第389話理不尽なの。解せぬ

「しかし……、聞きたい事は山ほどあるがいきなり言われると迷うな」


「よし。無いな。OKだ」


「異世界、勇者、モンスターとかか」


「くそっ、悩んでた割にあっさりと面倒な物を羅列してきやがった」


「じゃあ、私は通貨に関してですかね」


「何故通貨?」


 何、稼ぎたいの? お金無いの? 私は稼いでる筈なのにカツカツだよ? 解せぬ。


「単純な疑問なだけなんですけど、ハーちゃん達から借りてた小説でも、大体の作品が金貨、銀貨、銅貨とかだったから、こっち来てから私としても受け入れやすかったんですけど。なんでなのかな〜って」


「いや、小説の方は単純に設定考えなくて良いからだろ。ここは知らんが」


「まあ、小説の方はそうだろうね。「ふむ。銅貨何枚で何円位か……」みたいな。まああれも、身近な物に換算し直すのは、皆普通にやる事だしね」


「金額聞いて、あれ何個分かみたいな感じだな。こうなってみて思うが、あれも一種の日常回帰なんだろうな。元の世界の価値基準に照らし合わせて自分保とうとするような」


「かもねー。私は普通にヘルさんから大体の値段として聞いた」


 しかし、あの頃から既に釘を刺されていた訳じゃないよね。大丈夫。あの頃はまだ大丈夫だったはず! 今は知らん!


「話を戻そう。この世界であの通貨なのは、偽造防止の為だね」


「偽造防止ですか?」


「基本的な知識として、硬貨は全て純度100%で造られ、硬貨の価値基準は使われてる金属とイコールなんだよ」


「えーと。つまり金貨一枚分の金の価値は金貨一枚って事ですか?」


「そうそう。因みに銀貨、銅貨も同じね。だから造っても意味が無い訳。しかも緊急で必要な人間に素材として渡せば、逆に高くなる可能性すらある」


「こんな世界だ。有事の際には装備品にも流用出来る訳か。だが、含有量が違う……混ぜ物をした物なら何とか出来るんじゃないか?」


「いや、無いね。そもそもが金貨以下の物に混ぜ物してもたいした利益にはならない。むしろそこまでの設備投資で赤が出る。で、金貨に混ぜ込んでも、あの大きさで全く同じ重さを作るまでにどれくらい金属や金を使うと思う?」


 試作に製法の確立。金型の作製からその他もろもろ。

 そもそも使い勝手が良くて、都合の良い金属が選ばれてるんだから、他の金属混ぜるとか損する可能性の方が高い位だ。


「だが製錬段階で多少の質の変化はあるだろ?」


「まあ、そうだね。でもさっきと同じ理由で金貨以下だと、質が多少悪くてもそんなに差が出ない。だから金貨を大量に扱う商家だと、どこも秤を置いてあるんだよ」


「あー、それで重さ測るんですね。冒険者ギルドだと秤なんて無いから、一枚づつ数えずに済ませる為だと思ってました」


「もちろんそれもあるだろうな。だが、元の世界よりも調べる方法は沢山ある。なら白亜の言う通り総量で合っていればと言う所か……」


「そうそう。逆に粗悪な品質掴まされれば、それがそのまま商家の評価にも繋がるしね。因みにギルドで秤が無いのは、タグで決済出来るからって事と、それが女神の力で保証されてるからだね」


「あ〜。確かそんな事を教わりました」


 忘れてたんかい。


「それにこの世界は圧倒的に知識としてレベルが低い。それなのに独自の通貨を作って何万とかって計算が、全員に出来ると思う? それなら銅貨が何枚で銀貨が何枚の方が分かりやすいでしょ?」


「そうだな。銅貨と銀貨併せて何万で、何が何枚必要になる。とかってよりは分かりやすいだろうな」


「ただでさえ教育が行き渡ってないんだ。その辺は単純化しないと市政がそもそも回らんよ」


「そうですね。ギルドとしてもお金の受け取りは結構大変でしたからね。新人さんだと銀貨で何枚銅貨が返って来るか分からない人とかもたまに居ましたね」


 うむ。やはり予想以上にその辺ガバガバか。地方から出て来た人間をカモる奴も多いと聞くしな。


「でも、神様が頑張って広げてるだけあって、地球のコンテンツって本当に、異世界の手引書みたいな感じになってますね」


「確かにな。って、どうした?」


「……確かに……確かにそうかも知れないんだよ。でも最近のはやりすぎだと思うんだよ。スコップやら、台所やら、たまごやら、スマホやら、眼鏡やら、そんな物で無双が出来る訳無いんだよ。そこまで甘くは出来てなかったよやっぱり。こっちはチートかと思ったら最初は使えない、大器晩成型のスキルだよ。それなのに寿命設定されて、最弱ステータスだよ。最初の方で毒食わされるわ、腕切られるわ、いきなり後半に出て来そうな魔族に二回目でぶち当たるわ。どうにもならないんだよ。少し強くなっても、なんか出て来るのも一緒にパワーアップして来るんだよ。なんなの、仲良しさんなの、仲良しさんなのかな。都合よく有力者にも会えないし、全世界に顔が利いて、一気に製作した物を大掛かりに販売してくれる人も居ないんだよ。そもそも武力行使チート野郎が内政なんかに干渉して、最初から受け入れられるとかも無いんだよ。ムカつく貴族倒してハイ終わりとかそんな簡単な訳が無いんだよ。それが通用するなら皆首チョンパされてしまえば良いんだよ。ハクアさんだってこう見えて意外に地道な作業してるんだよ? 私だってその辺一気に省略したいわボケー!」


「わかった。わかったから落ち着け」


「そうですよハーちゃん。深呼吸、深呼吸」


「ふぅ。すまぬ。少し漏れた」


「少し……ああ、いや、そうだな。なんかすまん」


「えっと、帰ったら美味しい物食べに行きましよう」


「そ、そうだな。美味い肉奢ってやる」


 ……優しさが辛いの。でも、お肉は食べるの。大盛りで、お代わり付きで、でも、お代わりし過ぎると多分怒られるの。理不尽なの。解せぬ。


「まあ、今更言ってもしょうがないから良いや。駄女神はその内殴るし、必ず殴るし、絶対殴るし」


 殴るの三段活用を使うくらいに本気なんだよー。


「そうだなー」


「んで、澪の質問か。その辺は実はほとんど繋がってると思うのだよ」


「そうなんですか?」


「うん。とは言えこれは駄女神達から聞いた話を総合した、私の仮説も多く含まれてるのは承知して聞いてね」


「わかった」


「わかりました」


「まずモンスターだけど、これは前から言われてるように混沌をもたらした神が作り出したモノ。瘴気の具現化したモノだね。瘴気自体は恐らく人の負の感情や、世界そのものの純化仕切れない力のような物だと思う」


「それが澱みとなってモンスターは生まれるんですよね?」


「うん。でも、ここからが仮説。ここもそうだし、ダンジョンとかもそうなんだけど、モンスターしか居ない場所ってのは空気が違うんだよね。だから、モンスター自身も瘴気を出してんじゃないかと思う。そしてそれが世界にとってウイルスみたいな感じなんじゃないかな」


 モンスターが増えて世界が蝕まれる。それを防ごうとする人間達を襲うと同時に、負の感情を量産するのがモンスターの本能的なもの。


「だが全てのモンスターが襲ってくる訳でもないだろ? まあ、大半が敵性個体だが」


「うーん。その辺は個体差もあるけど、澱みからの自然発生と繁殖個体の差ってのが大きそうだよね。後、さっき言った純化。それぞれの世界でもモンスターを浄化させる機能みたいのがあるっぽいからそれも関係してるのかな」


「自浄作用みたいな感じですか?」


「だろうな。それなら個体差にも説明が付くか」


「で、異世界に付いてってのがこれに関係して来るんだけど……。異世界って私が思うに、私達の元いた世界の下位世界だと思うのだよ」


 私の推測に流石の二人も驚いている。それもそうだろう。

 魔法という独自の文化があるのにも拘わらずとなればその驚きは尚更だ。


 だが、考えてもみて欲しい。


 テア達や駄女神達の話を聞くと、こことは違う異世界でも、神が作ったモンスターは当然のように存在する。

 当然私達の世界にも居なかった訳ではないらしいが、それはこちらの世界から来たモノが増えたのであって、元の世界で自然発生したモノではない。

 では何故、私達の居た世界ではそれらが発生しないのか?


「確かにそうですね。当然すぎて考えもしませんでした……」


「人の負の感情や死が引き金になるのなら、当然こちらの世界のようになっていてもおかしくはない……か。いや、むしろ理不尽なストレスや死は向こうの方が……なるほど、それが異世界を下位世界と言った訳か?」


「それもあるけど、他にも神が地球では力を発揮出来ない事、私達が異世界に行くとある程度以上の強さが得られる事をもそうだ。何よりも複数の神の力を以てしても地球には干渉する事が出来なかった」


「そうか……、テアが地球以外の全てに波及したと言ったが、逆に言えば地球には手を出せなかったという事でもあるのか」


「うん。物は違うけどさ、ゲームのプログラマーはゲームの世界弄れるじゃん。でも、そいつは自分の居る世界までは弄れない」


「同じように自分達に近い所にある私達の世界は弄れないが、それよりも更に下にある異世界ならって事か」


「そんな感じ。まあ、実際世界の事なんざ上か下かなんて分からんけどね。少なくともって事。それに勇者召喚もだよ」


「あれがどうした?」


「地球のコンテンツが異世界の手引書なら、主人公はほとんどの場合、自分の世界に帰ろうとしても帰れないのが多いよね? もしくは神に近い力を手に入れてか、神の力で帰る。ここに来てから調べた限りでも、勇者を送り返した記録。召喚はあっても送還方法は無かった」


「まあ、そうだな」


「才能と力が必要とは言え、勇者召喚は一人ででも出来る。なら、なんで勇者を送還するのは簡単に出来ない? それは、引きずり下ろすのは力が少なくても出来るけど、元の世界に押し上げるのは難しいからじゃないのかな。実際、神であるテアだって、力が万全でなければ地球に渡るのに大怪我を負ったくらいだし」


「推察でしかないが、お前の考えは近いのかもな。しかしそうなると──」


「勇者召喚、迷い人、転生者の違いだろ? それも一応の仮説はあるよ」 

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