第388話……新しい機体に乗り換えた感じ?

 さて、引き続きアベル達の監視をしている私達な訳なのだが……。


「……暇だな」


「暇ですね」


「暇だねー」


 正直、やる事無くてダレております。


 いやだって……正直ここ、強いと言っても中級者向けの狩場なのだよ。


 モンスターの強さはBランク上級レベルだが、それは一体一で戦った場合。

 パーティーでの攻略となればCランク程度の戦力で攻略出来る場所だ。

 私とて一人では流石に攻略に難があるが、この二人が居れば全然問題ないレベル。

 更に言えば、今ここで覇権を争っている種族は、どれも脳筋な為に私のデバフが掛かりやすい敵。

 その為、Bランクに片足突っ込んだばかりの私のステータスでも、比較的簡単に倒せるのだ。


 ただし、一人でやれるかと言えばやりたくない。


 まあ、そんな訳で私達は今現在、アベル達の様子を遠くから確認するしかやる事が無いのです。

 因みに目で見て視認している訳ではなく、気配探っているだけなので実質動かずにじっとしてるだけ。

 しかもアベル達と別れてから、食料確保としてちょっとはっちゃけたら、モンスターも寄ってこなくなってしまった。無念。


「しかしあれだな……」


「ん? どした」


「いや、未だにこのステータスが上がった時が慣れなくてな」


「あ〜、やっぱりVRだったとは言えゲームとは違って動きに出ますよね」


「それもあるが、劇的に身体が変わった感覚が特にな。まあ、約一名関係無さそうだが……」


「まあな。てか、真面目な話をすると、ミニゴブリンからのスタートだったからステータス上がってもそんなに感じなかったんだよね」


「ふむ。そんなもんなのか?」


「うん。どちらかと言えば早く元の身体くらいに動きたいってのが強くて、少し上がるくらいだと遅って感じだった」


「まあ、ハーちゃん動けた方ですからね。長い間は無理でしたけど」


「うむ。しかもモンスター故、進化なんてモノを経験すると、身体が物理的に作り替えられてるから今更感が強い」


「あー、確かにそれは私らには分からん感覚だな」


「そうですね。どんな感覚なんですか?」


「え〜。そうだな。……新しい機体に乗り換えた感じ?」


「全く分からん」


「つまり私達には理解不能と言う事ですね」


 頑張って説明したのに……。


「まあ、ゲームのような世界観だから現代人としては馴染みやすい世界ではあったけどな」


「その辺も地球に居る神共の策略が効いてる証拠だけどね」


 ゲームとかアニメ、漫画やラノベとか、人の意思に働き掛けて天啓みたいに思い付かせてるとか言ってたしな。

 中には自分達で信仰集めの為に発信してるのも居たらしいし。

 神が神絵師になるとはこれ如何に……。


「それは聞きましたけど、この世界も最初からステータスとかがあった訳じゃないんですよね? 当時はよく受け入れられましたね」


「確かにそうだな。最初からなら良いが、途中からこんなの増えたら混乱するだろうに」


「あー、それはこの世界。と、言うか、神が強く関わってる世界共通の仕様が関係してるっぽい」


「「仕様?」」


「うむ」


 そもそも地球と異世界の大きな違いは神の存在にある。

 地球にも神は存在するらしいが、超常の力を以て何かをする訳ではなく、人間にちょっとした切っ掛けを与えて、より良く人類を導いたり、試練を課して人を成長させる存在なのだ。

 もしくは人の中に溶け込んで、人と同じ生活をする奴らも居るのだとか。


 そして異世界とは神の恩恵が受けられる世界。

 もしくは神が介在する余地がある世界とも言える。

 恩恵の大小、どれほど関わるかはその世界によって違うが、そのどれもが神が存在する。もしくは存在した事で成り立っている世界なのだ。


 むしろ神の力がほとんど通じない地球のほうが珍しい。と言うよりも、どの世界を見ても地球のある世界だけがおかしいらしい。

 神も居ない、モンスターも居ない状態だったそうだ。


 まあ、異世界側から来た奴らが居たから全く居ない訳ではないが……ともかくモンスターが自然発生しないだけでも珍しいのだとか。


 因みに地球を管理する神も居るけど、他の世界の神とは違い、世界の管理ではなくて、異世界からの流入の管理、異世界へと拉致ろうとする神々との交渉、妨害が主な仕事らしい。


 神の仕事の中でも一番のブラックな職場なのだとか。地球の神よ……。


 さて、ここからが本題になる訳だが、先程瑠璃が言っていた通り、この世界にはステータスが最初からあった訳ではない。

 それが何故生まれたのか?

 それはスキルの発生の仕方にある。スキルには女神達、神が創造する物の他に自然発生する物があるのだ。

 そしてステータスとはその自然発生したスキルによって生まれた。


 一般的にユニークスキルと呼ばれるそれは、発現した個人の資質または望みが強く反映されている事が多い。

 そんな中、遥か昔にある人間が滅ぼした国の人間を匿い、他の国の人間に安全に売る事を思い付いた。

 それが後の奴隷となるのだがそれは置いておこう。

 その人間にとって人間とは資源であり、道具だった。だからこそ道具と同じように人間にも価値を付け、様々な項目で評価を付けていた。

 そしていつしかそれが目に見える形。ユニークスキルとなったのだ。


「ほう。それがステータスの根幹か?」


「うむ。テアから聞いた話によるとそうらしい。んで、他の世界でも形は違えど同じような事が起こって、程度の差はあるけどステータスは割と一般的に認知されてるらしい。ある程度色んな世界に浸透すると、他の世界でもスキルとして生まれるらしいよ」


「ユング心理学の集合無意識的な話か? それとも百一匹目の猿的な話か? どちらにしろ胡散臭い話だな」


「どうなんだろうね。個人的には神の力の派生……。漏れ出た力が現地の生物の意思や能力に呼応して形作った物って思ってる」


 まあ、それはそれで充分ファンタジーだが……。今更か。


「なるほど、そちらの方がまだ理解できるな。ならそれも観測による確定に近いか……」


「だね。量子力学の話じゃないけど、多角的に観測される事によって物体……スキルとして定着する。まあ、概念とかが信仰や畏怖なんかで神格化する現象に近いかもしれん」


「なんか難しいですね」


「そうでもないよ。私達としては常識だけどスキル=能力だ。で、そのスキルは個人の資質がスキルという特殊な形として昇華したって感じだよ」


「特殊な形で昇華っていうのが、神の力うんぬんの部分なんですね」


「そうだな。それが個人の資質や種族の特性のユニークスキルか、全員に資質のあるスキルかの違いって所か」


「あー、それならスキル取得に個人差があるのも納得ですね。ユニークと違って、普通のスキルは昇華するに足る土台が出来上がった、ランクアップって方が近そうですね」


 ランクアップ。確かにそんな感じかも文字通り技術が形になったって事だし。


「うん。更に言えば個人の資質でもある程度の認知で、情報が集まるんだろうね。過ぎた科学が魔法と変わらんと言われるように……。それだって仕組みを知れば科学として再現される物だし。だから新しいスキルが見つかって既存の常識が覆るのはそう珍しい事でもないらしいよ」


「そう言えば私達が来たばかりの頃は気力もMPと併用でしたしね」


「うむ。そんな感じやね」


「でも、そこからどうやって今みたいにステータスなんて概念を広めたんですか?」


「それがこの世界では冒険者ギルドなんだよ」


「「どう言う事だ(ですか)?」」


 それに目を付けたテアは、ステータスの概念を広める為に他の神に冒険者ギルドを作らせた。(最初はティリスではなかったらしい)

 そして神の力で作ったのがギルドタグだ。


「なるほど、確かにあれは各能力を大まかに判定して表示する機能も付いてたな」


「そうですね。冒険者ランクと同じくアルファベットで、各能力が簡易表示されます。確かにあれなら自分の能力を客観的に見れるので、普及には向いてますね」


「うん。モンスターを倒す組織の設立にも丁度良いんだよね」


 冒険者ギルドが出来る前は、モンスターの討伐は一部の人間のみ出来る事とされていた。

 それも当然だ。

 金にもならないのにわざわざ危険を冒す人間は少ない。仮に居たとしてもそれだけで賄えるほど世の中は甘く出来ていない。


 だが、冒険者という職業となれば別だ。


 本来身分の証明が難しい村人などの、小さな村や集落に住む人間でも比較的簡単に身分の証明が出来るようになる。

 更に金はあるがモンスターを倒す力は無い、またはその逆に力があるが金が無い人間。

 モンスターに困っていても倒せる人間が居ない。

 そんな不特定多数の互助には丁度いい組織。

 しかもそれを認可して女神が関わっているとなれば信用性も高いのは当然だ。


 まあ、とは言え簡単に言えば冒険者なんて、面倒な事から危ない雑用までこなす公共事業の登録員って感じかだよね。

 小遣い稼ぎから、生活の糧、身分証明の為の登録までまさにピンキリ。


「冒険者でもなければ助ける義理は確かに無いな。依頼……という形も職業として成り立っていなければやりずらいか」


「ですね。一部の貴族は領内の安全の為に、私兵にモンスターの討伐をさせてたりしますけど、場所によってはやっぱり手が足りませんからね」


「フープでも訓練を兼ねて兵が定期的に討伐しているな。それでも追い付かないのが現状だが……」


「そっ。だからそういった人間以外にも、モンスターを討伐出来る組織が必要だった……それが冒険者ギルドって訳さ」


 ギルドの設立には神の許し、国の許可が必要で、ラノベほど自由業な職場ではない。

 その代わりランクが上がれば、それなりに特権も得られるし、色々と便宜を図ってもらえたりもする。


 ただ、国の大事には召集とかもされるけどね。


 運営自体は依頼の仲介手数料、モンスター図鑑の売上、各種道具類の販売から、素材の買い取り、オークションの仲介、一部国や街の公共事業の人材派遣、各種罰則金(依頼の失敗)などで運営されている。

 その中でも大きな収益をもたらすのが、素材の買い取りとオークションの仲介だ。

 だからこそ、ギルドとしても力のある冒険者に、ホームとして利用して貰うべくサービスも多い訳だ。

 受付嬢さんが綺麗で可愛く、教養があるのもこれが理由だったりする。

 素晴らしい。


 そしてステータス。


 いくらモンスターを退治して欲しいからと言って、人間を資源のように使い捨てにする訳にはいかない。

 しかし、このモンスターが強い。あのモンスターが強いと言った所で、自分の力を過信する者は当然出てくる。


「その為にもなるべく詳細なステータスの情報が必要という訳か」


「うん。ゲームみたいなレベルアップってのも、明確な強さを算出するのにちょうど良いシステムだからね」


「なんでです?」


「こっち……地球みたいに訓練しましたけど、強くてなったかは分かりません。じゃ、どうしようも無いしね」


「システムとして組み込んでしまえば、モンスターの数値も割り出し易いという訳だな」


「確か、モンスターの脅威度は各個体のステータスの平均、スキルの構成などから算出されてた筈です。まあ、それでも個体差によって大体ですけど……」


「ここまでやっても自分の力を過信して突貫するアベルや、アベルや、アベル達みたいなのが居るけどね。それでもこうやって少しでも被害者を減らす事も重要なんさね」


 まあ、私の場合はモンスター図鑑と睨めっこしても、名前持ちとか亜種とか魔族とか出て来るから関係無いけどな!


「そうですね。こう……俺達ならこれくらい簡単にこなせるさ! なんて言う、初心者のパーティーは一週間に一組は見てた気がします……」


「あー、その……大変だったな」


「異世界で最初に学んだのが接客業の大変さだとは思いませんでした」


「つーか、なんでわざわざそんな強いのと戦いたいと思うのかね。私なんて弱いのと戦いたいと思ってても変なの出て来るのに……あれ? 涙が……」


「…………」


「もうツッコミすらない!?」


 平穏プリーズ!


「……と、まあこんな事言ってても、なってるもんはそんなもんって話なんだけどね」


「おまっ!? え〜。ここまで話しておいて盛大にぶった切ったな……」


「まあ、ハーちゃんらしいと言えばらしいですけどね」


「いや〜、そうは言ってもその通りだし。どれだけ考察しようとそれが基本ルールみたいになってたらね?」


「ね? じゃないだろ。てか、その割にはみっちり調べてるのな? そんなふうに言うなら調べる必要が無いだろ?」


「……当方、知らん間に種族がモンスターに決定していた故、種族変わる度にスキル覚えるし、持ち前のスキルでどんどんスキル覚えるので気になったでおじゃる」


 沢山覚えるし、私の生命線だから把握しときたいじゃん?


「いやなんでおじゃる口調だよ」


「……ハーちゃん。おじゃる口調も可愛いですね!」


「お前もそればっかな!?」


「でもまあ、お前の今の強さの大部分は、スキルが関係してるから気持ちは分からんでもないな。実際、信用しきれてなかったんだろ。お前も」


「そりゃね。説明受けたところで未知の物だから疑うのが当然でしょ。むしろ全部受け入れて何も考えないのがおかしい。ようやく安全そうだと思ったのだって、初めて魔族と戦った後くらいだし」


「ハーちゃんだったら、ただ喜びそうな気もしますけどね」


「……実際。人間の赤子とかに転生してたらそうでもなかったかもだけどね。多分色々と実験しただろうし。いきなり過酷な環境だと、頼った物が土壇場で使えないと死ぬから無理だけどね」


「「あ〜……」」


「お陰様で、魔法やスキルについて常に考えてたから、一足飛びで扱えるようになったけどね。その分テアに基礎抜けてると言われたが……。それにテア達が居るなら疑問の解消もしたかったしね」


 そのおかげで面白い話も聞けたし、スキルの理解度も更に深まった。私としてはウハウハな知識だったしね。


「そんな訳でこの際暇だから、色々と調べた知識をここらで共有しようと思うのだよ。と、言う訳で知ってる事なら答えるよん」


「面白そうですね」


「そうだな。この際だから疑問の解消でもしておくか……」


 こうして私達は、井戸端会議のノリで世界の根幹についての、暇潰しという名の話し合いを始めた。

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