何?」


 そんな説教の最中、エレオノが突然驚きの声を上げる。


 それもその筈──何故ならダンジョン全体が立っていられない程大きく揺れ始めたからだ。


「──これは、崩壊しているのか!?」


「「「ええ!?」」」


「はい。澪の言うようにダンジョン自体が崩壊を始めているようです。──これは、ダンジョンに満ちていた魔力の供給が止まっている?」


 澪の推測に答えたヘルさんが、私にとって不穏な言葉を漏らす。


 いや、うん。まさか、ね……? おいコラ信じてるからな!?


 私が頭に浮かんだ心当たりに内心ドキドキしている間にも、揺れは益々大きくなっていく。

 今まで天井から剥がれ落ちた小さな破片が落ちて来る程度だったのに、段々と大きな破片が混ざり始め遂にはビシリッ! と、天井に亀裂が入った。


「やばい!? とりあえず全員騎獣に乗るんだ! 脱出するぞ!」


 本格的に崩壊の始まったダンジョンに、澪は慌てて騎獣を出現させ乗り込むように指示を出す。

 皆が乗り込むのを確認した私も最後尾に乗り込むと、澪は一気に騎獣を疾走らせる。


「くそ! 最後の最後までどうなっているんだ!」


 崩壊のするダンジョンの壁や天井を見上げながら、悪態を吐く澪に冷や汗を流す。


 大丈夫。私のせいじゃない。

 別に最後尾に乗ったのは、皆が乗るのを確認してから乗っただけであって、後ろめたい訳でもなんでもない! 

 ほら、アレだ。全速力で脱出しないといけないから、誰か振り落とされると大変だし。私なら鎖や糸で助ける事も出来るからね!

 澪の近くに居て怒られたくないとかじゃないんだからね! 私にやましい所など、全く無い!


 頭上から降る破片を【結界】で防ぎながら、そんな風に一人で考え込んでいたのが悪かった。

 そのせいで前の会話に気が付くのが遅れてしまった。


「それにしても何故いきなり崩壊など始まったんだ?」


「ダンジョンへの魔力供給が無くなった──と、言う事は恐らくダンジョンコアを失ったのでしょう」


 気が付いた時にはヘルさんが私の予想通りの言葉を口にしていた。


 ノウ! 反応遅れた!?


 そして、先頭で話していた澪とヘルさんの言葉で、一斉に皆が後ろを振り返る。


 ちょっと待って欲しい。なんでそれだけの会話で私の方を皆して見るのかな?


「……おい。そこの馬鹿。顔を逸らすなこっち向け──そうだ。何か知ってるよな?」


 その質問。知ってる事前提で進めてますよね?


「何時も、何時でも、何時だって私が悪い訳じゃないからな!!」


 などと見苦しくてもこの場は逆ギレで凌いでみる。怒られるのは未来の私に任せた!


「むっ、それもそうか。悪かった。何時も通りお前のせいかと疑った──それで? ダンジョンコアはちゃんとしまってあるのか?」


「それは勿論ちゃんとしまっ──ちょっと待って欲しい。私は悪くない。怒るにしてもちゃんと事情を聞いてからにして欲しい」


「「「やっぱお前(主様、アンタ)のせいじゃないか!」」」


 澪、クー、リリーネからそんなツッコミを戴いた私だが勘違いしないで欲しい。私は被害者なのだ。

 まあなんだ。とりあえず殴る、絶対殴る。次にもしガダルと会った時は絶対に殴ってやる。ギャグ風味の攻撃なら当たるはず!


 そもそも出来るならもう会いたくないと言ったのに、追撃の可能性を考えてこんな物を渡してきたガダルが悪い。

 まあ、向こうからすれば消耗した身体で簡単にあの場から離脱しつつ、ダンジョンを崩壊させる事で追撃の可能性も潰す、一挙両得の妙手だとは思うがお陰で私が怒られるではないか! 勘弁して欲しい。


 そんな弁明をしてみても結局胸倉を澪に掴まれガクガクと揺らされ、笑うしか無い私だった。──と、そんな所で冒頭に戻る。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

「長い回想だった」


「ほう。この状況でまだボケる余裕があるか」


 そんな言葉に照れてみたら怒られた。解せぬ。


「ふざけている場合ではありませんよマスター、澪。このままの速度だと、計算上ダンジョンが完全に崩壊するまでに脱出するのは不可能です」


「「え? マジで」」


「はい。このダンジョンは地下に向かって円錐状になっています。そしてマスターが居た階層よりも上は、上層への階段が互い違いになるようになっていました」


「あ〜、つまりは両端にあるって事?」


「はい。その通りですマスター。そして崩壊のスピードと、今の踏破スピードを計算すると間に合いません」


「……一番上は広かったですからね」


 わぉ。うん。本気で殴ろうアイツ。


 このダンジョンは全10階層。

 で、私が居たのがインプの巣、イカ、豚、竜、烏と来てガダルの居た5階で、そこから澪の騎獣で二つ上がったから、今は3階から2階にいく途中、それで二つ上がるのに掛かった時間から計算して……と──うーむ。確かに難しそうだ。


「それで、どうしますかマスター?」


「とりあえずは1階を目指して上──え?」


 突如として暗くなった視界に何事かと上を見ると、そこには騎獣をもグシャッ! と、潰せそうな岩塊が上の階から私達へ向けて降ってきた。


 わーお。


「「あっ、死んだ」」


「だから、ハーちゃんもみーちゃんもふざけてる場合じゃないですよ」


「だからなんで三人ともそんなに余裕あるのよ!?」


 あまりの自体にフリーズしていた思考から、いち早くツッコミを入れるべく復帰を果たしたリリーネ。

 因みに他の皆は未だにフリーズ中だ。


 流石ツッコミ気質。貴重な人材である。


 しかし何をそんなに慌てているのだろうか? むしろ上の階からこんな物が降ってくるという事は、光明だってのに。お陰で脱出の目処もたったのだから喜べば良い。


 ──とは言えこのままでは潰されてしまう。澪に声を掛けると当の本人は分かっていると言いたげに頷き、今まさに私達を押し潰さんと迫って来ている岩塊を見据える。


 互いに頷きあった私達は息を合わせると同時に、騎獣の上から岩塊に向かって跳躍する。


 そして──。


「鬼神の鉄槌!」

霜の巨人の拳ヨトゥンフィスト!」


 跳躍した私が繰り出すは鬼神の鉄槌。

 鬼の力と神の力をミックスした巨腕を幻影で作り出し操作する技だ。

 実はこれ、元々変化状態での必殺技的なものだったのだが、タメも大きく隙もデカすぎて、今回日の目を見なかった悲しい技なのだ。それを未だ身体に残っていた、神の力とミックスして繰り出したものだ。

 活躍の場が出来て喜んでいる事だろう。これなら超次元的なサッカーのゴールキーパーも務められそうな必殺技である。


 対する澪が繰り出したのは霜の巨人の拳ヨトゥンフィスト

 私の技と同じく、魔力を含んだ澪の魔氷で出来た薄い紫色に耀く氷の巨腕。氷といえど澪の魔力を大量に含んだそれは鋼鉄以上の硬度を持っている。


 奇しくも同じ技を別々に考え付いた事に苦笑しながら、眼前に迫る岩塊を迎え撃つ。



 鬼神と霜の巨人。



 二つの巨大な力を持つ巨腕に迎えられた岩塊は、為す術もなくその身体に亀裂を作り粉々に砕け散る。


 しかし、それだけではまだ助かったとは言えない。


 粉々に砕けたとはいえ、その大きさは未だに当たれば脅威になる威力を誇る。そんな物を喰らえば大怪我は免れない。


 だが──。


「「瑠璃!」」


 私と澪、互いに呼ぶのはもう一人の親友。


「むー、二人だけで協力技なんて狡いです」


 今それ言ってる場合かな!?


 そうは言ってもちゃんと準備を進めていた瑠璃は、膨大な魔力を手に持つ鉄扇に篭め振るう。


「風神の舞」


 軽い調子で呟かれた技名からは、信じられないような風量を伴い瑠璃の技が発動する。


 風神の舞は元々鉄扇技【鼬舞】と、いうものだった。

 瑠璃はそれに風魔法を独自に加える事で、大型魔法並の圧倒的な暴風を生み出す事に成功したのだ。


 鉄扇から産み出された圧倒的な暴風は、私達が砕いた石片を巻き込み2階を突き抜け1階の天井へと突き刺さる。


「──お前、その力」


 瑠璃の攻撃の邪魔にならないように射線を空け、再び騎獣へと乗った私達。

 その直後、私の力を見た澪は何か言いたげにしていたが、今はそんな場合ではないので無視する。


「瑠璃そのまま!」


「ちっ、さっきの場所・・・・・・を狙え!」


「了解です! ハーちゃん、みーちゃん!」


 私の声に応えた瑠璃は更に魔力を込め暴風の竜巻を強固にすると、澪の指示した攻撃場所へと攻撃する。

 澪はその渦の中へと騎獣を進ませ一気に1階へと突き進む。


 やっぱり思った通りだ。


 ダンジョンコアが無くなって、ダンジョンへの魔力供給が為されなくなった事で、ダンジョン自体の再生機能も無くなってる。


 これなら安全に行ける!


 それでも流石に二つのフロアを貫くのは無理だったのか、瑠璃の産み出した竜巻は1階の天井までは突き破れない。しかし──。


「行くぞ白! 瑠璃!」


「オーライ」

「はい!」


「「「ファイアブリザード!」」」


【黒炎】となった私の炎と、澪の魔力が混じって溶けない氷になった魔氷。

 その相反する二つの力が、反発しながらも瑠璃の暴風に呑み込まれ融合する。


 そこに産まれたのは爆発的な威力。


 本来交わらない力が、無理矢理混じり合った結果、蒼空へと続く巨大な穴を穿ち、私達を無事蒼空へと脱出させたのだった。


「「「やったー!」」」


 衝撃的な事態の連続に思考を止めていた皆の声が響く。


 ふう。なんとか脱出できたか──。


「……お前、今の炎なんだ?」


「うぐ──今度全部話す?」


 怒られそうだからな!! 今疲れてるから嫌やねん! 


 遊びと魔法訓練を兼ねて練習を重ねたファイアブリザードのお陰で、なんとか脱出出来たんだから良しとすれば良いのだよ。


 こうして私の独りだけのダンジョン攻略は終わったのだった。


「……お前、一人でなんか綺麗に終わりの空気出てないか?」


 終わったのだった!!

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