第196話アレ怖そうだもんね?

 アリシアの凶悪そうな魔法がカーチスカに向かう。

 しかし、本領を発揮したカーチスカなら【結界】で防ぐのかと思いきや、リンゴ位の大きさの魔力の塊を空中に作り出し、アリシアの攻撃を迎撃する。


 あっ、やっぱそうするんだ? アレ怖そうだもんね?


 敵に対して共感するというよく分からない気持ちになるが、ハクア達と旅を初めてから何度も在る事なので気にしない!


 だってそんなの気にしたら色々負けだし! えぇ~って思うのも多いから身が持たない! ハクア達と居るならこれくらいはね? ね?


 私だって最近は皆みたいに、スルースキル? って身に付けなきゃなって思ってるしね! じゃないとほら、色々辛くなるし、ね? だって自分の常識が崩れてくんだよ! だから、スルースキル大事! これ重要だよ!


 そんな事を考えていると変化が在った。カーチスカの放つ魔力球が、岩塊に当たる直前全ての岩塊が崩壊して、中身のマグラがカーチスカに降り注ぐ。


 って! マグラ! マグラが!!


 私は既にカーチスカの後ろに回り込んでいたので、正面からマグラが襲い掛かって来るように見える。


 とはいえ届かない位置だけど。それでも怖いものは怖い!! しかも物凄く!?


 その時、私は急速にある事を思い出した。


「良いかいエレオノ? アレはマグマと言って近付くのも危ないが、触ったら骨まで溶けて仕舞うから絶対に近付か無いようにな」

「うん! 分かったよお父さん!」


 あっ、そうだ! アレ、マグラじゃなくてマグマだった! って言うかこれ走馬灯!?


 私はプチパニックを起こして、若冠走馬灯が横切りマグマの名前を思い出す。


 そんな私の事など関係なくマグマはカーチスカに降り注ぐ。

 流石のカーチスカもマグマは危険なのか「チッ!」と、舌打ちしながら後ろに下がろうとする。


 しかし、既にそこに居る私に気が付き急激な方向転換で横に跳ぶ。その瞬間、マグマはジュアッ! と音を立てながら一瞬前までカーチスカが地面を焦がす。


 私はそれを確める事無く、避けたばかりで体勢を崩すカーチスカに斬り掛かる。

 選んだのは私が一番得意な剣技【穿孔迅】威力も在り、加えて斬るのでは無く突く攻撃なので斬撃よりも射程が長い。


 だから今のこの状況ならこれが良い筈。


 私の攻撃は見事にカーチスカの肩に当たり血飛沫が跳ぶ。しかし、その時私の目に写ったのは異様な光景だった。


 当たったとはいえ腕を吹き飛ばす程では無かった。にも拘らずカーチスカの腕が吹き飛び、しかもその腕が犬型の魔物となり私の左肩に牙を突き立てる。


「うっ! あっ!」


 私はバックステップでカーチスカと距離を取りながら、無事な右手で剣を握りその柄を使い下から上へかちあげる剣技【飛竜】を使い魔物の下顎を砕く。

 その隙に柄を口に入れ、無理矢理手首を回し口をこじ開け脱出すると、同時に後退しつつ魔物の頭を両断する。


 だが、息つく暇もなくアリシアの攻撃を受けていたカーチスカが、アリシアへと反撃を返し、間隙を縫って私にもさっきの魔力球を放つ。


 放たれた八つの魔力球が私の事を自動で追尾しながら迫る。剣を振るい三つを切り裂くが、肩の傷の再生が間に合わず動きが鈍い。

 絶妙にタイミングをずらして飛んで来る攻撃をなんとか避けながら、私は再びカーチスカへと向い攻撃する。


 アリシアもなんとか持ち直し、私の後ろに飛んでいる魔力球を更に三つ撃ち落とし、カーチスカにも攻撃を放つ。


 凄っ!?


 私の攻撃に合せた魔法は、私に放たれる筈だった攻撃を中断させ、対処しなければいけない攻撃だった。その為カーチスカの注意がそちらに割かれ、私は剣技【電光石火】で一撃を加えながら一気にアリシアの処まで駆け抜ける。


 しかしそれはカーチスカの【結界】に阻まれ脇腹を軽く裂くに留まる。


「きゃあっ!」


 アリシアの悲鳴が聞こえそっちを見ると、さっき私が倒した筈の魔物がアリシアを襲う。更に駆け寄ろうとした私には、何時の間にかスライムの様な魔物が襲ってくる。


「くっ!」


 私達二人が何とか迎撃して脱出すると、カーチスカはもう既に一メートルはありそうな、火の玉をこちらに放っていた。


「キュール!」

「キュッ!」


 アリシアがキュールを呼び【結界】を何重にも張る。しかし、カーチスカの火の玉はそれを物ともせず突き破る。


 瞬間、爆炎が私達を包み体を肺を焼きながら私達を吹き飛ばす。


「あっ、うぐぅぅ」

「くっ、うぅあっ」


 しかし、それで攻撃は終らずまたあの魔力球が私達を狙う。

 痛みに苛まれながらも何とか動き追撃を避ける私達。だが、私は不意に後ろから思いきり何かに殴り付けられた様な衝撃を受け、前へとバランスを崩す。そして──。


「アァァァアッ!」

「エレオノ! きゃあっ!」


 私は魔力球の直撃を食らい吹き飛ぶ。そして、アリシアも私の声に気を取られ攻撃を受けてしまう。


 強い。それに先の衝撃は……?


 身体中の痛みに耐えながら前を見据える。すると私の疑問に気が付いたのかカーチスカが口を開く。


「ふふ、不思議そうね? まあ、そうよね? でも答えは簡単」


 そう言うと、カーチスカの周りからいきなりオークが四匹現れる。


 何処から?!


「なるほど……。透明、もしくは何かしらの魔法で姿を隠していたんですね。……恐らく最初から」

「ふふ、正解よ。あの三体と同時に出していたの? 少しは驚いて貰えたかしら?」


 そんな、気が付かなかった!


 私は必死に立ち上がろうと足に力を込めるが力が入らない。


「おっと、邪魔はさせないわよ」


 そう言って新たな魔方陣から、三体のオークを呼び出す。


「材料に使ったからロクなのが居ないわね。まあいいわ。好きに楽しみなさい」


 その言葉を受け六体になったオークは私にゆっくりと近寄ってくる。そして、それを見送りカーチスカはアリシアへと近付いて行く。


 そして、アリシアの目の前へと立つとアリシアを見下ろしながら話し掛ける。


「これが見えるかしら?」


 カーチスカは何時の間にか隣に現れていた、真っ赤な炎の様な色をした人形の様な物を見せ付ける。

 そして私はそれを見た瞬間、自分に向い歩いて来る魔物も気にならない程に猛烈に嫌な予感が駆け巡る。


 動け! 動け! 動け! 動け! 何でも良い! 早く! 早く! お願い! お願い! クリゾンローズ私の血をもっと吸っても良い! だから、だからもっと、私に力を頂戴!!


「それは……まさか! 精霊……」

「ふふ、そうよ。さっきの人形、なかなかよく出来たのだけど素材が良くなくてね? これを受け入れられる器が無かったのよ」


 私がクリゾンローズにそう願うと、何時もの様に茨が私の腕に巻き付く。しかし今回は何時もと違った。


 茨は腕に巻き付きそのまま私の身体の中に入り込む。異物が身体に入る感触がし、それと共に激痛が私を襲う。そして──。



 このまま行けば私は今までとは違う物になると直感する。




 確かに怖い。でも──。




 ──ここで、立ち止まる訳には行かないんだ──!




「人形に精霊を組み込むと私の命令が無くても動く自動人形になるのよ。しかも、精霊自体も私のだから絶対に裏切らないしね?」

「私の血を吸い力を示せ! クリムゾンローズ!」

「なっ!」


 私がキーワードを叫ぶと、何時もとは比べ物にならないほどの力が溢れ出す。


 ▶種族が吸血鬼へと変化しました。

 ▶称号【吸血姫】獲得しました。

【吸血姫】の称号によりスキル【血鎧】を習得しました。

【闇纏】を習得しました。

【再生】が【高速再生】に変化しました。

 ………………


 未だ何か言っているが私の耳には入らない。私は無理矢理再生させた足に力を込め、目の前まで迫っていたオークに斬り掛かる。


「エレオノ!」

「チッ! 少しで良い! 用を済ませるまで足止めなさい!」


 カーチスカは更に魔物を召喚して私を足止めする。私は新たなスキル【血鎧】を使い血液で壊れてしまった防具を補強し魔物へと突っ込む。


 【血鎧】で造った防具はかなり頑丈らしく、オークの力任せの一撃でも私に衝撃を対して与えず受け止める。私はそのまま横凪ぎに剣を振るい、オークの胴体を真っ二つにしながら突き進む。


「たいした足止めは出来なそうね? 耐えて頂戴ね? 楽しみにしてるわ?」

「やめ──」


 私の言葉は最後まで言う事も出来無かった。


 やっとの事で突き抜けた私の目の前で、アリシアが精霊と言った物がアリシアへと入り込み。その瞬間──。


「あぁあああぁぁあぁあぁあ!」


 アリシアが聞いた事が無い様な叫びを上げながらのたうち回り苦しむ。


「さて、それじゃあ私もこっちで遊ぼうかしら」


 私は魔物とカーチスカに挟まれながらも、アリシアを早く助けるため、最速で倒す覚悟を決める。

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