第241話頑張れ私!

 いつの間にか静かになったシィーは私の腕の中で静かに寝息を立てている。私はそんなシィーの頭を撫でながら気になっていた事を心に聞く。


「ねえ? テアと一緒に来たって事はシィーも心も神なのか?」

「いや、私はそうだがシィーは違う。その子は……地球ではネコマタと呼ばれる者達の一種で、こちらの世界では獣人の怨猫族おんびょうぞくと呼ばれていた魔種族だよ」

「……呼ばれていた?」


『はい、怨猫族は遥か昔に全て息絶えています』


 私は思わず腕の中で寝息を立てているシィーを見る。


「怨猫族は猫族で在りながら魔族の血が混ざった混血で、戦闘に長けた種族でした。ですが、魔族を結界に封じた後その力を恐れた他の種族や獣人に、罪を着せられ討たれたのです。彼女はそんな折地球に流された一人です」

「あの、テア様? 流されたってどう言う意味ですか?」

「私の事はテアと呼び捨てで良いですよアリシアさん。あまり知られていない上に扱える者も居ませんが、召喚術の対となる送還術も存在するんですよ」


『送還術は本来呼び出した人間が呼び出した者を、その人の本来の世界へと返す術なのですが、一部の者達は罪人を流刑する為に使う者も居ます』


「つまり、こっちの犯罪者を地球に押し付けてる。と?」


『はい。私達女神もなんとかしたいんですけど、現状手を出せないんですよハクアさん』


 と、ティリスが言うと他の女神もそれに頷く。


 なるほどな。それで向こうに力を持った奴が居るのか。取り締まる役が居るんだからむしろ納得か。


「まっ、あんたらに言ってもしょうがないか。シィーに害を為すならそいつらを潰せば良いだけだし」


 そもそも種族だなんだとメンドクサイ。ケモ耳のしかも美少女なのだから正義に決まっているではないか。そうじゃなくても敵か味方か、利用出来るか出来ないか。それ位の括りで丁度良い。


「まあその子は君の姉、士道 黒華くろかが地球で保護して君の安全を護る為の護衛したからな。地球に来たのも幼い時だから、こちらの確執はあまり多くは無い」


 ……ボディーガードとな、どうやら私が日常の常識だと思って居た事は、予想以上に非日常の非常識で成り立って居た様だ。しかし、日常や常識って何処に売ってるんだろう? 誰か売り場教えてくんないかな? なんでも売ってるコンビニにでも見た事無いから難しいのだろうか?


「ご、ご主人様が珍しく事態に付いて行けなくて頭抱えてますよ」

「うむ。主様でもキャパオーバーになる事在るんじゃな?」

「クー、言い方少し酷いんじゃ無いかな?」


 取り敢えずクーには後で腹パンしよう。


「ヒィ!」


 私が心に誓うと同時にクーが短い悲鳴を上げる。


 何か感じたか? まあいいや、決定事項だし。


 何かを察したクーが私をビクビク怯えながらすがる様な目で見てくるのを華麗にスルーしながら、私は心に「で、心はなんて言う名前なんだ?」と、質問すると、何故かビクッ! となり「私の事は良いじゃないか」と言ってきた。


 全く、そんな分かりやすく聞かれたく有りません。なんて気配出しちゃってそれじゃあ本人に教えてなんて言えないじゃないか。私はそこまで鬼では無いのだよ。


「テア、教えて」


 私が諦めたと思ったのか一度ほっとした心が、テアに聞いた瞬間ビックリしていた。


 えっ? 聞かないなんて選択肢有りませんよ?


「求められればしょうがないですね。お教えしましょう。彼女はかの有名な上杉謙信ですよ」

「えっ? 心さん男の人だったんですか?」

「いや、よく見てくれ瑠璃。胸も在るし私は女だ」

「つまり、後世で神格化した新造の神って事? 生きていた頃の伝説、まあ、功績って言うべきか? と、後世での信仰を集めた形としての形骸化した神って感じかな?」


『……貴女、良くそれだけでそこまで分かりましたね』


「……私は時々君の察しの良さが怖いぞ」

「褒められた?」


『いえ』


「いや」


 うわ、速攻で否定された。


 詳しい説明によると、最初に話を聞いた通り人々の信仰を集めた架空の神がシルフィン達。過去の神話等での活躍で信仰を集め存在して居た元々の神がテアやイシス達。

 そして、一種の恐れや功績で伝説となり、現在のコンテンツとして様々な信仰を集めたのが心の様な過去の人物や災害、病等の擬人化した後、神格を得た神達らしい。


 まあ、過去の人間が萌えキャラになって信仰集めた神です。なんて言いたか無いよね?


「と、言う訳で、私はそんな感じの存在なんだ」

「あう、難しくて良くわかんない。ハクアは良く解るね?」

「ん? ああ、イシスやブリギット達が出て来た段階で考えてた事だから」


『私達が出て来て、ですか?』


「うん。駄女神の最初の話しにも出て来たけど、地球や他の世界で信仰によって神格を得た神が居るって事は、心みたいな過去の功績で神格化した人間やそれに近しい存在も居るのかな。と」


 考えてみれば簡単だ。だって、ゲームや漫画で生まれた神の存在がシルフィン達なのだ。それに近い要素で生まれる神が居てもおかしくないだろう。


 それにシルフィン達はそれぞれ概念の集合体の様な物だ。異世界やゲームの中でならこういう神が居てもおかしくない。

 それが形になって神格化したのがシルフィン達なのだから、武神なんて後世で呼ばれていれば神各を得る事も在ると考えた。この事から一定の功績、信仰、もしくは認知や恐れ、それらが一定値を超えると神の器としての資格を獲て神格を得るのだろう。


 私がそう話すと女神達は一様に驚いた顔をして私を見ていた。


『まさか、そこまで理解していたとは思いませんでした』


「まあ、正確には違うだろうし穴も在るだろうけどね? 形骸化と言っても器として完成された依り代って方が正しいかもしれないし。まあ、そこまではどうでも良いけどね。二人は元神だけど私達との関係は前と変わらないでしょ?」

「はい。私は変わらずお嬢様のメイドで貴女達の友人です。直接の手出しは出来ませんが色々とお教えします」

「ああ、私もだよ。基本的に政事には関われないが、個人的に鍛える事位は干渉にはならないからな。テアが魔法を私は戦い方を教えよう」

 

 うん。それは助かる。


「よろしく」

「ああ、任せてくれ」


 こうして突然の懐かしい乱入者を交えた突発の話し合いが一段落した所で、私は一つ気になっていた事を女神達に聞いてみた。


「そう言えば一つ聞きたいんだけど」


『私にですか? 答えられる事ならば答えますよ?』


「今回のエルマン渓谷での魔族との戦い。関わっていて表舞台に出て来て無い奴は居ないよね?」


『どう言う事ですか?』

『そうよハクア。その言い方じゃまるで黒幕が居たみたいじゃない』

『そうですよハクアさん。あの砦には他には誰も居ませんでしたよ』


「そっかなら私の思い過──」

「白、なんでも良い。気になったなら話せ」


 女神達に確認を取った事で気の所為だった。そう片付け様としたら、私の言葉を遮り、澪が被せる様に言葉を放つ。


「でも、女神ですら何も無かったって言うなら多分気のせいだぞ?」

「それでも良い」

「……わかった。私が気になったのは裏切った勇者の事だ」

「何かおかしな点でも? 私も砦ではミオ様の近くに居ましたが、行動も話していた事も不振な点は無かったと思いますよ」


 今回の事に付いては全員で情報を全て共有している為、内容を知っている皆はフーリィーの言葉に頷いていた。


「確かにね。でもさ……彼は澪に兵士の手で殺されそうになった話しをした時「日本では見た事が無い様な岩だらけの場所」って言ったんだよね?」

「ああ、確かにそう聞いた」

「ヘルさん簡単にで良いから地図書ける?」


 私がそう言うとヘルさんはかなり詳細な地図を即書いて渡してくれる。それに礼を言って受け取ると、全員に良く見える様机に拡げる。


「駄女神。王都から一番近くてそんな景色が在る場所はどの辺か分かる?」


 私が聞くと駄女神は地図の在る一点を差し『この辺りだと思いますよ』と、教えてくれた。


 それはどう見ても王都からかなりの距離が在る場所だった。


「……これ、流石に王都からは遠すぎるわね?」

「まあ、私には縮尺は分からんが仮にも王都の直ぐ近くにはそんな岩だらけの場所なんて無いだろ?」

「ああ、俺も行った事は在るがあの辺りはそんなもんねぇな。それらしいのはこのフープやアリスベル方面だ」

「話しを聞いた限りではモンスターに殺されるようにする訳でも無く、兵士自身が殺そうとしたらしい。でも、それは何故だ? 殺すだけなら王都で良い。仮に他の勇者に目撃されない為ならば、最初の段階で騎士を使って拘束する現場を見せるのは悪手だ。それはただ単に処分を印象付ける物になるからね。そして、それを見ていた段階で、勇者に見られようが何しようが、居なくなれば処分した事は直ぐにバレるから変わらないだろ? それでも隠そうとしたなら今度は王都から離れ過ぎだ

「確かにハクア様の言う通りですね」

「それに、モンスターの居る世界で罪人を連れて二人だけで行動するか? 無用心過ぎだろ? で、そこでたまたま魔族に拾われるのは流石に出来すぎじゃ無いか?」


 私の推測に半信半疑だった皆の顔が真剣な物に変わる。


「じゃあ、ハーちゃんは黒幕が居ると思って居るんですか?」

「分からん。そもそも目的がわかんないもん」

「人間を襲おうとした。じゃ無いの?」

「まあね? でも、それにしてもずさん過ぎる。澪達を引き入れなければバレずにもっと戦力を集められた。派手に動いた割には行動がちぐはぐな気がする。それに……」

「それに、何だ?」

「いや、なんと無く気持ち悪い気がしただけ」


 なんとなく視線を感じた気がしたのは気のせいだよな? 女神達とは違う。もっと粘っこくて絡み付く様な感じが最後に少しあった気がしたけど。


『確かにそう言われれば怪しいですが、ティリスの言う通りあの場には貴女達と魔族、モンスターしか居ませんでしたよ』


「そっか、まあ、気のせいかな?」


 こうして話し合いは少ししこりを残したまま幕を閉じたのだった。


 その後、女神達とテア、心は久しぶりに話しをしてくると言って、次の日の朝には戻ると女神達と去っていった。そして残された私達は、ゆっくりと食後のお茶を飲みながら先ほどまでの会話を振り返っていた。


「はあ、女神様とのお食事に何か凄く聞いたらいけない会話を聞かされた気がするわ」


 女神達の去った後、アイギスのその一言は全員の気持ちを代弁したかの様だった。


 同じ話しを聞いていたジャックとメル、アイギス達は、テアと心の訓練に自分達も参加出来ないか? と、言ってきたので私は頼んでおくと言うと、皆は満足そうにしていた。


 そして、色々なチェック等は後日改めてにしてその場は解散となった。


 本当はここでステータスチェックもしようと思ったんだけどな~。まあ、アクアの進化もしないとだししょうがないかな? それより私そろそろスキル覚えきれるのか?


 ──と、そんな考えが私の頭をふとよぎるのだった。


 解散した後、今まで寝ていたシィーが私のベッドで一緒に寝る。と、言い出し。アリシア、瑠璃、アクア、ミルリルが猛反対して、何故か今全員で私のベッドに寝ている。


 う、嬉しい! 嬉しいけど! どうしてこうなった!!


 私は一人色々な物と戦いながら眠るのだった。


 頑張れ私! 私の戦いはまだまだ始まったばかりだ! いや本当に……。


 ・・・・・・


 ・・・・


 ・・・


 ・・


 奴………………シ……の…………が……ます。

 …………が……と、……隷……され……が、で……ア……化…………ま……す……?

 はい←

 いいえ


 ア……シ……の…………を、……始……ます。


 続け……、ア…………の、特………………が…………で……が、殊…………化……か?

 はい←

 いいえ


 ……ク……の…………進……開…………ます。


 うぅ、うるさい。夜中に話し掛けんな~。許可? う〜好きにして〜。


 私はようやく静かになり再び眠るのだった。

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