第597話ヌイグルミ抱きしながら言うのやめろください
「……聞いてない」
「まあ、これに関しては私達も意外だったというか、なんというか……」
「やはり白亜さんは私達の想定を軽く覆しますか、本当に白亜さんは面白いですね」
猫吸い事件の翌日、動き回るほどの体力が回復していなかった私は、猫吸いから逃れようとする事で体力を使い切り直ぐに寝た。
しかしその翌日、目覚めた私の頭の上にはなんとも立派なうさ耳が生えいてた。
「日替わりシステムなんて聞いてないんだよォ!」
そう回復状態のケモ耳ランダムは一回毎ではなくて毎日のランダム仕様だったらしい。
もうね。泣いていいと思うだ私。
しかもその状態の私を見た皆の感想が、ネコミミからのうさ耳だから「あざとい」とか言うものだったのでマジで泣きそうです。
私だって被害者なのに死体蹴りして楽しむ世の中に絶望した!
「まあまあ、可愛いからいいじゃんハクア」
「ヌイグルミ抱きしながら言うのやめろください」
ミコトはと言えば、試練中、普通に喋っている所を見られていたと後で知り後悔したものの、何時もの面子の前では私と喋る時のように素で喋るようになった。
まあ、おばあちゃんの事だからこれは計算の内なのだろうが。
そんなミコトは、私をまるでテディベアのように抱きしめてご満悦のご様子。
実は昨日のネコミミ状態の時から狙っていたらしい。
「はぁ……それで? 皆集めて何すんの?」
そう、今日は何故か修行無しで全員を私の部屋に集めているのだ。
「ええ、今日は白亜さんが動けないので、別の修行をしようかと思いまして」
「動けないと知ってるなら修行させようとしなくてもいいんだよ? そんな無理して皆を付き合わせる必要もないし」
と言うか、私なんざほっといて修行してくれていいんだよ?
「いやいや、私もハクアに付き合うっすよ」
「そうなの。ムーもハクアと同じ修行でいいの」
こいつら、あからさまにお前だけ楽させねぇぞ感が出てやがる。
「だそうです。良かったですね」
「わぁー、嬉しいぜこんちくしょう!」
ニヤニヤしやがってコノヤロウ。
「で、何やんの?」
「それは私から説明会するわ」
「おばあちゃんが?」
「ええ、ハクアちゃんもちゃんと呼龍法を扱えるようになってきたし、もちろんここに居る者なら全員使いこなせる。だから今日はテア様達にその上を教えて貰おうと思ったのよ」
「まだ上があると!?」
この世界、覚えても覚えても上しかねぇな。
まあでもそうか。たかが百年生きられる程度の人間だけの地球ですら日々技術は進歩してる中、数百~数千生きる種族が研鑽積んでるんだもんな。
そりゃ、一つの種族の技術を覚えてもその上を見上げればきりねぇか。むしろ私はその答えを教えてくれる奴が居るだけ恵まれているのだろう。いや、その分キツイけどね?
しかし次ねぇ。神の呼吸と書いてしんこきゅうとでも言うのだろか?
「そういう訳で次に教えるのは
「星神ねぇ……」
名前を聞いてパッと思い付くのは星座だ。
散りばめられた星と星を繋ぎ、そこにあらゆる物を描く。人、物、動物、怪物、神を配置や逸話、特徴でなぞらえる行為。
しかし考えてみれば確かに、星座とは神という物に近いかもしれない。
人の信仰、想いがあってそこに存在する。
その在り方は神と似ている。
「流石ですね白亜さん。まあ、概ね近いですよ」
「だからサラっと頭の中の考えを覗くなよ」
「今更ですね。因みに白亜さん」
「何?」
「レベルアップの副作用はご存知ですか?」
「……そんなもんあるなら早く言ってくださいません!?」
今更言うなんてびっくりだわ。そんなもんあるなんてこっちは聞いてないんだよ!?
皆を見るとそれぞれ驚いたり、首を振ったりしている。どうやら皆も初耳のようだ。
「まあ副作用と言ってもそんなに強いものでも困ったものでもないけどね」
「そうなん?」
「うん。レベルアップの副作用は簡単に言うと欲望が肥大化するんだよ」
「それは大した事なのでは?」
ラノベとかだとそれって大抵ダメなやつじゃね?
「そこまで大きくはありませんよ。ただ少しブレーキが効きにくくなる程度です」
「だから大した事では?」
「方向性の問題ですよ」
「ああなるほど、そういう事か」
「えっ、どういう事なのハクア?」
「えっとね」
方向性。
つまりはその欲望がどんなものかということだ。
欲望と聞けばマイナスのイメージを抱くが、実際、その欲望がマイナスになるとは限らない。
例えば英雄願望が強い奴。
人に良く見られたい奴。
良い人でありたいと思う奴。
これらも全ては願望、つまりは欲望と言える。
「その通りです。英雄願望がある者が勇者として扱われれば、自然と勇者としての振る舞いをするようになるようなものです」
「なるほどね。だから高位の冒険者とかって我が強いのが多いのか」
英雄的な振る舞い、破壊衝動その他諸々、様々な欲望がレベルアップする事で、表面に出やすくなっていると言うことだろう。
「うん。そうだね。特に人間は顕著に出る」
「まあ、うん。人間だししゃーない。あー……じゃあドラゴンが宝物集める習性あったりするのも?」
「うん。その影響」
「なるほど」
確かに強い奴ほど欲望的に動いてる印象は強い。
皆を見ると少し心当たりがあるような顔をしている。
「因みにハクちゃんは自分の欲望わかってるよね?」
「食欲……つまりは暴食だろ? つまりそれは七罪や七徳に関連するものが多くて、それが七罪の邪神の力になってるって所か」
「せいかーい」
だからこの世界の七罪は邪神なんて高位の存在なのか。納得。
「で、今それを話したって事は、星神はそれと関係があるって事?」
「ええ、その通りです。星神の核となるのは欲望のコントロール、そしてそれを効果的に使う事で身体能力を上げ、固有の力にする。それが星神です」
「ふーん」
なるほど、力のコントロール。それが今回全員を呼んだら理由か。
私が動けないのも理由だけど、本来の目的は私以外の奴に力をコントロールする術を教える事か。
恐らくキッカケは先の戦い。
出力に乏しい私と違って、ミコトは出力はあるがコントロールが苦手だ。
だからこそ、弱体化しているアジ・ダハーカに有効打を与える事が出来なかった。
本来、ミコト程の力があればもっとアジ・ダハーカとも渡り合えたはず、それが出来なかったのは力のコントロールが出来ていなかった事が大きい。
今回集まっているいつものメンバーの中で、一番力がコントロール出来ているのは、私を除けばアトゥイが一番だ。
コントロールに長けた水竜という事もあるが、この中で一番地力が低いというのも理由だ。
言い方は悪いが、扱う力が少ないからこそ、その力をコントロール出来ている。
そしてそのコントロールが出来ていれば、今後力を付けても同じようにコントロールする事が出来るだろう。
しかしミコト達は、その大きすぎる潜在能力にコントロールがついていっていない。
それを克服する為の次のステップが星神という訳か。
「納得してますが、白亜さんに教えようとしていたのも本当ですよ? どちらかと言えば便乗したと言うのが本当です」
また普通に心読むし。
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