第391話本当に騙してくれてやがったぁぁ!!

「うーん。そうだな。レベルアップは恐らくだけど魂の強化……かな?」


「「魂の強化?」」


「そう、根拠は二つ。一つは転生者、もう一つは私の元スキル【喰吸】」


「それが根拠なんですか?」


「まずさっきのこの世界に来る方法の話と同じように、転生者だけは死んだ人間が選ばれる」


「……そうか。死んだ後、魂の状態でスキルを授かり、人によってはステータスの上昇まである。そして別の世界でそれが反映されると言うのなら──」


「魂の情報が肉体に反映されているんですね」


「そう。しかも武技なんかのスキルは、身体を強制的に動かす事も出来る。これは魂の中にあるスキルの情報が肉体に作用してる証拠だと思ってる」


 スキルさえ覚えていればステータス以上の動きも出来る。そこから考えると、むしろそうでなければどうやって身体を動かしているのかが分からない。


 まあ、魔法とかのファンタジー世界で真面目に考えようとするのが、そもそもの間違いと言う説もあるが。


「そう言われればそうかも知れませんね」


「そして【喰吸】なんだけど、あれは相手を取り込む事でスキルを得る。まあ、モンスターが魔石を取り込むのと似てるんだけど、多様なモンスターの魔石を取り込めば人格や魂が変質するって話だったし、魂の融合って言うのが正しいんだと思うんだよね」


「それは理解出来るが、なんの関係があるんだ?」


「経験値だよ。相手を倒すと経験値が貰えてレベルが上がる。ゲームなら良いけど異世界とはいえここは現実だよ?」


「えっと、その経験値が魂を強化してるって事ですか?」


「簡単に言えばね。経験値って言うのは相手の魂を加工、もしくは純化して効率良く強化する素材にしたものとでも言えば良いのかな。逆に私のスキルだと加工も純化もされてない不純物。魂の情報スキルが入ってて経験値にはならずスキルになる。でも普通に魔石を取り込むと、相手の魂の情報を直接取り込むから自我への影響、汚染とでも言えば良いのかな? が出るんだよ。スキルも相手の情報を書き込むようなものだと思うから、同じく汚染と言っても良いかも知んないけど」


 コップの中に自分の色が付いた水があったとして、同じ色にして水を注ぐのが経験値。そのままの色で不純物を取り除き混ぜるのが【喰吸】、そしてモンスターは何もせずに取り込む感じだ。

 そしてコップが満タンになると、その水を材料に更に大きく頑丈なコップになる。


「なるほど、それがレベルアップと言う訳か。そしてその純化作業のシステムを構築しているのが神……と」


「言い方は悪いけど勝手に肉体改造してるようなもんだよね。いや、この場合は魂改造?」


「どっちでも良いわ! 想像以上に突っ込んでみるとややこしいな異世界」


「そうですね。作り物だとそんな事全く考えない主人公ばかりですからね」


「異世界まで来てそんな事を考える人間も少ないだろう」


「それにある程度、違和感を覚えないように精神にも細工されてそうだしね」


「マジか?」


「あー、私はそんなでもないですけど、確かにみーちゃんなら普段はもう少し疑いますよね」


「……確かにそうかもな。操作と言うよりは暗示に近そうだが」


「まあ、恐らくだけどね。そんなに間違えてはないと思うぞ。なあ駄女神?」


『シルフィン:貴方達はそんな所で、なんで世界の根幹に関わるような話をしているんですか?』


「いやまあ、暇だったし?」


『シルフィン:暇潰しにして良い会話じゃないですからね!?』


「コイツだからな諦めろ」


「ですね。ハーちゃんですもんね」


『シルフィン:いや、貴方達も大して変わらないですからね?』


 おい、二人してそんな馬鹿な。みたいな顔で固まるなよ!? 失礼過ぎません!?


「で、答え合わせはどうよ?」


 そんな私の問いに駄女神は『ノーコメント』と返し、そのまま返答が無くなった。


 言わないのか、言えないのか、それとも別の何かがあるのか……、まっ、悪いようにはならんだろ。

 とりあえず不利益は無いし。あっても殴れば良いし、どっちにしろ一発は確実に腹パン入れる予定だから、騙していたとしても何も変わらない。


「逃げられたな」


「だねー」


「まあ、簡単に答えても良いような内容ではない気もしますしね」


「まあ、さっきも言ったけど知ったからどうこうなるもんでもないけどね。因みにこの世界にも小説にも奴隷制度や、中世ヨーロッパくらいの時代設定ってあるけど結構叩かれてるよね」


「またメタな発言始めたな……」


「奴隷制度は戦争なんかがありますし、人種の違いなんて程度じゃなく、種族が違えば出て来るのは当然だと思いますけどね」


「そうだな。それを潰すなんて話もよくあるが、生活基盤に根ざしてる段階で代案も無くそんな事をすれば国が崩壊するしな」


 奴隷制度と聞くと悪いイメージしか無いがそうでもない。真っ当な奴隷商であれば奴隷の身分は案外保証されている。

 一部の小説に出て来るような、不衛生な場所で鎖に繋がれるような奴隷など、一部の悪徳な違法奴隷商くらいなものだ。

 衣食住は基本的に保証され、余程金が掛からない限り病気の治療もして貰える。

 中には奴隷の方が良い生活が出来ると、わざわざ借金を作り借金奴隷になろうとする人間も居るらしい。


 私が会ったのが馬鹿な貴族だったり、コルクルのような奴だったから酷い扱いをされていたが、大半の人間は奴隷だからと何をしても良いとはならない。

 そして可哀想だがアリシアは普通に運が無かった為に違法奴隷商に捕まっただけです。


 犯罪奴隷や一部の戦争奴隷はその限りではないけど、まあ、やるならやられる覚悟も当然してたって事だよね。


 ただそれが全てと言う訳でもない。

 その最たる例が異種族の奴隷だ。

 人権を保証しない奴隷商も少なくなく、オークションに掛けられる事も多い。


 だからその辺だけはどうにかしたいんだよね。今、異種族の奴隷は犯罪者以外は積極的に買うようにしている。

 幸いな事にあまり数は多くないし、私の関わる場所で働き口も用意出来ている。

 買い取った金額分働けば、奴隷としての身分から解放もする約束だ。


 従業員が減ると色んな意味で痛いから、続けてくれると嬉しいけど、それはまあ、しょうがない。中にはこのまま働いてくれると言う人もたくさん居るのでありがたい。その内ほかの国にも出店とかしたいなぁー。

 異種族だからそいつらの国とかは、むしろ人間よりも馴染みやすいだろうし。


「まあ、奴隷なら契約で縛れるから、内外に漏らせないような事をさせる人間も多いしね。小説みたいにただ可哀想だから。とか、人を人と思わずに売り買いするなんて! みたいなズレた価値観で動けば、色んな国で戦争待ったナシって感じだよね?」


「言い方軽いな!?」


「でもその通りなんですよね」


「中世ヨーロッパってのも、木の家なんてモンスターの居る世界で馬鹿な考えだし、ひたすら頑丈な造りを目指せばああなるよね。科学も発展してないから、物を作る技術も未発展なのは当たり前だし。技術向上すれば行けるだろって、そこまで余裕は無いし教育も無いんだよ。科学なんて人類の脅威になる側の技術だし、実際お前ら作ってみろって言ったって、教育受けてても文句言う奴達だって作れないしね。今から理解するくらいなら、このままの方が良いってそりゃ言うさ」


 機人種の技術を理解する頃には皆死んでてもおかしくないんだよ? 普通に会話出来るOSとか現代人にだってわからんよ。

 日本に溢れてる物だって偶然だけで出来てる物は少ないんだよ? 

 むしろ偶然なんて、それまでの積み重ねがあるからこその切っ掛けだから、教育が無い異世界では発展しないのはわりと当然なんだよ?


「そうだな。伝達手段も無ければそれに根拠も無い。科学に代わり魔法もあるが、魔法を使える事自体が特権で、しかも貴族の方が多い。そんな奴等が、魔法を戦闘以外に使おうとするという発想がそもそも無いだろうな。一部で研究もされてるがニッチな分野だ。貴重な魔法使いをそんなものに取られるくらいなら、それなりの給金で自国の防衛力にするのは当たり前だ」


「だから土魔法さんがバカにされるんだよ! もっと広く土魔法さんの偉大さを知らしめなければ!!」


「ハーちゃんは変な所で変なスイッチ入りますよね」


「えー。私としては魔法使いが脳筋って一番ムカつくのだが?」


「分からなくはない。火力至上主義が目立ってるからな」


「ブッパだけなら人数集めれば良いんでい!」


「確かにな。にしてもやはりお前の言う通りスキルや魔法、ギフトの検証は必須のようだな」


「そうですね」


 それらにはまだまだ改良の余地がありそうだから同意する。

 私としてはギフトの検証をもっとしたい所だけど、被験者は少ないし、出て来ても敵になる可能性が高いのが悩み所だ。


「特にお前のスキルの検証だな」


「ふえ?」


「何を驚いてる。当然だろ」


 あれ? 汚ねえ花火だな。は、バレてないはずなのに!?


「だって、ハーちゃんのスキルおかしいじゃないですか」


「お前の言い方よ……」


「実際おかしいだろ。モンスターから獲得してる筈なのに、そのモンスターですら持っていない新スキルばかりになってるじゃないか。いくつかのスキルはテア達すら初見のものだったらしいしな。それに──」


「それに?」


「いや。前から感じていたが、おまえが新しい技やスキルを使う時、どうにも初めて使った感じがしないんだよな。なんと言うか前から使っていたかのような……」


「そうですね。テアさん達もなんでハーちゃんがスキルをすぐに使えるのか不思議がってました」


「やだなぁ。才能あるなんて」


 テレりこしちゃうよ?


「言ってねぇよ」


「解せぬ」


 しかしそれは私も感じていた。

 考え付いて初めて使った技も、新たに取得したばかりのスキルも、時々初めての筈なのにイヤにしっくり来る時がある。

 それに、テア達でさえ見た事が無いと言っていた【領域支配】のスキル。更にこの間の戦いで【暴喰】に変化した【喰吸】の事を踏まえると、私のスキルは元々はこの形だったのではないか? そう思えてならないのだ。


 そして私がこの考えに辿り着いたと言う事は、当然二人も同じ考えに辿り着いている。


「私は……お前の取得出来たスキルはもっと強力なものだったと思っている。そして女神はその力を小分けにしたともな」


「んー? やっぱりハーちゃんの身体に合わせてって感じですかね?」


「かも知れないしそうじゃないかもね? それは分からないし、分かってもどうにもならんから良いよ。実際最初から【暴喰】状態だったら今の時点で私の意識が残ってるかも分からんし」


 むしろ扱い切れずスキルに喰われてた説。


「そうだな。問題はお前のスキルがどうなっていくかが誰にも予想出来ない事か……。まあ、お前に関してはどれもこれも予想外と言うか、想定外と言うか、予想の斜め上を光速で駆け抜けるから結局変わらないか?」


「おい、失礼だぞ君!?」


「そうですよみーちゃん! ハーちゃんは予想外の事件起こしたり、巻き込まれたり、騒動の外側から中心人物に躍り出たりするだけで……本当に変わりませんね。むしろ何時も通りのハーちゃんですね」


 喧嘩売られてるのかな? 買っちゃうよ? 今なら安く買い叩いてやるよ?


「とは言え私としても、もうちょい方向性ぐらい定まって欲しいのは確かだね。搦手系かと思いきや最近肉弾戦も増えて来て、魔法も伸びてるような?」


「オールマイティーと言えば聞こえは良いが、どれもこれもスキルがピーキー過ぎないか?」


「ですよねー。最近はスキルにまでバカにされてる気がして来たからね。その内ステータスも人の事騙して来るんじゃないかと思ってる」


「流石にステータスまでおかしくはならんだろ」


「そうですよそれはハーちゃんの考えすぎです。第一どうやって騙すんですか?」


「まあねー。ほら例えばさ隠れてるのは分かってるから出て来いとか言ったら出て来たりして?」


「んな訳無いだろう」


 不味い方向に進んで来た気がしたので、軽口を叩いて話題を切り替え笑い合う。


 すると──。


 ▶ハクアによりステータスが看破されました。スキル【智慧】が発現しました。

【鑑定士】が【智慧】に統合されました。

【解析】が【智慧】に統合されました。

【脳内座標】が【智慧】に統合されました。

【領域支配】が【智慧】に統合されました。

【魔導】が【智慧】に統合されました。

【言語】が【智慧】に統合されました。


「ん? どうした?」


「何かあったんですかハーちゃん?」


「本当に騙してくれてやがったぁぁ!!」


 かくして、森の中には私の怒号が響き渡り、新たなスキルを獲得した私であった。


 うわん。もう何も信用出来ない。

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