第390話第一話から伏線ばらまかれてたアニメを観ている様な気分だ

 異世界へ来る方法の違い。

 それは呼ばれる側ではなく、呼ぶ側にある。

 つまり──人か神か世界かだ。


「人と神は分かりますけど世界?」


「うん。二人はこの三つの方法の中で唯一、一つだけ他と違うのが分かる?」


「えーと……」


「勇者召喚。ギフトだな」


「そう。勇者召喚で召喚された人間にだけはスキルとは別にギフトと言う形で、強力な力が備わる。人間であれモンスターであれ、他のどんな種族にも取得出来ないのがギフトだ。じゃあ……それはどこから来た力なんだ?」


「「…………」」


「これはあくまで仮説だ。でも多分合ってる。恐らくギフトはその世界の力を結晶化した物だ。転生者が持ち込む世界を存続させるエネルギーを使い、世界にとって害になる脅威を消し去る為の力。その有限のリソースを注ぎ込む事で、召喚された際の勇者の力は強化される」


「……まて、それは……そう言う事か?」


 澪が瑠璃の方を見て消え入りそうな声で言う。


「勘違いすんなよ。お前じゃ無くてお前を呼んだ方の責任だ。何より本人が全く気にしてねぇ」


「そうですよ。ハーちゃんもみーちゃんも居ない世界なんて興味無いです。それに……多分、私が落ち込んでたら、結局テアさん達が連れて来てくれましたよ」


「「確かに」」


「だからみーちゃんが気にする事は何も無いですよ。むしろ私はこの……この……バスガイド?」


「アースガルドな」


「アースガルドが呼んでくれてラッキーだと思ってます」


「そうか」


 勇者召喚は世界が危機に瀕した時、世界が許可を出し人が呼び寄せる。

 元の能力の強化とギフト、レベアップ時のステータス強化が主な物だ。

 更に言えば勇者の称号効果で、モンスターや魔族に対する特攻効果も持参している。


 平和な時は呼び出せないらしいからこれが正解だろう。


 そして……迷い人は勇者召喚で喪われた世界のエネルギーを補給する為、世界自らが異邦人を世界に招き入れる。

 だからこそ、女神ですらその存在を完全に把握する事は出来ずに、ただただなんの説明も無く異世界へと招かれる。

 サービス的な能力の付加は無いが、元の世界の経験がスキルとして現れる為、スキルレベルが高く、ステータスも現地人に比べると高い。


 最後に転生者は世界を存続させるエネルギーを得る為に、死んだ人間の魂を女神がスカウトして転生させる。

 こちらは転生させる人間が持っていたエネルギーが、スキルを取得出来るポイントに変換出来るのだろう。

 世界を救うエネルギーなんだから、そりゃチートにもなるよね。


 そして……駄女神が言っていた生前の行いが、ポイントになるって言うのは恐らく嘘だ。

 あの爆笑ポイント。あれは私をおちょくる為だけに言ったに違いない。

 やはり奴は敵だ。絶対に殴る。

 そして恐らくだが、爆笑ポイントを入れたポイントが、本来の私のポイントだ。

 何故そんな事をしたのかは分からないが、たぶんおちょくる以外にも理由はある。多分……恐らく? まあ、無かったとしても殴るのは確定だから理由が増えるだけだ。


 そして理由はあの子喰吸にあると思うんだよ。

 だって、あの子って絶対あんなポイントで取れる子じゃないんだよ。

 それに誠に遺憾ではあるが、あいつ駄女神なら私が【喰吸】を取る事は予測出来た筈だ。


 まあ、そうなってくると平均が500と言っていたのも怪しいし、上手く誘導されていたようにも感じるのだが、どこからどこまでが嘘なのかは流石に分からん。

 だが、あそこは駄女神の作った空間だから、多少の改変と誘導をされていた可能性は低くない。


 それにこの間、ベルゼブブを倒した事で【喰吸】くんは【暴喰】さんに変化した。

 女神が隠していたのか、女神さえも騙していた強者なのかは分からないが、私のスキルが滅茶苦茶なのは、多分この子の仕業だろう。


【鑑定士】で説明は出て来たが、【竜装鬼】もそんなに簡単に覚えられるものではないか、下手をしたら本来は存在しないスキルの可能性もある。

 ステータス3.5倍となっていたが、使っている私には分かる。あれはそんな程度の可愛いものではない。

 だって私の感覚では、プール一杯の水をバケツで汲み出して使っているような感覚なのだ。

 オマケにそのバケツは、持ち手が無くてツルッツルな物で、少しでも油断すれば簡単に落として暴発するじゃじゃ馬もいい所だ。


 はっきりと言えば、私はまだ【鬼気】でさえ使いこなせていなかった。

 何故なら【竜装鬼】ほど膨大な力の感覚ではないけど、【鬼気】にも同じような感覚をずっと感じていたからだ。

 だが、それよりも遥かに早くスキルが統合され、私が使いこなすよりも早く、加速度的に扱いは難しくなって行く。


 そしてそれは【竜装鬼】だけに留まらない。


 最近増え始めた複合系スキル。

 そのいくつかのスキルの内、【領域支配】もフルにその性能を発揮しようとすると、脳が焼き付きそうなほどに痛みが走る。

【五感強化】も感覚を下げないと処理が追い付かない程だ。

 どいつもこいつも本性を現し始めて、私の能力を超えるようになって来ている。


 これからも増える気がするんだよ。


 それに身体強化系のスキルは前にも皆に言ったが、説明としてステータスをアップするとなっているけど、それはあくまでも説明する為の物。

 実際はステータスに変化があるのかもよく分からない。


 今は出力を少しでも引き出そうとしているのだが、少し前に一度ダンジョンから帰還した後一人で試してみたが、右拳に集めるように発動したその瞬間、一瞬で制御を失い右拳がバンッと弾けた。

 いや、比喩でもなんでもなくそのままの意味で……。


 ええ、あの時はまさかリアルで汚ねえ花火だぜ。を見る事になるとは思いませんでしたよ。

 しかも自分の身体で……。


 再生系のスキルがあったから良かったが、それが無かったら危うく利き手を失う所だった。

 それで帰ったら、危ない事をしないように仲間に監禁されてたかも知れない。


 ……あれ? 敵に捕まってた時と扱いが変わらない……だと!?


 これは前にも言ったが、個人的な意見としてはステータスを変化させると言うよりも、力その物を纏う鎧のような物だと思っている。

 ただし、今は少し考えが変わってそれは身体の内側で……だと思っている。普段身体の外に出ている分は制御し切れていない分なのだろう。

 つまり、身体の内側で発動され→身体の外に漏れ出る→更に制御出来ていないと湯気のように立ち昇るのだろう。

 そう考えれば制御に失敗して、腕が弾けた理由も説明がつく。


 恐らく真に使いこなすのはスキルを自動ではなく、手動で完璧に制御出来なければいけないのだろう。

 内に纏い、外にも纏う。

 この両方を完璧に制御して私は漸くスタートラインに立てるのだ。

 まあ、スタートラインに立っても、強化の力に身体が付いて来ないから、結局壊れるんだろうけど。


 でも、少しでも出力を上げるには結局それしか方法が無いんだよ!


 と、このように私のスキルはよく分からない感じになって来ている。


 それら全てをひっくるめ進化した時に見るあの夢の数々が、駄女神が私には嘘を吐いた一番の理由だと私は思っている。


 しかしあれはなんなんだろうか? 


 覚えはあるけど心当たりは無い。一つ一つが別々な思い出にも感じるし、全て繋がっているようにも思う。

 正直、今までとは違う角度で過去を見返して、第一話から伏線ばらまかれてたアニメを観ているような気分だ。

 私自身の進化の方向だけじゃなくて、過去まで変な風に斜め上の展開を行っている気がする。過去は変えられないとか言ったの誰だよ! どんどん思い出が変わっていくんだけど!?


 もう過去の思い出も、今の自分のスキルも、未来の進化も何一つ信用出来ないんですが!!

 これからはやはり色々と疑って行こう。


「お前は何一人で頷いてるんだ?」


 ココ最近のスキル検証結果を思い出し、自身の考察をして一人納得していると、澪につっこまれたので慌てて話をすり替える。


 バレると怒られそう。と、言うか監視が付きそう……。


「まあ話を戻すと、勇者は世界のリソースを使って人間の脅威を取り除くワクチンみたいなもんだな」


「おい。今、露骨に話逸らさなかったか?」


「そ、そそそ、そんな事は無いよ?」


「動揺スゲーな! しかし、そうだとすると問題が無いか?」


「今回の勇者召喚は人数が多すぎるって事ですよね?」


「ああ、今回は掴んでいるだけでも結構な数になっている。その全てにリソースがさかれているなら、この世界は相当疲弊しているんじゃないか?」


「うーん。多分だけど今までとそこまで変わらないかな?」


「その心は?」


「ギフトが弱い。今までの勇者の記録を少し調べたけど、それに比べても今回の勇者は弱い。それを考えると勇者に割けるリソースは決まってるのかも?」


「と、言うと?」


「術者の力、呼ばれた勇者の才能、それと数に比例して勇者の力は決まると思うんだよね。そしてそれを決まった量のリソースの間で呼べるんだと思う。だから澪以降は勇者召喚の話聞かないしね」


「それってみーちゃんが、残りのリソースを全部使ったって事ですか?」


「多分。澪のギフトは強力だしね」


「ふむ。そうなるのか」


 良いよな。氷使いとかかっこいいし。


「さて、これで一応聞かれた事には答えたが他にも聞きたい事ある?」


「あっ、最後に一つだけ聞きたいです」


「何?」


「ゲームでもアニメでも小説でも普通にありますけど、結局レベルアップって何なんですか? ステータスと同じくらい謎なんですよね?」


「「ああ〜、確かに……」」

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