第598話捕まえた♡

 しかし欲望とその欲望のコントロールか。


 確かに……良くも悪くも、望みも願望も等しく欲望と言える。


 それがどちらに向くかによってその名前が変わるだけの話だ。


 それにさっきも思ったが、これで高位の冒険者や権力者が、何故自分の今の立ち位置を捨ててまで馬鹿なことをするのかもわかった。


 願望の方向が善であるならいい。しかしそれが逆の方向だと、それを自制するのが難しくなるという事だろう。


 レベルアップは魂の強化だと私は考えている。


 そしてその強化とは、単純に強くするというだけでなく、魂の求めるもの───願望も強くなる。


 願望のない強さなど、私から言わせれば中身のない強さだ。いくら力が強くても、中身が、想いなければその拳は軽い。


 しかしその想いがあると、レベルアップでそれも強くなり、自制が効きにくくなるとはなんとも皮肉な話である。


 私の場合は暴食───というか、食べる事に向いているが、確かに言われてみれば、この世界で生まれた当初に比べるとその想いが強くなっている。


 それに思い返せば感情の動きも大きくなっている気がする。


 それが良い事か悪い事かは分からないが、私個人としてはまあまあプラスに働いてる気がする(怒られる回数も増えたけど)


 と、いう訳で、コントロール出来るに越した事はないが、戦闘に関わらない部分ではそんなに意識しなくても大丈夫だろう。


 食欲失せる位なら、戦闘で苦労した方がマシだ。


「……白亜さん。一人で考察するフリをして時間を稼いでも無駄ですよ」


「そ、そそそそんなこととととと、してないだよぉ?」


「いっそ嘘くさいほど動揺が凄いよハクちゃん!?」


「ほら、新しいものが出て来たら全員に分かりやすく説明しないと、分かりにくいとかクレーム来るし」


「白亜さんは時々私達と同じような視点で話しますよね」


「何処からかクレームとツッコミの声だけ聞こえてくるの」


「またピンポイントな」


 出来れば被害妄想から来る幻聴であって欲しいと願います。


「うーん。欲望の力かぁ。言われてもあんまりピント来ないっすね」


「そう?」


「私もわかんないなぁ」


「ムーも意味わかんないの」


「白亜さんは分かりますよね?」


「うん。身近な例としては勇者のギフトがそれに当たるよな?」


 召喚された際に強く思っていた事、日頃から常に考えてる事が力として凝縮しているギフトは、まさに欲望の力を具現化したものと言える。


「ふむ……そう考えるとスキルは自分の中にある能力を形にし、ギフトは本人の資質から形作るものという訳か」


「そうですね。因みにスキルには等級のようなものは存在しませんが、白亜さんに分かりやすく言えば特別なスキル、EXスキルというものがあります」


「何それ詳しく!!」


 ちょっと待って欲しい。そんなワクワクする単語を今まで隠してるなんて酷い。


「わざわざそんな言い方するって事は、固有スキルとは違うんでしょ?」


「はい。固有スキルは種族由来のスキルをさします。それに対してEXスキルは、白亜さんが言ったように自分の中にある能力が、その水準に達している場合にのみ発現するスキルです」


「……つまり、投擲のスキルを持ってたら、変化球までは投げられるけど、才能があれば消える魔球みたいな凄いのまで投げられるようになると?」


「まあ、その例えが正しいとは言い難いけど、概ねの理解としてはそんな感じかな。端的に言えばスキルポイントでは覚えれない、資質と才能があって努力の末に結晶化するスキルだよ」


 ふむ。努力だけでは覚えられない領域って事か、勇者の力を取り込んでも、劣化した対応スキルだけで、ギフトは覚えられないのと似たようなもんか。


「そうですね。白亜さん的に言えば、【剣聖】のスキルが剣技系の最上位にありますが、EXスキル的には【剣神】まであります」


「マジか私【剣聖】までしかなかったような気がする」


「それでも十分凄いんだよ? 普通はそこまである人少ないくらいだしね」


「そうなん?」


「うん。スキルポイントで覚えられるものは、本人が努力すれば届きうるものだからね。今見たら取得ポイントも変わってるはずだよ」


「マジで!?」


 言われて見てみると前は5000ポイントだったものが、3000ほどにまで減っていた。成長の証っぽくて少し嬉しい。


「EXスキルの取得条件は本人の資質と才能以外に、対応スキルの取得、自身の経験と渇望が必要となります」


 なるほど、ここで欲望の話に戻る訳か。


「その渇望って言うのが欲望のコントロールに繋がる訳ね」


「そうです。欲望をコントロールし、正しく力として使えれば、身体能力を上げ、自身の経験と力を結晶化し、新たな力を身に付けられるようになります」


「条件を揃えようと、才能や資質があろうと、焦がれるような渇望がなければ発現しない力。そう言った意味では一番必要なものなんだよ」


 んー。なんか言い方がカッコイイ。


「渇望───欲望のコントロールが出来れば、その力を導き易いと言うことです」


「なるなる」


「因みにだけど、ハクちゃん以外の向こうのメンバーは、もう既に星神の訓練始めてるよ」


「ナンデスト!? なんで私が一番遅かと!?」


「いやだって、ハクちゃんは竜の力も身に付けたから、呼龍法から覚えないとだったし、下手に星神から教えていたら、龍の力が暴走して……」


 暴走して何!? そこで止められると怖いんですけど!?


「言っていいの?」


「あっ、ごめん。言わなくていいや」


「と、言う訳で、白亜さんの爆散の危機がとりあえず去ったので星神の修行となります」


「いいって言ったのにサラっと言うなよ!?」


 泣くぞコラ!?


「まあまあ、その前に白亜さん」


「な、なんでい!」


 少し嫌な予感がしてテアを睨みながら、ジリジリと重心を後ろに移動させ逃げる準備を───。


「捕まえた♡」


 捕まっちゃった♡


「じゃねわ!? なんで、なんでいきなり人の事捕まえるの!?」


 毎度毎度なんでテアもソウも人のことをサラっと捕獲するのかな!?


 ジタバタ足掻くが小さくなった身体では抜け出せない。そもそも元の状態でも抜け出せないのだから、この状態では余計だろう。無念なり。


「大丈夫ですよ。白亜さんが思っているような事にはなりません……多分」


「そこはハッキリ言い切ろうか!?」


「まあまあ、テアさんもシルフィンに話を通したりいろいろとしてたから許してあげようよ」


「えっ?」


 駄女神に話を通してた?


「ええまあ、白亜さんはここに至るまで色々としていますからね、その報酬の精算をしようと思いまして」


「えっ、なに、本当にいい事なの?」


「そうだよー。ハクちゃんの好きな報酬の時間だよー」


「それならそうと言ってくれれば逃げないのに」


「えっ、絶対逃げようとするよね」


 くそう。否定出来ない。


「それでは報酬を渡しましょう」


 コホンと咳払いしたテアが私に近付き力を流す。


 あっ、コレあれだ。アジ・ダハーカにやられたのと同じ感覚だ。


 流れ込む力が私の中で形になる。


 少し違うのは、アジ・ダハーカのように全てが流れ込んできた力で出来上がるのではなく、私の中の力をテアの力が掻き集めて纏めているような感覚だ。


 ▶個体ハクアがEXスキル【火眼金睛かがんきんせい】を取得しました。


「なんと!?」


【火眼金睛】パッシブ

 邪悪を見抜く眼。あらゆる力の流れを観る事が出来る特別な瞳。


「今回お猿の神様ネタ多くね?」


「まあ、有名なのはそうだけど、この世界では普通に何人か持ってるようなスキルだよ」


「うん。龍族の中でも偶に持ってる人居るよ。でも、今は父上くらいしか持ってなかったはず」


 龍神も持ってるスキルなのか……ならいいか。


「さて、渡すものも渡したので、早速星神の修行に入りましょうか」


「休む暇もねぇ……」


 こうして私達は一日中、星神の修行に明け暮れた。

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